石川迪夫──あの人は今2011/03/19 14:04

■I先生への返信

I先生

ごぶさたしております。
私も家内も無事です。昨日までは、対応してもらえるメディアを相手に緊急原稿を書いたり、ネット上にバラバラに出ている風向きや放射線量の数字などのデータをまとめて、そのデータを元に、郡山の避難所に待避した村の友人たちに向けて、「大丈夫だから安心するように」と伝えたり、1日中あたふたしていましたが、今日はかなり静かな日になっています。
テレ朝では、石川迪夫(日本原子力技術協会前理事長、現最高顧問)を昨日、今日と出演させ、全国民の怒りを沸騰(いや、「臨界」か?)させていますが、これはとてもいいことです。
細かい理論が分からない庶民でも、こういう人物が原子力の最高権威者として長い間この国をミスリードしてきたということがよく分かるでしょうから。
嬉々として喋りまくる彼の姿や表情を見て、恐怖を感じない人は相当鈍感な人でしょう。

僕が「エントロピー」という言葉を初めて知り、地球全体が宇宙に向かって増大したエントロピーを吐き出している「環境エンジン」構造をしているということを学んだのは、四半世紀前に、テレ朝の『朝まで生テレビ』を見たのがきっかけでした。
そのときの出演者一覧です。


「朝まで生テレビ」 1988年7月29日放送

司会:田原総一朗、渡辺宜嗣、美里美寿々

<推進派> 
逢坂國一((財)省エネルギーセンター専務理事)
石川迪夫(日本原子力研究所・動力試験炉部長)★
加納時男(東京電力(株)原子力本部副本部長)
近藤達男(日本原子力研究所・燃料・材料工学部長)
竹内榮次(中部電力(株)原子力計画部長)
田中紀夫((財)日本エネルギー経済研究所研究理事)
沼宮内弼雄(日本原子力研究所・保健物理部長)
舛添要一(東京大学・教養学部政治学科助教授)
森雅英(関西電力(株)原子力本部副本部長)
渡辺昌介(元・動力炉・核燃料開発事業団環境資源部長)

<是々非々派> 
西部邁(評論家)
コリーヌ・ブレ(フランス「リベラシオン」特約記者)
山口令子(ニュースキャスター)
栗本慎一郎(明治大学法学部教授)

<反対派> 
石沢善成(青森県南津軽郡常盤村農協組合長)
大島渚(映画監督)
小原良子(大分県主婦。著書「原発いらん、命がだいじ」ほか)
小中陽太郎(作家、評論家)
槌田敦(理化学研究所研究員)
暉峻淑子(埼玉大学教授)
中島哲演(福井県明通寺福住職)
平井孝治(九州大学工学部助手)
広瀬隆(著書「東京に原発を!」ほか)
室田武(一橋大学経済学部教授)


このとき、僕は推進派の「じゃあ、代替エネルギーはどうするんだ?」という質問に対して、室田武や槌田敦が、「その言い方は不誠実だ」「石油に代わるエネルギー源などない」「代替エネルギーなどということを言う前に省エネを考えるべきだ」といったことを苦汁に満ちた顔で答えたのが腑に落ちず、その後、二人の著書『エネルギーとエントロピーの経済学』(室田武著、東洋経済新報社)と『資源物理学入門』(NHKブックス)を読んでみました。
そして、人生観がガラッと変わったのでした。
ああ、世界というのはこうなっていたのか……と。
そこからは、まったく新しい目で世の中が見通せるようになりました。あのとき、二人がなぜ苦汁に満ちた顔をして答えなければならなかったのかも、よく分かりました。

ちなみにこのとき、「原発で事故など起こりえないんです!」と主張した推進派グループの中にあって、もっとも押しの強い態度で喋りまくっていたのが、昨日、今日、世界中の人たちから戦慄の目で見つめられていることに気づいていない、石川迪夫です。
話し方が与える独特の違和感、昔どこかで聞いた覚えがあるような気がしたのですが、やはりそうでした。
この期に及んで、「原発をやめたら日本の経済は衰退する」「津波でバックアップ電源が流れたのだから、今度は地下に埋めるとか小高い山の上に置けばいい」などと笑顔で言っています。
これはいわゆる「学者バカ」というタイプともまったく違いますね。
テレビはしばらくこの人をいっぱい露出するとよろしい。それがいちばん、国民に対して分かりやすい「解説」の仕方でしょうから。

東京がとりあえず危険な状態になっていないからOKだという論調には辟易します。
それは確かなことでしょう。でも、「事故など起こりえないんです!」と大声で言っていた人たちは、とりあえず黙って福島原発方向に深く頭を下げなさい。
被曝しながら作業している人たち、本来必要のない避難を強いられた住民、取り残された動物たち、これから先長い間、放射能汚染を気にしながら、また、風評被害で産業が壊滅状態になり、資産価値も失ってしまった状態で暮らしていかなければならない住民たちのことを、一瞬でも考えているんですか?
被害の規模がどの程度かなどという分析を、あなたたちにしてほしくない。

理論上どんなに安全な施設を作り得たとしても、それを動かす業界のトップ、学界のトップ、監視役組織のトップが正常な人間でなければ、安全ではありません。
危険なのは原発そのものよりも人間だということが、今回のことで改めてよく分かりました。

M9.0の地震(というより、大規模な地下の地滑り)により、予想されていた東南海地震が目前に迫っているかもしれません。浜岡原発は今も運転しています。
中部電力は「高さ12mくらいの防波堤を作る」などと言っているようです。そんな金があるなら、さっさと浜岡を安全に廃炉に向かわせ、同時に、安定即戦力である天然ガスや石炭火力発電設備を充実させて大規模災害時のバックアップをしておくことが先決だということくらい、誰が考えてもあったりまえのことでしょうに。
浜岡が福島の二の舞になったら、東京のパニックは尋常ではありません。そのときは覚悟を決めましょう。


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(追記)
1989年10月28日の第二回放送時の出演者一覧も載せておきます。
私が強く印象に残っているのはこの第二回のほうです。
司会:田原総一朗、渡辺宜嗣、美里美寿々

<推進派> 石川迪夫(日本原子力研究所・動力試験炉部長)、板倉哲郎(日本原子力発電(株)取締役技術開発本部副本部長)、加納時男(東京電力(株)原子力本部副本部長)、住谷寛(日本原燃サービス(株)常務取締役)、鈴木雄太(日本原燃サービス(株)取締役調査部長、宅間正夫(東京電力(株)原子力業務部長)、橋本寿(青森県六ヶ所村原子燃料サイクル施設対策協議会会長)、堀紘一((株)ボストン・コンサルティング・グループ日本担当副社長)、舛添要一(東大助教授。国際政治学者)、大和愛司(動力炉・核燃料開発事業団東海事業所安全対策課長)、山本正男(動力炉・核燃料開発事業団環境資源部長)

<反対派> 石川好(作家。ジャーナリスト)、大島渚(映画監督)、生越忠(地質学者)、久保晴一(青森県核燃阻止農業者実行委員会委員長)、高木仁三郎(原子力資料情報室代表)、槌田敦(理化学研究所研究員)、暉峻淑子(埼玉大学教授)、西尾漠(原子力資料情報室会員)、野坂昭如(作家)、室田武(一橋大学経済学部教授)、山本コータロー(ミュージシャン。タレント)