武田邦彦氏の件に限らず……という話 ― 2011/03/22 11:02
当日記・緊急時バージョンに、武田邦彦氏のブログがリンクされていることについて、あんなトンデモ学者の扇動に加担するとはどういうことか、といったメールをいただいています。
同様のご意見をお持ちのかたがたくさんいらっしゃると思いますので、ここで少し私のスタンスを説明しておきます。
私は基本的にこの人に好印象を持っていません。環境問題の嘘、温暖化議論の嘘をテーマに大変な数の本を出していますが、基本的な考え方は概ねいいものの、いつもやり方が雑だからです。
彼のブログを見れば分かるように、誤字脱字、単純な文章のミスを校正しないで出しています。物書きとしては、これだけひどい原稿を、いくら緊急時だからといってそのまま露出する神経は理解できません。
例えば「原子炉から出る有害な放射性物質の半減期は、ヨウ素が8日、バリウムとストロンチュームがともに30日、そしてプルトニウム141が14年です」などという記述がありますが(平成23年3月20日20時 執筆とある。これを書いている22日10時21分時点で訂正なし)、プルトニウム141というものは聞いたことがありません。プルトニウム241という同位体はあり、半減期は14.4年です(ちなみに使用済み核燃料の再処理で得られるプルトニウム239の半減期は約2万4000年で、人間にとっては永久にアルファ線を出し続けているのと同じ)。
しかし、グーグルで「プルトニウム141」と検索すると、多数のページがヒットします。そのどれもが、武田邦彦氏のブログの誤記をそのままコピーしたもののようです。「専門家」と名乗っているのですから、こうしたミスには細心の注意を払っていただきたいものですが、彼の場合、単純な誤記があまりに多く、そのことをいっこうに気にしていないところが困るのです。
私の原稿も誤字はありますが、都度、見つければ直す努力は惜しんでいません。
彼に対していちばんがっかりしたのは、今回のことではなく、以前、リサイクル問題のことを書いた原稿の中に恣意的なデータ捏造があったことです。こういうことを1度でもすると、それだけで他の部分まで信用がおけなくなり、全体としての論旨も嘘ではないかということになってしまいます。これは、真面目にリサイクル「神話」の問題点を指摘してきた他の人たちにとっても大変な迷惑です。
今回のことでも、時間を追うごとに内容が粗くなり、恣意的に誇張した数字を出してくるようになっていることに、またか、という思いを抱いています。
ただ、この人の言っていることの中には、重要な主張も含まれています。
例えば、
1)内部被曝と外部被曝を区別していない報道はおかしい
2)1時間あたりの放射線量数値と累積被曝の数値を比べるのはおかしい
これはその通りでしょう。
例えば、「50mSv被ぱくによる小児(O~15才)の白血病リスクはゼロだ」という主張をしている人がいます。
これが正しいのかどうか、私には分かりません。ただ、仮に正しいとしても、ここに出てくる50ミリシーベルトは累積被曝であって、今テレビで報道されている各地の線量(1時間あたり)計測値と比較することはできません。
1マイクロシーベルト/時は、単純に1年間浴び続けたことにすれば365×24=8760マイクロシーベルト=8.76ミリシーベルトです。
実際にはその間、わずかに損傷を受けたDNAがあったとしても自然に修復を繰り返しながら1年間が経過するわけで、1時間に一気に8.76ミリシーベルトを浴びたときの危険性とは比較にならないくらい低くなるでしょう。
ちなみに50ミリシーベルトを8.76で割ると5.7ですから、毎時1マイクロシーベルトを5.7年浴び続けると累積被曝50ミリシーベルトになります。
すでに私も書いたように、福島第1原発から30km北西では、事故後ずっと150マイクロシーベルト前後が記録されていて、21日になっても100マイクロシーベルトを下回りません。100マイクロシーベルト/時は、年間87万6000マイクロシーベルト=876ミリシーベルトです。10年なら8760ミリシーベルト=8.76シーベルトです。このくらいの数値になると、もはや安全だと言いきる人はほとんどいないでしょう。
さらに問題なのは、外部からの被曝はそこから遠ざかれば終わりですが、放射性物質を体内に入れてしまった場合の内部被曝はずっと続くということです。
ヨウ素は半減期が短く、8日ですので、16日後に1/4、24日後に1/8、32日後に1/16……と減っていきます。セシウムはかなり長く放射能を持ちますが、尿などに混じって体外に出るものもあります。でも、いいことばかりを出して「全然心配ない」というのも片寄った報道でしょう。
何度も書きましたが、私たちは正確なデータと判断の材料を求めているのです。そこから先は、自分のケースにあてはめて判断するしかありません。
東京は安全だという論調は、首都圏での買い占め騒動を抑える目的でなされていると思いますが、原発周辺に住んでいる人間にとっては少し頭に来る言い方です。
首都圏のために福島で電気を作ってきたのに、いざ福島に放射能がばらまかれると、「福島は別として東京は安全だ」と繰り返す。それはないだろう、と。
武田邦彦氏の初期の役割は終わり、そろそろ危ない面のほうが大きくなってきた感じなので、今日の更新分からは、彼のブログへのリンクは外しておこうと思います。
ただ、今は誰がインチキだとか罵倒しあっている時ではないでしょう。
彼に限らず、立派な仕事をしてきた学者のみなさんの多くが、テレビに出てくると妙に嬉々とした話し方で、ランナーズハイじゃないですが、今回のことで妙に舞い上がっている印象を受けます。きっと、学者というのはそういう面を多かれ少なかれみな持っているのだと思います。
昨日も書いたように、いちいち腹を立てたり揚げ足取りをしたりするより、錯綜する情報や主張の中から、有用なものだけをうまく取りだしていくことが大切です。
同様のご意見をお持ちのかたがたくさんいらっしゃると思いますので、ここで少し私のスタンスを説明しておきます。
私は基本的にこの人に好印象を持っていません。環境問題の嘘、温暖化議論の嘘をテーマに大変な数の本を出していますが、基本的な考え方は概ねいいものの、いつもやり方が雑だからです。
彼のブログを見れば分かるように、誤字脱字、単純な文章のミスを校正しないで出しています。物書きとしては、これだけひどい原稿を、いくら緊急時だからといってそのまま露出する神経は理解できません。
例えば「原子炉から出る有害な放射性物質の半減期は、ヨウ素が8日、バリウムとストロンチュームがともに30日、そしてプルトニウム141が14年です」などという記述がありますが(平成23年3月20日20時 執筆とある。これを書いている22日10時21分時点で訂正なし)、プルトニウム141というものは聞いたことがありません。プルトニウム241という同位体はあり、半減期は14.4年です(ちなみに使用済み核燃料の再処理で得られるプルトニウム239の半減期は約2万4000年で、人間にとっては永久にアルファ線を出し続けているのと同じ)。
しかし、グーグルで「プルトニウム141」と検索すると、多数のページがヒットします。そのどれもが、武田邦彦氏のブログの誤記をそのままコピーしたもののようです。「専門家」と名乗っているのですから、こうしたミスには細心の注意を払っていただきたいものですが、彼の場合、単純な誤記があまりに多く、そのことをいっこうに気にしていないところが困るのです。
私の原稿も誤字はありますが、都度、見つければ直す努力は惜しんでいません。
彼に対していちばんがっかりしたのは、今回のことではなく、以前、リサイクル問題のことを書いた原稿の中に恣意的なデータ捏造があったことです。こういうことを1度でもすると、それだけで他の部分まで信用がおけなくなり、全体としての論旨も嘘ではないかということになってしまいます。これは、真面目にリサイクル「神話」の問題点を指摘してきた他の人たちにとっても大変な迷惑です。
今回のことでも、時間を追うごとに内容が粗くなり、恣意的に誇張した数字を出してくるようになっていることに、またか、という思いを抱いています。
ただ、この人の言っていることの中には、重要な主張も含まれています。
例えば、
1)内部被曝と外部被曝を区別していない報道はおかしい
2)1時間あたりの放射線量数値と累積被曝の数値を比べるのはおかしい
これはその通りでしょう。
例えば、「50mSv被ぱくによる小児(O~15才)の白血病リスクはゼロだ」という主張をしている人がいます。
これが正しいのかどうか、私には分かりません。ただ、仮に正しいとしても、ここに出てくる50ミリシーベルトは累積被曝であって、今テレビで報道されている各地の線量(1時間あたり)計測値と比較することはできません。
1マイクロシーベルト/時は、単純に1年間浴び続けたことにすれば365×24=8760マイクロシーベルト=8.76ミリシーベルトです。
実際にはその間、わずかに損傷を受けたDNAがあったとしても自然に修復を繰り返しながら1年間が経過するわけで、1時間に一気に8.76ミリシーベルトを浴びたときの危険性とは比較にならないくらい低くなるでしょう。
ちなみに50ミリシーベルトを8.76で割ると5.7ですから、毎時1マイクロシーベルトを5.7年浴び続けると累積被曝50ミリシーベルトになります。
すでに私も書いたように、福島第1原発から30km北西では、事故後ずっと150マイクロシーベルト前後が記録されていて、21日になっても100マイクロシーベルトを下回りません。100マイクロシーベルト/時は、年間87万6000マイクロシーベルト=876ミリシーベルトです。10年なら8760ミリシーベルト=8.76シーベルトです。このくらいの数値になると、もはや安全だと言いきる人はほとんどいないでしょう。
さらに問題なのは、外部からの被曝はそこから遠ざかれば終わりですが、放射性物質を体内に入れてしまった場合の内部被曝はずっと続くということです。
ヨウ素は半減期が短く、8日ですので、16日後に1/4、24日後に1/8、32日後に1/16……と減っていきます。セシウムはかなり長く放射能を持ちますが、尿などに混じって体外に出るものもあります。でも、いいことばかりを出して「全然心配ない」というのも片寄った報道でしょう。
何度も書きましたが、私たちは正確なデータと判断の材料を求めているのです。そこから先は、自分のケースにあてはめて判断するしかありません。
東京は安全だという論調は、首都圏での買い占め騒動を抑える目的でなされていると思いますが、原発周辺に住んでいる人間にとっては少し頭に来る言い方です。
首都圏のために福島で電気を作ってきたのに、いざ福島に放射能がばらまかれると、「福島は別として東京は安全だ」と繰り返す。それはないだろう、と。
武田邦彦氏の初期の役割は終わり、そろそろ危ない面のほうが大きくなってきた感じなので、今日の更新分からは、彼のブログへのリンクは外しておこうと思います。
ただ、今は誰がインチキだとか罵倒しあっている時ではないでしょう。
彼に限らず、立派な仕事をしてきた学者のみなさんの多くが、テレビに出てくると妙に嬉々とした話し方で、ランナーズハイじゃないですが、今回のことで妙に舞い上がっている印象を受けます。きっと、学者というのはそういう面を多かれ少なかれみな持っているのだと思います。
昨日も書いたように、いちいち腹を立てたり揚げ足取りをしたりするより、錯綜する情報や主張の中から、有用なものだけをうまく取りだしていくことが大切です。
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