20ミリシーベルト論争の虚しさ2011/04/30 12:38

SPEEDIによる1歳児の放射性ヨウ素による甲状腺内部被曝積算値

■今頃基準値論争をしても遅い

4月26日午後、ようやく首都圏での用事が済んだので、川内村の自宅(第一原発から約25km。緊急時避難準備区域)に戻ってきました。
村は一見なんの変わりもなく、ご近所を散歩しながら顔なじみの老人たちと挨拶を交わしています。
子供たちの姿がなく、放された犬が寄ってきたりするのが変わった点でしょうか。
そのへんのことは本来の「阿武隈日記」に綴っていますので、興味のある方は覗いてみてください。
⇒こちら

ここ「裏日記」では、広く知ってほしいこと、メディアでなかなか報じられない問題点などに絞ってときどき書いていくつもりです。
さて、今日は「年間20ミリシーベルト論争」について書きます。

福島市、郡山市などの都市部の幼稚園、保育所、小中学校などで、相当高い放射線量が計測されています。
そんな場所に子供たちが集まっていいのか、と誰もが心配します。
文科省が4月19日に発表した「福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について」という文書を読むと、

1)国際放射線防護委員会(ICRP)は、「事故継続等の緊急時の状況における基準」として20~100mSv/年、「事故収束後の基準」として1~20mSv/年という放射線量を提示している。
2)ICRPは、2007年勧告を踏まえ、本年3月21日に、改めて「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における「参考レベル」として、1~20mSv/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明を出している。
3)このようなことから、児童生徒等が学校等に通える地域においては、非常事態収束後の参考レベルの1-20mSv/年を学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な目安とする。

という論旨のことを言っています。

で、この年間被曝線量を文科省はどう算出するかという計算式も示されていて、

児童生徒が、1日のうち、木造建築物の中で16時間、屋外で8時間生活すると想定し、屋内では屋外の線量の半分程度被曝するだろうから、屋外の線量が3.8μSv/時間であれば屋内では1.52μSv/時間と考え、3.8μSv/h×8時間×365日 + 1.52μSv/h×16時間×365日 = 11096μSv+8877μSv=19973μSv=19.9mSv(ミリシーベルト)だから、年間20ミリシーベルトを超えない目安は3.8μSv/hである、というわけです。

ここで注意しなければいけないのは、

1)屋内の被曝量が屋外の半分であるという仮定のもとの計算である
2)内部被曝についてはまったく加算されていない

ということです。
相当無理矢理な計算ですが、この20ミリシーベルト/年という数値でさえ、小佐古敏荘東大大学院教授は「とんでもなく高い数値で、容認したら私の学者生命は終わり」と述べて内閣官房参与を辞任したことはすでに報道されているとおりです。
そもそも、一般人の年間被曝量限度は1ミリシーベルトということになっています。
原発作業員でさえ年間50ミリシーベルト、5年間で100ミリシーベルトを超えないと決められているのですから、子供の被曝量が年間20ミリシーベルトでもよいという今回の見解が批判を受けるのは当然です。

しかし、実際に今、福島原発周辺ではどうなっているのかといえば、子供も大人もとっくにその規模の線量を被曝しているのです。
ようやくデータを公開するようになった「SPEEDI」のデータを、WEB上で見ることができます
上の図(クリックすると拡大)は、3月12日から4月24日までに1歳児が受けたと推定される内部被曝(甲状腺、ヨウ素に限定)の総計推定を示したマップですが、いちばん外側の「最も低い」エリアが100ミリシーベルトです。いわき市の海側、南相馬市の半分、飯舘村のほぼ全域、葛尾村、川俣町の大半が含まれています。
その内側は500ミリシーベルト、その内側は1シーベルト(=1000ミリシーベルト=100万マイクロシーベルト)ですが、このエリアにも双葉町や浪江町が含まれています。
ひと月ちょっとで(実際には3月15日からの数日が決定的)、すでに20ミリシーベルトなどという数値はとっくに超えているわけですが、注意してほしいのは、この値は甲状腺に溜まったヨウ素による内部被曝のみをシミュレートしたものであり、セシウムやストロンチウムは含まれていませんし、外部被曝の数値も加わっていません。実際には、外からの被曝やセシウムからの被曝も相当量加わりますから、この数値よりずっと高い被曝を受けてしまったということなのです。
また、スポット的に飯舘村や浪江町、葛尾村の一部が突出して高い汚染を受けたことははっきり分かっていますから、そうした場所での数値はこの数値より一桁違うでしょう。
最初の段階で飯舘村、浪江町、葛尾村、南相馬市、川俣町に避難命令を出していれば、どれだけの人が被曝から逃れられただろうと思うと、返す返す残念でなりません。北西方面の人たちが被曝することを分かっていながら、国や県はなんの警告も発しなかったのです。これは未必の故意による殺人に等しい犯罪行為です。

こうした現実を前にして、今になっての年間20ミリシーベルト論争が非常に空しく聞こえるのは私だけではないでしょう。

これを書いている現在、福島のテレビでは、地上波放送の画面にL字型の情報枠を設けて、県内の放射線量を刻々と知らせています。

例えば、郡山市合同庁舎前の昨日(4月29日)の計測値は、

4月29日17:00 1.63
4月29日16:00 1.56
4月29日15:00 1.57
4月29日14:00 1.48
4月29日13:00 1.52
4月29日12:00 1.53
4月29日11:00 1.50
4月29日10:00 1.58
4月29日 9:00 1.54
4月29日 8:00 1.55
4月29日 7:00 1.54
4月29日 6:00 1.52
4月29日 5:00 1.63
4月29日 4:00 1.54
4月29日 3:00 1.55
4月29日 2:00 1.56
4月29日 1:00 1.56
4月29日 0:00 1.58

……となっています。
3月13日 13:00 には 0.06μSv/hでした。
急変したのは3月15日で、

3月15日 14:30 4.14
3月15日 13:00 0.06

↑……と、いきなり上がっています。
それからはずっと2~3μSv/h台を記録し続け、4月9日くらいからようやく2をぎりぎり切るくらいになり、現在に至っています。
郡山市合同庁舎前にずっと立っていれば、3月15日から現在(4月30日)までの47日間、ざっと2μSv/h被曝し続けていると考えられますが、この期間だけですでに 2×24×47=2256μSv/h 2ミリシーベルト以上になります。
これは外部被曝だけですから、実際には鼻や口から吸い込んだ放射性物質による内部被曝がこれに加わっています。それを加味して、1年間4μSv/h被曝し続けたとしたら、4×24×365=35040マイクロシーベルト=35ミリシーベルトですので、軽く20ミリシーベルト/年を超えます。
1.5μSv/hという数値は空中での計測値で、現在の放射線は、地表や建物、植物などに付着したセシウムから出ているものがほとんどですので、地面や水たまりなどではずっと高い数値を示します(このことは、すでに私は川内村の中であらゆるところをガイガーカウンターで測って実証済みです)

郡山市という都会でもこうなのです。
桁違いに汚染された浪江の津島や飯舘周辺に今も残っている人たちは、今から逃げたとしても、すでに確実に年間許容量を超えています。風評被害やパニックを呼ぶようないい加減なことを書くな、と怒られそうですが、これはどうしようもない現実であり、直視しなければならないことなのです。

政府にできることは、とにかく正直になること。
すべて正直に告白し、報告した上で、「数値上ではこんなに大変なことになっていますが、私たちはこの現実を受け入れた上で、具体的にどうしていくのがいちばんいいことなのかを考えていかなければなりません」と声明すべきです。
知恵を出して、やれることをやっていくしかないではありませんか。
規制値を変更するなどというごまかしをしている場合ではないのです。
規制値、基準値、安全値は超えてしまっています。ですから、ここから先は、杓子定規なことを言っているだけではどうにもなりません。具体的にどうしていけばいちばんいいのか。つまり、多くの人が今より幸せな状態になり、今より不幸にならないかを考えていきましょう、ということでしかないのです。
私は、汚染が低かった川内村に戻って、今まで通り生活することが幸せであると判断して戻ってきました。この一月半、自分でできる限りの情報収集をして、勉強し、考えた末の結論です。もちろん、事態が急変すればまたどこかに逃げなければならないかもしれませんが、今はこうすることがいちばんストレスのない生活を送れると考え、村に戻ってきた仲間たちと、新生川内村、本来の魅力的な阿武隈を取り戻すことをめざして生きています。

原子力を国策にして、莫大な税金を投入し、嘘の上に嘘を塗り重ねてきた結果が今目の前で起きている原発震災です。
これ以上嘘を重ねることだけはやめてください。

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