「米国は戦争しなければ国を維持できない」2015/09/08 12:06

日刊ゲンダイ8月31日に 作家・池澤夏樹氏が危惧「筋交いがない日本という家は潰れる」というインタビュー記事が出ている。
「3.11の東日本大震災をきっかけに日本という国、日本人に大きな関心が湧いてきた」と語る池澤氏。例によって特に印象的だった部分を抜き出してみたい。
インタビュー記事につき会話体なので、要点を抜き出すにあたって「ですます」は省略した。

日本は島国で、異民族支配を知らないで済んできた。そのせいで、少しトロいというか外交下手のところもある。自分たちが起こした戦争ですら、自然災害のように早く忘れてしまう。

日本は戦争は上手ではない。外で勝ったのは日清戦争だけ。日露は事実上、引き分け。
(略)
日本は大国意識を持たないほうが幸せ。(略)ある時期までは植民地にされる恐怖から富国強兵を目指したが、その後、次の目標がなくなってしまった。それでおかしなことを始めていく。東大教授の加藤陽子さんが毎日新聞で、南満州鉄道の利益は5000万円ぐらいだったが、平和を選んでいたら日中貿易は10億円の利益が出たはずという分析を紹介し、当時の日本には実利の視点が欠けていたと語っていた。

結局、全部が米国。基地問題、安保法案、原発の後ろにも米国がいる。(略)
日本は地位協定の改定を申し入れない。ドイツも韓国も地位協定を変えているのに、日本はしない。(略)
(米国は)戦後、しなかったことがないくらいに戦争をしている。戦争しなければ国を維持できない。ここがヨーロッパの国と違うところ。

企業が儲かれば庶民にも恩恵が行くというトリクルダウン説は、「悲しい流しそうめん」。下流の方でいくら待っていても何も流れてこない。
沖縄は「後ろ手で縛られた回転ずし」。目の前を富のようなものが流れていくけど、沖縄の人は手を出せない。
結局、この国は主権在民ではなく、主権在企業。すべては企業のお金の尺度になって、企業が栄えて、国はどんどん劣化していく。人間にとって幸福とは何かを、頭から考え直さなければいけない。


最近、今まで「リベラル」を売りにしていたような有名人が次々にトーンダウンしている中、池澤氏の舌鋒は鈍らない。
「企業が栄えて、国はどんどん劣化していく」と言うが、東芝などを見ていると、国の劣化を支えているのが大企業で、その企業も劣化し、じり貧になっていることがはっきり分かる。
東芝は家電では優秀な製品をいろいろ出している。ソニーやパナソニックよりも優秀な技術やアイデアを持っている分野もあるのだから、この際、癌細胞のような箱もの部門(公共事業や国策タカリ部門)を切り離すべきだ。

アメリカは巨大な軍産複合体が実権を握っている。「戦争しなければ国を維持できない国」だという池澤氏の指摘は、その通りかもしれない。
日本はそのアメリカを「絶対の同盟国」だとしている。「戦争しなければ国を維持できない国」にとことんついていきますと、世界に向かって表明している。
国家としての日本は、アメリカに絶対服従することを問答無用の原則と考えるのか、なんとか駆け引きをし続けて、ぎりぎりの実利を守ろうとするのか。
戦後の政治家の中には、後者のタイプもいた。絶対的な強国アメリカに対して面従腹背。田中角栄などはその代表だろう。
しかし、その「ぎりぎり」の線引きが難しい。少しでも踏み越えると消されてしまう。
現政権は後者の精神も技術も持っていないだけでなく、根本的なところで勘違いをしている。
戦後最悪の独裁者に対して党総裁の対抗馬も出ない今の自民党には何も期待できない。
自民党はもはや「保守政党」ではない。この重大な変化に気づかない国民……。

こういう時代、社会の中であと10年をどう生き抜くか……が、僕の課題だが、若い人たちはもっともっと厳しい課題に直面している。

若者よ、まずは歴史を学ぼう。哲学を学ぼう。答えはその先にしかない。