山口敬之事件と官邸とメディア2017/06/03 12:07

Japan Times 2017/05/30 の記事より。そのものズバリのタイトル
↑写真はJapan Times 2017/05/30 の記事より。そのものズバリのタイトル

犯罪をもみ消すこともでっち上げることもできる

最初に1つの動画を紹介したい。
↑これは本当によくできている。3日後には10万リツイートを超えていた。オリジナルは⇒こちら


なぜこれを紹介するかというと、山口敬之氏の準強姦罪逮捕状が逮捕目前で取り消され、今なお山口氏は放置されている件を「まともに」考えてみるきっかけとして最適だと思ったから。
ちなみに「準強姦罪」は「準」だから強姦よりはマシというわけではまったくない。レイプの手段が暴行や脅迫なら強姦罪、酩酊状態や心神喪失状態で抵抗できない相手を襲えば「準強姦罪」で、どちらも3年以上20年以下の有期懲役(刑法177条、178条2項)。重い・軽いはない、同じ区分の罪だ。

まず、この事件を時系列でまとめておく。

  • 2015年4月3日 被害者・詩織さんは就職相談のために都内でTBSテレビ報道局ワシントン支局長(当時)・山口敬之氏と面会。山口氏は一時帰国中で、山口氏から詩織さんを誘っている。山口氏に案内された寿司屋で詩織さんは意識が混濁(それまでに経験がないほどのことだったので「薬物をもられた」と詩織さんは後に推認)。朦朧としながらも「駅で降ろして」と訴える詩織さんを抱きかかえるように山口氏はホテルの部屋に連れ込み、性行為に及んだ。
  • 2015年4月4日 目覚めたとき詩織さんは裸にされていて山口氏はそこに馬乗り状態だった。
事件後に山口氏が詩織さんに宛てた弁明メールから概略を引用すると、(略)
〈あなたは私の寝ていたベッドに入ってきた。その時はあなたは「飲み過ぎちゃった」などと普通に話をした。だから、意識不明のあなたに私が勝手に行為に及んだというのは全く事実と違います。あなたのような素敵な女性が半裸でベッドに入ってきて、そういうことになってしまった〉

 しかしホテルの関係者は、

客室に2つあったベッドのうち1つしか使われた形跡がなかった。しかも、そのベッドには血痕がついていた

 と証言しているというのだ。

〈あなたのような素敵な女性が半裸で…〉山口敬之が被害女性に宛てた弁明メール 安倍総理ベッタリ記者の準強姦逮捕状 デイリー新潮
  • 2015年4月末 詩織さんは高輪署へ被害届を出す。4月30日、高輪署が受理。
  • 2015年6月 高輪署から「準強姦罪での逮捕状を取った」と詩織さんに連絡が入る。
  • 2015年6月8日 山口氏を逮捕しようと空港で待ち構えていた捜査員に警視庁上層部から逮捕はするなと指示が入る。捜査員から詩織さんに「上からの指示で逮捕できなかった」と連絡が入る。ストップをかけたのは警視庁刑事部長(当時)の中村格(いたる)氏(現在は警察庁組織犯罪対策部長)。以後、捜査は高輪署から警視庁捜査一課に移る。
「そのとき、私は仕事でドイツにいました。直前に捜査員の方から(山口氏を)『逮捕します。すぐ帰国してください』と言われ、日本へ帰る準備をしていました。いまでも、捜査員の方が私に電話をくださったときのことを鮮明に憶えています。『いま、目の前を通過していきましたが、上からの指示があり、逮捕をすることはできませんでした』『私も捜査を離れます』という内容のものでした」(詩織さんの記者会見で)
  • 2015年8月26日 書類送検。

  • 2016年5月 山口敬之氏TBSを退社。
  • 2016年6月 山口氏が著書『総理』(幻冬舎)を出版。
  • 2016年7月10日 参院選当日の新聞各紙に山口敬之・著『総理』(幻冬舎)の広告が掲載される。
  • 2016年7月22日 代理人弁護士を通じて詩織さんに「嫌疑不十分のため不起訴処分となった」と伝えられる。

  • 2017年3月~ 山口敬之氏、ワイドショー番組への出演が突然増える。森友問題などで政権擁護発言を連発する。
山口氏が権力者側で大きな声を発信し続けている姿を見たときは、胸を締め付けられました。(詩織さん 記者会見で)
  • 2017年5月 週刊新潮がこの事件について山口氏に取材。取材依頼書をメールで送った後、「北村さま、週刊新潮より質問状が来ました。◎◎の件です」というメールが山口氏から週刊新潮編集部に誤送信された。◎◎は詩織さんの名字。「北村さま」は北村滋・内閣情報官であるというのがメディアの中では一致した見方。週刊新潮が北村内閣情報官に確認すると「何もお答えすることはありません。すいませんが。(いつから相談を?)いえいえ、はい。どうも」と一方的に切られたとのこと。
  • 2017年5月8日 山口氏が自身のフェイスブックで週刊新潮の取材を受けたことに対して弁明を綴る。その書き込みに安倍首相の昭恵夫人が「いいね!」をつける。
  • 2017年5月29日 詩織さんが顔と名前を出して事件の経緯と不起訴になったいきさつの不透明性について記者会見。検察審査会に不服申し立てを行ったことも表明。

改めて時系列を確認して驚くのは、事件発生後(当然官邸も知っていたはず)にもレイプ犯として逮捕状が出ていた人物が『総理』という首相PR本のようなものを書き、参院選当日には新聞各紙に広告まで打っているということだ。

二人の重要登場人物

ここまでで登場した中村格(いたる)警察庁組織犯罪対策部長(帰国する山口氏を空港で待ち構えて逮捕する寸前だった高輪署署員に逮捕中止命令を下した人物)と北村滋・内閣情報官(山口氏が週刊新潮の取材申し入れ直後に相談メールを送った相手)とはどんな人物なのかというと、

中村格・警察庁組織犯罪対策部長:第二次安倍政権発足時に菅義偉官房長官の秘書官をつとめて絶大な信頼を得ており、いまも「菅官房長官の片腕」として有名な警察官僚。警察庁組織犯罪対策部は成立目前の「共謀罪」摘発を統括する予定の部署であり、そのトップにいる人物
実は、「共謀罪」と「もみ消し」というのは親和性があります。
というのも、共謀罪(テロ等準備罪)法案には、「偽証の共謀罪」も含まれています。
捜査機関の見立てと異なる証言をしようとする者とその支援者(弁護士含む)を「偽証の共謀容疑」で逮捕することも不可能ではありません。
冤罪を晴らすための第三者の証言についても、証言する前に偽証の共謀で摘発される危険が指摘されています。実際、真実を述べようとする第三者に対する捜査機関による圧力はこれまでにも多く報告されています。
加害者が政権と関係する重要人物である場合にも、事件をもみ消す目的でこの偽証の共謀罪が濫用される危険は非常に高いと思われます。
共謀罪というのは捜査機関による事件もみ消し、権力の不正隠蔽にも好都合なツールなのです。
東京法律事務所blog 「共謀罪」と「犯罪のもみ消し」の親和性~権力犯罪の隠蔽も容易となる共謀罪~より)


北村滋・内閣情報官:昭和55(1980)年警察庁採用。以後、在仏日本国大使館一等書記官、警視庁長官官房総務課企画官、徳島県警察本部長などを経て、平成18に安倍内閣総理大臣秘書官に就任。平成23年内閣情報官。 “官邸のアイヒマン”の異名をもつ安倍首相の片腕
(安倍首相の)面会数が最も多かったのは、インテリジェンス(機密情報)を担当する北村滋内閣情報官だ。外交・安全保障に関する情報や選挙情報まで、内閣情報調査室が集める様々な情報を首相に報告する。1日に複数回、官邸を訪れることも多く、首相の休暇中に山梨県の別荘まで会いに行くこともある。第一次安倍政権で首相秘書官を務め、苦しかった時期に首相を支えたメンバーの一人でもある。
日本経済新聞 2017/01/29 面会多い相手は? 安倍首相の4年間、データで解剖 会食場所・週末… 政治面「首相官邸」欄から集計

↑日経のこの記事によれば、4年間で安倍首相が面会した回数断トツ1位がこの北村内閣情報官で659回。菅官房長官(323回)や麻生副総理(299回)の倍以上会っている。まさに「首相の片腕」であることがデータ的にも証明されているといえるだろう。

マスメディアはほとんど報じない

この事件を、メディアはどう報道したか。
5月29日の会見で、 詩織さんは「今回、この件について取り上げてくださったメディアはどのくらいありましたでしょうか? 山口氏が権力者側で大きな声を発信し続けている姿を見たときは、胸を締め付けられました。この国の言論の自由とはなんでしょうか? 法律やメディアは何から何を守ろうとしているのか、と私は問いたいです」と述べた

では、この記者会見後の各メディアの対応はどうだったのか?
スポーツ紙は日刊スポーツが大きく報じたほか軒並み会見の内容を伝えたが、肝心の大手新聞社は昨日の朝刊で取り上げたのは、毎日新聞と産経新聞がベタ記事で数十行ふれただけで、読売はいわずもがな朝日新聞すらも無視した。

さらに、テレビのほうは、NHKは無論、民放キー局でも、山口氏の古巣であるTBSの『NEWS23』や『ひるおび!』、コメンテーターとして山口氏を重宝していたフジテレビの『とくダネ!』『直撃LIVEグッディ!』はスルー。フジと同様に山口氏を番組で起用していたテレビ朝日は、29日の『報道ステーション』は報道しなかったが、30日朝の『羽鳥慎一モーニングショー』と『ワイド!スクランブル』は伝え、番組でバラツキがあった。
LITERA 山口敬之のレイプ告発会見でテレビが見せた弱腰、安倍応援団は「逮捕ツブしたのはTBS」とデマで官邸擁護

前川氏や詩織さんのように、個人が勇気を振り絞って声をあげても、メディアは黙殺したり、下世話な興味に訴えるような扱いにする。

さらには、

とか、

……というようなコメントが元文科大臣や元大学教授から発せられる。それに対する「いいね!」の数の多さにも目眩がする。

山口氏を起用し続けていたテレビメディアに、今すぐ、自力でできる企画を提案したい。
「検証:私たちはなぜ山口敬之氏を起用し続けてきたか」「山口敬之氏を番組コメンテイターに推薦してきたのは……」
なぜ自分たちはあれだけの回数、山口敬之をコメンテイターとして起用してきたのかという説明責任があるのではないか。
それをしないで、この事件は見て見ぬ振りではあまりにも無責任ではないのか。

民主主義を守れとかいう以前に、この国は本当に「法治」国家なのだろうか。法が機能していないではないか。
警視庁刑事部長がレイプ犯の逮捕状をもみ消しても放置。元文科大臣が前文科事務次官を「買春していた」と名誉毀損しても放置。森友&加計の「学園ドラマ」も完結編を作らずに放置。
……放置国家ニッポン。
いや、呆痴国家か……。

前川さんや詩織さんのように勇気を持って声をあげている人たちが不当に貶められているのを黙って見ているのは耐えられない。今が最後のチャンスだとも思うので、連日こういう文章を書いているわけだが、さすがにこう毎日ひどいものを見せ続けられていると気分が悪くなり、体調を崩しそうだ。
日増しに無力感に襲われるだけでなく、「はっきり書く」という行為に恐怖を感じる。まさに管理社会、密告社会へ突き進む政権の思うつぼだ。
これからは自分にしかできない方法で、もっと効果的な書き物、表現スタイルを模索していこうと、改めて思っているところだ。



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