田舎暮らし初心者が陥りやすい失敗2021/01/14 16:15

地方移住のススメ(3)

私が田舎物件を探し始めたのは30代からですが、この30年で大きな災害に2度遭遇し、その度に新たな物件探しをして移住したので、実際に現地に足を運んで見て回った田舎物件は100物件はあるでしょう。データを見て検討した数を入れれば1000件近いかもしれません。
また、実際に都会から田舎に移住して暮らしている人たちとも数多く交流してきましたので、都会人が田舎暮らしに抱く幻想や、その幻想・錯覚から生まれる失敗もいろいろ知っているつもりです。
ここでは、そんな私が知っている「田舎暮らしの失敗例」や「田舎不動産物件探しの注意点」をまとめてみます。

土地だけの物件はどんなに魅力的でも諦める

 最近、コロナ禍で観光地などに遊びに行くことが難しくなり、都会の人たちが自分専用の遊び場として「山」を買って「Myキャンプ場」を持つことが流行っている、などとテレビで報道されているのを何度か見ました。
 「山を買った人たち」が楽しそうにキャンプしたり、バンガローもどきのようなものを作って「ここに住めるようにします」なんて言っている絵作りをして、「こんな生き方も夢があっていいですね」なんてナレーションをかぶせるわけですが、少しでも田舎暮らしを経験した人が見れば「だみだこりゃ~」です。
 そもそもよく聞くと、買ったのは「山」丸ごとではなく、山の中の狭い土地で、周囲は他人の土地だったりします。そのうちに隣接する土地の所有者や現地の住民たちとトラブルを起こすんじゃないかなと心配します。「そこはうちの村の里山だ。何を勝手なことしている」などと怒られないといいのですが。
「この土地、300坪で150万円でした。この車より安かったです」なんて自慢している人を見ると「バカじゃないの」と同情してしまいます。ただの山の中の300坪なんて、ほとんど値段がつくようなものではないのです。
 すぐに飽きて、あるいは虫に刺され、ヒルに血を吸われ、猪や鹿に荒らされているうちに飽きてしまい、放置することになるでしょう。
 150万円あるなら、10万円かけた贅沢な国内旅行を15回楽しんだほうがずっといい思い出になります。

 ……と嘲笑している私自身、かつては「山を買う」ことを真剣に考えた時期があります。
 越後の280万円の家を買う前、宮城県の丸森町にある山一つを見に行ったことがあります。確か価格は1200万円くらいでした。払える金額ではなかったのですが、ローンを組んででも手に入れる価値があるかもしれないと思ったのです。
 その山は7町歩くらいあったでしょうか。どこからどこまでというのもよく分からないような代物で、本当に「ただの山」でした。広葉樹が茂る自然は魅力でしたが、まず、家を建てられそうな平坦地に入るまでの道がない。短い距離ですが、自分で道を造らなければなりません。当然、電気も水道も来ていません。電気は引いてもらえるでしょうが、水は井戸を掘らなければなりません。どちらも百万円単位の費用がかかります。
 それだけの土台作りをして、さらにゼロから建物を建てるとなると、たちまち数千万円の費用がかかります。当然、そんな金はないので、即、諦めました。

 ビンボー人にとって、買ってもいい田舎物件の第一条件は、すでにすぐに住める家が建っていること、です。

 土地だけの物件は、いくら安くても、そこに新たに家を建てるだけで千万円単位の金がかかります。田舎のほうが人件費は安いですが、資材などは都会に家を建てるのとあまり変わりません。下手すれば、資材運搬が困難で、想定外の輸送代がかかるかもしれません。
 電気はよほどの僻地でなければ電力会社が引いてくれますが、ブロードバンド回線が引けなければネットを使えず、これからの時代は生きていけません。田舎暮らしほど、ネット環境は必須なのです。
 水も自分でなんとかしなければいけません。井戸を掘るとなれば、それだけで100万円超は覚悟しなければなりませんし、掘っても水が出るかどうかは分かりません。博打です。
 ガスはプロパンガスを使えるでしょうが、プロパンガス業者がボンベを運んできてくれないような場所なら、灯油などの燃料は自分で運ばなければなりません。
 建物が建っていない土地というのは、どんなに魅力的な自然環境であっても、そこにこれから住むことは極めて難しいのです。
 もちろん、大富豪でいくらでもお金をつぎ込めるのであればすべて解決しますが、ビンボー人には「土地だけの物件」は諦めるしかないのです。
田舎物件は3種類ある
 では、すぐに住める家(もちろん中古)のついた物件ならいいかというと、そう簡単ではありません。
 田舎の中古住宅物件は、大きく分けて3種類あります。どの種類なのかによって、そこで暮らすスタイルが違ってくるのです。  その3種類とは、
  1.  古くからある集落にある空き家
  2.  バブル期にできたリゾート物件の空き家
  3.  田舎に新たに造成された新興住宅地の空き家
 の3種類です。
 田舎物件初心者は、この3種類の違いをしっかり認識することから始めなければいけません。

 まず1の「古くからある集落にある空き家」というのは、農家物件などがその代表例で、今までその土地の人が住んでいた物件です。
 私が最初に買った越後の家はこれに該当します。売り主さんは農家ではなく、地元の工務店勤務のかたでしたが、十数軒ほどの限界集落の一員としてそこに何十年も住んでいました。「ほしば」という屋号もついていて、近所の人に説明をするときは、「○○さんが住んでいた家を買った者です」と言っても通じないのが、「ほしばの……」と言えば一発で「ああ、あそこか」と理解してもらえました。その地域は「○○さん」だらけだったので、「○○さんの家」では通じなかったのです。
 こういう家を買って住むということは、その地域の一員になるということを意味します。都会から引っ越して来て何も分かっていない人、という認識はされても、そこに住み始めた瞬間から、否応なくその地域社会、集落の住民として扱われます。
 集落の自治会の細かい決まりや、土地に伝わる風習・因習にも多かれ少なかれ従わないと、摩擦を起こしかねません。
 越後の家の場合、家が集落の外れにあって、普段目に入る家は一軒だけでしたし、夏場しか住んでいなかったので、私は最後までその地域の一員という扱いは受けませんでしたが、自治会費だけは毎年払っていました(別荘の人、ということで半額でした)。
 幸い、越後の人たちは穏やかで、よそ者に対しても優しく接してくれたので、嫌な思いをすることは一度もありませんでしたが、場所によってはそう簡単ではないでしょう。
 農家物件などを購入して移住する場合は、そのへんをしっかり調べた上で、その地区の住民になった後の生き方まで覚悟を決めておく必要があります。
 これは無理にその土地の人間になれ、というのではなく、自分のポジションを地域住民に宣言し、それを受け入れてもらった上で、お互いのプラスになるようないい関係を築く努力を惜しむな、ということです。私はそういうのがかなり苦手なので、偉そうなことは言えないのですが、田舎暮らしで失敗する人の多くは、「地域社会に溶けこめなかった」ことが原因になっています。
 自然農法で自給自足の生活をしたいと思って農家物件を買って移住した人が数年で断念して引き上げた例を知っていますが、その原因は近所の人たちとの「水争い」でした。
 なんとも笑えない話です。

 農家物件は、不動産価値としての相場が定まりにくいという特徴もあります。都会人には信じられないほど安い値段で売りに出されている場合があるかと思えば、こんな不便な場所でこんな強気な価格? と、疑問に思う場合もあります。
 地元の人にしてみれば、ただでさえ過疎化が進んで自分の家を維持していけるかどうかも分からないのに、家を買うどころではないので、どんなに安くても買いません。つまり、地元の人には売れない物件なのです。
 一方、都会の人は、広い土地、古くても大きな家(人によっては古ければ古いほど魅力的に映る?)がこんなに安く手に入るのかと心が動かされます。価値観がまったく違うので、相場価格というものが定まりにくいのです。
 自分の価値観に合う物件が安く手に入れば幸運でしょうが、農家物件は古い建物が多く、趣はあっても、水回りや電気関係の配線などをやり直さないと使えないということがあります。
 主人が亡くなった後に売りに出された物件では、荷物が片付いていないことも多く、中には先祖の写真が壁に掛かったまま、などという物件もあります。売り主である相続人が地元を離れている場合も多く、後始末や売り主との交渉だけで嫌になるかもしれません。

 2の「リゾート物件空き家」も特殊な物件といえます。
 これはものすごく数が増えていて、長野や山梨の別荘地などは、今や空き家だらけです。日光でも霧降高原の別荘地などには空き家がいっぱいあり、家を建てるだけでも軽く数千万円かけたであろう瀟洒でカッコいいデザインの別荘が数百万円から売られています。
 中には贅沢を尽くした建物などもあり、初心者は「え? 総檜造りのこの立派な家が800万円?」などと驚くのですが、800万円でも売れない理由はちゃんとあるのです。
 まず、別荘地は林の中や山の斜面、冬は寒くて水道が凍結するような場所にあることが多く、通年居住する場合、冬場がかなり厳しいのです。それなのに都会人がかっこつけて吹き抜けや広いリビング空間などを持つ建物の設計を都会の建築士に発注するので、暖房が効かず、ますます寒い冬を過ごさなければなりません。
 また、農家物件とは違い、土地が狭く、隣の別荘との距離があまりないので、都会の住宅地とあまり変わらないような住環境といえます。
 さらには、そこに通年居住している人たちの多くは、「元都会人」であり、その土地の人ではありません。感覚は都会人のままなので、近所づきあいも、農村の空き家に移住するのとはまったく違う空気感になります。それが居心地よく、住みやすいと感じるかどうかは人によります。田舎の大らかなイメージに憧れて移住したのに、都会暮らしのときと同じようなせこせこした空気に嫌気がさすかもしれませんし、田舎特有の因習などがなく、芸術家や知的な会話ができる人もいて楽しいという人もいるでしょう。
 別荘地によっては、全戸に温泉が引かれていたり、プールやテニスコートのあるレクリエーションセンター的な建物を持っていたり、敷地内にお洒落なレストランやブティックがあったりという、一見豪華な場所もありますが、それがいいのかどうかも、よく考えてみてください。バブル期に開発されたリゾート地では、施設の管理維持が難しくなって、見た目とは裏腹に、どんどん廃墟化しているところが多いのです。
 とにかく、基本的には冬場に厳しい気象条件のところが多いので、ぜひ、真冬に見に行くことを勧めます。
 開発したデベロッパーがすでに倒産しているような別荘地もあります。管理状態が悪い別荘地では、家のそばの木が倒れたり、斜面が崩れたり、道路が陥没したり、私設水道や簡易下水道が壊れたりした場合、敷地内がすべて私有地であるため、自治体は面倒をみてくれません。全部自腹、自力で対応しなければならないこともあります。自力で手当てしようと思っても、今度は管理組合のルールがあって、勝手には修繕もできないかもしれません。それでは都会のマンション暮らしと同じタイプの不自由さがついてまわることになってしまいます。
 古いリゾート分譲地の物件が寂れて、価格が安くなるのは、それなりの理由があるのです。

 3の「田舎に新たに造成された新興住宅地の空き家」というのは、2のリゾート開発地ほどではないけれど、元は原野や野山だったような土地をデベロッパーが開発して住宅地にした土地のことです。私が今住んでいる環境はまさにこれです。
 周囲は農村で、地元の人の多くは農家ですが、私が住んでいる小さな分譲地はバブル期に造成されたもので、造成後、そのデベロッパーは倒産してしまいました。
 売り出した当初は、都会の人が投資目的で買うケースも多く、そうした不在地主の土地は今では空き地のままで、草や木が生え放題です。もちろん、地価はどんどん下がり、今では売り出したときの価格の半額どころか、一桁違う価格でも売れません。地元の不動産屋が「ただでくれると言われても、売れないし、固定資産税が出ていくだけだからいらない」というような土地も多いのです。
 1区画は100坪弱くらいで、そこに家を建てて通年居住している人たちの多くは、栃木県の他の場所から引っ越して来た人たちです。宇都宮市のような都市部は地価が高くて手が出ないけれど、このへんまで引っ込めばなんとか買える。宇都宮に通勤するのも、車で30分くらいなのでなんの問題もない。静かな環境でゆったり暮らしたい、という合理的な考え方の人たち。
 この種類の住宅地、分譲地での生活は、1と2の中間くらいの雰囲気です。つまり、昔からそこに住んでいた人たちが作る地域社会のような因習・伝統はなく、純粋な別荘地のように都会から来た人たちの社会でもない。なんともゆる~い雰囲気の土地です。
 購入を決めたときはそこまで理解していなかったのですが、結果的にはとても暮らしやすい環境でした。
 今の家は、この新興住宅地を売るために地元の個人不動産屋がモデルハウス兼自分の別荘として建てた家で、登記簿の記録を見ると、当初、2700万円の抵当権がついていました。それを融資した住宅ローン会社数社は、調べたところ、バブル後にすべて倒産していました。
 持ち主の不動産屋も倒産して、夜逃げしたようです。その後、裁判所で競売にかけられていたのを別荘代わりに購入した人がいて、その人がもてあまし気味になって売りに出したのを私たちが買ったのでした。
 地方にはこんな物件がいっぱいあります。裁判所が公示する競売物件の中には驚くような価格の掘り出し物物件が見つかることもあります。一般の人でも入札でき、ネットで会員登録(無料)すると定期的に情報提供されるので、チェックしてみるといいでしょう。

 このように、一口に田舎不動産物件といっても、どういう状況で売られている物件なのかによって、その後の対応や生活環境が大きく違ってくるということを、まずはしっかり理解してください。その上で、これから自分が望む生き方、生活スタイルに向いているかどうかを判断する必要があります。
 100%理想的な物件というのはまずないので、ある程度は新しい環境に自分が合わせていく覚悟も必要ですが、無理に合わせようとしてもストレスが溜まるだけで失敗します。



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