そして私も石になった(2)時間感覚のずれを理解せよ ― 2022/02/14 19:06
時間感覚のずれを理解せよ
「あんたは俺より長く生きてきたというけど、どれくらい長生きなんだい?」
俺はNに訊いた。
<人間の時間単位でいえば、10億20億30億といった年数だから、きみにはイメージできないだろうね>
「ほとんど地球の歴史くらいの長さってことか? じゃあ、あんたは『地球』なのか?」
<いや、違う。
「よく分からないな。俺なら、そんなに長生きしたら、退屈で死にたくなる。というか、そんなに長い時間死なないなんて、恐怖だよ」
<だろうね。それはよく分かるよ。だけど、我々は意識を長時間眠らせることができるし、起きているときは、時間の流れをどのように感じるかを調整できる。それが「時間をコントロールする」ということの意味さ。
きみたちにとっての1年という時間を、私が同じような時間感覚で過ごした後、1億年眠ることもできる。次に起きたときに、きみたちの1年という時間を15分くらいの感覚で過ごして、今度は150年眠ることもできる>
「……なんかすごいな。それなら10億年生きていても飽きないってわけか」
<そういうことだね。そもそも時間とは絶対的なものではない。人間が、電波時計が刻む時間を絶対的な単位だと信じるのは、限られた時間を直線的に生きるしかない生物種としては、そう考えたほうが都合がいいからにすぎない。それが幸せなことかどうかは別としてね>
「時間が存在するというのは錯覚だということ?」
<錯覚……ある意味、そうだね。
例えば、東京と大阪の間を新幹線という電車は2時間半で走る、という説明を、人はすんなり受け入れるよね。でも、この2時間半という時間の長さは、速度と位置が関係して計算されている。東京はAという位置にあり、大阪はBという位置にある。AとBの間は500kmという距離があって、そこを2時間半で移動するから、この新幹線の平均速度は時速200kmだ……というような。
この位置とか速度とかいうものも、人間が定めた約束事を人間が発明した道具で計測して定義されている。であれば、人間が存在しない物理世界には距離も位置も速度も時間もないんじゃないかね>
「いや~、それはさすがに詭弁に聞こえるなあ。単位は変わるかもしれないけれど、速度も時間もあるだろ」
<そうかな。
きみは、最近、量子のことをずいぶん勉強していたね。で、きみは結局、量子というものを感覚的に理解できたのかい?>
「いや、それは……」
<量子は波でも粒子でもない、とか、量子は極小の存在で、それが常に予測不能な動きをしているとか、人間には感覚的に受け入れられない話だらけだっただろう?
それはつまり、人間は自分の感覚に受け入れられる説明や喩えに合わせてしか世界を把握できないからだよ。それがきみたち人間の脳の限界なんだ。
波とか粒子といった概念は人間の感覚で捉えられるものだから、それに喩えていろいろなものを想像することができる。だけど、その概念に量子というものを無理矢理あてはめようとすれば、ますます分からなくなってしまうわけさ。
量子の概念を完全に把握できている人間などいないだろうね。それでも、現代の最先端科学では、この世界が量子でできていると結論づけている。いい加減だよね。
時間についても同じだよ。「時間」というものは確かにある。でも、それはきみたち人間が感覚的にとらえている「時間」とは違うものなんだ。正確にいえば、きみたちが知っている「時間」は、本当の「時間」のごく一部、ある種の鏡に映したときの虚像のようなものかな。
時間、空間、位置、速度、色、感触、味、映像……きみたち人間が知っていると思っている「物理世界」を構成している要素はことごとくそうだ。だから「世界」が仮想のものだというとらえ方もまた、あたっている部分とあたっていない部分があるのさ>
「はいはい。俺たちはバカだし、あんたらは利口だってことね。じゃあ、それはそういうことでいいよ」
<ひねくれるなよ。とりあえずは、我々が億単位の年月、この地球を見てきたってことをきみに分かってほしいってことさ。大前提としてそれを受け入れてくれないと、これからきみに伝えようとしていることも、全部作り話になってしまうだろう?
きみの好きなように、きみの感覚の中にうまく取り入れられるかたちでいい。単純に、1年起きて1万年寝ることができるような連中がいる、っていうようなイメージでもいい。我々は何億年何十億年という長い時間、この地球を見ながら生きてきた。ここまではいいかな?>
「ああ、いいよ。じゃあ、続きをどうぞ」








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