日本ではCOVID-19第一波は終わっている?2020/05/08 21:10

神戸市立医療センター中央市民病院(同市中央区)では、4月上旬までに外来患者千人に対してSARS-CoV-2の抗体検査をしていた。5月2日にその結果を発表したが、3.3%に抗体陽性反応があったという。
100人に3人程度がすでに4月上旬までにSARS-CoV-2に感染して抗体を持っていたということになる。その人たちは感染していることに気づかず、軽い症状、あるいは無症状のまま抗体だけができた、ということだ。
これを読んで、ああ、やっぱり! と思った。
神戸でこの数字であれば、おそらく東京や神奈川など首都圏ではもっと多いだろう。
実際、慶応義塾大学病院(東京都新宿区)は、4月23日までに新型コロナウイルス感染症以外の治療目的で来院した無症状の患者67人にPCR検査を行ったところ、4人(6%)が陽性者だったと公表している。

もしかして日本では感染の第一波は収束していて、今出てきているのは第二波なんじゃないかと想像していたのだが、こうしたデータを見る限り、あながち妄想ではないと思えてきた。
つまり、武漢から直で入ってきた第一波のウイルスは、なんらかの要因(多分DNA的な要素?)で(運よく)日本人にはそれほど被害を及ぼさず、抗体だけはついた。
今、死者がポツポツ出ているのは欧米から入ってきた、変異したウイルスによる第二波なのではないか?? ……と。

日本だけがなぜ感染者数も死者も少ないのかという謎がずっと論じられてきたが、「死者は少なかったが、感染者は少なくなかった」ということではないか。検査していないから感染確定例の数が極端に少ないというだけで、実際にはそこそこの数の感染者はいた。しかし、なんらかの要因で発病~重症化する確率が低かった。
日本人は欧米人に比べて清潔好きで、普段から手洗いの習慣があり、逆にハグやキスの習慣がないから感染が抑えられたという説が根強くあるが、「感染者が相当数いた」のであれば、そういう説明だけでは無理がある。「感染しても気づかないほど軽症、無症状である人の割合が、欧米人より高い」ということではないか。
「どちらかというと、これは非常にラッキーなデータ。感染拡大初期に行ったデータで既に3%に達していた。そこから1カ月がたってどう変化したのか大変興味がある。もしかしたらもう少し高いデータが出ている可能性があることは、大いに考えられる」
(神戸市立医療センター中央市民病院の木原康樹院長)
なんにせよ、まだまだ謎だらけ。今が第二波だとすれば、第二波がどの程度で収まるのか、第三波は?? などなど、分からないことだらけだ。

ざっくりと推理して、中都市で3~4%、大都市では5~6%、地方の田舎町でも1%くらいはすでに抗体を持っている人がいるとすると、これからの対策としては、
  • 若者同士の交流、感染はある程度仕方がないと考える
  • 若者が高齢者や入院患者などと接触することは徹底的に避ける
  • 病院や高齢者施設での感染防止を徹底させる
  • 発病した人への早期の対応
  • 保健所と医療現場を切り離す(保健所は本来の仕事に戻し、医療現場からの検査依頼などは民間に回す)
  • 唾液でのPCR検査を認める
  • その上で、必要な社会インフラを回しながら、社会構造全体の合理化を進める
……といったことではないか。

「医療崩壊」という言葉は曖昧すぎて違和感があるが、要するに、
  1. 医療現場での役割分担ができていない
  2. 医療資源(人も装備も設備も)が圧倒的に足りない
……ということが問題なのだ。
1はすぐにでも対応できるはずなのに、厚労省のメンツや指示みたいなものが効率化や最適化を阻止している。
それを制御できないどころか、問題の本質を理解できていない政府中枢はもっと大きな障害だ。

問題は「生き方」をどう変えるか

現状を見ていると、この国が今から目を見張るような見事な対応をしていくとは思えない。
各現場では本当に頑張っている人たちが多いのに、それを生かせない「システム」に縛られ、改革すべき上の人たちがあまりにも無能・無責任すぎる。これをすぐに変革していくことは困難だろう。
そんな中で、我々庶民はどうすればいいのか?
新型コロナは、人々の連帯も引き裂いていく。フランスの経済学者でEU結成の立て役者でもあるジャック・アタリ氏はこう主張する。
「ウイルスに怯えると『自分さえよければいい』と考えてしまいがちで、『他人のために生きる』という人間の在り方が失われていくのです」
その結果生じているのは「分断」された弱肉強食の世界だ。
たとえば、裕福な人と貧しい人の分断だ。新型コロナの感染拡大を防ぐには、外出を減らし接触を減らす必要がある。だがおカネがない人は、仕事に行かないと生活できず、自宅待機はできない。
M・ガブリエル氏ら世界的知性が答えた「コロナと人類の未来について」 週刊現代 2020/05/04

↑まさにそういうことだ。
しかも、運送、製造、医療、介護といった、止められない社会インフラを回している人たちほど自宅待機はできない。そんなことをしたら、誰も(金持ちも貧乏人も)が生きていけない。
そのことを忘れて、パチンコ屋が開いているだの、公園で凧揚げしているだの、川辺でBBQしているだのという視聴者の煽り目的の映像ばかり流しているテレビメディアは猛省せよ。問題の本質はそういうことではない。
死者を極力減らす、という目的なら、考えること、論じることは別にある。それができない社会である、ということが問題だ。

理論的には、感染が消えることがない限りは、封鎖や自粛をしてもしなくても、最終的に死者の総数はあまり変わらないということになる。
ワクチン開発はできるかどうか分からないし、時間がかかるだろう。できたとしても、遺伝的副作用や特異体質の人への危険性などが確認できないままの見切り発車になる。
できることは、重症化する人が集中して救急医療の現場がパンクしないようにすることと、高齢者や病人、そして医療関係者を感染させないようにすること。
その前提で、いかに医療現場への負担を減らすか(集中を避ける、余計な仕事を増やさない、役割分担を徹底する)、ストレスや過労による死や家庭崩壊、人間性崩壊、文化の停滞・後退を防ぐか、ということを考えていかないと、このままではもたない。


もはや腹をくくるしかない?

抗体検査も、唾液によるPCR検査も、検査キットが足りていれば別に専門的な技術は必要ない簡単な作業なのだから、やれないはずはない。実際、他の国ではやっているわけだし。
(PCR検査は専門職が時間を取られ、感染リスクと戦いながらやる大変な作業だ、という主張は、旧式の方法を元にしての主張のような気がする。唾液からの検体採取は認めないというルールがあったり、自動化した検査装置がありながら活用できていなかったりしているようだから、まずはそうした理不尽な縛りを解消することが先だ)
とにかくデータがないと戦略が取れない。
それができない以上は、もう腹をくくるしかない。ダメなときはダメなんだ。でも、確率的には、多分大丈夫なんだろう……という腹の据え方。
志村けんさんみたいに、すぐに国内最高レベルの医療機関が、ありとあらゆる最先端の方策を駆使しても、残念ながらダメなときはダメ。
一方、放っておかれても、苦しんでも、なんとか自力で回復する人もいる。(もちろん、苦しむ前に医療を受けられないとまずいのだが、実際問題受けられない人がいっぱいいて、すぐには状況が変化しないのなら、それを覚悟して向き合うしかない)
どこかで腹をくくった上で、人間として充実した生き方を見失わないようにしないと。このままでは人間社会全体が物理的な死の前に「精神的な死」に直面してしまう。

実際、こんなことをボソッと書いている私でも、寝ている間に見る夢の中にもコロナは入り込んできているし、朝、起きるときの鬱状態が日々悪化している。
次にこれをやろうかな、というアイデアはいろいろあるのだが、「どうせ……」という否定形の思考が支配的になって、動けない。
これを乗り切るには、自分を変えていかなければいけないのかもしれない。
利己的な発想を捨てて、利他的に動くことに意味を見出す……とか。
若いときにわがまま放題、自己中心で生きてきたツケが回ってきたのかもしれない。
謙虚に、そして否定形の思考ばかりに支配されないように意識して生きる。

……やれることは、そういうことかなあ……。


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気になる不顕性感染者の実数2020/03/14 21:23

これを書いている現在(2020/03/14 16.28)、世界でCOVID-19に感染して死んだ人は5429人だという。
中国湖北省を除くと、イタリアが1266人で断トツに多い。以下、イラン:514人、スペイン:133人、フランス:79人、韓国:72人、米国ワシントン州:37人……と続いている。
死者/確認感染者数を比べると、中国以外では、
  • イタリア:1266人/17660人 (0.072
  • イラン:514人/11364人 (0.045
  • スペイン:133人/5232人 (0.025)
  • フランス:79人/3667人 (0.022)
  • 韓国:72人/8086人 (0.009
  • 米国:47人/2174人 (0.022)
  • 日本:21人/725人 (0.029)
……で、イタリアとイランの死亡率の高さが目立つ。特にイタリアは致死率が高い。
武漢のように医療体制が崩壊したからだというが、それだけではないのでは? という気もする。遺伝子的に重篤化しやすい人が多いのではないだろうか。
韓国が一桁低いのも目を引くが、これは検査数を徹底的に増やしているからという理由の他に、検査している対象に例の新興宗教信者が多く、その大半が40歳未満の女性だから、ということのようだ。
日本は検査数が異常に少ないのでこの数字は鵜呑みにできない。検査されないまま、ただの肺炎とされて死んでいる高齢者が相当数いるはずだ。今のままだと早急に手当てすれば回復する可能性のある患者をどんどん重篤化させてしまうだろう。
さらには、クラスター感染と呼ばれているケース(スポーツジムや屋形船など)を追跡調査した結果を見ていると、日本では若年層を中心に不顕性感染者の数が諸外国より多いのではないかという気もする。もしかすると韓国よりも多いのではないだろうか。
上昌広医師は、日本と韓国で死者数が少ないのを「ウイルスの特性」に要因があるのではないかとツイートしているが、この「特性」というのはやはりHLA型との関係を示唆しているのだろうか。ただ、データがない現状でHLA型との関連に言及することで、ただでさえ多い雑音が増えるのを回避しようとして明言を避けているのだろう。

そこで改めて日本国内でのPCR検査結果(3月13日時点。クルーズ船、チャーター便帰国者除く)を見てみると、
  • 検査総数:11231
  • 陽性者:659
  • ↑そのうちの無症状者:68
となっている。
陽性者のうち1割以上が無症状というのが不気味だ。
ちなみにダイヤモンドプリンセス号だけのデータを見ると、
  • 検査数:3711人(内、日本国籍は1341人で36%)
  • 陽性者:697人(19%)
  • ↑内・無症状者:328人(47%)
で、なんとおよそ半数は「無症状者」なのだ。
この「無症状者」というのは、「(隔離)入院後に有症状となった者は無症状病原体保有者数から除いている」とのことなので、ウイルスが体内に入ってもまったく発病しなかった人という意味になる。
感染しても1割以上の人は自分が感染したことが分からないどころか、なんの症状も出ないから普段通りに行動しているわけだ。
微熱程度の軽い症状のままで動いている人を含めればもっとずっと多いだろうから、今の日本では、自分が感染していることを認識しないまま普段通りに行動している感染者が数多くいると考えられる。
メディアでは指摘するのが半ばタブー視されているようだが、普通に考えれば「感染しても無症状または症状が軽い若年層が、意識せずに高齢者層にウイルスを感染させ、高齢者が発病する」という図式ができあがりつつあるのではないか。
この可能性を提起することで無用な差別発言やパニックが広がるのか、それとも各人が今まで以上に注意を払って高齢者の感染リスクを下げる努力を冷静にかつ紳士的にしていけるのか……後者であることを祈りたい。

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新型コロナ報道のあり方がひどすぎる2020/02/24 22:07

メディア(特にテレビ)がCOVID-19感染関連の報道をする際に、重要なことを言わず、視聴者を煽るのを目的としたようなミスリードをしていることは前回の投稿ですでに書いた。
もうやめようと思っていたのだが、あまりにも目に余るので、また書く。

感染症問題は「加害者・被害者」の関係ではない

今日(2月24日)、テレビのワイドショーに呼ばれた某医師が、千葉の60代女性教諭のことを「具合が悪くなった時点で仕事を休んでいればスプレッダーにならなくてすんだ」と責めていた。そういう言葉がどんどん世間をミスリードしていく。
この60代の教師は「休みたくても休めなかった」「休ませてもらえなかった」のではないかと、日本の社会風土を知る我々は容易に想像できる。そういう職場環境、休めない空気を作りだしていることを問題にすべきである。
そもそも彼女が「スプレッダー」になった証拠は何もない。生徒が感染していてそこからうつされ、過労が重なったので60代教師が最初に発症した可能性もある。
新たな感染者が報告されるたびに、まるでその人が起点となって周囲にウイルスをまき散らし続けたような印象を与える伝え方をするのは報道のあり方として許されることではない。JRの駅員も、給食配膳の人もそうだが、その人はすでにたくさんいる(はずの)感染者の1人に過ぎず、たまたま発熱などの症状が出てきて、たまたまCOVID-19感染検査を受けることができて、その結果陽性反応が出たにすぎない。
多くの感染者の中から「たまたま発症した」のは、その人が感染に対する「弱者」であったからだ。
千葉の女性教諭は、連日の仕事で疲労が溜まっていて、しかも60代という年齢でもあり、ウイルスに勝てなかったのだろう。
こうした「弱者」の存在こそが最もケアされるべきなのであって、新たな病人を「感染源」のように報じるのは、注意喚起の仕方として完全に間違っている
例えば、千葉の女性教諭が勤めている中学校に、70代の用務員とか外部からの80歳の清掃員とか、あるいはペースメーカーをつけた教員とかがいれば、その人たちは「感染弱者」と見なせる。そうした感染弱者に危険が及ばないように、しっかり健康状態を観察して、異変があればすぐに対応する、といった方向の注意喚起をすべきである。

感染検査させない国の方針こそが追及されるべき

韓国の感染者数急増を騒いでいる連中の馬鹿さ加減にもほとほと嫌気がさす。韓国は検査数を増やしたから感染者数が増えたのであって、日本も検査数を増やせばたちまち1桁2桁増える。
韓国で新型コロナウイルスの感染者が全国で出ている中、検査件数も急増している。
中央防疫対策本部によると、23日午前9時現在、6039件の検査が進められている。1日約5000件の検査能力を上回る件数だ。
新型コロナ検査能力 1日1万3千件に拡大へ=韓国 聯合ニュース 2020/02/24
日本は何をやっているんだ、という話である。
1日万単位の検査は可能だといわれているのに、理解不能な縛りをかけて数千件しか検査しようとしない国が世界から信用されるはずはない。
なぜ検査体制を国が統制しようとするのか? メディアはそこをなぜ徹底的に追及しないのか?

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新型コロナウイルス 専門家たちの発言・まとめ2020/02/23 22:26

COVID-19について、感染症対策の専門家たちはどう発言しているか、まとめてみた。
参考にしたのは、
  • 岡田晴恵(白鴎大学特任教授・専門は感染症学、公衆衛生学、児童文学)……連日テレビに出演し、すっかり顔が知られているあの人。
  • 岩田健太郎(神戸大学病院感染症内科診療科長・教授)……YouTubeにクルーズ船内の状況がひどいという動画をUPして注目されたあの人。
  • 高山義浩(厚労省技術参与)……岩田教授のYouTube動画についてフェイスブックで一部訂正・反論するコメントを出して注目された人。
  • 上 昌広(医療ガバナンス研究所理事長・元東京大学医科学研究所特任教授)……「そもそも総研」の玉川氏のインタビューなどで、政府がCOVID-19の感染検査を本気でしようとしていないことを批判。
  • 高橋 央(新ゆり内科院長・米国CDC実地疫学認定医。2003年にはWHO短期コンサルタントとして、フィリピンSARS封じ込め チームリーダーとして活動)……2月23日放送の日本テレビ「バンキシャ!」では「東京五輪を強行突破で行ってはいけない。引き返す勇気も必要」と発言。
……など、感染症研究を専門とし、学術だけでなく、実際にパンデミック現場を生で見てきた人たち。

全員がほぼ一致しているのは、
  • 日本での感染はすでに拡大期に入っており、今からできるのは感染者・重症患者の増加カーブをなだらかにする努力だけ
  • ピークカーブを押さえてカーブをなだらかにするために、収束時期が遅くなることは仕方がない
  • 感染ルートはもはや追えないし、追っても意味がないので、これから出てくる重症者をいかに減らすか、重症者を死なせないかが最大の課題
ということだ。

以下、いくつかの意見・見解をまとめてみた。

高山義浩氏が 2020/02/16 にFacebookに投稿した文章の要点
  • 新型コロナに感染したときの臨床像は、上図のような2つのパターンに分けられる。
  • 大半の人は、風邪症状が1週間ぐらい続き、そのまま軽快する。普通の風邪は2、3日で治るが、新型コロナだと長引くのが特徴。
  • その1週間で軽快しない場合は、倦怠感と息苦しさが出てくる。体のむくみや下痢などが出ることもある。高齢者や基礎疾患のある人がここまでこじらせやすいが、子供は稀。
  • 感染してから発症するまでの潜伏期間は5日(1-11日)ぐらい。入院を要するほどに重症化するのは、さらに10日(9.1-12.5日)経ったころだと見積もられている。
  • 感染力が強いのは、発症から3~4日目ぐらいだと考えられるが、重症化すると感染力も維持されて院内感染を引き起こしやくなる。
  • 世代別の疫学報告がまだ出揃っていないので正確なことはいえないが、ざっくりとした印象では、若者の重症化率と致命率はほぼゼロではないか。一方、感染した高齢者の1割ぐらいが重症化して、1%ぐらいが死亡するのではないかと感じている。要介護高齢者や入院患者では、さらにリスクが高まる。
……とした上で、
  • もはや、流行を抑止することは主たる目的ではない。重症化する人を減らし、死亡する人を極力減らすことに力を注ぐべき
  • 高齢者や基礎疾患(糖尿病、高血圧、腎臓病など)のある人(=ハイリスク者)に感染させないようにすることが最重要課題
  • このような家族がいる場合、ウイルスを外から持ち込まないように、玄関先にアルコールを置いて帰宅時の手指衛生を徹底すること。
  • 同居人が風邪をひいたら、症状が治まるまで家庭内で隔離。難しければ、ハイリスクの者を親族の家などに疎開させる。
  • 風邪症状に過ぎないのに新型コロナかどうかを確認するためだけに、救急外来を受診することは避ける。そこでハイリスク者に感染させてしまうことになりかねないから。
  • 高齢者施設の感染管理は極めて重要。100人の入所者がいる施設で新型コロナがアウトブレイクした場合、30人以上が発症し、10人以上が救急搬送を要して、数人が死ぬというイメージが必要。
……と、特に高齢者や病人にウイルスをうつさないことの重要性を強調している。

岩田健太郎氏も2020/02/16付のブログで「COVIDと対峙するために日本社会が変わるべきこと」と題し、同じようなことを言っているが、そもそも「日本の社会風土を変えていかなければいけない」と訴えている。
  • 感染症の広がりはウイルスだけが決めるのではない。社会や個人の振る舞いも大きく影響する。
  • 日本人は風邪症状くらいでは休まないから、他の国より感染が広がる可能性が高い(和歌山の医師が発熱後も解熱剤を飲んで大阪の病院でバイトしていたのがよい例)。
  • COVID-19での死者を減らす方法は、日本の社会風土を変えていくことである。
具体的には、
  • 風邪をひいたり体調を崩したら家で休む。社会もそれを許容する
  • しんどくなったらマスクを付けて速やかに病院を受診する。しんどくなければ必須ではない。しんどさの基準は個人差があるので個々の判断で。
  • 自宅に家族がいれば、病気の人はマスクを付けて、神経質に何かに触るたびに手指消毒をする。何度でも。
  • 仕事や学業を効率化する。人が集まらねばならない会議は最小化して、メールでできること(特に連絡事項)はすべてメールやチャットなどでやる。自宅でできる仕事も自宅でやる。
  • 医療リソースと公衆衛生リソース(役所含む)を大切にする。モノと人、マスクを無駄遣いしない。人も無駄遣いしない。すぐに病院に駆け込まない。「何かあったらすぐ病院に」と勧めない。夜中の記者会見など無駄なことはしない(記者会見もチャットでやればいい。昼間に)

翌、2/17のブログ「結果を出すということ(COVID対策)」ではさらに、こう駄目押ししている。
  • COVID感染者数を全数把握する意味はない。風邪の数を数えても得るものは小さい。
  • 無症状の者を検査する意味はまったくない。一方で、肺炎で死んだ人が新型コロナウイルスに感染していたかどうかの追跡調査は絶対にやらなければいけない。
  • 日本が目指すべきは、中国やその他の国よりもCOVIDの死亡率を減らすこと。
  • なんとなく都市機能を維持し、Skypeを使わない会議を続け、オリンピックもやって、なあなあでやり過ごしていけば、そのうちに世界中に新型ウイルスが蔓延し、問題が大きくなりすぎて誰も非難しなくなる。その流れでいけば政治的には成功したと思うのかもしれないが、感染症対策としては絶対に間違っている。
  • 本来ならば大臣や知事が記者会見をするのではなく、専門家集団が自分たちがやったこと、見つけたこと、これから見つけようとしていることを情報公開すべき。しかし専門家集団の存在そのものが見えてこない。
  • なあなあの対応でやり過ごすことは、長期的には「日本の発表、データは当てにならん」という評価になって大打撃になる。失った信用を取り戻すのはとても時間がかかる。中国はSARSのときにそれを思い知ったから、今必死で名誉挽回を図っている。
  • 新しい感染症が出た後の日本の総括はいつもグダグダだった。何をめざすか(使命)が曖昧なので総括もふわふわになる。今まではそれでやり過ごせたかもしれないが、今回は世界中から日本が注目されている。もうグダグダ、ふわふわは許されない。

しかし、今の日本では曖昧ふわふわグダグダどころか、 ↑こんなことが起きている。

上 昌広氏もほぼ同じことを言っているが、上氏はさらに「現場のことは現場をいちばんよく知る者に任せよ」「国は専門家ではないのだから指示を出すのではなく、後方支援に徹せよ」と強調する。
医療のことは各病院の院長が責任を持って指揮すればよい。現場特有の問題が必ずあって、それに合わせて臨機応変に動かなければいけないのだから、それを国がいちいち縛ったり、的外れな命令をしてはいけない、というわけだ。
ストレートな物言いをするために「反政府の左翼」などというアホな攻撃コメントも数多く目にするが、彼だけでなく、現場で命がけの活動をしてきた人たちは、政治家に期待できないことを嫌というほど学んできている。その結果、どうすればいいのかという具体策の提言をしているだけであり、政治色がどうのではなく、理系人間としての合理主義を貫いているだけなのだ。
上氏は2011年の津波被害や原発爆発後の現場に何度も足を運び、現地での復興の困難さを見てきている。
2015年に上氏が書いているこのリポートなどを読んでも、彼が極めてまっとうな合理主義者であることが分かる。
筆者たちが健診や内部被曝検査などの活動を遂行できたのは、川内村役場のチーム力のおかげだ。遠藤村長が率いる川内村役場の方々は、住民への説明、我々への案内などを完璧にこなしてくれた。
(2015年7月 ブログ「絶望の医療 希望の医療」上昌広 「住民の帰還問題を解決に導く川内村の特養」 より)
↑これを読んで、川内村に7年暮らしていた私も、村長や隣家のけんちゃん(ジョンの飼い主)の顔が浮かんで嬉しくなった。
ちなみに、原発爆発直後に川内村で起きていたことは、⇒2011年3月の日記のこのあたりに詳しく記録しているので、興味があるかたは読んでください。

メディアよ、しっかりしろ

毎度のことだが、メディア(特にテレビ)の報道については、本当にガッカリさせられる。
  • 1)ミステリーとかパニック小説のように、感染経路を追う推理みたいな話にして視聴者を引きつける
  • 2)水際作戦の失敗と市中感染を認めざるをえないとなって、責任論に持っていく
  • 3)あちこちに悲劇やアホ喜劇を見つけようとして、劇場化させる
……という段階が終わり、
  • 4)今までタブーだった東京五輪の開催危機に関して、いよいよ触れないわけにいかず、恐る恐る報じ始めて、政府と庶民(視聴者)の表情を窺う←(今ここ)
  • 5)東京五輪がどうなるのかは分からないが、その後、COVID-19は日常の一部と化していく。「今年のコロナウイルスはC型が主流のようです」なんて、インフルエンザと同じ扱いになるだけ←多分、こんな感じになっていくのではないかなあ……

……3.11の後がまさにこういう流れだった。今回も同じなのか? 何も学ばない、反省しないのか?


上氏はテレビにもときどき出てくるが、事前に「政権批判のようなことは言わないでください」と念押しされることもあるそうだ。
連日テレビに出ずっぱりの岡田晴恵氏は、このところすっかりやつれてしまったように見える。やはり相当なプレッシャーを受けながらの出演で、身体より精神的な疲労が溜まっているのだろう。心配だ。
今日(23日)、日本テレビ「バンキシャ!」に出演した高橋央(ひろし)氏は、静かな笑みを時折浮かべながら、淡々とした口調で、感染がどんどん広がっていくのは専門家なら誰もが分かっていることで想定内だとした上で、「東京五輪は強行突破しようとしてはいけない。引き返す勇気も必要」だと述べた。おそらく、これには番組制作側も慌てたのではないだろうか。
これが最後の起用にならないことを祈りたい。

メディアはどこを見て報道すべきなのか。
誰も見る必要はない。見るべきは人の顔ではなく、現場の実状である。
今起きていることだけを伝えればよい。そして、誰かの代弁者ではなく、今起きていることを正しく分析し、合理的な判断を示してくれる人を呼べばよい。
例えば、23日には千葉市内の中学校に勤める60代の女性教諭が感染していたことが分かったと一斉に報じられた。
校内感染は起きていないのか? と心配するところまでは普通の伝え方だろう。しかし、「生徒たちにうつしていないのでしょうか?」という誘導は絶対にやってはいけない。これは完全なミスリードだからだ。
なぜなら、この教諭はたまたま具合が悪くなって検査をしたから感染が分かっただけであり、誰からいつどうやってうつされたのかは分からない。教諭から生徒へではなく、その逆である可能性がある。教諭より生徒のほうが数は多いし、若年層のほうが発症しにくいことはすでに分かっているのだから、無症状のまま感染している生徒が複数いて、そこから60代の教諭にうつった可能性も高いのだ。
さらにいえば、ウイルスに対して60代の教諭と10代前半の中学生とどちらが「弱者」かを考えれば、明らかに教諭のほうが弱者であろう。
では、この中学校の生徒全員を今からPCR検査できるのか? ……現時点での検査体制(恣意的に検査数を減らそうとしている)ではできないだろうし、するべきなのかどうかという判断も難しい……ということを、専門家たちの発言を聞いて学んだ私たちは知ることができる。
メディアの使命は、視聴者、読者が正しく判断できるような情報を提供することだけである。


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岩田医師と高山医師の絶妙な連係プレー?2020/02/21 22:39

世の中は「新型コロナウイルス」(以下「COVID-19」と表記)のことで連日大騒ぎになっている。
分からないことだらけだが、2月21日の現時点で見えてきたことをまとめてみる。

COVID-19について分かっていること

  • 感染力は強く、当初言われていた接触感染、飛沫感染の他にエアロゾル感染がかなりあるのではないかという情報やデータが出てきた
  • 感染しても気づかないくらい抵抗力のある人もいるが、その人たちも人に感染させる可能性はあるのでやっかい
  • 発症後の症状の最大特徴は「経験のないほどの倦怠感」で、起きて動く気力もなくなるほど。他に、なかなか下がらない熱、咳、ときには下痢など、風邪に似た症状
  • 若年層は感染しても症状が出なかったり、出ても回復が早く、ほとんど重症化しない
  • しかし、高齢者や持病のある人は風邪症状が続いた後、一気に重症化し、死に至ることもある
      ⇒(そのため、致死率は高齢者(65歳~)とそれ以下で分けて算出したほうがいいのではないか?)
  • 重症化の初期タイミングで抗HIV薬の投与により症状改善が望めるらしい
  • 日本での水際作戦は失敗し、2月下旬時点で、すでに日本国内での市中感染がどんどん拡大している
  • 終息予測はたっていない。SARSのときのように気温が高くなれば弱まるのかも不明。一旦感染した人が抗体を持ち、再感染しないのかもよく分からない

ダイヤモンドプリンセス号問題

次に、注目を集めているダイヤモンドプリンセス号の乗員乗客の状況と、それに対する日本政府の対応については、こうなるだろうか。

  • 船籍はイギリス、運営企業はアメリカ(ダイヤモンドクルーズ社)。2月3日に横浜港沖に停泊した時点で乗客は2666人、乗組員が1045人(合計3711人)が船の中にいた
  • 乗客の国籍は56カ国・地域に渡り、このうち日本人の乗客はおよそ半数の1281人(*)。乗組員の国籍構成は詳細不明だが、ほとんどは東南アジア、南アジアの人たちらしい
  • 1月20日  横浜から出航。香港やベトナム、台湾、沖縄をまわって2月4日午前に横浜に帰港するスケジュールだった
  • 2月1日  香港で下船し帰国した乗客(80)がCOVID-19に感染していたと香港政府が発表
  • 2月3日  夜、予定より早く横浜港に到着。着岸はせずに停泊し、日本政府の検疫下に置かれる。厚労省から派遣された検疫官が入船し、発熱などの症状がある人を確認
  • 2月4日  この日の夕食までそれまで通り船内のレストランで食事を提供。シアターやカジノ、カラオケも営業していた(*)
  • 2月5日  乗員乗客のうち10人にCOVID-19感染が確認される。乗客全員を自室待機にする隔離措置を開始
  • 以後、発熱などの症状がある人を中心に感染検査を進めるが、検査体制が1日数百人規模のために追いつかず、検査結果が発表されるたびに感染者数が増大していく。この日、後に死亡する女性Aさん(84・基礎疾患なし)が発熱
  • 2月6日  乗組員にマスク着用命令が出る(*)。Aさんが発熱を訴えて船内医務室で受診
  • 2月10日  後に死亡する男性Bさん(87)が発熱。翌11日に下船して入院。5日に発熱したAさんが船内で問診を受け、投薬・点滴・ウイルスの有無を調べるため検体を採取
  • 2月11日  Aさんが船内で再々受診。医師は入院が必要と判断
  • 2月12日  DMAT(災害派遣医療チーム)などの医師38名、看護師36名、薬剤師17名が診療にあたるも、感染者は毎日確認され、累計が増え続ける。感染者のうち4人(うち日本人3人)が重症化し、集中治療室にて人工呼吸器をつけての治療(*)
     5日に発熱したAさんがようやく下船し、病院に搬送される。入院後、前日採取された検体検査で陽性が確認される。さらには検疫官1人も感染が確認される
  • 2月14日  5日に発熱し、12日に下船~入院したAさんの容態が悪化。酸素マスクをつけるが症状改善せず
  • 2月15日までに計218人の感染者が確認される。感染が確認された者は順次下船させて日本国内の病院等に入院させるが、感染者と同室だった家族などはそのまま部屋に隔離を続ける。さらには乗員は感染検査もほとんど受けられず、狭い相部屋にて過酷な労働を強いられていることが問題視される
  • 海外からは日本政府の検疫方法に非難の声が上がる。特に日本人に次いで乗客が多かったアメリカでは、「感染拡大の第二の震源地を作った」(ABCニュース)「公衆衛生の危機対応で『こうしてはいけません』という教科書の見本のような対応」(ニューヨークタイムズ)などの批判も
  • 2月16日  アメリカ政府はアメリカ国籍の乗客(425人)を船外に待避させるためにチャーター機を派遣し、本国へ移送開始。イギリス、イタリア、カナダ、オーストラリアなどの国も同様の対処をすると発表
  • 2月18日  神戸大学医学研究科感染症内科教授・岩田健太郎医師が、厚労省技術参与・高山義浩医師の助言を受けてDMATの一員という名目でダイヤモンドプリンセスに乗船したものの、すぐに退出を命じられる
  • 2月19日  ウイルス検査を受けて陰性とされた乗客の下船が始まる。この日は乗客443人が下船。バスで横浜駅などのターミナル駅に移動し、解放。公共交通機関などで各々が帰宅の途につく。解放後すぐに横浜駅地下街の寿司屋で食事をする夫婦もいた。この日までに検査が終了したのは3011人。陽性が確認されたのは621人(うち、無症状が322人)。下船直前での検体採取は行っていない ⇒下船後の乗客が後に感染が分かっても、いつ感染したのか追跡調査ができなくなる恐れ
     岩田医師が前日の体験をもとにYouTubeに船内の状況を問題視する動画を公開。たちまち拡散する。夜、高山医師がFacebookで同動画について一部の事実誤認などを指摘し、状況説明を行う
     一方、岩田医師を船から退出させたことについて、橋本岳・厚労副大臣がTwitterで「お見掛けした際に私からご挨拶をし、ご用向きを伺ったものの明確なご返事がなく、よって丁寧に船舶からご退去をいただきました。多少表情は冷たかったかもしれません。専門家ともあろう方が、そのようなルートで検疫中の船舶に侵入されるというのは、正直驚きを禁じ得ません」などと書き込み、「ちなみに現地はこんな感じ。画像では字が読みにくいですが、左手が清潔ルート、右側が不潔ルートです」と、写真を掲載したことで、それを見た人たちから一斉に「やはりグチャグチャじゃないか」と嘲笑と共に大反響が起きる。橋本副大臣はすぐにツイートを全削除した
  • 2月20日  入院していたAさん、Bさんが死亡
     船内で事務業務にあたっていた厚生労働省の職員1人と、内閣官房職員1人の感染を確認
     岩田医師は高山医師からの意見を受けてYouTube動画を削除。同日、日本外国特派員協会でSkype経由の記者会見に応じ、動画の削除の理由(データが公開されるなど対応が改善されたことで、初期使命を終えた)や、動画の中で訴えたことに基本的に間違いはなく、今も同じ考えであることを説明
     加藤勝信厚労相は同日夜に記者会見を開き、「明らかに検疫期間に発症者が減少しており、隔離が有効に行われた」として検疫が有効に作用したとの認識を示す

日本政府と厚労省の対応

こうして見ていくと、厚労省が主張する「検疫・隔離は有効に行われた」という説明を素直に受け止めることはとてもできない。
すでに各方面から指摘されていることだが、
  • 検査体制が十分に整っているのに、民間検査機関での検体検査をなぜ行わなかったのか?
  • 船内に長期間閉じ込めることによって感染が広がり、重症患者が出てしまう危険性になぜもっと早く気づかなかったのか?
  • 対人接触回数が多い乗員の感染チェックがいちばん後になったのはなぜなのか?
……といった疑問がすぐに浮かぶ。
3000人を超える乗員・乗客を隔離して経過観察できる施設がなかったというが(中国武漢からチャーター便で帰国させた人たちの隔離場所であったホテル三日月では相部屋が生じたし、その後の政府関連施設では共同トイレの宿舎)、すでにほぼ完成している東京五輪選手村施設を使うことなどは誰も提案しない。
普通に考えればまっ先に思いつきそうなものだが、政治家もメディアも絶対に選手村のことは口にしない。それができたなら、世界中から「さすがはおもてなしの国だ。素晴らしい」と賞賛され、たとえオリンピックが開催できなくなっても、国のイメージは一気に上がっただろう。
選手村を使えない理由があるならそれを説明してもいいと思うのだが、東京五輪関連の話がリンクすることはトップレベルのタブーになっている感じだ。

高山医師と岩田医師の超絶連係プレー?

岩田医師が公開したYouTube動画については、一部では「スタンドプレー」「ただの目立ちたがり屋」「ヒーロー気取り」「現場にとって迷惑なだけ」といった批判が寄せられたが、それは違うだろう。少なくとも原発爆発の後に1F(いちえふ)に乗り込んだ某議員(なんと今回の専門家会議に政府側から参加しているらしい)のようなのと一緒にしては失礼だ。
岩田医師の動画に対して高山医師がFacebookに書いた文章と、それに対する外からの膨大なコメントが非情に興味深い。
まず、岩田医師、高山医師、両者の話を合わせると、実際にはこういうことだったようだ。

  • 岩田医師は当初からダイヤモンドプリンセス号への対応に疑問を持っていたが、乗客や関係者から「なんとかならないか」という悲痛な訴えを受け、現場に行くことを決意
  • 岩田医師は、現場で指揮にあたっていた高山医師とは旧知の間柄で、今までもこうした現場で共に仕事をしたこともある「仲間」と認識している。そのため高山医師に現場に入りたいと電話で相談する
  • 高山医師は厚労省の役人、自衛隊、DMATなどが複層的に入り乱れている現場で、すでに始まろうとしている乗客の下船手続きなどで手一杯だった。ただでさえこれ以上の混乱を押さえたいところにストレートな性格の岩田医師が乱入してくるとやっかいだと直感し、周囲を刺激せずに入ってもらうため「やり方を考えましょう」と応じる
  • 高山医師は厚労省のスタッフとして動いていたが、誰を入れていいという権限はないので、現場で一緒に動いていた「環境感染学会」に相談してみることを提案する。岩田医師はさっそく環境感染学会に「現場に入りたい」と申し入れるが、しばらく放置された後に断られる
  • そこで高山医師は、次に「DMAT(災害派遣医療チーム)のメンバーとして入ってはどうか」と進言する。その際、「DMATとして入る以上は、DMATの活動をしっかりやってください。感染管理のことについて、最初から指摘するのはやめてください。信頼関係ができたら、そうしたアドバイスができるようになるでしょう」と伝えた。岩田医師は「分かりました」と言ってDMATに合流した
  • 岩田医師はDMAT合流後、DMATのチーフドクターからは「あなたにはDMATの仕事(医療行為など)は期待していない。あなたは感染のプロなのだから、そっち方面の仕事をするべきだ」と言われる
  • それを一種の拒絶とはとらえなかった岩田医師は、すぐに周囲に感染対策アドバイスを始めるが、現場では翌日に迫っている下船のための準備に追われていて、(あなたが言うことはすべてごもっともで、自分たちもそう思いながらここまできたが)今さらそんなことを言われてもどうしようもないという空気になる
  • 結果、煙たがられるだけになってしまい、さらには橋本厚労省副大臣の怒りを買い(「なお昨日、私の預かり知らぬところで、ある医師が検疫中の船内に立ち入られるという事案がありました。事後に拝見したご本人の動画によると、ご本人の希望によりあちこち頼ったあげくに厚生労働省の者が適当な理由をつけて許したとの由ですが、現場責任者としての私は承知しておりませんでした」とツイートしている)、すぐに追い出される
  • 岩田医師は憤懣やるかたなく、すぐにYouTubeに動画をUPした
  • その動画はたちまち波紋を呼び、メディアも岩田医師を追いかけ、テレビ出演させるなどした
  • この状況を見て、高山医師は岩田医師と話し合い、とりあえずYouTubeの動画は削除してもらった
  • 岩田医師は、問題指摘の目的は果たせたし、橋本副大臣が無能ぶりを自ら証明するようなオマケまでつけてくれたことで、高山医師との連携を尊重し、お互いの役割分担、棲み分けを意識しながら、外国特派員協会での会見にも今までより慎重な言葉を選びながら応じた

……この流れを見ていくと、高山医師と岩田医師は、(ご本人たちにはそのような意図はなかったとしても)結果として絶妙な連係プレーをしたのではないかと思う。いっぱいいっぱいの極限状況にあった現場の業務を必要以上にかき乱さず、同時に問題点を広く世に知らしめることになったのだから。
Facebookのコメント(医療関係者が多い)などを見ても、高山医師は人望があることがよく分かる。また、岩田医師とは性格が正反対なようでいて、お互いの能力を信頼し、認め合っていることも察せられる。
このレベルの人たちが司令塔になって最初から問題にあたっていたら、事態はずいぶん違っただろうなと思う。

私も含めて、専門外の一般庶民ができることは、彼らのような優秀な人たちがしっかり活躍できる環境を作れるように、政治、行政、メディアを見張ることしかない。
別の問題でだが、あるコラムで、こんなことを言っている人がいた。
何かを隠蔽する際に「無能を理由にする」というやり方が、日本だけで許されている。場合によっては、後で「ご褒美」の昇進が待っていることすらある。


責任論ということでいえば、それを許している国民の責任がいちばん重いのではないか。


新型コロナウイルスは「バイオ経済テロ」か?2020/02/03 20:12

「陰謀論」というレッテル貼り

世の中のニュースは、大きなものほど真相はよく分からないところがある。
情報はいくらでも作れるし、加工するのはもっと簡単だ。権威のある機関(例えば政府機関とか大新聞社とか○○学会とか)が出している情報だから信頼できるかというと、まったくそんなことはないことを、(公文書改竄、破棄問題などを持ち出すまでもなく)すでに多くの人は理解している。
となると、真偽の分からない様々な情報を集めた上で、最後は自分の知識、経験、そして感覚(勘)などを総動員して、何が真相に近いのかを「推理」するしかない。
真剣に取り組んでも、自分がその事象に対して何かできるわけではないので、一種のゲームだと思って推理する。想像力や合理的判断力を働かせずに「公式発表」を鵜呑みにすることが「常識人」としての分別や品性ではない。
例えば、アポロ11号は本当に月に行ったのか? あれはでっち上げ映像ではないかという話が流れて、映画や本にもなった。この手の話は「陰謀論」とか「トンデモ」などと呼ばれて、ハナから論ずることさえ馬鹿げていると唾棄される傾向がある。
アポロが月に行ったのか、という件に関しては、僕自身は9割方「行った」のだと思っている。ただ、残り1割は「もしかしたら壮大な嘘かもね」と想像してみる「自由」を持ち続けている。陰謀論を打ち消す証拠をさらに検証する作業なども楽しみたい。
一方、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺がオズワルドの単独犯行だったという「公式発表」については、9割方「それは違うだろう」と思っている。数々の物証が、オズワルド単独犯行説に無理があることを示している。
9.11で、ソロモンブラザーズビル(第7ビル)が崩壊したのは事前に綿密な計画のもとに爆薬が仕掛けられていたからだ、という説についても、9.9割方「それはそうだろう」と思う。あの映像を見て、ツインタワー倒壊の衝撃で崩れ落ちたなんていう説を信じろというのはまったく無理な話だ。同様に、9.11でペンタゴンに突っ込んだのは乗っ取られた旅客機ではなく、ミサイル状の飛翔体だったという説も、9割方「そうなんだろう」と思っている。
では、9.11計画を立案して実行したのは何者なのか? アルカイダとかビンラディンが単独でやったとは到底思えない。そこから、そもそもビンラディンは役者だったのではないか……と話が発展していく段階で、さらにいろんな陰謀論が出てくる。そこにちょっとした無理や飛躍が見られると、たちまち「アホか」と唾棄され、排除される。こうした論に「トンデモ」だとレッテル貼りをするために、大きな嘘を仕掛けた側がわざとアホな陰謀論者を野放しにしたり、アホ陰謀論者を創り出して露出させることもありえる。

新型コロナウイルスはバイオテロか?

さて、ここで今、世界中で騒いでいる新型コロナウイルスの話に移る。
このウイルスに関しては、当初から武漢のウイルス研究所から流出したという説があり、それはデマだから相手にするなみたいな話も出ている。
元国連紛争調停官の島田久仁彦氏(現・株式会社KS International Strategies代表取締役社長)は、今回のウイルスの起源について、大まかにだが
  • 1)中国人民解放軍の生物兵器研究開発施設で感染した人からの感染(事故によるヒトーヒト感染)
  • 2)中国以外の「何者か」によるバイオテロ(中国・武漢で人為的にばらまいた)
  • 3)公式?発表通り、野生動物由来のウイルスが突然変異して武漢の海鮮市場経由で広まった
……という3つの可能性を示唆している
マスメディアでは1)と2)の可能性については絶対に触れないようにしているようだが、個人的には1)2)3)の順番で可能性が高いのではないかと思っている。(時間が経つにつれ、1)より2)説のほうがありえるかな? とさえ思う)
2)の場合、主目的は中国を中心とした経済市場に打撃と混乱を与えるというものだったのではないか。言い換えれば新種の経済テロ。これは実際そうなっているわけで、ありえる話だと思う。

人への感染そのものが目的だとすれば、致死率の低いウイルスを使った実験的なもの、あるいは「本番」(?)に向けてのシミュレーションという意味合いが強いのではないか。この場合は経済戦争の道具という意味合い以上に怖ろしい。宗教的狂気をはらんでいるからだ。

バイオテロではなく、事故的なもの、あるいは自然発生的なものであったとしても、今、ウイルスが世界中にどのような速度、規模で広がっているかを必死にデータ収集、解析しているグループが必ずいる。このウイルスの感染率、感染速度で致死率を上げたものをばらまいたときに、世界はどのように変化していくかを予測する人たち。
死者の数(何人殺せるか)だけでなく、そのとき各国はどのように対応するか、人々はどのように動くか(動かされるか)、メディアをどのように使えばどのような効果が現れるか……。そうした実験場になっていることは間違いない。

で、そういう現実世界で、我々庶民はどのように対応すればいいか──これはもう、受動的な対応しかできない。ウイルスがなぜ出現したかについて真相を知ったところで何もできないわけで、現状を把握して、自分はそれに対してどう行動すればいいかを考えるしかない。
今回のことでいえば、新型コロナウイルスと呼ばれているものがどの程度の危険性を持っていて、自分の生活とどのように関係してくるかを極力正確に予測し、リスクを下げることしかできない。
この「リスク」には、感染するリスクだけでなく、過剰反応してストレスをためたり、他者を攻撃したりすることで社会が乱れるというリスクも含まれる。現時点ではそうしたリスクのほうが、自分が感染して死んだりするリスクよりはるかに高いことは間違いない。


「日本製」神話なんてとっくに崩壊している2019/08/31 16:34

朝日新聞に「中国製か日本製か、誰も分からない」告発者が語る手法 という記事が載った。
ブロニカという時計販売会社が売っている腕時計は100%中国で組み立てているが、それを日本に持ち込んでから裏蓋に made in Japan の刻印を押している……という内容。
しかし、そんなのとっくの昔からどんな業界でもやっていることで、何を今さら……と思う。
中国の鰻を日本に輸入して、ちょっとだけ生け簀に放してから加工し、「日本産」として出荷するとか、そういうのはみんながすでに知っていること。
家電製品や衣料品なども、今やメーカーの本部がどこにあるかとかは関係なくて、工場は中国や東南アジアにある。もっとも、それらは正しく made in China や made in Malaysia などと記されている。だから、この腕時計の場合、正しく made in China と刻印するべきではないかということだと思うが、腕時計に「日本製」を要求するセンスがすでにずれている。正確な時刻を知りたければ、スマホがいつでも教えてくれる。腕時計はもはや時刻を知る道具ではなく、アクセサリーのカテゴリーに入るだろう。センスのよいデザインであっても made in China ならアクセサリーとしての価値が下がるというのであれば、それはもう裸の王様の世界というか、特殊な趣味の世界ということで、放っておけばいいのではないか。ブロニカの腕時計が made in Japan か made in China かなんて、ほとんどの人にとってはどうでもいいことだ。
そもそも「日本製」の信用度、made in Japan のブランド力って、今でもあるのだろうか。

「日本製」にわざわざドイツのブランド名を被せる

この腕時計の事例とは逆に、日本製なのにわざわざ海外ブランドを冠して商品価値を高めようとする例もある。
カメラのレンズなどはその典型で、日本製であっても、わざわざドイツに本部がある企業にライセンス料を支払って「ライカ」や「カールツァイス」というブランドを冠している。作っているのはコシナ、シグマ、タムロンなどの日本メーカーなのに、わざわざさらに金を払ってドイツのブランドを冠したほうが高級品のイメージが作れるということなのだろう。

日本のカメラメーカー・ヤシカはカール・ツァイスとブランドライセンス契約を結び、ヤシカが製造する高級機にカール・ツァイスのレンズ、カメラ本体にはコンタックスのブランドを使った。
そのヤシカが後に京セラに吸収されたため、京セラも引き続きコンタックスというブランド名を使っていた。
京セラがデジタルカメラ事業から撤退する寸前に、Finecam SL300R、Finecam SL400Rという、ボディが2つに分かれて回転し、レンズ部分の深さとボディの薄さを両立させる「スイバル」タイプと呼ばれるコンパクトデジタルカメラを発売したことがあった。このSL300R/400Rには、ほぼ同じ設計・仕様でコンタックスブランドのCONTAX SL300RT/400RTという革シボをあしらったお洒落な製品があって、価格は京セラブランドのFinecamの2倍くらいした。
スイバルタイプのコンパクトカメラは好きだったので、欲しかった1台だ。性能的には限りなく同じだと分かっていても、「CONTAX」のロゴとお洒落なデザインは確かに魅力的だったのを覚えている。これがまさに「ブランド」の力だろう。

デジタルカメラといえば、コンパクトデジカメの生産においてサンヨーのシェアが圧倒的だった時期がある(そもそも「デジカメ」はサンヨーの登録商標)。しかし、サンヨーが生産シェア世界一を誇っていた時期、そのほとんどは他社へのOEM供給だった。「サンヨー」のカメラでは売れないが、オリンパスやニコンのブランドをつけると売れる。
そのサンヨーもその後は消えていき、今ではコンパクトデジカメというジャンルそのものが消えてしまいそうな状況にある。

「ブランドイメージ」の難しさ

ブランドイメージがどう定着していくのか……実力通りなのか、PR戦略の賜物なのかというのは、興味深いテーマだ。

腕時計でいえば、カシオは、元は「安い電卓を作るメーカー」というイメージだったが、知らないうちに国外で腕時計のG-SHOCKシリーズが大人気になり、その人気が逆輸入されるような形で日本国内でもブランド力を持つに到った。
でも、日本で作っているのは少なくて、タイや中国製が多い。

世界で初めてラジカセを発売したといわれるAIWAは、当初、国内では二流メーカーと見られていて、安売り店でよく見かけるブランドという認識だったが、海外、特に中東などでは大変な人気と信用があった。
2002年ソニーに吸収され、2008年にはブランドそのものが消えてしまったが、2017年にソニーの下請け工場などをしていた秋田県の十和田オーディオという会社がソニーからAIWAブランドを譲り受けて自社製品開発を始めた。
個人的には、AIWAよりも「十和田オーディオ」のほうが高級で、いい音を出しそうな気がしてしまうのだが……。
アメリカにチボリオーディオという高級ラジオを作るメーカーがあって、かなりのお値段で売られている。今、私の目の前にあるミニマムオーディオセットのスピーカーユニット(8cm)にも「Tivoli Audio」の印字がある。チボリオーディオの高級ラジオのために作ったスピーカーユニットで、中国工場から流れてきたのを1個2100円で入手したものだが、とても気に入っている。
そのとき一緒に買った無印の10cmユニットは1個690円だったから、その3倍もする。このユニットにAIWAと印字されていたら2100円も出して買わなかった。でも「TOWADA AUDIO」と印字されていたら買ってしまったかもしれない。
で、実際には同じものになんのブランド名も印字されていなければ1個500円とか600円で入手できたのだろう。だから、Tivoli Audioという印字があることは「高級ラジオのメーカーが生産を依頼している工場で作られたスピーカーだから、変なものではないはずだ」という安心料のためにプラス1500円を出したことになるのかもしれない。それはそれで仕方がない。

海外向けにラジカセのAIWAブランドを復活させたのはいいことだが、それとは別に、高級オーディオブランドとしての「十和田オーディオ」が誕生したらもっと嬉しい。
↑690円の無印中国製ユニットと2100円のチボリオーディオの8cmユニット。後方は中国製のタンノイ
↓AIWAのミニコンポについていたスピーカーから外したウーハー。これと無印10cmユニットを交換して、フルレンジシステムに作り替えたらすごくいい音になった


ま、そんなこんなだから、今はもう、製造国やブランドは関係ない。怪しい中国製が日本の老舗ブランドの製品より高性能・低価格だったりすることは普通にある。もちろん、怪しい中国製が、しっかりダメダメで、すぐに壊れたり、設計がおかしかったりすることも多いわけだが。

シャープも東芝も、もはや「日本企業」ではない?

話を「日本製」のブランド力ということに戻そう。

液晶テレビが出始めたとき、大型家電店の液晶テレビ売り場に見に行ったことがある。どのメーカーの画面がいちばんきれいだろうとじっくり見て回った結果、国内メーカーのテレビよりもひときわきれいな画面だったのがサムスンのテレビだった。店頭用に輝度を上げていたのではないかといわれそうだが、それなら他のメーカー製品もそうしていたはずだし、輝度による見ばえではなく、色味の自然さや精細さが明らかに勝っていた。日本の家電メーカーへの信頼が一気に揺らいだ瞬間だった。
日韓戦争などと騒いでいるが、今、サムスンに勝てる日本の家電企業はどのくらいあるだろう。
冷静に現実を見ないと、気がついたときは取り返しがつかなくなる。

液晶テレビでは、一時期シャープがブランド力を持っていた。
シャープが三重県亀山市に、巨額の補助金(三重県から90億円、亀山市から45億円)を得て工場を作ったのは2002年のことだった。「世界の亀山」ブランドとして吉永小百合を起用したテレビCMなどで大々的にPRした結果、「液晶はシャープ」というブランド刷り込みに成功した。今でもその「亀山ブランド」を信じている人は多いのではないだろうか。
しかし……
亀山第1工場は2009年初頭より操業を停止。生産施設をすべて中国企業に売却し、建屋のみが残った状態となった。莫大な補助金を投入した工場が、わずか6年で操業停止して設備を売却と言う事態に、シャープは県から補助金約6億4000万円の返還を求められた。(Wikiより

液晶テレビ「アクオス」の生産拠点として2004年に稼働して以降、一時代を築いた“世界の亀山”ことシャープの亀山工場(三重県・亀山市)。テレビ事業が大幅に縮小してからも、生産ラインを一部売却し、スマホやタブレット向け中小型パネルの生産に乗り出すなど、形を変えながら存続してきた。
だが昨今、シャープを買収した台湾・鴻海精密工業が進める“分業体制”により、亀山工場の稼働率が大きく下がっていることがわかった。
シャープ「世界の亀山」液晶工場が陥った窮状 外国人労働者3000人解雇の裏に「空洞化」 東洋経済ONLINE 2018/12/19

シャープが栃木工場(栃木県矢板市)でのテレビ生産を2018年末に打ち切ると発表したのを受け、県や矢板市は情報収集に追われた。栃木工場は日本の家電産業が競争力を失うのに合わせて、段階的に生産規模を縮小してきた。
シャープ、テレビ生産停止 「遅かれ早かれ」地元は冷静 栃木工場の栃木県矢板市 日本経済新聞 2018/08/03


シャープといえば、かつてはNECやゼネラル、サンヨーなどと並んで、国内家電メーカーとしては二流のイメージがあった。
お金があるなら、ナショナル(現パナソニック)、東芝、三菱、日立、ソニーなどを買いたいが、少しでも安く買いたいから、シャープ、NEC、ゼネラル、サンヨーあたりでも我慢しよう……みたいな感覚は、今60代以上の人たちなら説明不要で理解してもらえるだろう。
そこからPR戦略で抜け出したシャープはうまいことやったなあ……と思っていたが、個人的には「液晶のシャープ」は信じていなかった。売り場で実際に見て、サムスンのテレビがいちばんきれいに映っていた印象が強かったし、テレビでいちばん重要なのは録画機能だからだ。
早くからテレビに外付けHDDをつけて、テレビ本体の操作だけで録画ができるようにしたのは東芝REGZAだった。「W録画」をするためにチューナーを2基、3基積んだ機種も作っていた。その頃、他社のテレビはDVDレコーダーやブルーレイレコーダーを売りたいがために、テレビだけで録画できる機能を搭載するのには抵抗を示していたが、東芝はそのタブーを破って、ユーザー本位の設計をしたといえる。
しかし、その東芝も、テレビ事業を受け持っていた「東芝映像ソリューション」が、株式の95%を中国のハイセンスグループに譲渡した。東芝のテレビブランド「REGZA」は今もあるが、もはや日本メーカーではなく中国のメーカーといえるだろう。

東芝はPC事業部門である東芝クライアントソリューション(TCS)が2018年にシャープの傘下に入り、Dynabook株式会社として再出発したが、シャープはすでに鴻海の傘下なのだから、実質、東芝が育てた「ダイナブック」というブランドを鴻海が傘下に収めたことになる。

シャープや東芝の没落は日本の工業製品神話崩壊を強く印象づけた。
特に東芝は、家電製造やノートPCの技術や設計のセンスは非常に優れていたのに、経営陣が原発ビジネスに傾いて、バカみたいな失策と大胆な不正を続けて取り返しのつかない事態にまで到った。真面目に家電に取り組んでいた社員たちは、さぞ悔しい思いをしていることだろう。

技術力の高い台湾で開発・設計を行い、コスト競争力の高い中国で生産・組立を行う「チャイワン」と呼ばれる分業体制が構築され、国を跨いで競争構造が急速に変化した。かつて業界を席巻していた日本の電子産業、AVメーカー各社が2000年代に市場シェアを一気に落とし衰退を見せた背景として、垂直統合・自前主義に陥ってこうした世界的な製造・物流インフラの流れを捉え切れなかった、などと各所で論じられた。
Wikiの「EMS(製造業)」の項より)

……まさにそういうことだろう。
経営陣の頭が昭和の高度成長期のままだったことが敗因だ。
鴻海はアップル社との提携関係が強く、iPhoneの部品などを供給している。日本のメーカーはアップルになれず、鴻海の支配下に組み込まれてしまった。
「下請け」で生き残るとしたら、中国や東南アジア諸国の労働賃金と競争しなければいけなくなるわけで、地方の雇用問題はさらに悪化する。
国内企業がアップル社の位置にいてこそ、国の経済レベルも保て、国内のあらゆる経済活動(生産分野に限らない)に金が回る余裕が出る。
今から逆転を図るのはあまりにも難しいと思うが、一刻も早くそのことに気がつかなければ、これから先、とんでもないことになる。
それなのに、企業の経営者だけでなく、政治・行政においても「勘違いジジイ」が相変わらず物事を決め、国の運命をミスリードし続けている。

腕時計が made in China なのか made in Japan なのかなんていう問題はどうでもいい。
そんな「不正」問題よりも、もっと大きな不正問題──国全体の行方を誤らせる危険に直結する不正(公文書破棄・隠蔽・改竄や政治権力者による大胆な不正優遇)を、メディアはちゃんと報道してほしいものだ。


「トンビがタカを生む」への違和感2019/07/29 15:05

TBS 『水曜日のダウンタウン』より
『水曜日のダウンタウン』で「トンビがタカを生むにも限界ある説 学歴バージョン」というのをやったところ、そこに登場した女子東大生の言葉が素晴らしいとネット上で話題になっている

この番組、私も見ていたが、モヤモヤするものが残った。

なぜタカのほうが「優れている」のか?

そもそも「トンビがタカを生む」ということわざそのものに、以前からずっと違和感を抱いていた。このことわざは、トンビはタカに比べて明らかに「劣っている」「つまらない存在」であるという大前提の上に成り立っているのだが、「トンビがタカより劣る」というのが分からないのだ。
容姿も習性も同じ猛禽類(タカ目タカ科)なのでそんなに差があるわけでもない。つまり、生物学的に劣っているとは思えない。オオタカはハト、カモ、カラスなど他の鳥類を襲って食うことも多いが、トビは動物の死骸を漁ることも多いので、食性としてはトビのほうがエコかもしれない。
タカは昔から鷹狩りなどで人間に利用されることがあるが、トンビは自由奔放に生きている印象がある。飛び方もゆっくり旋回してピ~ヒョロロとのんびり鳴き、世の中を泰然と俯瞰しているようなイメージで、個人的にはタカよりもトンビの生き方のほうが共感できる。

左がトンビ、右がオオタカ。どちらもWiki Commonsより)

ちなみに、タカは英語でホーク(hawk)、トンビはカイト(kite)。
hawkには「他人を食い物にする人、強欲な人、詐欺師、(紛争などで)タカ派の人、強硬論者、主戦論者」という意味もある。
タカ(hawk)派の対語はハト(dove)派だが、doveという言葉には「純潔」「無邪気」「優しい」という意味があるらしい。
これが同じハトでもpigeon となると、「だまされやすい人」「のろま」「まぬけ」といったニュアンスも加わるようだ。
ドロドロした政治の世界では、「ハト」に徹していても、タカに瞞されたり追い落とされたりする。
上空からじっくり下界を俯瞰しながら、妥協策(死骸でも食う)や折衷案を模索する余裕を見せる「トンビ派」というのも必要かもしれない。

ハヤブサはインコの仲間!?

言葉の持つ意味はともかく、名前のイメージというか「音」も、トンビ(kite)よりタカ(hawk)のほうが「かっこいい」ということはあるのだろう。
「ハヤブサ」になるとさらにカッコいい。小惑星探査機とんび とか 陸軍一式戦闘機とんび とか 新幹線とんび とかいうのはあまりイメージできないかもしれない。難しいもんだねえ。
しかし、その「ハヤブサ」は、ワシやタカの仲間ではなく、スズメやインコの仲間だったということがDNA研究で分かったという。
日本鳥学会は、外見などからタカやコンドルに近いとしていた猛禽(もうきん)類のハヤブサを「インコ、スズメの仲間」と変更。特別天然記念物のトキも、コウノトリ目からペリカン目に変わった。DNAの研究が進み、大きさや性格が異なる鳥たちの意外な間柄が分かってきた。
日本経済新聞 2013/03/19

ふう~~んん。

東大卒が中卒より優れているのか?

閑話休題。
この番組の企画「トンビがタカを生むにも限界ある説」の出発点は、学歴で日本最高評価とされている東大に入れる子の親もまた高学歴であろう。まさか中卒はいないだろう……というようなものだ。
「学歴バージョン」と断っているので、この企画そのものはまあ、いいとしよう。しかし、番組に登場した女子大学生の言葉に「感動した」というネット上の反応の言葉が、あまりにも「東大=すごい」を当然のことのようにとらえているのが気になった。
この女子学生の父親は高校中退なので最終学歴は中卒。
「お父さんはなんか落語家になりたかったそうです。今は全然落語家ではなくて、カメラマンやってます。自分が中卒だからこそ、結構私の勉強面を心配してくれたっていうか、『自分みたいになるんじゃないか』みたいな思いが強すぎて、『塾行かなくていいの? 大丈夫?』みたいな……」(略)「今の私があるのも親の育て方のおかげだし、多分トンビ側がタカにするかトンビにするかってのは決めてると思います」(同番組に登場した女子学生の言葉)

これに対して番組では「この娘は学歴だけでなく人格もタカ」と結論づけている。

……まあ、いいんだけど、やっぱりモヤッとしたものが残るんだよなあ。

個人的には、この学生の父親にすごく興味がある。
どんな経緯で落語家になりたいと思ったのか。今はカメラマンだそうだが、どんな仕事内容なのか(結婚式場専属で毎日記念撮影している人なのか、野生動物の写真を撮るために世界中を飛び回っているのか……?)。娘に対してはどんな思いを抱いているのか……などなど。

ネット上ではこの学生に対して様々な賞賛の声が上がったが、そんな中でも、
低学歴な親を「中卒トンビ親」ってネタにしてたからちょっと心配になったけど、うちの中卒トンビ親はひっくり返って笑ってたわ。
ぼくの親父中卒、お袋高卒、、、親父はヤンキーでした(苦笑) ただトンビとは思わねえっす! 学歴でトンビかタカかは決まらねえです。
……といった書き込みがあったのが、ホッとさせられた。

あの人もこの人も東大卒

ここから先は、東大に入りたくても入れなかった人間の僻みバイアスがかなりかかっていると思うが、ブツクサジジイになりきって書いてしまおう。
私が高校生の頃の東大は「優秀な人材が集まっている大学」というイメージだった。でも、今はだいぶ違う。
東大卒業の人たちが日本の舵取りをしているといわれる。では、国政の場での東大卒はどんな活躍をしているのかを思い浮かべると……、

複数の女性記者に「胸触っていい?」「手縛っていい?」とセクハラを繰り返していた福田淳一氏(元財務政務次官)は東京大学法学部卒。
「戦争でこの島を取り返すのは賛成ですか、反対ですか」「おっぱい! おっぱい! オレは女の胸をもみたいんだ」の元経産省官僚(原子力安全・保安院保安課企画法規係長)・衆院議員(現職)の丸山穂高氏も東京大学法学部卒。
「このハゲ~!」で有名になった元厚労省官僚・元衆院議員(自民党女性局次長・青年局次長・国会対策委員会委員等、内閣府大臣政務官・東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当、文部科学大臣政務官、復興大臣政務官)の豊田真由子氏は東京大学法学部卒でハーバード大学大学院修了。
森友問題の国会答弁で嘘を突き通し、国税庁長官に出世した佐川宣寿氏は東京大学経済学部卒。
森友問題当時の財務省理財局長だった迫田英典氏(元国税庁長官)は東京大学法学部卒。
加計学園問題で、獣医学部の新設認可を早めるよう前川喜平氏(当時文科省次官)に圧力をかけたとされる和泉洋人首相補佐官は東京大学工学部卒で工学博士。(ちなみに「圧力を感じた」と和泉氏の名前を挙げた前川氏も東大法学部卒)

では、政権の最上層部にいる首相と、首相の周りをガッチリ固めている面々はというと、

  • 安倍晋三 内閣総理大臣  成蹊大学法学部卒
  • 麻生太郎 副総理/財務大臣/内閣府特命担当大臣(金融)デフレ脱却担当  学習院大学政経学部卒
  • 菅義偉 内閣官房長官  法政大学法学部卒
  • 世耕弘成 経産大臣/産業競争力・国際博覧会・ロシア経済分野協力・原子力経済被害担当内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)  早稲田大学政治経済学部卒・米国ボストン大学コミュニケーション学部大学院修了
  • 萩生田光一 自由民主党幹事長代行/前内閣官房副長官兼内閣人事局長  明治大学商学部卒

……と、東大卒ではない。
その下で実働部隊として動いている内閣官房副長官4人のうち3人は東大卒(1人は慶應大卒)。
内閣総理大臣補佐官5人のうち3人は東大卒(他の2人は大分大と成城大卒)だ。

東大卒が「タカ」だとすると、そのタカを操る者は鷹匠だが、鷹匠グループは意外と東大卒は少ないのだね。

鷹狩りのタカは、主人(ボス)に忠実に飼い慣らされ、ボスのために獲物を襲う。襲う獲物は自分よりずっと弱い生きものたちだ。
トンビはそうした主従関係、従属関係からは自由で、悠然と空を飛び、すでに死んだ生きものも嫌がらずに食べて環境の掃除をする。
どっちか選べと言われたら、もちろんトンビの生き方を選びたい。
タカに生まれたとしても、鷹狩りのタカにはなりたくない。

この入江にひとり棲む鳶ひとり舞う   金子兜太

自分では、トンビでもタカでもなく、鳴きすぎのキジかなあ……と思ってる


「反社会的勢力」「反社」という言葉の怖ろしさ2019/07/25 21:06

吉本興業問題の報道や議論を見ていて非常に気になったのは、誰も彼もが(番組司会者、学者、弁護士、タレント……すべて)「反社会的勢力」「ハンシャ(反社)」という言葉をあたりまえのように使っていることだ。これは極めて危険なことではないのか。
「反社会的」とはなんなのか? さらには「集団」「組織」といわずに「勢力」といっているのはなぜなのか?
気がつくと、時の権力者に異を唱える者や集団を「反社条例」なるもので引っ捕らえて投獄できるような時代になりはしないのか?

「反社会」とはどういう意味なのか?

この言葉は、従来、暴力団、ヤクザと呼ばれてきた組織が巧妙に企業体の体をなしてきたために、「暴力団」といえないような組織が犯罪を犯している現状を鑑みて作られた言葉らしい。
しかし、ヤクザや暴力団の定義が変わってきたというのなら、単純に「犯罪集団」「犯罪組織」でいいではないか。
「半グレ」という言葉にも違和感を感じる。表向きがまともそうな企業業態であっても、裏で違法行為をしているなら、それは「半分」でも「グレー」でもなく、犯罪集団そのものではないか。
今回、吉本の芸人が犯罪集団の宴会に(相手が犯罪集団とは知らずに)呼ばれて、ギャラを受け取っていたということに端を発した騒動にしても、その宴会をしていたのは紛れもなく「犯罪集団」である。隠れ蓑にしていた企業体の名前で主催していたとしても、化けの皮が剥がれた時点で「犯罪集団」といえばいいだけのことである。
日本は法治国家であるはずだ。何よりもまっ先に、法を犯しているのかいないのか、が問われるべきである。

anti-social forces ?

そもそも「反社会」とはどういう意味なのか?
「社会に反する」ということであれば、「社会」とはなんなのか?

「反社会的勢力」を英訳すると Anti-Social Forces なんだそうだ。
しかしこの言葉の用例を検索すると、出てくるのは金融庁の文書などがほとんどで、一般的な英文の中で使われている用例がほぼ見つけられなかった。
では、「犯罪集団」を英語ではなんというのかと調べると、crime syndicate、 criminal syndicate という言葉が出てくる。
これなら分かる。英語でははっきりと「crime(犯罪)」という言葉を使っている。
なぜこう呼ばないのか? 「犯罪集団」「犯罪組織」なら漢字4文字で済むのに、「反社会的勢力」は6文字も使った上で、意味がよく分からない。

anti-social は「socialではない」という意味だが、そもそもsocialはどういう意味の言葉なのか。
Man is a social animal.(人間は社会的動物である。)……という使い方がいちばん分かりやすい。
social problems such as poverty and crimes(犯罪や貧困のような社会的問題)
a social movement called the anti-nuclear movement (反核運動という社会運動)
 といった使い方を見ても分かるように、social自体がよいとか悪いということではない。
「群をなす」「社交的」というニュアンスも強い言葉だ。
He has recently got anti‐social.(彼は最近つきあいが悪くなった。)

そういう言葉(social や「社会」)を使って犯罪者集団のことを指し示さなければならないのはなぜなのか?

「反日」という言葉にも似ている

「反社」という言葉は「反日」という言葉にも通じる曖昧さがある。
「反日」とはなにか?
Wikipedia にはこうある。
反日とは、日本の一部または総体に対して反対・反発感情・価値観を持って行われている教育・デモ・活動・外交、それを行っている人物・組織・国家に対して使われる言葉。

↑こんな定義をされてしまったら、「日本の一部」が何を指すのかによって、どんなものも「反日」になってしまう。実際、そうなってしまっているわけだが。
「反社」という言葉があたりまえのように使われるようになると、これと同じことになる。
「反日」の「日」が日本の現政権(日本の一部)である、ととらえると、その「日」は日本という「国」であり、日本の「社会」である、というようなことになりかねない。
この怖ろしさをしっかり自覚しなければいけないだろう。特に弁護士や法律家、ジャーナリズムに身を置く人たちには、この言葉が安易に広まることに対する警戒心をしっかり持ってほしい。

最後にこんな例文を見つけたので掲載しておきたい。
Never losing its antisocial nature, many rakugo acts were suppressed and forbidden during war.
(落語は反社会性が抜けず、戦時中に多くの演目が禁演落語として弾圧された)
Wikipedia日英京都関連文書対訳コーパス


「ブリーフ岡本」と「メロリンQ」2019/07/24 17:31

吉本興業のグダグダ問題──わざわざ取り上げるようなことではない、と思って書かなかったのだが、一私企業の内紛というだけでは済まされない問題もはらんでいるようなので、やっぱりちょっとだけ書いてしまう。

「闇営業」という言葉はやめるべき

オール巨人が「『会社を通さないだけの営業』は『直の営業』。『反社会的勢力相手の(分かった上での)営業』が『闇営業』で、別物」という趣旨のことを言って、業界では「今さら『闇営業』の定義を変えられたら困る」と大困惑している、という記事があった。
でも、オール巨人が言っていることこそ従来の定義なのでは? 芸人たちは所属事務所を通さない営業を「直(チョク)」と呼んでいて、自分たちで「闇営業」などと言っていたわけではない。
だから、今回の騒動は「所属事務所も黙認している直の営業に行ったら、その相手が犯罪者集団だったことがずっと後になって判明した」という話であって、それを読者や視聴者を煽るために「闇営業」という言葉を使ったメディアの「コンプライアンス」こそが糾弾されて然るべきだ。

契約書も交わしていないのだから「直」に何の問題もない

吉本芸人の場合、事務所と専属契約を交わしているわけではないらしいので、事務所を通さない仕事をすることになんら法的問題もない。
吉本興行側も、カラテカ入江を「売れていない芸人たちを世話してやってくれ」的なノリで利用していたフシがあるので、吉本と入江の関係も相互互恵関係だったと思われる。
「いっそ、プロモーターとして能力があるらしい入江が経営したほうがよほどうまくいくんじゃないの?」(隣で飲んでいる女性談)

「中田カウス問題」を放置している企業がコンプライアンス云々を語る資格なし

「反社会的勢力の問題と吉本興業の企業体質に芸人が不満を抱いている問題とは別の問題として分けて考える必要がある」などとしたり顔で語るコメンテーターがいるが、決して「別の問題」ではない。
吉本興業に限らず「興業」というより「興行」の世界がヤクザ社会と切っても切れない関係にあった歴史は打ち消しようがない。
かつては任侠団体が芸能界を仕切っていた。昭和33年に神戸芸能社と名を変えた山口組芸能部は、美空ひばり、田端義夫、山城新伍などの興業の実権を握っていた。その他、橋幸夫、坂本九、三波春夫、マヒナスターズ、舟木一夫など当時のトップスターのほとんどを手がけている。(「凄惨すぎるヤクザたちの争い3選!! ノンフィクションライターが選出」TOCANA
吉本は反社会的勢力の排除を徹底する考えを文書で示したが、在阪の芸能プロモーターは「どこまで本気か」と、こう首をかしげる。
「反社との関係が取り沙汰された、ベテラン漫才師の中田カウス(70)を厚遇している限り、解決になりませんよ」(「吉本興業 芸人の“闇営業問題” 遠因とささやかれる大物漫才師」サンデー毎日)

2007年1月には吉本創業家とその後の大崎体制を確立した現経営陣との間に「裏社会との結びつき告発合戦」ともいうべき騒動が起きた。
創業家当主だった故・林マサさんの夫で吉本の社長だった婿養子の故・林裕章さんは、生前、女性関係や金銭トラブルといったスキャンダルが絶えなかったが、五代目の名前をチラつかせてトラブル処理に奔走したのがカウスだった。
(略)
口火を切った「週刊現代」(講談社)の「吉本興業副社長”暴脅迫事件”一部始終」では、大崎氏が山口組系の男にホテルに呼び出され、元会長の子息の役員就任を要求されたと告発。これを受けて、マサさんが「週刊新潮」(新潮社)誌上で反論。手記「”吉本興業”は怪芸人『中田カウス』に潰される!」で、カウスが山口組との交流をチラつかせて経営にまで口を出し、「吉本最大のタブー」になっていると暴露した。(吉本興業がコンプライアンス徹底を誓うも、上方漫才協会初代会長・中田カウスの処遇に問題は? 本田圭

連日の吉本騒動に関する報道を見ていても、これだけ「反社会勢力」という言葉が飛び交いながら、「中田カウス問題」を口にする者は誰一人もいない。それだけ大きく根の深いタブーだということなのだろう。

企業の体をなしていない

7月20日の宮迫博之、田村亮の「手作り記者会見」は、日大アメフト部事件のときの加害選手が一人で受け答えした謝罪会見を思い出させた。
その後の吉本興行側の緊急記者会見は、さらに衝撃的だった。
最初に、雇われ弁護士で吉本社員の「マイクプルプル小林」(動揺すると手に持ったマイクが嘘発見器のごとく分かりやすく震え始めるので、私が命名)が、延々30分かけて事の経緯を話し始めた。ちなみに彼の、人形にはめ込まれたような目が誰かに似ていると思っていたのだが、国会で大ウソを突き通した功績で国税庁長官に出世した佐川宣寿氏の目と似ているのだった。

ようやく岡本社長が登場してからの30分くらいは、社長がまともな日本語を喋れないことにビックリさせられた。「なんじゃこりゃ?」と。
さらに辛抱強く見ているうちに、今度は笑うしかなくなった。コメディUKというか、モンティ・パイソンのシュールなコントを見ているような感じ。
何かわからないものが、ずっとすごい弱火ですごい焦げている(天竺鼠・川原
おそらくこれは相当な高等技術で全てを霧に包めるマヌーサみたいな魔法なんだと信じてる(元カリカ・家城

ニュース番組やその後のワイドショー番組で編集されたダイジェスト版しか見ていない人には分からないかもしれないが、日本語が通じない相手との会話をネタにした、尺無制限コントを見せられているようだった。
最初は「山根会長と組んで漫才すればいい」「いや、それだとWボケで収拾がつかないし、尺が足りなくてテレビ向きじゃないな」などといいながら見ていたのだが、最後はなんだか薄ら寒さを覚えてきた。
こんな企業が日本のテレビ局を牛耳っているのか……と。

社長は「悪人」ではない?

あの記者会見で日本中に衝撃を与えた岡本社長という人物はしかし、日大アメフト部の内田元監督や日大田中理事長などとは違う種類の人間のようだ。
「平気で嘘をつく政治家なんかに比べたら、悪人ではない。○○なだけ」という評は当たっていると思う。
ダウンタウンの元マネージャーということなので、それでググったところ、ツイッターやYouTubeなどにブリーフ一丁ででかいとら猫を抱いた不思議な動画が多数出てきた。
「ブリーフ岡本」とか「おかもっちゃん」などと呼ばれて、ダウンタウンの番組に出ていじられキャラ、キレキャラを演じていたらしい。
YouTubeで「ブリーフ岡本」を検索すると、当時の動画がいろいろ出てくる↓。

これを見て、ようやくあの記者会見の異様さの正体が分かった気がした。
ダウンタウンの芸がなぜそんなに持ち上げられるのかさっぱり分からなかったのだが、ここにある動画のようなものを見て面白がっていた人たちがいっぱいいて(笑いの感覚に地域差もあると思うが)、ダウンタウンがなぜか知らないうちに大御所みたいに持ち上げられて、それにテレビ局も乗っかって、いくつかの不祥事や事件もうやむやにされてきて……そういうのの延長線上に今の吉本王国があるんだ、と。
その象徴ともいうべきものが、2008年に行われた「キングオブコント」第1回目だった。松本人志が総指揮のような立場に持ち上げられて始まったこのイベントは、決勝戦の審査は予選リーグで敗れた決勝進出者6組の芸人たちが口頭で優勝にふさわしいチームの名を告げるというシステムだった。
このとき決勝リーグに残ったのは、バナナマン、ロバート、バッファロー吾郎、チョコレートプラネット、ザ・ギース、天竺鼠、TKO、2700(決勝戦1回目の得点順)の8組。
TKO(松竹芸能)、バナナマン(ホリプロコム)、ザ・ギース(ASH&Dコーポレーション)以外はすべて吉本の芸人だった。
Aリーグ最高点のバッファロー吾郎とBリーグ最高点のバナナマンが最終決戦を行い、残り6組が起立して口頭で「どちらが勝者にふさわしいか」を告げて、優勝者を決めるというこのひどい仕組みも松本が考案している。
誰の目にも芸が優れているのはバナナマンのほうだったが、6組のうちで「バナナマン」と口にしたのはザ・ギースだけだった。それも、苦渋に満ちた表情で言ったのが印象的だった。
いつから松本人志はこんな権力をもつようになったのか? と、驚いたものだった。

岡本社長は松本に言われれば汚れ役を素直にやる忠実な「大崎・松本ファミリーの番頭」であり、今の吉本興業は「松本閥」が仕切る胴元なのだな……と、そこまで理解したら、なんだか岡本社長が哀れに思えてきた。

マイクプルプル小林を見ていて、国会中継も思い出してしまった。
この図、今の日本の政治の世界とそっくりだ。
ありえないこと(たとえば公文書の改竄・破棄とか、逮捕状が出てまさに逮捕しようとしていた準強姦罪被疑者が、逮捕寸前で警視庁刑事部長からの命令で見逃されるとか……)が平気で「その世界のトップ」の間で行われ、それを制御する者がいない。システムがどんどん壊れていき、修整が効かなくなる。
メディアがそれを是正する役割を担っていないどころか、忖度し放題で、ますます取り返しのつかない状況にしている。
それを見ている国民(視聴者)もまた、「世の中(芸能界)ってこういうもんでしょ」という気分の中で生きていくことに満足しようと努力する。
腹を立ててもどうにもならない。あの世界のことは自分たちにはコントロールできないのだから……という諦観。

……そう気づいたら、シュールなコントとして笑っているだけでは済まないんだなあ、と、薄ら寒くなってしまったのだった。
そのとき隣からこんな声が。
「要するに、ダウンタウンと大崎会長と岡本社長が出て行って別会社を作ればいいんじゃないの?」
「!!」
そらそうだ。吉本にはお笑い文化に情熱を持って仕事をしている優秀な社員がたくさんいるという。だったら、その人的資産はそっくりそのまま残して、会社をダメにした現経営陣が独立し、松本興行でも松本組でもなんでもいいから、「ファミリー」的な会社を作って、好きなように興行の元締めをすればいい。
な~んだ。解決法は簡単だったね。

芸人の力はすごい

それにしても、宮迫博之のあの会見での渾身の演技(パフォーマンス?)といい、加藤浩次の正義感といい、田村亮の「いいやつ」ぶりといい、この世界でしぶとく生き残ってきた芸人たちの潜在能力や剛胆さはすごいなあと感心する。とても真似できない。
ただ忖度しまくる官僚や、秘書に平気で暴力をふるう官僚上がりの議員などよりよほど政治家に向いている。もちろん「勉強してくれたら」という条件付きだけれど。
……あ、それがメロリンQなのか!
メロリンQは今回の参院選でゲリラ戦法も身につけたし、まだまだ見応えのある舞台を見せてくれるだろうか。期待していいのかな? (でも、くれぐれも「刺客」には気をつけてね)



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