マグニチュード9.0と言い直した裏側にあるもの2011/03/23 19:19

津波被災地の悲惨さは尋常ではありませんね。
今回はとてつもなく広範囲。
これに関してはほとんど防ぎようがなかったと思います。津波災害を何度も経験してきた町や村が築いてきた防波堤や避難施設を、津波は難なく乗り越えてきたのですから。
でも、その後に来た原発被害は天災ではなく120%人災です。
バックアップ電源設備を海側の地下室(防水してあるわけじゃなくて、地下鉄の構内のように普通に出入りできる)に全部置いておくなどというバカなことをしていなければ、また、陸側に東北電力からの緊急用送電線を何重にも(地下埋設、地上ケーブルなど複数の手段で)敷いておけば、電源完全喪失という、原発にとって絶対にあってはならないことは簡単に防げました。
今福島第一原発で起きているのは事故ではなく事件──犯罪事件です

1000年に1回とか、M9.0とか強調されてますが、福島第一原発については、そういうことはまったく関係ありません。
「関係がない」は言いすぎだろうって? いいえ!
まず、建屋内の設備は津波が来る前からあちこち壊れていました(作業員の証言多数あり)。
津波はせいぜい10m程度だったようです(建屋から山側法面には津波の跡がない)。
「東日本大震災は1923年(大正12年)9月1日に発生した関東大震災のM7.9、1964年(昭和39年)6月16日に発生した新潟地震のM7.5、1995年(平成7年)1月17日に発生した阪神淡路大震災のM7.3を上回る日本の観測史上最大の地震となった」と説明されていますが、実はこれも違います。
従来、日本の気象庁が発表してきたマグニチュードは「気象庁マグニチュード(Mj)」といって、近年、世界的に採用するようになった「モーメントマグニチュード(Mw)」とは算出方法が違います。超巨大地震では気象庁マグニチュードのほうが小さめの数字が出るので(特に巨大地震の場合)、今回のような超巨大地震の場合はモーメントマグニチュードのほうが正確に表せるということになっていますが、その説明をせず、気象庁は突然、今回の地震の後、従来の気象庁マグニチュードからモーメントマグニチュードに変更してM9.0と発表し直したのです。従来の気象庁マグニチュードではM8.4だと指摘している地震学者もいるようです。
正確な規模を知るためにモーメントマグニチュードを使うこと自体はいいことですが、説明があってしかるべきですし、その場合、過去の地震も全部モーメントマグニチュードの数値に直さなければ比較ができません(しかし、過去の地震は詳細な観測データがないため、モーメントマグニチュードで評価し直すことは困難です)。
これを巡って「陰謀説」なども飛び交っていますが、はっきり言えることは、福島第一原発が受けた揺れは壊滅的なものではなかったということです。実際、周囲の民家の多くは地震の揺れそのものでは壊れていません。
津波はどうだったのか? これもはっきりしていることがいくつかあります。
女川原発(東北電力)を襲った津波は福島原発を襲った津波より大きかったでしょう。周囲の津波被害状況を見れば歴然です。しかし、女川原発は電源喪失などという無様なことにはなりませんでした。もし女川原発で電源喪失が起きて福島第一と同じことになっていたら、今頃、津波の被災地には誰も近づけず、ただでさえ壊滅状態の被災地救援は絶望的になっていたはずです。
くどいようですが、山側に電源設備を置いておけば、なおかつ、東北電力からのバックアップ電源回線を複数、地下、地上に引いておけば、電源喪失は起きなかったのです。東電が信じがたい手抜きと慢心とごまかしを続けてきたから起きたのであり、これは明らかな犯罪行為なのです。
少し状況が落ち着いたら、過去まで遡り、誰がそういう手抜き、ごまかしをしたのか、あるいはさせたか。それを許したのは誰なのかという責任追及をしなくてはいけません。
こういう事態もありえますよということは、心ある学者たちが何度も警告してきました

日本で原発をやるべきかどうかという議論がなされていた1950~60年代に、政界と電力業界の間でどんなことが起きていたかを検証すれば見えてきますが、当初、電力会社は、本音では原発をあまりやりたくなかったと思えます。万が一にも事故が起きたとき、補償額が莫大で、事実上補償ができない、保険にも入れないことがはっきりしていたからです。
1955年、「自主・民主・公開」の3原則をうたった原子力基本法が制定されました。
これを受けて、科学技術庁(当時)の委託を受けた日本原子力産業会議が、アメリカのWASH740報告というものを参考にして、日本で大事故が起きたときの被害予想を「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害額に関する試算」という調査報告書を1961年頃にまとめました。
これによれば、熱出力50万キロワット(熱効率を33%とすれば電気出力は16万キロワット前後)の原子炉を海岸線に建設したとき、炉心から20km、120kmのところにそれぞれ人口10万、600万の都市があり、当該地域の人口密度平均が300人/平方キロという想定で、原子炉の事故が引き起こす損害額可能性を試算したところ、

最悪の場合(1000万キュリー相当の放射性物質が放出され、天候は低温逆転層)、数百人が致死、数千人が致傷(障害を受ける)、要観察者が100万人程度。
同様に物的損害は最悪の場合で農業制限地域が幅20~30km、長さ1000km以上のエリアに及び、被害額は1兆円超。(室田武著『新版・原子力の経済学』参考)……と報告しています。
これだけ正直な報告書を出した裏には、「被害額は天文学的数字になるのだから、免責してもらわなければ原発は運転できませんよ」という電力会社側の意思表示があったと思われます。
実際、免責は国から担保されました。そうなったときは補償しきれなくてもいいよと言って、国策として進めたのがかつての自民党政府です。
おまえたちがやらないなら国営でやるぞと迫り、電力会社は電気事業を国に取り上げられることだけは避けたいので、原発に手を出したのです。
政治家に理解力がないことは分かっているのですから、その後も、電力会社が国の無責任体質を分かった上で、しっかり自分たちで管理・運営を続けてくれていれば、今回のようなことは起きませんでした。しかし、いつのまにか電力会社の危機意識が薄れ、なあなあになってしまい、信じがたいほどに甘い体制で原発を動かし続けてきた結果が今回の犯罪的事故なのです。
基本的な認識ができない無知な政治家と、危機感を持てない官僚と、それと馴れ合っていくうちに堕落してしまった電力会社の共同責任。
私たちの財産を奪い、理不尽な危険と苦労を押しつけた犯罪者は、今頃使い切れない退職金やら天下り先の高給やらで守られ、贅沢な暮らしを満喫しています。この責任だけは、絶対にきっちりとってもらわなければ困ります。
津波は未曾有の大災害でした。でも、福島第一原発の「事件」は、そうではありません。

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