「小保方事件」スマートガイド2014/04/12 22:48

小保方事件の読み方

「小保方事件」は、マスメディアの騒ぎ方が馬鹿なので、多くの人は「くだらん」と唾棄しているけれど、こないだの佐村河内事件に比べると、ずっと複雑で、興味深い。小説家的には、想像を超えていろいろなことを考えさせられる事件になってきた。
小保方さんのかなり特異なキャラクターと能力、昔からある利権と権力欲、成功への怨嗟などが渦巻く闇世界、その「業界」の中における生命倫理と哲学の欠如、現代デジタル文明がもたらした薄っぺらな慣習(コピペだのレシピだの)に人間が慣らされてしまっているという恐さ……ものすごくいっぱい、違う種類の要素がごった煮になったような事件だ。
僕自身、解釈が二転三転したが、現時点で簡単にまとめると……
  1. 業界(生化学、遺伝子工学、医学界)の中ではすでに真相はほぼ把握できている。今回の騒動は誤認と不正が絡み合ったお粗末な論文が「NATURE」に発表されたというだけの事件。医学的に意味のあることではなかったという結論
  2. 小保方さんが「STAP細胞」と主張しているのは、単なる誤認。それを自分で強く信じ込むところから、都合の悪いものを次々に書き換えたりすり替えたりして、ひどい論文ができあがってしまった。監督する立場の副センター長や、検証作業に協力した第一線の著名研究者もみんな、まさか「インチキデータ」だとは思わなかった
  3. あまりにもお粗末でとんでもない内容だったので、理研は権威失墜、メンツ丸つぶれを畏れて、すっきり説明したがらない(理研が追試するというのも、事実上はゼロからやり直して、何かこれに代わるものを発見・申請したいというかすかな希望からのことだろう)
  4. しかし、小保方さんはただの「おっちょこちょいで未熟で常識を持たないまま育ってしまった研究者」というだけでなく、他人(特に中年男性)を取り込む能力に長けた特殊な才能と(容貌を含めた)個性を持っていた。これがさらに事態を迷走させた

……と、まあこんなところだろう。
彼女が何をしたのか、については、藤沢数希氏がブログに連投している内容が概ね当たっているのだろう。
小保方晴子が200回成功したと言っているのは、このOct4-GFP発現のことだ。これ以外に、あの期間に200回以上できる実験はない。そして、この点に関してだけは、僕は彼女は正直であった、と信じている。
小保方晴子はOct4-GFP発現を観察して、STAP細胞ができたと思い込んだ。PhDを持っておらず、細胞生物学に詳しくない、基本的には医者のハーバード大のバカンティ教授も、これでSTAP細胞ができたと思った。この有望な実験結果に、共同研究者たちは彼女に称賛を送った。しかし、これは見せかけの発光である。実際に、iPS細胞のように初期化が起こったわけではない。これは万能細胞ではないから、テラトーマはできないし、キメラマウスもできない。
「謎はすべて解けた!! それでも、STAP細胞は捏造です」藤沢数希

フェイスブックでいろいろ教えてくれる人がいて、僕もちょこちょこ調べてみたのだが、STAP細胞の特許申請にある「発明者」は、Charles A. Vacanti, Martin P. Vacanti, Koji Kojima, Haruko OBOKATA, Teruhiko Wakayama, Yoshiki Sasai, Masayuki Yamato となっていて、筆頭はバカンティ兄弟。
出願者は The Brigham And Women's Hospital, Inc., Riken, Tokyo Women's Medical University。
バカンティ兄弟は以前から持っていたSTAP細胞の「アイデア」をなんとか実証して特許申請したかった。しかし、その技術や実力がないから、他の研究者にやらせて、その成果に乗っかるしかない。
理研は、この分野で京大や東北大に先を越されてしまったという焦りがあった。エネルギーのある小保方研究員は、「ひょっとしたら万馬券になるかもしれない」カードとして動かしていた
そうした背景があって、小保方晴子という、一筋縄ではいかないというか、普通の人の理解を超えた個性と馬力を持った女性が実際に動き、しかし、これまた普通には理解しがたい行動をしてのけた。
……ということなのだろう。

この特許申請は「すでに別の研究成果が申請されていて、それ以上の新規性が認められない」という意見がつく。その「別の研究成果」というのは、東北大学の出澤真理教授らが発見した「ミューズ細胞」
ミューズ細胞発見のいきさつは、⇒ここにインタビュー形式で出ている。なかなか興味深い。
2003年のことです。いつものように骨髄間葉系細胞を培養していると、汚い細胞塊ができていることに気が付きました。テクニシャンの方から、「この細胞は汚いので捨てましょう」と言われたのですが、よく見ると、ES細胞の胚葉体に似ていて、毛とか色素細胞などが混じった細胞塊でした。そこで捨てないでちょっと調べてみますと、中には3胚葉性の細胞が混在していたので、これはもしかしたらES細胞に似たような性質の細胞が、天然でヒトの骨髄などにもあるのではないかと考えるようになったのです。ただし、ES細胞は腫瘍性の増殖を示しますから、培養していれば無限に増殖をしますが、この細胞塊は数日増えて一定の大きさになると増殖が止まってしまう傾向がありました。ですから、似て非なるものかなとも思っていました。

そこでもしもヒトの骨髄間葉系細胞にこのような多能性幹細胞があるとして、どうやってその細胞を同定できるのか、実験をしましたが、一向に結果が出ませんでした。試行錯誤の日々が続きましたが、2007年ごろ、あることがきっかけで多能性細胞の同定に結び付く足掛かりを得ました。
その日私は、骨髄の細胞を株分けするために、トリプシンという消化酵素をかけて処理していました。その最中に、共同研究者の京都大学大学院理学研究科の藤吉好則教授から、飲みに行こうと電話がかかってきました。そこで、急いで出かけなくてはと思って、大変な間違いをしてしまいました。株分けした細胞を血清の入った培地に入れたつもりだったのが、再びトリプシン消化酵素を入れてしまい、飲みに出かけてしまったんです!

翌日、培養室に戻ってきたら、普通は培地がピンクなのに黄色なんです。細胞は消化酵素の中に12時間以上漬けられていたためほとんど死んでしまっていました。ショックでしたねえ。ただ捨てる前にもう一度チェックする癖があって、のぞいてみたら、わずかに生きている細胞がいたんです。なぜこの細胞は生きているんだろう、なにか発見できるかもしれないと、ダメでもともとと遠心分離器にかけて集めた細胞をゼラチン上で培養したところ、多能性幹細胞だったんです。 共同研究者の藤吉教授とこの細胞を「Muse(ミューズ)細胞」と名付け、2010年4月に発表したところ、「第3の多能性幹細胞」などとマスコミでも取り上げられました。
(この人に聞く 「生命に関わる仕事って面白いですか?」 がん化の可能性が低い多能性幹細胞「Muse細胞」を発見 東北大学大学院医学系研究科 出澤真理教授)
ちなみにこのインタビュー記事の最後には、こんな言葉がある。
私は大学受験をするときに、予備校にも、塾にも行っていません。全部独学で勉強しました。 受験というのは、答はもう決まっていることを勉強することですね。それなのに、他人から解答を導くためのノウハウまで教えてもらっているようでは、とてもクリエイティブな仕事はできません。
私たちの研究は、必ずしも答がないもの、道筋のないものを、自分で道筋をつくり、答をつくりださなければなりません。答がないから、方法がないから研究するんです。
まさに「先輩」が後輩に贈る言葉。

ちなみにMuse細胞発見を報告した2010年4月というと、3.11の1年前だが、僕はこんなニュースがあったこと、記憶にない。
もし出澤教授が小保方さんのように若くて一種コケティッシュな魅力を秘めた容貌と個性の持ち主だったら、マスメディアは今回の「割烹着のリケジョ」と同じように騒ぎ立てたに違いない。

で、まあ、メディアが「割烹着のリケジョ」と大々的に持ち上げたところまでは想定内というか、「ああ、またテレビがやっているよ」と思ったわけだが、彼女がそれを超えた役者だった(女優を超えた女優と評した人もいたし、「女子力がすごい」と論じた人もいた) ことはちょっと予想できなかった。そこにみんなびっくりしたわけだ。

小保方様
この際、余り勝算はなさそうだから、科学者タレントになって化学の普及に活躍して欲しい。そして東電に付いて居る科学者の事実隠匿問題とか暴いて欲しい。
あなた達!私をあんなに持ち上げておいてふざけんな!
とか居直ってその実力を使って欲しい。
何故なら
  1. これ程化学についての老若男女を問わずの国民的興味を作った人物は日本の近代史上稀な人物である。
  2. 化学実験を崇高な世界から「レシピ」だの「コツ」だのと調理感覚にし、
  3. コピペの世間風潮をこれだけ堂々とやった上、問題をあぶり出した功績は大きい。
  4. STAP細胞に対する想いに、思い込みこそ大切と教えてくれる
  5. 日本社会の構造的な利権、科学者間の確執、 伝統的組織保持の様子を炙り出した。
  6. ビジュアルがかわいい。
何処かのプロモーターとか動いてないかな?
オバちゃんはそう思います。
(舛田 麻美子さんのFBの書き込み)

これなどはかなり好意的な見方。
原発関連の事実隠蔽を暴くのはちょっと畑違い、能力違いのような気もするが……。
というより、彼女の能力は自分を弱者の立場に置いて表現するときに発揮されるので、原子力ムラ相手の正義のリケジョという役割は担えそうもない。やれるとしたら、潜入捜査官みたいに、ムラの中に入り込んで、魔性の女と呼ばれながら次々に政治家や官僚や企業経営者を籠絡して……って、どんどん小説的な妄想が膨らむばかりなので、やめておく。

かと思うと、全然別の視点を提示している人もいる。
部分を取り出して、その振る舞いを研究したり解釈することは可能だろう。しかし、その部分が全体とどう関わっているか、わからないことが多い筈だし、それがたとえ90%わかるにしても、残りの10%、いやたった1%の不明瞭なものによって大逆転されるということが、可能性としてあり得る。100%大丈夫ということは、あり得ないのだ。ゲームの世界でも、9回の裏、ツーアウトから逆転されることはあるだろう。問題は、勝ち負けのことではない。原子核や細胞に手を出すことは、大逆転された時の禍いが、想像を絶するスケールに広がる可能性があるということだ。原発の被害は記憶に新しいが、生命の化け学の場合も、おそろしいウィルスを作り出してしまう可能性だってある筈だ。
(「悪意があるかどうかではなく、畏れがあるかどうか。」 佐伯剛)

そう。まさにこれ↑ この「畏れ」の感覚がなくなって、ゲーム感覚で世界の深みを理解できると信じて疑わない人たちが出現している。
医学、生命科学、原子核関連の研究分野だけではない。国を運営する経営学や財務といった分野も、人間社会を根底から変える可能性を持っている。そういう現場で、コピペだのフォトショで切り貼りだのパワポのデータがとっちらかっただのというレベルの問題としてしか物事を考え、処理できない人が出現してきている……ということを知らしめる戦慄すべき事件、それが小保方事件だった、ということは言えるかもしれない。
世の中が「おぼちゃんかわいそう。頑張って!」などとやっている間に、憲法は権力者が解釈の仕方を変えれば運用も変えられるんだなどというトンデモな人物が、まだ暴走をやめていない。メディアもますます大政翼賛体制を固めている。
小保方事件はネットが「エラー訂正機能」を発揮したと言われているが、残念ながら、政治家や官僚のエラー訂正にはほとんど力を発揮していない。
それはネットの責任ではなく、小保方事件を下世話な興味と勘違いした優越感や怨嗟レベルでの娯楽としてしか楽しめない人びとの責任だろう。

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