水害報道もうひとつの重大な問題──テレビが必要な映像を流さなかったこと2015/09/15 22:40

■もうひとつの重大な問題──テレビが必要な映像を流さなかったこと

なぜ逃げない人があんなに多かったのか?

今回の洪水浸水被害報道で、忘れてはいけない問題がある。
それは「浸水域の拡大はゆっくり進行した」ということ。
すでにまとめたように、若宮戸地区ソーラーパネル設置場所で最初の越水が起きたのは10日の早朝6時頃。
上三坂地区で堤防が決壊したのは午後12時50分頃。
司令塔となるべき常総市役所までが浸水したのは10日午後10時過ぎから。
つまり、最初の越水(早朝6時)から、市役所浸水(夜10時過ぎ)までは17時間かかっている。
堤防決壊の午後1時頃からでも9時間。
その間、鬼怒川から流れ込んだ水は毎時1kmくらいのゆっくりしたスピードで広がっていった。3.11の東北沿岸での津波被害のときとは比べものにならないゆっくりした速度なわけで、まだ浸水していない地区の住民が避難する時間は十分にあった。

それなのに、堤防決壊から何時間も経って、あるいは翌日になってから浸水によって孤立した家に閉じ込められた人が続出した。
避難指示がしっかり伝わっていなかったことはもちろん問題だが、住民の多くはテレビで浸水被害の映像を見ても「小貝川の氾濫のときもここまでは来なかったから大丈夫」と、安心していたのがいちばんの原因だ。

逃げ遅れて浸水家屋に孤立した人たちの一部(少なくない)は家でテレビを見ていたわけで、もし各局が堤防決壊現場付近でのスリリングな救出劇の映像に終始することなく、上空からの映像を逐一流して「今ここまで来ています」「まだまだ浸水域が広がっています」と伝えていれば、さすがに気がついて避難を始めるなり、重要なものを二階に持ち上げるなりといった対応をしていたはずだ。

早川由起夫氏らの重大な指摘 「なぜテレビは浸水か所前線を映さないのか?」

このことを指摘していたのは、原発爆発のときの放射能汚染マップ作成で有名になった早川由起夫教授(群馬大学、専門は地質学)。
ツイッターでこう指摘している。
早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-12 17:10:46
津波の前進速度の1/10以下だ。ゆっくりすぎて報道ヘリからの撮影対象としては魅力が足りなかった。空中から見ても、前進してるのがわからなかったのだろう。どの報道ヘリもそこにカメラを向けることなく、破堤箇所からあふれ出す水と自衛隊ヘリによる吊り上げ救出に集中した。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-12 17:13:40
NHKは災害対策基本法が定める指定公共機関なのだから、吊り上げ救出場面の報道は民放に任せて、洪水の先端がいまどこにあるかをヘリから捜して遅延なく国民に知らせる責務があったのではないか。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-12 17:15:14
吊り上げ救出場面を報道しても、だれも助からない。だれの財産も救われない。洪水の先端を報道すれば、多額の財産が水没から守られた(はずだ)。
早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 06:54:42
10日14時から15時、どのテレビ局の報道ヘリも次の二つの観点にカメラを向けなかった。
・若宮戸から越流してアピタ石下店が浸水している、
・堤防が決壊した三坂から流入して前進を続ける洪水の先端がいまどこにあるか、

吊り上げ救出場面を全局そろって生中継している場合ではなかった。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 06:57:41
ヘリに乗ったすべての局のカメラマンと記者が、素人だったわけだ。たとえば、NHKのスタジオで解説した二人はこの種の災害のプロだった。的確な解説をしていた。彼らがヘリにカメラを向けるべき先を積極的にアドバイスしたらよかった。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 07:10:10
自衛隊ヘリによる吊り上げ救出場面を延々と生中継したあのときのテレビ局(在京キー局全局)は災害報道をしたのではなく、視聴率稼ぎの娯楽放送に熱中していた。恥ずべきことだ。

早川由紀夫 @HayakawaYukio 2015-09-13 07:19:46
10日15時、洪水フロントは決壊地点から4キロにあって時速1キロで南下していた。5時間後には9キロ地点の常総市役所に届く計算だった(午前に発表された破堤シミュレーション通り)。さて、5時間で何ができたか。何人がそこから脱出できたか。研究されねばならない。

NHKは多少は引きの映像も入れていたようだが、やはり救出劇映像は民放に任せて、しっかり「警報役」を果たすべきだった。

昨今のNHKの劣化ぶりは極めて深刻だ。
「安倍テレビ」と揶揄される政府御用メディアぶりはもちろんだが、こうした災害報道や各種ドキュメンタリー、科学番組でも、以前のような「さすがNHK」と思わせる作りができていない。
今回の災害はなぜ起きたか、これからの課題は……というテーマであったはずの『NHKスペシャル』でも、危機管理、防災研究の第一人者・片田敏孝教授(群馬大学)が重要な話をしている最中に、話を寸断する形で無意味な(まったく中身のない)「現場からの中継」を挟んでいた。
夜になって何も映っていない役場前とか、そんなところに記者が立って「こちらは……」とやってもなんの意味もない。なんのための『Nスペ』なのか。
こういう媚びかたというか、民放並みの「こういう絵作りをしておけ」的な軽さにうんざりさせられる。





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