池上彰緊急スペシャル 2/12版のすごさ2016/02/16 20:59

東条英機の演説をヒトラーの演説と並べて放送した

メディアも戦争で利益を上げているのではないか? という池上彰氏の指摘







2016年2月12日(金) 19:57~22:52 に放送された『池上彰緊急スペシャル なぜ世界から戦争がなくならないのか』はなかなかすごかった。
フジテレビ地上波の金曜ゴールデンタイムに3時間の特番。その内容がここまでストレートだとは、正直びっくりした。
これはテレ東でも難しいだろうし、今のNHKならBSやEテレでも無理じゃないかと思うような気合いの入り方だった。
前回(2015年6月5日放送)の『知ってるいるようでよく知らない韓国のナゾ!』(第12回)において、韓国人へのインタビューの訳が間違っていたミス*があって批判されたことから、今回は池上氏が相当気合いを入れてスタッフを指導したのだろうか。
*「(日本は)嫌いですよ。だって韓国を苦しめたじゃないですか」と字幕を出した部分で、実際には「文化が多様で、外国人も大勢訪れている」というような発言だった、などのミス
イスラム国の野望、というような切り口だけなら他番組でもやっているが(内容がどこまで事実に迫れるかは別として)、ドイツでの「二度とファシズムや間違ったナショナリズムを台頭させない」という強い決意と、学校教育におけるその実践ぶり、ロシアのカラシニコフ銃の製造工場やアメリカの田舎町でジーンズメーカーが戦闘用ズボンを製造し始めて売り上げを伸ばし、地域でも軍需産業が不可欠になっていく仕組み、湾岸戦争前にアメリカで行われた大手広告代理店が仕組んだ嘘の被害者リポートなどなど、よくここまでやれたなあという取材ぶり、そして番組の構成力の巧みさは、(正常だった頃の)NHKでも舌を巻くような出来だった。
ヒトラーの演説と東条英機の演説を並べて放送したのもびっくりした。
しかも、ナレーションは、
「日本は、アメリカからの石油輸出禁止などを打開し、自存自衛、つまり、日本の存続をかけ、日本を守るために戦う、と、東条は訴えます」
……と、太平洋戦争を始めた日本も「自衛のための戦争だ」と国民にPRしたことを強調した。
東条英機の演説をヒトラーの演説と並べて紹介した
なによりも、これがフジテレビの地上波、金曜夜のゴールデンタイムに3時間番組として放送されたことに驚いた。
ここまでやり通すのに、現場ではいろいろな圧力との戦いがあったはずだ。それを押し切って、あるいはうまく懐柔して放送までこぎ着けた人たちの「志」と勇気に敬意を表したい。
NHKのBSあたりでやるのとはわけが違う。芸能人のひな壇を作り、絵面としてはバラエティ番組を装い、NHKのドキュメンタリー番組や歴史教養番組であればまず絶対に見ないであろう多くの視聴者をも取り込んで放送された、ということがとりわけ重要なことなのだ。
イスラム国の話から始めて(検閲したい人たちを少し安心させておいて)、最後に「戦争ビジネスで金儲けをしている組織にはメディアも含まれているのではないか?」というところまで持っていく手腕も素晴らしかった。

番組最後に池上氏が「まとめ」として発言した短いメッセージの内容をほぼそのまま文字起こししてみた。↓
「報道機関が政治に左右されてはいけない。
昔も今も、勝手な思想を他人に押しつけようとする勢力がいる。それによって戦争が起きる。あるいはそれに対して、二度と戦争を起こすまいとする努力も続けられている。
しかし、戦争で利益を得る組織がある、ということも事実。
そこにはメディアも含まれているのではないか

メディアによって実体が歪められたり隠されたりすると、私たちは戦争について正しく認識することができない。あるいは正しく反省することが難しくなる。
この戦争はどちらに非があるのかということを、客観的に評価できなくなることは大変危険。
戦時中の日本の新聞のように、受け手の気分がよくなるようにという報道ばかりしていると、私たちは現実を見失ってしまう怖れがある。
だからこそメディアは、戦争報道のあり方について自らを戒め、権力に利用されずに、きちんと事実を伝える役割を果たさなければいけない

これだけスッキリ言い切ってもらえて、拍手を送りたい。

さて、あとは我々視聴者が、こうした番組がつぶされないように、権力を監視し、頑張っている人たちを応援することだ。


★YouTubeなどに(違法)UPされているものは次々に消されているが、これを書いている2月16日夜の時点でも、まだデイリーモーションに上がっている動画だけは消えていないようだ。



タヌパック書店

コメント

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://gabasaku.asablo.jp/blog/2016/02/16/8019779/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。