少子化問題・人口減少社会の正しい?解釈とは2016/04/07 22:41

ダイヤモンドオンラインの、日本劣化は避けられるか? 「人口減少社会」の誤解と真のリスク ――松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授
同氏の 未曽有の人口減少がもたらす 経済、年金、財政、インフラの「Xデー」 がとても示唆に富んでいたので、自分のための備忘録として内容をまとめてみる。

最初の「人口減少社会」の誤解と真のリスクでは、まず、現在、日本の人口が減っていることに対する多くの国民の誤解についてまとめている。

  • これまでの人口減少の主因は「少子化」ではなく、「死亡者の急増」。日本が戦争に向かって突き進んでいた1920~40年頃の「産めよ、殖やせよ」政策で生まれてきた人たちが1980年代後半以降、死亡年齢に達し、年を追って大量に亡くなったことが主原因。
  • 戦争や疫病などの社会的事件によって若い世代が亡くなっているわけではないので、ある意味それほど深刻な人口減少ではない。
  • 地方の人口減少も、「東京に若者がどんどん出て行ってしまうため」というより、地方に大量にいる高齢者が次々と亡くなっているから。
  • 「少子化」が人口減少の「主因」ではない以上、今の人口減少現象は避けようがない。
  • 高齢化の「主因」も少子化ではない。「長寿化」が主因。出生率が低下しなくても、高齢化は進行する。これを止める手立てはない。

……こう指摘した上で、しかし、「団塊世代」が死に終わった後の死亡者数はピークを越えて横ばいになるので、それ以降の人口減少は出生数が減少し続けることで起きる、と説明している。

ちなみに長寿化の説明で、
1950年の平均寿命は61.3歳(男女平均)でしたが、2010年の平均寿命は83.01歳と、たった60年の間に20歳以上も寿命が延びています。
とあるけれど、1950年(戦後5年目)の平均寿命が61歳だったというのは、戦争でとてつもない数の人が死んでしまったからだから、一概に「異常な長寿化」とも言えないと思う。

また、松谷氏は次に、日本が中絶大国になったことが子供を産める女性人口の激減につながったといった主旨のことを書いているが、これもすべて鵜呑みにはできない。
現在の日本の中絶率は、医学界の推計によると52%にも上ると言われます。

という記述にしても、裏付けられる資料などは見つけられなかった。
ただ、この裏付け資料を探している中で、非常に興味深いデータを見つけた。
僕が生まれた1955年の出生数は173万0692人。中絶数は117万0143件。生まれてくる可能性のあった胎児は約290万人で、そのうち117万が中絶されているのだから、割合は約40%にもなる。闇の中絶はカウントされていないだろうから、実際には半数以上の胎児が中絶されたと考えられる。
僕が生まれた1955年当時は、母親の胎内に宿っても「親に生んでもらえる確率」は半分しかなかったのだ。
これが2009年だと、出生数が106万9000人に対して中絶数は22万6878件。約21%。闇中絶の数は1955年当時に比べれば激減しているだろうから、多く見積もっても22%くらいだろう。だから、50年あまりの間に中絶率は半分(以下?)に減ったことになる。それでも、出生数の2割以上の中絶が「正式に」カウントされているというのは驚きだが……。
中絶件数のデータは総務省統計局のものを見て確認したので、間違いはないと思う。

性の乱れが進んでいると言われるが、実際には戦後まもなくのほうがはるかに妊娠に対する考え方が緩かったというか、罪の意識が薄かったのではないか。
実際に、母親の話なんかを聞いていてもそう感じる。
かつては「足入れ婚」と言って、婚姻届を出さない前に夫の家に女性が入るような習慣が全国的にあった。嫁を即家庭内労働力として必要とした農家に多かったという話もあるが、「1年しても子供ができなかったら婚約解消」「嫁としてちゃんと仕事をこなせるかどうか試す」といった「お試し期間」を設ける意味合いも強かった。
その結果、婚姻届を出す前に妊娠したものの、夫(になるべき男性)が逃げてしまって母子家庭になったり、中絶したりといったケースも多かった。親戚にもそうした実例がある。

現代では「できちゃった婚」が増えていて(これはデータとして確か)、これも若い世代の性の乱れだのなんだのと言われるが、むしろ逆じゃないかという見方もできる。出生率が低下している中でできちゃった婚の赤ん坊が増えているだけ。しかも、中絶しないで、経済的に苦しくても結婚しようというのだから、むしろ親として人間としてはまともではないか、と。

話がだいぶ脱線してきたが、松谷氏のこのコラムの最後には注目すべき指摘がある。

  • 合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)が2を割ると人口減少につながるが、日本では2013年時点で1.4台。しかしこれは「女性が子どもを生まなくなったせい」ではない。
  • 既婚女性(有配偶者女性)だけに限った出生率は足もとで2.0台で、1970年代から変わっていない。既婚女性は生涯に平均2人の子どもを産んでいて、むしろ微増傾向にある。
  • なのに女性全体の出生率が下がるのは、結婚をしない女性や「子どもを持たない」と決めた女性が増えているから。実際、2010年の国勢調査によれば、女性の生涯未婚率(49歳を越えて未婚の女性が対象)は10.61.%に上っている。
  • この傾向がどんどん進んで、仮に「2040年には3割の女性が未婚」という事態になれば、残り7割の既婚女性が生涯3人の子供を産まなければ女性全体の合計特殊出生率2台は実現できない。これはおそらく不可能。

……と説明した上で、
日本人はこれから、人口減少社会を前提に考えて生きて行かなくてはならない。人口が減っても、子どもが減っても、引続き安心して豊かに暮らせる社会をつくっていくほうに、目を向けるべきなのです。

……と結論づけている。

途中の解釈や説明に??という箇所がいくつかあるものの、「人口が減っても、子どもが減っても、安心して豊かに暮らせる社会を作らなければいけない」という結論はその通りだ。

で、その方法について、別稿で論じていて、そっちのほうが興味深かったのだが、長くなるのでそれはまた次の項で……。

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