サーシャ・バジンはただの「筋肉自慢」ガイじゃない2018/09/15 23:01

大坂なおみ(以下、なおみん)ファミリーの中でいちばん興味深い人物は父親のフランソワ氏だが、昨年末コーチに就任したばかりのサーシャ・バジン(Aleksandar 'Sascha' Bajin)コーチもかなり興味深い人物だ。
簡単にプロフィールをまとめておくと、
  • 1984年10月4日 ドイツのMunichで生まれる。ドイツは出生地主義なのでドイツ国籍となる
  • 本名はAleksandar Bajin で、Saschaはニックネーム。自分で「Big Sascha」と名乗っている
  • 188cm、79kg。好きな色は白。上半身裸の写真をあちこちで露出している(なんと、ツイッターアカウントのプロフィール写真まで裸)ので、ゲイかと思いきや、モデルのFederica Rivoltaはじめ、数々の女性と浮き名を流している
  • 2007年にセリーナ・ウィリアムズのヒッティングパートナーとして雇われ、2015年3月まで8年間続けた
  • その後、ヴィクトリア・アザレンカ、スティーブンス、ウォズニアッキ、とチームを渡り歩き、ヒッティングパートナーを務める
  • 2017年、ウォズニアッキとの契約更新を前に、単なるヒッティングパートナー以上の役割を望んで決裂。契約終了の直後になおみんの代理人からコーチ就任の打診があった
  • 12月になおみんのチームと合流し、なおみんと実際に打ち合って相性を探った際、足首をひどく痛めたが、なおみんのコーチにどうしてもなりたかったので、怪我を隠し通して打ち続けた
  • 結果、無事なおみんのコーチに就任。翌年にはツアー初優勝、全米オープン優勝という大躍進を遂げた

「思いがけない事故だったけど、僕はそのまま続けたんだよ。もちろん、彼女のコーチになりたかったからさ。歯を食いしばって耐えたんだ。

'One of those freak accidents, I tried to keep going, of course, because I really wanted to work with her, so I bit down on my lip.
Sascha Bajin reveals 'freak accident' while training with Naomi Osaka Tennis World)

バジン コーチ(以下、サーシャ)がいかに「ただのヒッティングパートナー」ではなく「コーチ」としてのキャリアを積みたかったが分かるエピソードだ。

ヒッティングパートナーは「裏板」みたいなもの

サーシャのコーチとしての成功について、USオープンの公式WEBサイトにこんな書き出しのコラムが掲載されている。まだなおみんが優勝を決める前の2018年9月6日付けのものだ。
単刀直入にいえば、ヒッティングパートナーというのは必ずしも必要不可欠な要員とはみなされてない。「筋肉頭」みたいに思われてる。戦略はコーチに任せておけばいい。おまえは裏板みたいなもので、共鳴板じゃない、と。
To be blunt, hitting partners aren’t necessarily known as the headiest bunch. More often than not it’s a case of brawn over brains. Leave the Xs and Os to the coach. You’re here to be a backboard, not a sounding board.
Naomi Osaka's coach Sascha Bajin juggles coach, peacemaker roles By Richard Osborn  US Open.org 2018/09/06)

サーシャは「元プロテニスプレーヤー」という経歴を持っているが、選手としてプレイしていたのは2005年から2007年までで、最高ランキングは1149位。3桁順位にすら入れなかった。
そんなサーシャに、当時すでにグランドスラム4連続優勝などでトップ選手になっていたものの怪我でランキングを落としていたセリーナ・ウィリアムズのチームから、ヒッティングパートナーとして働かないかと誘いがあり、サーシャはそれに応じた。
それから8年間、セリーナのヒッティングパートナーを務めたのだが、その間、セリーナはキャリアゴールデンスラム達成(2012年)、ダブルキャリアグランドスラム達成(2013年)、2度目のグランドスラム4連勝達成(2015年)と、超人的な活躍をした。
それで、
ニューヨークタイムズはこのセルビア系ドイツ人(サーシャのこと)を「セリーナ・ウィリアムズの秘密兵器」と評したが、チームの側近外からは、上半身裸の写真をやたら見せつけるサーシャを、優秀な戦略家というよりもただの筋肉自慢のボディガードと見る向きもあった。
The New York Times went so far as to dub the Serbian-born German “Serena Williams’ Secret Weapon.” But there were some outside the inner-circle who viewed the sculpted Sascha as more beefcake bodyguard than skilled strategist.
(同上のコラムより)


そんなサーシャが、なおみんのコーチに就任して1年も経たないうちになおみんを全米オープン覇者に育て上げたのだから、ある意味、なおみん以上のサクセスストーリーだ。

サーシャの国籍はドイツだが……

サーシャはドイツ生まれだからドイツ人としてドイツ国籍を持っている。おそらくアメリカでの市民権も獲得しているだろう。アメリカ国内での立場はなおみんと似ている。
ちなみにドイツは日本同様に国籍にはシビアな国だが、近年、多重国籍については条件を満たせば認めるという方向に法律改正した。
ドイツの国籍事情を知るためにあちこちネットを見ていたら、こんなブログ↓を見つけた。

New Phase「私がドイツ国籍を取得する理由」「ドイツ国籍取得の手続き」「ドイツ国籍になって、変わったこと」

淡々と書かれているのだが、なんだか感動さえ覚えてしまった。
自分には一生関係のないことだけれど、国籍ってなんだろう、○○人というアイデンティティってなんだろうということを、またまた考えさせられてしまったのだった。

サーシャは生まれ故郷のドイツを離れてアメリカで自分のキャリアを向上させるために努力してきた。一部のテニス関係者からは「セリーナにくっついている筋肉野郎」みたいに見られていた。でも、彼の本領はムキムキボディではなかった。
彼のツイッターを見ると、なおみんを心から大切に思っていることがよく分かる。本当にいい出会いだったねえ。

冒頭で紹介したコラムの最後には、サーシャがなおみんをどう見ているかがよく分かるコメントが紹介されている。
大坂はテニス界でも有数のへんてこキャラクター選手としてファンを魅了する。脚光をあびるのにまだ慣れていない少女らしさ、新鮮さを持っている。
(略)
バジンは言う。「僕は彼女のこの純粋無垢さ、慎ましさといった、弱肉強食のプロテニス界においては得がたい魅力を守り抜くためならなんでもするよ。僕たちはもっとオープンに、正直になれる。ときには本当の自分、弱ささえも見せあおう。そうしていくことで、僕らを取り巻く世界ももっとよくなっていく。見せかけの、いんちきな気持ちはいらない。彼女はまさに、その意味で真のスターだと思うから」
Osaka has endeared herself to fans as one of tennis’ quirkiest characters; a young-in-age/young-at-heart breath of fresh air who’s still growing accustomed to life in the spotlight. Cue up her trophy speech in Indian Wells if you need evidence of her lack of PR polish. Bajin says he’ll do all he can to preserve that sense of innocence, that shyness, something of a rarity in the sometimes dog-eat-dog world of professional tennis.

“I believe the more open we are and the more honest we are and show vulnerability sometimes and who we truly are, the better this world is just going to be,” he said. “And all the fake emotions, I'm not a fan of it. I believe that she's a star for that.”


なおみんの家族やチームは、ほんとに魅力的な人たち(ある意味変わり者)ばかりで、存在そのものがエンターテインメントだ。願わくば、この魅力がこれからも続きますように。

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