PCR「検査をさせない」厚労省の大罪2020/02/25 19:31

なぜ日本ではPCR検査を「させない」のか?
なぜそれをメディアはもっと追及できないのか?

厚労省のサイトでPCR検査の総数データを確認して、あまりのことに驚いた。
「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年2月21日版)」を見ると、
国内事例(2.チャーター便帰国者を除く)
・患者69例、無症状病原体保有者10例
・2月20日18時時点までに疑似症サーベイランスおよび積極的疫学調査に基づき、計693件の検査を実施。そのうち69例が陽性。559例が陰性、65例が結果待ち。
・上記患者のうち入院中52名、退院16名、死亡1名。
・無症状病原体保有者10名は入院中または入院予定。
……とある。
なんと、21日発表の時点で、国内でのPCR検査総数はわずか693件なのだ。
累計693件の内訳を日にちごとに見ると、 2/17=487人、2/18=523人、2/19=532人、2/20=603人、2/21=693人……となっていて、1日あたり9人~90人しか検査していない。
↑図は24日、25日放送の「羽鳥慎一モーニングショー(テレ朝)」の放送画面より。以下すべて同)

加藤厚労大臣が「2月18日からは1日3000件規模に検査体制を拡大する」と言ったが、実際にはこの数字は厚労省が委託可能な検査機関のPCR検査能力総数であり、COVID-19を検査する能力ではなかったというのだ。
↑1日3000件台という数字もあまりに呆れた数字だが、それがCOVID-19の検査能力ではなかった↓というトンデモ



しかも、さらに怖ろしいのは、翌22日からは、この「検査総数○○のうち感染者数は……」という方式のリポートがなくて、
本日(2月22 日)、熊本市、熊本県、和歌山県、千葉県、北海道、石川県、東京都、名古屋市、栃木県及び相模原市より、今般の新型コロナウイルスに関連した感染症について27 名の陽性者(患者22 名、無症状病原体保有者2名及び陽性確定3名(症状の有無等調査中))が、以下の通り報告されましたので、ご報告いたします。
今回の公表で、国内感染者は132 名(患者113 名、無症状病原体保有者16 名、陽性確定3名)となります。
本件について、濃厚接触者の把握を含めた積極的疫学調査を確実に行ってまいります。
(略)
※なお、自治体の公表資料の内容が当省の公表基準に合致しない場合には、当省の公表基準に合わせて公表することとしている。
という報告になり、検査総数が記されていない。
これが単に、データ集計が間に合わないということならまだしも、意図的に検査総数(累計)を隠し始めたのであれば怖ろしいことだ。
特に「自治体の公表資料の内容が当省の公表基準に合致しない場合には、当省の公表基準に合わせて公表する」とは具体的にどういうことなのか?

……とここまで書いて、録画してあった「羽鳥モーニングショー」を後から見たら、さらにとんでもないことが分かった。
番組が厚労省に「なぜこんなに検査数が少ないのか?」と問い合わせたところ、厚労省は、

「検査する自治体から報告いただいていない可能性がある」と答えたというのだ。

そんなことがありえるのかと、いくつかの自治体に問い合わせると、みな「即座に報告している」と回答した。
一例として、和歌山県の場合は、県内でのPCR検査可能能力は40件/日だが、連日その数を超える検査をしていて、足りない分は大阪府などに依頼しているという。
これが三重県となると、連日1桁しか検査していない。
↑三重県のPCR検査能力は24件/日で、実際に検査している数は1桁

和歌山県の40件/日、三重県の24件/日というのも、PCR検査の検査可能総数であって、他に結核とかHIVとかも検査しなければならない中での数字だろうから、実際にCOVID-19を検査できる数はもっと少ない。

要するに、COVID-19にかかっているかもしれず、どんどん重症化している患者がいるのに、病院に来られても医師は検査もできず、診断が下せず、まともな治療ができないということだ。
25日の「羽鳥モーニングショー」では、大谷義夫医師が、
私の医者人生30年間、今回ほど怖いことはない。検査できない。検査できなければ診断ができない。診断できなかったら治療もできない。何にも始まらない。実際、(保健所や民間検査会社に)頼んでも検査していただけない状態。それが非常に怖ろしい」
と、振り絞るような声で訴えていた。
それを如実に物語る例として番組で紹介されたのが、都内の9歳の児童(4人兄弟の長男で母親は30代)のケース。
2月16日に発熱。厚労省のガイダンスに従い、38度以上の高熱が続いても4日は受診せずに自宅で我慢させ、4日経過した19日の時点で「帰国者・接触者相談センター」に電話。近所の小児科を受診せよと言われて小児科医を受診するが、薬は出たが翌日も熱が下がらず、21日に大学病院へ。しかし、その大学病院でも「うちでは検査できない」と医師に断られる。しかたなく自ら保健所に電話して検査してほしいと訴えるが、保健所は「検査基準を満たしていないのでできない」と断る。結果、自宅で発熱したまま9日が経過。24日夜の時点で番組が確認した時点でもまだ熱は下がっていないという。
町医者~大学病院~保健所と、すべてに「検査はできない」と断られ、自宅で熱を出したまま9日目に突入した都内の9歳児のケース

さらにもう1例、都内の妊娠7か月の20代女性の例。16日から咳が出て、22日から38度の高熱が出て産婦人科医に相談。産婦人科医から「COVID-19の疑いがあるので検査したい」と保健所に連絡するが、保健所からは「感染者との濃厚接触の事実が確認できないのですぐには検査できない」と断られる。


これらの事例を知って、改めて前日の同番組の放送でサラッと触れられていた問題がずっと引っかかっていたので、考えてみた。

「指定感染症」にしたことでかえって診療が進まない?

新型コロナウイルス感染症は「指定感染症」になったが、指定感染症は原則、確定診断されると「感染症指定医療機関」のみで診療することになる。
しかし、国内に「感染症指定医療機関」は多くない
24日の放送では神奈川の例が紹介されていたが、神奈川での指定感染症に対応できる医療機関は8医療機関・74床。
そのすべてをCOVID-19関連で埋めるわけにはいかないので、すでに「原則」を超えた対応(「緊急およびやむを得ない場合」に相当すると判断)をしている。

その結果、神奈川県内では指定医療機関以外の34医療機関が対応し、

すでに「重症者を含む183人がその34医療機関に入院している」というのだ。

それでも間に合わないので、県では毎日他の医療機関にも「受け入れられないか」と問い合わせしているという。

指定医療機関から溢れた患者が183人もいて、重症者が含まれているというのだが、この人たちは全員がPCR検査で陽性が出た人たちなのだろう。ダイヤモンドプリンセス号が着岸した横浜を抱える神奈川県だから、おそらくその関連だけでこういうパンク状態なのだろうとは思うのだが、当然、すでにこんなに溢れているのだから、これから市中感染の人たちが続々と出てくるとまったく対応できない。
感染していようがいまいが、軽症者は病院で受け入れたくない。受け入れられない。
となると、感染が確認された人が大勢自宅で様子見ということになり、庶民が動揺する。
そういう事態を恐れて、とにかく「感染確認」の数を減らしたい。そのためには検査しないに限る……そういう論理が政府や厚労省内で共有されているのではないか?


ところが、厚労省は今もなおこんなことを言っている↑というのである。
市中感染は稀なケースである。検査可能な数が不足している認識はなく、専門家会議でも議論になっていない

そんなふざけた嘘が通用するわけはないだろうに。
2月8日に国立感染症研究所 戸山庁舎で行われた「新型コロナウイルス感染症への対応に関する拡大対策会議」の議事録には、こんなやりとりが記録されている。
  • 愛知医科大学客員教授・森島恒雄:PCR で対応できる、検査数の実際の量はどのくらいか
     ⇒ 計算上 3726 検体/ 日となっているが、現実可能な数字ではない。今後症例が増えていけば、検査機関が増えていく可能性、必要性がある。
  • 国内蔓延期となれば、指定医療機関の指定が外れていくのか
     ⇒指定医療機関ではより重症な患者を診療することになる
  • かわぐち心臓呼吸器病院院長・竹田晋浩(しんひろ):重症な患者が発生した場合に、現在感染症病棟や結核患者病棟があるような指定病院では、患者の治療が困難な場合があると思われるが、どのように患者の移動をするのか、また誰がそのコーディネートを行うのか
     ⇒現状では感染症指定医療機関で診療することになるが、今後重症度の高い患者が出た場合には、より高次医療機関へ搬送する必要がある。その場合には各病院や、都道府県知事がリーダーシップをとる必要があり、また政令の整備が必要である。
    議事録より)

8日の時点で、厚労省の中でもこうした議論は当然出ていたわけだが、それから2週間以上経っても具体的な対策がなされていないのだ。

他にも、感染者数を小さくしておきたい理由の一つに東京五輪開催への影響懸念があるのだろうということも察しがつく。だとしたら、日本国民は東京五輪によって危機にさらされているともいえる。

ちなみに「感染者数が急増した」とテレビが一斉に報じている韓国では、2月24日9.00の時点での検査総数は28615件、25日6.00時点では36716件と発表されているので、1日で8101人を検査したことになる。
中国では2月13日に感染者数の発表数字が突然跳ね上がったが、これは「PCR検査の結果で確定診断していたのを、肺のコンピューター断層撮影装置(CT)による画像検査の結果、肺炎の症状が認められれば、新型肺炎と診断されることになった」からである。
武漢市では医療体制がまったく追い付かず、治療どころか検査を受けるまでに相当な時間を要して悪循環を招いていた。
2月に入り2つの重症者向け病院が超突貫工事でオープン、公共施設が次々に軽症者向け病院に変わり、1日1万人の検査が可能な「火眼ラボ」も稼働を開始した。
各地から2万人の医療スタッフが武漢入りし、医療体制が拡充したタイミングでの、今回の判定基準の変更と感染者・死者数の増加は、「グレーだった人が黒に変わり、治療を受けられるようになる」というポジティブなメッセージにも受け取られたのである。
「2秒で感染、24日潜伏、節目は2月20日…中国の専門家が指摘する新型コロナウイルスの本当に重要な数字とは」浦上早苗 BUSINESS INSIDER
つまり、中国は検査体制が追いつかず、感染者の実数が分からないので、PCR検査をせずとも肺炎症状がある患者は感染していると判断するようにしたのだ。
一方、日本の厚労省は21日以降は検査数の発表をしていないようだ。

こうした日本政府のやり方を、世界は見てしまった。
中国はこうしている、韓国はこうしている、で、日本は……と、世界が知ってしまった
このことによる日本という国の信用失墜は計り知れない。


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「若年層は風邪程度で済む」説は本当なのか?2020/02/26 02:10

北海道の20代女子学生が急速に重症化し、人工呼吸器をつけ、話もできない状態になっているというニュースに日本中がざわついている。
それまでは、若年層は感染しても重症化しないと言われていたからだ。
他にも、若年層の感染例は複数報告されている。2日前あたりから、本当に「若ければ感染しても平気」なのか? と疑問に思い、情報を追いかけていくうちに、非常に興味深いことにぶつかったので、忘れないうちに書き留めておきたい。
なお、ここに書くことは自分の備忘録的な意味合いが強く、情報源の正確性はかなり怪しいかもしれないこと、そこから推察する内容もすべて「仮説」であるということを最初にお断りしておく。

短期間での再感染もありうる?

まず最初にギョッとさせられたのは⇒この記事(コラム?)だ。
この話の情報源は⇒これ(台湾英字新聞の記事)「Exclusive: Chinese doctors say Wuhan coronavirus reinfection even deadlier」
要約すると、
  • COVID-19は一度感染して回復しても作られる抗体が弱く、再感染することがある。
  • 再感染すると心臓がやられて急死することがある。
It’s highly possible to get infected a second time. A few people recovered from the first time by their own immune system, but the meds they use are damaging their heart tissue, and when they get it the second time, the antibody doesn’t help but makes it worse, and they die a sudden death from heart failure.

さらには、
  • 潜伏期の平均は3日だが、最短で1日、最長で24日の可能性がある。
  • 感染していても感染検査で陰性が出てしまうことは普通にある。CTスキャンで両肺が感染しているのに、感染検査で4回も陰性と出て、5回目にやっと陽性を示した例もある。
Also, the source said that false negative tests for the virus are fairly common. “It can fool the test kit – there were cases that they found, the CT scan shows both lungs are fully infected but the test came back negative four times. The fifth test came back positive.”
……という。

北海道の20代女性のケースは、おそらく巷で言われているようにサイトカインストーム(免疫系の暴走で普通の細胞まで攻撃してしまい、致命的になる)なのだと思うが、一説にはサイトカインストームは若い人ほど起きやすいという。であれば、「若いから風邪程度で済む」とはいえなくなってきた。

アジア人が重症化しやすい?

次に、COVID-19の感染者が重症化する度合は人種や地域によって異なり、日本人と中国人が最もハイリスクである、という説が出てきた。
情報元は⇒これ
biorxiv.orgという科学論文の内容を発表前に試験公開して意見を募るサイトに載った論文が元になっているという。
これによれば、
  • COVID-19はSARSと同じACE2という受容体(レセプター)を使って細胞に入り込む。
  • ACE2レセプターの数は人種によって異なり、東アジア人はヨーロッパ白人系(コーカソイド)より危険、男性のほうが女性より危険、喫煙者のほうが非喫煙者より危険といえる
East Asians, Japanese, and Han Chinese are the most likely people to become severely sick by the coronavirus with a chance of more than 90% when exposed. Europeans only rank in the 50%, Africans in the 60% range, and considered low to medium. It also makes a difference if one is a smoker or non-smoker.

さらに、人口密度による感染しやすさを考慮すると、東京に住む日本人は最もハイリスクな人たち……ということになるらしい。
High risk 90%-99%
Japanese in Tokyo, Japan
Southern Han Chinese
Kinh in Ho Chi Minh City, Vietnam
Han Chinese in Bejing, China
Chinese Dai in Xishuangbanna, China

これはあながちデタラメな論とはいえない。というのも、SARSのときも、感染者数は人種や地域によって著しく異なっていたからだ。
ただし、今回と違うのは日本ではSARSの被害がほぼゼロだったということ。同じ東アジア人なのになぜ? となるわけだが、それはACE2受容体という要素だけでなく、数万種あるHLA型(白血球の型)に関係していたからだという研究を台湾の医学者らが報告している。
この研究によれば、SARSの場合は、HLA型がHLA-B46、HLA-B54(中国南部、香港、台湾に多い)に感染し、HLA-B46のみ重症になるということらしい。
で、このHLA-B46型は日本人では少ないので、SARSのときは中国系の人たちが感染したのに日本人での感染者がいなかったという説。実際に日本人の感染者はゼロだったし、人種によって極端な偏りがあったことは事実(データに残っている)なので、今回のCOVID-19でもHLA型が何型なのかというのは重要な追跡調査テーマだろうと思う。
(そのへんの話は、⇒こちらのnoteを読んだのが最初で、そこからいろいろ調べるに至った。その話の続編もすでにUPされている)

HLAの研究においては、猪子英俊氏(京都大学 iPS細胞研究所特任教授、東海大学名誉教授、現ジェノダイブファーマ株式会社代表取締役)が第一人者のようで、⇒この記事がとても興味深かった。

楽観論は完全撤回して身構える

ともあれ、ここにきて「新型コロナウイルス感染症は風邪のようなもので、インフルエンザとあまり変わらないから恐れる必要はない」とか「重症化するのは年寄りや基礎疾患を持つ病人だけ」といった当初の楽観論は、一旦撤回したほうがよさそうだと分かってきた。
最悪のケースを想定して身構える必要がある。
数か月して「なんだ、やっぱり大したことなかったじゃないか」となればいちばんいいのだが、どうもそうはならないような様相を呈している。
感染症の専門家たちが日増しに悲壮な表情になっている。

感染者の死者数が極端に増えなかったとしても、今の状況だと、日本が一気に疲弊していくのは間違いなさそうだ。


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深刻すぎる「和泉・大坪問題」2020/02/29 01:44

岡田晴恵教授の「告発」

今日(2月28日)の「羽鳥慎一モーニングショー」で、白鴎大学の岡田晴恵教授(元・厚生労働省国立感染症研究所ウイルス第三部研究員)が悲壮な表情で重大発言をした。
この発言の前に、いつも適確な指摘をする玉川徹氏が、PCR検査が保険適用になればすべての医療機関から民間の検査施設に直接検体を送れるような、ちょっと勘違いな解説を延々としていたので、まずそこを指摘しておきたい。
PCR検査が保険適用になるだけでは事態は全然解決しない。保険適用になっても、検査の依頼が保健所を通してという馬鹿げたシステムのままだったら、入り口が閉じられていることは変わらず、検査数は増えないまま、今は国が負担している検査費用の一部を患者が自分で負担するだけのことになってしまう。
司会の羽鳥氏もそのことを分かっていて、指摘しようとするのだが、玉川氏の熱弁が終わらず、その問題が視聴者に伝わらないままだった。
その間、岡田教授はずっと悲壮な表情をしていた。これから言おうとすることを、本当に言っても大丈夫かどうか、ずっと悩んでいたのだろう。
岡田教授は玉川氏の熱弁が一区切りしたのを見計らい、どこか怯えたような口調でこう切りだした。
私は、あの、プライベートなことはあまり言いたくないんですけど……中枢にある政治家の方からも「こういう説明を受けたんだけど、解釈、これでほんとにいい?」という電話がかかってくるんですけど……まあ、複数の先生方、正直言いまして、クリニックから直接かってことについては、ちょっと待ってくれって言われているんです。だからそれ(PCR検査を他の検査のようにクリニックから直接民間検査会社に出せるかどうかということ)はまだ分からない。
↑これは、玉川氏がその問題にまだ気がついていないことを指摘した「前置き」部分。
注意したいのはこの「先生方」というのは中枢にある政治家(自民党厚労族議員?)の「せんせい」という意味。それも一人ではなく複数だという。
以下のことは、この「先生方」から直接聞いた話として吐露された。
要約するとこうなる。
  • 私は今まで、検査させないのは東京五輪などの巨額な経済事情絡みで、「汚染国」のイメージをつけたくない。そのためには感染者「数」を増やしたくないからなのかと思っていた。
  • しかし、思いきって(自分に意見を求めてきた政治家に)そうぶつけてみると、「ハハハ」と笑いながら「そんな、数をごまかすほど肝が据わった官僚は今どきいません」と。(そうではなく)これは「テリトリー争い」なんだ、と。
  • 要するにこの(PCR検査の)データはすごく貴重で、感染研がそのデータを独占したいと言っている感染研のOBがいる……と。そこらへんがネックだった、と。
  • 各地の衛生研から集まってくるデータは全部感染研で掌握する(しかし、民間に出してしまうと独占できなくなる……という意味)
  • それを聞いて私が思ったのは、そういうことはやめていただきたい、と。
  • 初動が遅れたのは感染検査データが取れなかったから。研究がどうの論文がどうのではなく、人命を救うという感染研の元々の使命に立ち戻ってほしい。

↑岡田教授の、ある意味命がけのこの「告発」を聞いて、スタジオ内はしばし静まりかえった。

要するに、国立感染研究所と政府を結ぶルートに、検査データを民間機関に出したくない、独占したいと強くごり押しする人物(複数)がいるから、ここまでひどいことになったのだ、というわけだ。
しかもこの期に及んで、その勢力はCOVID-19のPCR検査をするためには保健所~自治体の保健衛生部を通させようとしている、と。
保健所や自治体を通さなければ検査に出せないのだとすれば、入り口は固く締まったままなので、民間検査会社を入れようが保険適用にしようが検査数は増えないし、検査のタイミングはどんどん遅れてしまう。
そんな馬鹿なことがありえるのか? と、常人なら誰もが思うわけだが、実際、それと同じことを上昌広医師も前々から言っている。
私は、政府機能を強化することで、感染症対策が上手くいくようになるというのは、何の根拠もない仮説に過ぎないと考えている。むしろ、現状を把握してない政治家・官僚、さらに有識者の権限が強化されることで、被害は増大すると予想している。

厚労省はクリニックでも診断できる簡易キットの開発にご執心で、感染研に予算措置した。確かに簡易検査はあれば便利だが、開発されるまで待つなど、悠長なことは言っていられない。
(「遺伝子検査行う体制作り急げ」2020/02/25)
私は厚労省と国立感染症研究所の内輪の都合が優先されていると考えている。
今回の新型コロナウイルスの流行では、検査だけでなく、治療薬やワクチンの開発も国立感染症研究所が担当するそうだ。巨額の税金が研究開発費として投じられるだろう。
長期的な視野に立つ基礎研究ならともかく、早急な臨床応用が求められる創薬や検査の開発は、メガファーマや検査会社の仕事だ。「研究所」では彼らと競争できない。なぜ、安倍政権は、民間に競争させず、国立の研究機関に独占的に業務を委託したか、「国民の命より、官僚の都合を優先した」と言われても仕方ないのではないか。
私は、新型コロナウイルス対策の迷走の責任は厚生労働省にあると考えている。多くの官僚は真面目に業務に励んでいる。ただ、その方向性が間違っており、利権も絡む
「なぜ厚労省は大がかりなウイルス検査をこれほどまでに拒むのか」文春オンライン 2020/02/14)

ここまで見てきても、やはり我々一般人には理解を超えた非常識、不条理に思える。そんなことがあっていいのか、と。
しかし、これを裏付けるような話は以前からいろいろ漏れてきている。
27日の衆院予算委員会で、立憲民主党の川内博史議員の質問で驚きの事実が発覚。25日に厚労省の研究機関「国立感染症研究所」から北海道庁に派遣された3人の専門家が「検査をさせないようにしている疑念がある」と指摘したのだ。
道の対策本部に派遣された3人は、政府が策定した基本方針に記載のある〈入院を要する肺炎患者の治療に必要な確定診断のためのPCR検査〉の実施を必要以上に強調。暗に、「軽症の患者は検査するな」との意向をにおわせ、道職員や保健所職員の間で「検査し過ぎてはいけないのか……」という空気が生まれているという。川内議員は道議会議員から聴取した内容だと明かした。
「新型コロナ感染者急増の北海道で厚労省“検査妨害”発覚 政権に忖度か」日刊ゲンダイDigital 2020/02/28

想像を絶するほど深刻だった「大坪問題」

国立感染研と厚労省、厚労省と政府……ここにどんな利権問題が生じるのか、という疑問が当然浮かんでくるが、これもいろいろな記事が出てくる。
大坪氏が昨年7月に異例のスピード出世で厚労省審議官に抜擢されたのは和泉氏が強引に大坪氏を推した結果だといわれているが、不倫デートを楽しんだ京都大学iPS細胞研究所への出張では、和泉氏と大坪氏の2人がノーベル賞受賞者の山中伸弥所長に対して、来年から山中所長の取り組むプロジェクトに「国費は出さない」と言い放ち、大坪氏が「iPS細胞への補助金なんて、私の一存でどうにでもなる」と恫喝していたことがわかっている。この予算カットは、文科省が反対していたものを和泉氏が後ろ盾となるかたちで大坪氏が強硬に主張したものだ。

「健康・医療戦略室」は室長が和泉首相補佐官、厚労省の大坪氏が次長を兼任する、まさに不倫関係の舞台となってきた部署だが、もともとは、安倍政権が成長戦略のひとつとして医療関連産業の育成を掲げ、2013年に内閣官房に設置したもの。ただし、厚労省、文科省、経産省が支援する医学研究予算を集約させて効率的に配分するためには専門性と効率性が必要だとし、「健康・医療戦略の司令塔」として独立行政法人日本医療研究開発機構(AMED)を発足させた。 今年1月9日、そのAMEDで理事長や専門委員、さらに大坪氏らも参加するかたちで、第10回AMED審議会が開かれたのだが、ここで委員や理事長から飛び出したのが、大坪氏の独断専行への批判だった。
(「“安倍側近の不倫コンビ”和泉補佐官・大坪審議官の新疑惑を政府機関理事長が告発! 感染症研究などの予算80億円を自分の担当事業に投入」 Litera 2020/02/13)

この記事では、2020/01/09に独立行政法人日本医療研究開発機構(AMED)の審議会で噴出したAMEDの委員や理事長の「告発」が、議事録から抜き出す形で紹介されている。
まとめるとこんな感じだ。
瀧澤美奈子・専門委員(科学ジャーナリスト):「(「週刊文春」が報道したiPSのストック事業にストップをかけた件に言及し)こんな手続が許されているなら、今日のこのような会議も全く無意味ではないかと思います」
官邸主導の御旗を振りかざして予算や人事を握って一部の人間が行政をゆがめているのではないかという疑いが国民の間で今、広がっております。その説明責任をしっかり果たしていただかないと、この会議自体も全く無駄なものになると思います」

末松誠理事長:「昨年の7月以降、実質的にはそれより前から始まっていたかもしれませんけれども、大坪氏が次長になられてから、我々のオートノミー(自立性)は完全に消失しております
「事はiPS細胞ストック事業の問題だけではございません。健康・医療戦略室のイニシアチブのおかげでAMED発足してから最初の3年間あるいは3年半は非常に順調な運営ができたというふうに自分自身でも思いがございますけれども、各省の予算のマネジメントに関する相談等は全部健康・医療戦略室を通してやるようにということと、担当大臣とか政治家の方々とコンタクトをとるなということを大坪次長から言われております。その証拠も残っております」

ここで末松理事長は、それまで使われることのなかった「トップダウン型経費」に昨年末初めて88億4000万円が配分された問題を取り上げようとして、AMED審議会会長の田辺国昭氏に遮られてしまった。
この「トップダウン型経費」のほとんどにあたる約80億円が厚労省の「全ゲノム解析実行計画」に使われることが、大坪氏の独断で決まったことへの抗議だったという。
「全ゲノム解析実行計画」というのは、厚労省ががんと難病の患者を対象に、すべての遺伝情報(ゲノム)を網羅的に調べ、創薬などに活かそうというもの。医療産業に国際競争力をつけるという意味では重要だが、感染症対応のような緊急性や画期的な成果の発見があるわけではなく、「トップダウン型経費」の趣旨とはまったく違う。
にもかかわらず、こんな不可解な予算のつぎ込み方がされたのは、ほかでもない、この「全ゲノム解析実行計画」の厚労省での取りまとめ役が大坪氏だったからだ。つまり、大坪氏は自分の省庁での担当のプロジェクトに金を優先的につぎ込むため、本来の使途を歪めるかたちで予算を充当しようとしていた。末松理事長はそのことを告発しようとしたのである。
同記事より)

他にもある。
問題とされているのは、和泉首相補佐官が国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の理事、執行役および経営企画部長を自らの執務室に呼びつけた上、自分の言うことと、内閣官房健康・医療戦略室の大坪次長の言うことを聞いてうまくやらなければ、人事を動かす、具体的には、「所管府省からの出向ポストを他の府省に振り替えるぞ」といった類いの「恫喝(どうかつ)」をしたというもの。
和泉首相補佐官が問題なのは「不倫」よりも国家公務員幹部人事への専横ぶりだ DIAMOND Online 2020/02/25)
で、この和泉首相補佐官と大坪審議官の関係はすでに有名になったが、大坪審議官はあろうことか今回大問題となったダイヤモンドプリンセス号対応問題では現場で勝手な行動を繰り返して現場のDMATメンバーらから総スカンを食っていたことも分かっている。
(乗船した)医師は、大坪氏が船内で起こした2つの問題行動についてこう証言する。
「作業場であるサボイ・ダイニングは左右に分けられており、右側は食事可能エリア。一方、左側の作業エリアでは、感染対策で飲食ができないルールになっていました。しかし大坪さんは、作業エリアにもスイーツやコーヒーを持ち込み、『美味しい』と言いながら堂々と飲み食いしていたのです。あるときその様子を見咎められ、全体ミーティングで『作業エリアで喫食しないように』と改めて注意喚起がありました」

「基本的に船内では常にマスクをしていなければなりません。外しても良いのは、着席して食事を摂るときくらいです。しかし大坪さんは、マスクをしていない姿がしょっちゅう目撃されています。そのため、こちらも全体ミーティングで看護師から『マスクをしていない人がいる。着用を徹底するように』と注意がありました」
マスクをしていない姿が……大坪寛子審議官が「ダイヤモンド・プリンセス号」で問題行動 文春オンライン 2020/02/26)
大坪氏の経歴を見ると、
  • 1992年 - 東京慈恵会医科大学医学部卒業
  • 2007年 - 国立感染症研究所血液・安全性研究部研究員
  • 2008年 - 厚生労働省入省
  • 2008年 - 厚生労働省医薬食品局血液対策課配属
  • 2009年 - 厚生労働省健康局結核感染症課配属
  • 2010年 - 厚生労働省医薬食品局血液対策課配属
  • 2011年 - 環境省総合環境政策局企画課特殊疾病対策室配属
  • 2011年 - 環境省総合環境政策局企画課石綿健康被害対策室配属
  • 2012年 - 環境省総合環境政策局企画課特殊疾病対策室室長
  • 2013年 - 厚生労働省医政局総務課医療安全推進室室長
  • 2015年 - 内閣官房健康・医療戦略室参事官
  • 2019年 - 厚生労働省大臣官房審議官危機管理、科学技術・イノベーション、国際調整、がん対策、国立高度専門医療研究センター担当)
……となっている(Wikiより)
「大坪氏は『大臣や政治家と勝手にコンタクトを取るな』とか『すべて健康・医療戦略室を通すように』などともAMEDに通告したそうで、さすがに自民党内でも『やり過ぎだ』と問題になった。和泉補佐官と大坪氏、どちらの意向なのかはハッキリしませんが、その独断専行ぶりは、関係者の間で“大坪問題”と呼ばれています」(自民党厚労族議員

野党は和泉補佐官の国会出席を要求し続けているが、与党は官邸に忖度して却下。
研究者は“大坪問題”と…新型肺炎にも影落とす独断専行ぶり 日刊ゲンダイDigital 2020/02/13)

和泉補佐官の名前がスキャンダラスな形で表に出てきたのは今回が初めてではない。3年前のことを忘れてはいけない。
和泉補佐官が最初に前川氏に対し「文科省の対応を早くしてほしい」と求めたほぼ同じタイミングの昨年9月6~7日、加計学園の加計孝太郎理事長が松野博一文科相、山本幸三行革担当相と会っている。文科省の現場は陰に陽に「加計学園獣医学部新設」の圧力を感じていたに違いない

和泉補佐官は9月15日に安倍首相と面会している。これは国家戦略特区WGで「獣医学部の新設」に関するヒアリングが行われ、冒頭、事務局の藤原豊審議官が〈総理からも(略)提案課題について検討を深めようというお話もいただいております〉との発言が飛び出した日の前日だ。
9月26日には内閣府審議官と文科省担当課長の打ち合わせが行われ、内閣府の参加者が〈「できない」という選択肢はなく〉〈官邸の最高レベルが言っている〉と発言したメモが残っている。翌27日には官邸で前川氏と松野文科相が安倍首相と面会しているのだが、おそらく前川氏はあらためて「難しい」と説明したのだろう。そこで、和泉補佐官は再び前川氏を呼び出したという流れだ。
(略)
和泉補佐官は国家戦略特区諮問会議が開かれる2日前の11月7日にも安倍首相と面会。これは、「文科省と話はついた」との報告に出向いたとみられる。つまり、前川氏に対する2度目の“恫喝”で加計学園の獣医学部設置は決まったとみていい。
安倍首相の“影武者” 和泉補佐官が加計学園をねじ込んだ日 日刊ゲンダイDigital 2017/06/01)


結論(もちろん推論だが)は書かない。
しかしまあ、これだけ並べていけば、多くの人は「……そういうことなのか……」と想像はつくだろう。
普通の国だったら、モリカケのときにとっくに吹っ飛んでいたはずの政権、権力機構が、その後も公文書改竄や廃棄という国家を根底から崩壊させるような犯罪、子供でも分かるような嘘を続けてきた。
それを許してきた国民……。

今日読んだこのコラムの結びは、まさに! と思わされた。
少なくとも現状の日本では「民主主義」が機能しているのだから、政治家を罵倒しても、その政治家を選んだのは自分たちであって、意味がない。
もし権力の有効なコントロールを私たちが実現できなければ、「専制と民主のどちらが優れた仕組みなのか」という議論に対して、有力な判断材料を提供することになるだろう。「社会の信頼感や人々の善意という前提の上に、まがりなりにも繁栄してきた『日本という仕組み』」が、果たして生き永らえることができるのか、今回、その答えが出てしまうことになるかもしれない。
そうだとするならば、われわれ日本人としては、国家の強権なしでも個人や民間の自律性によって悲惨な事態の発生を抑え込み、世界に見せてやるという気概を持つべきだ。これは民主国家日本国の興廃を賭した闘いになる。
「スジ」の日本、「量」の中国 田中 信彦 日経ビジネス 2020/02/28)

↑この人はなんとかきれいに結んでいるが、原発爆発のときから何も変わっていないどころか、どんどん劣化していることを見れば、今さら無理だろうと思う。
結局のところ、モリカケのときにいい加減に放置して「法治国家崩壊」を止められなかったことが致命傷になっている。国家の秩序と倫理観を破壊するやっかいな因子を根絶し、増殖を止められなかったために、社会秩序の崩壊パンデミックが起こり、ここまで国が壊れてしまったといえるのだろう。


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