田舎暮らし初心者が陥りやすい失敗2021/01/14 16:15

地方移住のススメ(3)

私が田舎物件を探し始めたのは30代からですが、この30年で大きな災害に2度遭遇し、その度に新たな物件探しをして移住したので、実際に現地に足を運んで見て回った田舎物件は100物件はあるでしょう。データを見て検討した数を入れれば1000件近いかもしれません。
また、実際に都会から田舎に移住して暮らしている人たちとも数多く交流してきましたので、都会人が田舎暮らしに抱く幻想や、その幻想・錯覚から生まれる失敗もいろいろ知っているつもりです。
ここでは、そんな私が知っている「田舎暮らしの失敗例」や「田舎不動産物件探しの注意点」をまとめてみます。

土地だけの物件はどんなに魅力的でも諦める

 最近、コロナ禍で観光地などに遊びに行くことが難しくなり、都会の人たちが自分専用の遊び場として「山」を買って「Myキャンプ場」を持つことが流行っている、などとテレビで報道されているのを何度か見ました。
 「山を買った人たち」が楽しそうにキャンプしたり、バンガローもどきのようなものを作って「ここに住めるようにします」なんて言っている絵作りをして、「こんな生き方も夢があっていいですね」なんてナレーションをかぶせるわけですが、少しでも田舎暮らしを経験した人が見れば「だみだこりゃ~」です。
 そもそもよく聞くと、買ったのは「山」丸ごとではなく、山の中の狭い土地で、周囲は他人の土地だったりします。そのうちに隣接する土地の所有者や現地の住民たちとトラブルを起こすんじゃないかなと心配します。「そこはうちの村の里山だ。何を勝手なことしている」などと怒られないといいのですが。
「この土地、300坪で150万円でした。この車より安かったです」なんて自慢している人を見ると「バカじゃないの」と同情してしまいます。ただの山の中の300坪なんて、ほとんど値段がつくようなものではないのです。
 すぐに飽きて、あるいは虫に刺され、ヒルに血を吸われ、猪や鹿に荒らされているうちに飽きてしまい、放置することになるでしょう。
 150万円あるなら、10万円かけた贅沢な国内旅行を15回楽しんだほうがずっといい思い出になります。

 ……と嘲笑している私自身、かつては「山を買う」ことを真剣に考えた時期があります。
 越後の280万円の家を買う前、宮城県の丸森町にある山一つを見に行ったことがあります。確か価格は1200万円くらいでした。払える金額ではなかったのですが、ローンを組んででも手に入れる価値があるかもしれないと思ったのです。
 その山は7町歩くらいあったでしょうか。どこからどこまでというのもよく分からないような代物で、本当に「ただの山」でした。広葉樹が茂る自然は魅力でしたが、まず、家を建てられそうな平坦地に入るまでの道がない。短い距離ですが、自分で道を造らなければなりません。当然、電気も水道も来ていません。電気は引いてもらえるでしょうが、水は井戸を掘らなければなりません。どちらも百万円単位の費用がかかります。
 それだけの土台作りをして、さらにゼロから建物を建てるとなると、たちまち数千万円の費用がかかります。当然、そんな金はないので、即、諦めました。

 ビンボー人にとって、買ってもいい田舎物件の第一条件は、すでにすぐに住める家が建っていること、です。

 土地だけの物件は、いくら安くても、そこに新たに家を建てるだけで千万円単位の金がかかります。田舎のほうが人件費は安いですが、資材などは都会に家を建てるのとあまり変わりません。下手すれば、資材運搬が困難で、想定外の輸送代がかかるかもしれません。
 電気はよほどの僻地でなければ電力会社が引いてくれますが、ブロードバンド回線が引けなければネットを使えず、これからの時代は生きていけません。田舎暮らしほど、ネット環境は必須なのです。
 水も自分でなんとかしなければいけません。井戸を掘るとなれば、それだけで100万円超は覚悟しなければなりませんし、掘っても水が出るかどうかは分かりません。博打です。
 ガスはプロパンガスを使えるでしょうが、プロパンガス業者がボンベを運んできてくれないような場所なら、灯油などの燃料は自分で運ばなければなりません。
 建物が建っていない土地というのは、どんなに魅力的な自然環境であっても、そこにこれから住むことは極めて難しいのです。
 もちろん、大富豪でいくらでもお金をつぎ込めるのであればすべて解決しますが、ビンボー人には「土地だけの物件」は諦めるしかないのです。
田舎物件は3種類ある
 では、すぐに住める家(もちろん中古)のついた物件ならいいかというと、そう簡単ではありません。
 田舎の中古住宅物件は、大きく分けて3種類あります。どの種類なのかによって、そこで暮らすスタイルが違ってくるのです。  その3種類とは、
  1.  古くからある集落にある空き家
  2.  バブル期にできたリゾート物件の空き家
  3.  田舎に新たに造成された新興住宅地の空き家
 の3種類です。
 田舎物件初心者は、この3種類の違いをしっかり認識することから始めなければいけません。

 まず1の「古くからある集落にある空き家」というのは、農家物件などがその代表例で、今までその土地の人が住んでいた物件です。
 私が最初に買った越後の家はこれに該当します。売り主さんは農家ではなく、地元の工務店勤務のかたでしたが、十数軒ほどの限界集落の一員としてそこに何十年も住んでいました。「ほしば」という屋号もついていて、近所の人に説明をするときは、「○○さんが住んでいた家を買った者です」と言っても通じないのが、「ほしばの……」と言えば一発で「ああ、あそこか」と理解してもらえました。その地域は「○○さん」だらけだったので、「○○さんの家」では通じなかったのです。
 こういう家を買って住むということは、その地域の一員になるということを意味します。都会から引っ越して来て何も分かっていない人、という認識はされても、そこに住み始めた瞬間から、否応なくその地域社会、集落の住民として扱われます。
 集落の自治会の細かい決まりや、土地に伝わる風習・因習にも多かれ少なかれ従わないと、摩擦を起こしかねません。
 越後の家の場合、家が集落の外れにあって、普段目に入る家は一軒だけでしたし、夏場しか住んでいなかったので、私は最後までその地域の一員という扱いは受けませんでしたが、自治会費だけは毎年払っていました(別荘の人、ということで半額でした)。
 幸い、越後の人たちは穏やかで、よそ者に対しても優しく接してくれたので、嫌な思いをすることは一度もありませんでしたが、場所によってはそう簡単ではないでしょう。
 農家物件などを購入して移住する場合は、そのへんをしっかり調べた上で、その地区の住民になった後の生き方まで覚悟を決めておく必要があります。
 これは無理にその土地の人間になれ、というのではなく、自分のポジションを地域住民に宣言し、それを受け入れてもらった上で、お互いのプラスになるようないい関係を築く努力を惜しむな、ということです。私はそういうのがかなり苦手なので、偉そうなことは言えないのですが、田舎暮らしで失敗する人の多くは、「地域社会に溶けこめなかった」ことが原因になっています。
 自然農法で自給自足の生活をしたいと思って農家物件を買って移住した人が数年で断念して引き上げた例を知っていますが、その原因は近所の人たちとの「水争い」でした。
 なんとも笑えない話です。

 農家物件は、不動産価値としての相場が定まりにくいという特徴もあります。都会人には信じられないほど安い値段で売りに出されている場合があるかと思えば、こんな不便な場所でこんな強気な価格? と、疑問に思う場合もあります。
 地元の人にしてみれば、ただでさえ過疎化が進んで自分の家を維持していけるかどうかも分からないのに、家を買うどころではないので、どんなに安くても買いません。つまり、地元の人には売れない物件なのです。
 一方、都会の人は、広い土地、古くても大きな家(人によっては古ければ古いほど魅力的に映る?)がこんなに安く手に入るのかと心が動かされます。価値観がまったく違うので、相場価格というものが定まりにくいのです。
 自分の価値観に合う物件が安く手に入れば幸運でしょうが、農家物件は古い建物が多く、趣はあっても、水回りや電気関係の配線などをやり直さないと使えないということがあります。
 主人が亡くなった後に売りに出された物件では、荷物が片付いていないことも多く、中には先祖の写真が壁に掛かったまま、などという物件もあります。売り主である相続人が地元を離れている場合も多く、後始末や売り主との交渉だけで嫌になるかもしれません。

 2の「リゾート物件空き家」も特殊な物件といえます。
 これはものすごく数が増えていて、長野や山梨の別荘地などは、今や空き家だらけです。日光でも霧降高原の別荘地などには空き家がいっぱいあり、家を建てるだけでも軽く数千万円かけたであろう瀟洒でカッコいいデザインの別荘が数百万円から売られています。
 中には贅沢を尽くした建物などもあり、初心者は「え? 総檜造りのこの立派な家が800万円?」などと驚くのですが、800万円でも売れない理由はちゃんとあるのです。
 まず、別荘地は林の中や山の斜面、冬は寒くて水道が凍結するような場所にあることが多く、通年居住する場合、冬場がかなり厳しいのです。それなのに都会人がかっこつけて吹き抜けや広いリビング空間などを持つ建物の設計を都会の建築士に発注するので、暖房が効かず、ますます寒い冬を過ごさなければなりません。
 また、農家物件とは違い、土地が狭く、隣の別荘との距離があまりないので、都会の住宅地とあまり変わらないような住環境といえます。
 さらには、そこに通年居住している人たちの多くは、「元都会人」であり、その土地の人ではありません。感覚は都会人のままなので、近所づきあいも、農村の空き家に移住するのとはまったく違う空気感になります。それが居心地よく、住みやすいと感じるかどうかは人によります。田舎の大らかなイメージに憧れて移住したのに、都会暮らしのときと同じようなせこせこした空気に嫌気がさすかもしれませんし、田舎特有の因習などがなく、芸術家や知的な会話ができる人もいて楽しいという人もいるでしょう。
 別荘地によっては、全戸に温泉が引かれていたり、プールやテニスコートのあるレクリエーションセンター的な建物を持っていたり、敷地内にお洒落なレストランやブティックがあったりという、一見豪華な場所もありますが、それがいいのかどうかも、よく考えてみてください。バブル期に開発されたリゾート地では、施設の管理維持が難しくなって、見た目とは裏腹に、どんどん廃墟化しているところが多いのです。
 とにかく、基本的には冬場に厳しい気象条件のところが多いので、ぜひ、真冬に見に行くことを勧めます。
 開発したデベロッパーがすでに倒産しているような別荘地もあります。管理状態が悪い別荘地では、家のそばの木が倒れたり、斜面が崩れたり、道路が陥没したり、私設水道や簡易下水道が壊れたりした場合、敷地内がすべて私有地であるため、自治体は面倒をみてくれません。全部自腹、自力で対応しなければならないこともあります。自力で手当てしようと思っても、今度は管理組合のルールがあって、勝手には修繕もできないかもしれません。それでは都会のマンション暮らしと同じタイプの不自由さがついてまわることになってしまいます。
 古いリゾート分譲地の物件が寂れて、価格が安くなるのは、それなりの理由があるのです。

 3の「田舎に新たに造成された新興住宅地の空き家」というのは、2のリゾート開発地ほどではないけれど、元は原野や野山だったような土地をデベロッパーが開発して住宅地にした土地のことです。私が今住んでいる環境はまさにこれです。
 周囲は農村で、地元の人の多くは農家ですが、私が住んでいる小さな分譲地はバブル期に造成されたもので、造成後、そのデベロッパーは倒産してしまいました。
 売り出した当初は、都会の人が投資目的で買うケースも多く、そうした不在地主の土地は今では空き地のままで、草や木が生え放題です。もちろん、地価はどんどん下がり、今では売り出したときの価格の半額どころか、一桁違う価格でも売れません。地元の不動産屋が「ただでくれると言われても、売れないし、固定資産税が出ていくだけだからいらない」というような土地も多いのです。
 1区画は100坪弱くらいで、そこに家を建てて通年居住している人たちの多くは、栃木県の他の場所から引っ越して来た人たちです。宇都宮市のような都市部は地価が高くて手が出ないけれど、このへんまで引っ込めばなんとか買える。宇都宮に通勤するのも、車で30分くらいなのでなんの問題もない。静かな環境でゆったり暮らしたい、という合理的な考え方の人たち。
 この種類の住宅地、分譲地での生活は、1と2の中間くらいの雰囲気です。つまり、昔からそこに住んでいた人たちが作る地域社会のような因習・伝統はなく、純粋な別荘地のように都会から来た人たちの社会でもない。なんともゆる~い雰囲気の土地です。
 購入を決めたときはそこまで理解していなかったのですが、結果的にはとても暮らしやすい環境でした。
 今の家は、この新興住宅地を売るために地元の個人不動産屋がモデルハウス兼自分の別荘として建てた家で、登記簿の記録を見ると、当初、2700万円の抵当権がついていました。それを融資した住宅ローン会社数社は、調べたところ、バブル後にすべて倒産していました。
 持ち主の不動産屋も倒産して、夜逃げしたようです。その後、裁判所で競売にかけられていたのを別荘代わりに購入した人がいて、その人がもてあまし気味になって売りに出したのを私たちが買ったのでした。
 地方にはこんな物件がいっぱいあります。裁判所が公示する競売物件の中には驚くような価格の掘り出し物物件が見つかることもあります。一般の人でも入札でき、ネットで会員登録(無料)すると定期的に情報提供されるので、チェックしてみるといいでしょう。

 このように、一口に田舎不動産物件といっても、どういう状況で売られている物件なのかによって、その後の対応や生活環境が大きく違ってくるということを、まずはしっかり理解してください。その上で、これから自分が望む生き方、生活スタイルに向いているかどうかを判断する必要があります。
 100%理想的な物件というのはまずないので、ある程度は新しい環境に自分が合わせていく覚悟も必要ですが、無理に合わせようとしてもストレスが溜まるだけで失敗します。



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移住先の災害時危険度を考える2021/01/14 16:18

地方移住のススメ(4)

都市部から地方へ移住する理由の一つとして、災害に遭う確率を減らしたいから、というものがあります。
大都市に住んでいるだけで、大地震などが起きたときに命を落としたり財産を一瞬のうちに失う確率は上がります。
しかし、どれだけの人がその危険度を冷静に計算できているでしょうか?
ここでは、真の災害危険度を、大きなものから小さなものまで含めて、冷徹に考えていきます。

都市部の災害危険度が高いのは明白

 最初に指摘したいのは、都市部で暮らすことの危険性が年々上昇しているという点です。
 国は、今後30年の間に、関東から九州の広い範囲で強い揺れと高い津波が発生するとされる南海トラフ地震と、首都中枢機能への影響が懸念される首都直下地震が70%の確率で発生すると予測しています(内閣府「防災情報のページ」)。
 この数字を冷静に見つめ直してみてください。東京、名古屋、大阪などの大都市圏で大規模地震が発生した場合、「仕事が」とか「学校が」とか言っていられません。人口密集地帯でライフラインが破綻すれば、間違いなく地獄絵になるでしょう。
 これからの時代、いちばんの安全要素は「空間の広さ」です。人口密度が低いこと。住居の周囲や建物の生活空間にゆとりがあること。電気や水道が止まってもなんとかしばらくは生き延びられる環境こそが最大の「保険」です。
 それは都市部では望めません。どんなにお金を持っていても、コンビニで食べ物や水を買うこともできません。豪華なタワーマンションの部屋も、一瞬にして空中牢獄のような場所になりえます。
 命を落とすことがなかったとしても、職場も、学校も、商業施設も、長期間にわたり使えません。
 そうした危険の度合いが、空間にゆとりがある地方の生活では、ぐっと低くなります。
 もちろん、目下問題になっている新型コロナウイルスなどの感染症へのリスクも、人口密度の低い地域ほど感染の確率が下がることは言うまでもありません。

自然災害に遭う確率と生き延びる確率

 中越地震で家を失った経験からは、多くのことを学びました。
 まず、地震災害については予測が不可能だ、ということです。
 前述のように、国は南海トラフと首都直下型地震が今後30年の間に70%(!)の確率で発生すると警告しているわけですが、ここ数十年に起きた大きな地震を思い起こしてみると、ほぼ「想定外」の場所で起きています。
 中越地震は2004年10月23日に起きました。最大M(マグニチュード)6.8、最大震度7という規模の地震が連続して起きたのですが、これは日本で計測震度計が震度 7を観測した初めての地震でした。
 私の家があった川口町の地震計は2,516ガルを記録しましたが、これは当時、世界最高の数値(世界新記録)です。そういう激烈な揺れが襲ったのですから、震源地ドンピシャにあった我が家が潰れるのも当然です。
↑地震で滅茶苦茶になった我が家。2004年11月5日撮影)
中越地震で家を失った記録は⇒こちら
 この地震による死者は68人でした。
 68人?
 こう言うと怒られるかもしれませんが、地震の規模に比べて奇跡のように少ないと思いませんか?
 ここで、平成に起きた大きな地震を振り返ってみましょう。
阪神・淡路大震災
   平成7(1995)年1月17日。震源:淡路島北部。震度7(当時は計測震度計の適用外。後の現地検証で震度7とされた)、M7.3
   死者・行方不明者:6,437人

鳥取県西部地震
   平成12(2000)年10月6日。震源:鳥取県西部。震度6強、M7.3
   死者:0人

新潟県中越地震
   平成16(2004)年10月23日。震源:新潟県中越地方(川口町など数か所)。震度7、M6.8
   死者:68人

新潟県中越沖地震
   平成19(2007)年7月16日。震源:新潟県中越地方沖。震度6強、M6.8
   死者:15人(直接死11人、災害関連死4人)

岩手・宮城内陸地震
   平成20(2008)年6月14日。震源:岩手県内陸南部(仙台市の北約90km)。震度6強、M7.2
   死者・行方不明者:23人(内、宮城県内が18人。岩手・秋田軒が各2人、福島県が1人)

東日本大震災
   平成23(2011)年3月11日。震源:三陸沖。震度7、M9.0
   死者・行方不明者:18,428人(内、宮城県内が10,760人。死因の9割は津波による溺死)

熊本地震
   平成28(2016)年4月14日。震源:熊本地方。震度7、M6.5
   死者:273人(内、関連死が218人)

 ……これを見て分かることは、大地震における危険度=震度ではない、ということです。
 阪神・淡路大震災における死者数が多いのは、いうまでもなく神戸という大都市が被災したからです。都市部が大地震に襲われれば、火災に巻き込まれる可能性が高まりますし、建物が密集しているので逃げ場もありません。
 過疎地であれば、大地震に襲われても、命を落とす確率は都市部に比べればはるかに低いのです。
 首都直下型地震が発生したときの東京の被害は想像したくありません。南海トラフ地震でも、大阪や名古屋などの大都市での被害が大きいことは容易に想像できます。
土砂災害・水害
 東日本大震災での死者の多くは、津波に呑まれての水死です。
 津波に呑まれるという危険性は、言うまでもなく海岸に近い場所にあるわけですが、東日本大震災クラスの大規模地震で津波が発生した場合は、海岸からかなり遠くても、海抜が低い場所では水没してしまう可能性があります。
 水に飲まれて死ぬ危険性は、津波だけでなく、台風や大雨による河川氾濫でも引き起こされます。
 近年は「100年に1度の」異常気象災害という言い方が毎年のようにされています。
 大雨では、川の氾濫だけでなく、土砂崩れによって生き埋めになるという危険もあります。
 これらの危険度は地域というよりは「地勢」に関係します。端的に言えば、海岸や川、崖や斜面に近い場所は潜在的に危険なのです。
 津波や高潮の被害は海岸からの距離はもちろん、海抜で危険度がはっきり分かります。海抜50m以上ある土地で津波被害を受けることはまずありません。
 しかし、川の氾濫は海抜とは関係がありません。普段は穏やかに見える河川があふれる事態は、その土地に長く住んでいる人でもなかなか想像できません。
 また、都市部では、川がすぐそばになくても、下水があふれて浸水する被害もあります。
 2019年10月の台風19号で、川崎・武蔵小杉の47階建てタワーマンションが浸水し、全棟停電になった事例は記憶に新しいところです。643世帯、1500人以上の住民が、長期間、電気も水道もエレベーターも長期間使えず、陸の孤島状態に置かれました。
 私が住む日光市では、2015年9月の集中豪雨被害で、我が家の周囲でも川があふれて家が水没したり道路や橋が流されて通行不能になる被害が出ました。
 このときの雨は確かに凄まじかったのですが、我が家は丘の上にあるので無事でした。下を流れる川が氾濫して道路のアスファルトが剥がされ、田圃の中にまで運ばれた凄まじい光景を見たのは何日も後になってからです。
 今の家を選ぶとき、川との位置関係などまったく考慮に入れていなかったのですが、非常に重要なことなのだと痛感させられました。
我が家の近所の川も豪雨で決壊し、川沿いの道はその後1年近く不通状態だった↑
↓氾濫した水が道路のアスファルト舗装を深くえぐり取り、道の反対側の田圃の中にまで運んだ凄まじい光景(2015年9月)

 異常気象という言葉があまりにも陳腐になってしまった近年、この程度の災害はいつどこで起きてもおかしくありません。
 移住先の物件を選ぶときには、最低限、海岸、川、斜面からは離れている物件を選びましょう。また、いざというときの避難路が十分広く、周囲に建物が密集していない立地を優先させてください。


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中古住宅物件の選び方(1) 立地面での注意点2021/01/18 11:19

豊かな自然環境の中に住めると思ったら……

地方移住のススメ(5)

さて、ここまで地方移住の考え方として、地域選びや災害危険度についてまとめてみましたが、いよいよ個別の中古住宅物件の選び方について、私の経験をまとめてみます。
よくある「こんな物件は買ってはいけない」編ですが、すべてに満足のいく物件がビンボー人に購入可能な価格で見つかることはまずないので、多少の欠点にどう対処するかについても触れていきます。

車を使えない人は地方移住は無理なのか?

 都市部やその近郊での住まい選びでは、交通の便という要素が非常に重視されますし、不動産価格にも直接跳ね返ってきます。
 駅まで徒歩圏なのか、バスを使わなければならないのか、バス便は多いのか……といったことですが、田舎物件では、まず、電車やバスという交通手段をほぼ諦めなければならないような物件も多数あります。
 となると、車を使えない(免許を持っていない、高齢で運転が不安といった)人は田舎暮らしはハナから諦めなければいけないのでしょうか?
 ある意味そうとも言えるのですが、ここで少し考え方を変えてみましょう。
 田舎といっても、タクシーを呼べるくらいの場所であれば、車を持たない生活も不可能ではありません
 例として、地方都市郊外で、最寄り駅、あるいは大型スーパーや病院まで2.5kmほどの場所を考えてみます。
 2.5kmというのは、健脚なら徒歩30分くらいですから、歩けないとは言いきれません。しかし、雨の日も風の日も雪の日もあります。歳を取って足腰が弱ってくれば、2.5km歩くのはかなりの重労働ですし、ましてや荷物を持っていたら……。
 しかし、駅前にタクシーが常駐していて、家からでも呼べばタクシーがすぐに来てくれるような環境であれば話は別です。
 タクシー料金は地域によって違いますが、例えば栃木県では、普通車は全域で、
  • 距離制運賃 初乗運賃 1100mまで500円
  • 加算運賃 以後271mごとに100円
  • 時間距離併用制運賃※ 1分40秒ごとに100円加算
 です(2020年12月25日改定)。
 ※時間距離併用制運賃:時速10km以下になると時間を距離に換算する方式が併用される。

 神奈川県の小田原・泉地区では、
  • 距離制運賃 初乗運賃 1800mまで780円
  • 加算運賃 以後243mごとに90円
  • 時間距離併用制運賃※ 1分30秒ごとに90円加算
です。

 群馬県A地区(太田市、館林市、桐生市、みどり市など)では、
  • 距離制運賃 初乗運賃 1452mまで600円
  • 加算運賃 以後274mごとに90円
  • 時間距離併用制運賃※ 1分40秒ごとに90円加算
です。

 家から駅やスーパーなどまでの2.5kmをこれにあてはめると、栃木県(例えば宇都宮市)の場合、初乗りの1.1kmを超えて残り1.4kmを271mで割ると5.17なので、およそ6UPとなり、500円+100円×6で1100円となります。
 小田原市では1050円、群馬県A地区(例えば太田市)では、960円です。
 この中でいちばん高い宇都宮市の場合でも、往復で2200円。ひと月に5回利用すると、年間で60回。2200円×60回=13万2000円です。
 太田市だと往復で1920円。ひと月に5回利用すると年間で11万5200円です。
 これを高いと考えるか安いと考えるか……。
 自家用車を所有すると、まったく使わなくても、自動車税、重量税などの税金、車検代、保険料……と、維持費だけで年間20万円は下りません。これに燃料代や修理代、タイヤなどの消耗品代などが加わります。
 車を運転すれば事故を起こす危険性がありますし、間違って人を傷つけたりしたら大変なことになります。
 タクシーを月に5回使って駅やスーパーまで往復するのに年間十数万円は安いのではないでしょうか。

 地方のスーパーマーケットやショッピングモール、ホームセンターなどには、入口にタクシーの案内表示があります。これは、タクシーで買い物をしている人たちが相当数いることを示しています。都会人はこうした発想の転換がなかなかできませんが、一度実践してみれば「なんでもっと早く気づかなかったのだろう」と思うかもしれません。

道路と玄関の位置関係

 玄関前に車が直接つけられない家というのがあります。車が入れる道から少し歩かないといけないような立地です。
 また、家の前に道路があっても、そこから玄関まで階段になっている家もあります。これらは田舎物件ではそれほど多くはないのですが、リゾート物件などにはよくあります。
 さて、ここで問題です。
  1.  物件Aは、車が入っていける道路の終点から十数mほど緩い坂道を歩かなければなりませんが、家自体は平坦な土地にある庭も広い平屋。
  2.  物件Bは、車が横付けできる道に面していて、立派な地下車庫(大型車が3台も余裕で入る電動シャッター付き)がありますが、家の玄関まではかなり急な階段がおよそ20段。
  3.  物件Cは、車が直接つけられる道に面していますが、斜面に建っており、玄関が二階でメインの生活空間であるLDKは一階(玄関から屋内階段を降りる)。庭はさらにその下。
 あなたならこの3つの物件のどれがいちばん住みやすいと思いますか?

物件A:十数メートル緩やかな坂道を歩くが、平坦地の平屋で庭も余裕がある


物件B:立派な電動シャッター付き地下車庫があるが、玄関までは階段


物件C:車はつけられるが、玄関が2階で斜面に建つ
※コンプラ上、上記画像B、Cは実際の物件とは違う外観に加工してあります。

 どれも欠点を抱えていますが、まず、前述の「タクシー生活」をするなら物件Aがお勧めです。
 車が直接つけられないのが決定的な弱点のように思えますが、これはタクシー生活にはほとんど関係ありません。
 アプローチはそれほど長くはなく傾斜も緩やかですし、大きな荷物を運び込むのもさほど問題ありません。配送業者や引っ越し業者のプロにとって、こうした場所よりずっと嫌なケースが都市部にはたくさんあります(マンションなど)。
 平坦な土地に建つ平屋なので、災害時にも安全ですし、大工さんなどの職人さんが入ったときの作業スペースも十分です。
 緊急時にも、消防車や救急車はすぐそばまで入れるので問題ありません。
 しかし、言うまでもなく、すでに車を使っている生活や、自家用車が必須の生活スタイルを考えている場合は対象外です。

 物件Bは、一見立派な豪邸ですが、玄関までの急な階段が最大の問題です。車から荷物を運び込むのも大変ですし、足腰が弱った老人や病人、怪我人はひとりでは無理です。
 雪が降ったり凍結したりしたときの危険度も高いので、事故の可能性もあります。
 建物は1階と2階に25畳くらいの広い部屋があり、大変立派なのですが、夫婦二人暮らしなどでは広すぎてもてあますでしょうし、冬季の暖房も大変です。
 しかし、若い人が広い部屋を生かす生活スタイル(アトリエにするとか教室にするとかスタジオにするなど)を考えた場合、これだけの広さの物件が1000万円以下なら魅力的です。

 物件Cはリゾート分譲地などによくある「斜面物件」です。車は玄関横のカースペースにつけられるのですが、玄関が2階で、主たる居住空間が階段を下りた場所にあるため、なんとなくモグラ生活のような雰囲気があります。慣れれば問題ないのですが、階段を必ず上り下りしないといけないので、歳を取って足腰が弱ったときや、大きな荷物の運び入れ、運び出しには苦労します。また、斜面なので、地震に襲われたときの土砂崩れや地盤の沈下なども心配です。
 このタイプの物件は、一階のさらに下側斜面にも土地所有分が伸びている場合が多いのですが、この部分は斜面なので庭としてもほとんど利用できず、役に立ちません。ただ草が生えるままになり、管理が面倒なだけになりがちです。
 しかし、子供のいる若い家族などであれば、こういう立地のために価格が安くなっていることが魅力でしょう。室内階段も、運動になると考えれば悪い面ばかりでもありません。終の棲家ではなくても、人生のうちのいちばん充実しそうな30代~50代あたりを過ごす家として、安く手に入るなら悪くないかもしれません。

 このように、欠点を持つ物件は、その欠点を包み込める生活ができるかどうかで魅力度が変わります
 なんらかの欠点がある物件は、高い価格をつけても売れないために、相場より相当安く売られていることが多いです。ビンボー生活者にとって「安い」ということは大変重要なことなので、無視できません。
 しかし、いくら安くても、前項で説明したように、河川のそばや崖下、崖上の物件は避けましょう。

設備面でのチェック

 生活に欠かせないライフラインは、個人の力ではどうにもできないものもあります。都会生活しか経験していない人は見落としがちですので注意してください。
 自治体が運営している公営水道が引かれていればそれほど問題ないとは思いますが、水源の健全性は重要な問題です。公営水道だから安心とは言いきれません。現代は、自然災害だけではなく、人災や犯罪によっても水源の健全性が損なわれることが増えています。ゴミの不法投棄や、塩谷町のように、国の政策によって、ある日突然、水源地が放射性ゴミを含んだ処分場予定地にされるという青天の霹靂のような事態も起きます。
栃木県塩谷町は原発爆発で出た放射性ゴミの処分場建設地として狙われ、町全体が騒然となった。時間と共に、誘致によって金が入りそうな地元の業者と、環境を死守したい住民が対立して、住民間の関係がズタズタに引き裂かれるという悲劇も起きる。
 水道には、地域の管理組合や集落の自治会が管理している私設水道に近いようなものもあります。その場合の運営費負担額や管理状態はチェックしておかなければなりません。中には「水道」と名がついていても、水源がたまに涸れてしまうとか、大雨の後では水が濁ることがあるといったものもあります。
 水道が引かれていない場合は、井戸か沢水利用しかありませんが、これは田舎ではごく普通のことです。私が7年暮らしていた福島県の川内村は、東京都千代田区の17倍の面積を持つ村でしたが、村に一切水道がない村でした。学校や役場も井戸水で、村の中心部でも水は井戸を掘るしかありません。
 井戸がすでにある物件でも、それが浅井戸なのか深井戸なのか、自噴するほど水量・水圧がある井戸なのか、ポンプで組み上げないといけない井戸なのかなど、井戸の品質を確認しなければなりません。もちろん井戸水の水質も大切で、中には飲料に適さない水しか出ない井戸もあります。
 私が購入した家は、不動産屋の説明では深井戸とのことでしたが、実際には浅井戸で、しかも水源がほぼ沢水であることが分かったので、後から業者に依頼して別途深井戸を掘ることになりました。しかし、掘削業者は「ここなら間違いなく出る」と言っていたのに、50m以上掘っても出ず、2本目でようやくなんとかなる程度の水が出るという、ひやひやの挑戦でした。岩盤地盤だったために掘り進むのが大変で、日数はひと月、費用は軽く100万円以上かかりました。
 なんとか水が出たからいいものの、出なければ100万円以上が無駄になるところでした。
場所を変えて2本目を掘っているところ(2008年12月)
 ポンプで吸い上げないといけない井戸では、停電になったりポンプが壊れたりすると水が使えないことも覚えておいてください。寒冷地では井戸ポンプが凍結で壊れることはよくあります。
 しかし、良質の地下水が豊富に出る井戸があることは大変贅沢なことで、1年中美味しい水がただで飲めますし、災害時にも最低限のライフラインとなります。
排水
 田舎物件では、本下水がついていない物件は普通にあります。その場合は浄化槽と簡易下水が普通ですが、浄化槽には合併浄化槽(トイレも生活排水も一緒に浄化)と単独浄化槽(トイレのみの浄化槽)があり、現在は多くの自治体で単独浄化槽は基本的に新規設置を認めていません。生活排水が浄化されずに垂れ流しになるからです。
 単独浄化槽であっても、合成洗剤やシャンプーリンスを使わない(石鹸や重層だけ使う)、台所排水に油を一切流さない(吸い取るか拭き取ってゴミとして処理する)生活であれば問題は起きませんが、そうでない場合は生活排水で下水が汚染されることになり、周辺住民とのトラブルのもとにもなります。
 本下水が来ていれば問題ないかというと、そう簡単ではなく、大地震などで下水が壊滅的に破壊されたときなどは、復旧ができず、大問題になります。
 私が12年二地域居住をしていた新潟県の川口町では、山奥の限界集落に水道、都市ガス、本下水があるという信じられない環境でしたが、皮肉なことにこれが仇となり、震災後は道路が簡単に復旧できなくなりました。町は住民に「ガスや本下水を放棄するならすぐに道路復旧に取りかかれるが、そうでなければすぐには無理だ」と告げ、住民はすぐにガスと下水の放棄を選びました。その後、住民は「元の土地を諦め、もう住まないと約束するなら、代替地を斡旋する」という条件をのみ、集落は完全消滅しました。中には新築したばかりで、地震にも耐えた家もあったのに、そこに住めなくなってしまったのです。
 普通の田舎の集落のように、プロパンガス、浄化槽排水、井戸水なら、建物を直せば生活が続けられたので、状況は全然違っていたでしょう。  本下水、都市ガスというのは、災害には弱いライフラインなのです。
中越地震で本下水のマンホールが浮き上がった道路。ガス管や下水管の再埋設には金も時間もかかるため、道路復旧を急ぐためには下水を諦めるしかなかった。

ガス
 田舎物件では都市ガスが引かれていることは稀で、プロパンガスがあたりまえです。
 プロパンガス自体は災害時にも止まることがないですし、火力も強いのでいいのですが、プロパンガス業者がしっかりしていないとガス切れになったり、後継者がいなくて店が廃業したりということがあります。
 また、都市ガスと違って、プロパンガスは同一地域でも業者によって販売価格が違います。また、同じ業者でも顧客別に価格を違えていることもあります。古くからの顧客や飲食店などには安く販売し、別荘の住民には高く販売するということは珍しくないので、そのへんも事前にしっかり調べておく必要があります。
 どうしてもガスが使えない場合、炊事は電気で、お湯は灯油のボイラーでという方法もありえますが、田舎暮らしで火を使わない生活というのも味気ないですし、災害時、停電時にはどうにもなりません。
通信
 田舎では、特に山間部でなくともテレビの地上波が入らない地域というのはよくあります。しかし、インターネット高速回線が引けるのであれば、テレビはひかりテレビなどを利用すればいいので大きな問題ではありません。
 ケータイの電波も、届いたほうがいいに決まっていますが、届かなくてもネットの高速回線があれば家庭内Wi-Fiで家にいるときはケータイが使えます。
 つまり、何よりも、ネットの高速回線(光回線)が引けないというのは大問題です。
 元より、田舎ほどネットを使いこなす生活は必須といえますが、これからのウィズコロナ時代ではますます重要です。
電気
 ほとんどの場合、電気は心配ないでしょう。よほどの山の中でも、電力会社はしっかり電線を引いてくれますし、現代で電気が来ていない家が売りに出されているということはまずありませんから。(もっとも、川内村で暮らしていたときは、電気が来ていない獏原人村で暮らす友人や、わざと電気を引かないという友人もいましたが)
 ただ、電線が切れやすい場所とか、そうした事故が起きたときにすぐに修理に駆けつけてもらえなさそうな場所というのはあります。また、家にどのような形で電線が引き込まれているかもチェックしましょう。引き込み線が道路を横切っている場合、大型車が引っ掛けたり、木の枝がかかりやすかったりしていないか、という点です。
進入路
 道路と家との位置関係などについては最初に解説したとおりですが、家までの進入路が公道なのか私道なのか、私道の場合は他人の土地になっていないか、他人の土地になっている場合、共益権などの通行権利が保証されているかといったことが重要です。
 また、道が細くなっていたり、急なカーブがあったり、橋やトンネルがあったり、道の上を大木の大枝が横切っているような場合、大型トラックが通れるかも重要です。引っ越し業者や配送業者が入って来れないようだと、大変な苦労をします。

迷惑施設建設地として狙われる可能性
 現代では、ある日突然襲ってくる災害は自然災害だけではありません。自然環境の素晴らしい田舎ほど、大型風力発電施設、廃棄物処分場、メガソーラーといった迷惑施設、環境破壊施設の建設地として狙われやすいのです。
伊豆の大瀬漁港から見た風景。大型風車のせいで風景が一変。(2010年1月)

↑2000kw級の大型風車のブレード(羽根)。今は3000kw級以上にさらに大型化している。(2010年6月。川内村にて


静かな環境を求めて都会から引っ越して来たのに、風力発電のおかげで人生がすっかり狂ってしまった……と嘆く男性。妻は大型風車からの低周波健康被害で身体を壊し、別居しながらの病院通い生活になってしまった(2010年1月。南伊豆にて


奈良県の例。大量のソーラーパネルを山を伐採して急斜面にいい加減に設置。下の集落の生活は、土砂崩れの危険度が一気に上がっただけでなく、水質汚染、田畑への泥水流入、そして何よりストレス増大による健康被害が深刻。

住宅地の空き地に設置されたソーラーパネル。小規模であってもこんな風にシートで覆われてしまうと下の土は死ぬ。今まで熱を吸っていた緑地が消えて、逆にその面積分が熱を持つので、隣接する住宅の環境も変わる。設置面積が大規模だとシートで被うこともできず、草ぼうぼうになると除草剤を撒いたりするので、水質汚染や薬剤吸引による健康被害も心配。いずれにしてもこういうものが隣地などに設置されると住環境が破壊される。また、天候次第で急に発電したり止まったりするので、周囲の電力線の電圧状態が不安定になり、精密機器が狂ったり、瞬間停電を起こしたりすることもある。

 田舎の自然環境やのんびりした雰囲気に惹かれて移住してきたのに、その直後にこうした悲劇に襲われるケースを私はたくさん見てきました。何より、私自身がそうです。川内村から日光に移った最大の理由は、原発爆発よりも大型風力発電施設建設による周囲の山の破壊でした。
 これはなかなか予測がつかないのでやっかいですが、引き起こされる被害(特にストレスによる精神的な被害)は大変なものです。
 不愉快なことですが、田舎暮らしにはこうしたリスクもあるということは覚えておいてください。

 これら様々な立地環境をまずは調べた上で、次に建物のチェックとなるわけですが、それは次の項に分けます。


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中古住宅物件の選び方(2) 建物のチェックポイントとリフォーム2021/01/18 11:36

地方移住のススメ(6)

中古住宅を見に行った際、素人は外見の立派さ、きれいさ、新しさなどに気を取られがちですが、しっかりチェックすべきポイントを見落とすと大失敗します。今回は、見逃してはいけないポイントと、欠陥や弱点をどうカバーできるかについて、経験をもとにまとめてみます。

まずは基礎と屋根を見る

 中古住宅を見る際にいちばん見落としがちなのは基礎と屋根です。どちらも位置的に目に入りにくいから見逃すのですが、外壁や内装よりも重要なポイントです。
基礎
 基礎とは建物を支えている下の部分です。外からは、ごく一部しか見えませんので、中古住宅を購入したことがない人の中には、まったく見ないまま家の中に入ってしまう人もいますが、とんでもないことです。
 基礎はやり直しが効きません。
 すでに上に建物が乗っかっているわけですから、建物をどかさなければ根本的な作り直しなどできません。それだけに重要なチェックポイントなのです。基礎に欠陥がある場合は、一見新しくきれいな建物に見えても、すぐにあちこちに狂いが生じたり、壁にひびが入ってきたり、建物全体が傾いてきたりします。
 明らかに目立つ亀裂が複数箇所入っている場合は、地盤沈下や基礎部分の不完全施行など、致命的な原因があると疑ってみるべきでしょう。

 基礎は大きく分けて布基礎ベタ基礎に分けられます。
 
布基礎:建物の外周部や主要な間仕切り壁の骨組(軸組)の下、トイレや浴室の下だけに設置する。建物を「線」で支えている。
隙間部分は土が露出したままの場合と、コンクリートを薄く流し込む場合があり、後者は見ただけではベタ基礎と区別するのが難しい。


ベタ基礎:基礎の立ち上がりだけでなく、建物の床下全面が鉄筋入りのコンクリートになっている。家の荷重を全体の「面」で支えている。

 地震に対しては、面で支えているベタ基礎のほうが強いことは素人でも理解できます。
 大地震に襲われたときのベタ基礎と布基礎の違いを、私は2004年の中越地震で嫌というほど知らされました。
 集落には昭和時代の古い家と、最近建て替えたばかりの新しい家が混在していましたが、古い家が軒並み全壊したのに対して、新しく建てたベタ基礎の家は被害が少なく、ほとんど壊れることがなかったのです。
 私の家は布基礎ですらなく、主要な柱部分の下に石やコンクリートを入れただけ(線ですらなく、「点」で支えている)基礎だったので、ひとたまりもありませんでした。
 この苦い経験から、川内村に引っ越した後に建てた6坪のスタジオ兼ゲストハウスでは、予算がない中で、設計士には「何はなくとも基礎はベタ基礎で」と要求し、実現させました。
 基礎工事をした基礎屋の親方は「こんな小さな建物でベタ基礎なんて聞いたことない」と半ば呆れていましたが、おかげでその後の東日本大震災でもびくともしなかったのです。
川内村で人生最初で最後の「新築」体験。6坪の小さな建物でも、基礎はベタ基礎にした。


床下全面に鉄筋を入れている。この鉄筋の間隔が狭いほど強度が上がる。この基礎は「役所仕様」で、鉄筋の間隔が狭い。


上からコンクリートを流し込むと、鉄筋は隠れて見えなくなるため、鉄筋を入れていない「なんちゃってベタ基礎」との区別がつかない。

 かつてはベタ基礎と布基礎ではコストがかなり違ったので、布基礎の家が多かったのですが、現在は工法も合理化されてコスト面での差があまりなくなったため、多くの家がベタ基礎になっています。
 古い建物で基礎がベタ基礎になっている場合は、建て主がそれだけ気合いを入れて建てた証拠といえるかもしれません。

 ただ、布基礎でも、隙間部分に後からコンクリートを薄く被せてしまえば、見た目はベタ基礎と同じになるため、見分けるのは困難です。
「なんちゃってベタ基礎」(左)と本物のベタ基礎(右)
布基礎の隙間にコンクリートを薄く敷いただけの「なんちゃってベタ基礎」(↑左)は、ベタ基礎ではない。布基礎に化粧をしただけ。ベタ基礎と呼べるのは底面全面に鉄筋を入れている場合だけ。

 通風口の狭い隙間から懐中電灯で照らして覗きこんだくらいでは、ベタ基礎と「なんちゃってベタ基礎(=化粧布基礎)」との区別はつきません。
通風口に虫除け、ネズミ除けの網が張ってあるのはちゃんとしている証拠だが、おかげで中がよく見えず、基礎の種類が分かりづらい。土台や土台周辺の外壁にひびが入っていないかどうかもチェックしたい。

 しかし、ベタ基礎の家には、たいてい家の中のどこか(多くは台所や洗面所の床あたり)に床下点検口があり、そこから床下に入れたりしますので、徹底的にチェックするには、床下点検口を捜しだして床下に潜ってみるといいでしょう。
 仲介不動産屋に訊いても、そこまでは分かっていないことが多いですが、建物の設計図面が残っている場合は確認できます。

 ただし、布基礎でも、地下にしっかりとした土台を作った上で布基礎にしてある場合は、ベタ基礎同様の安定度を得られるでしょうし、二階建てと平屋では、基礎にかかる負荷が違います。  斜面に建つ家や敷地に段差がある場合はベタ基礎が不可能ですから、円柱などの基礎柱や基礎ブロックを使うしかありません。この場合、土に埋まっている部分がどのくらい深いのか、その下にしっかり土台を築いているかが問題ですが、掘ってみるわけにもいかないので、なかなかそこまでは確認できません。

このような円柱や角柱の基礎は、斜面に建つ家や倉庫などの簡易的建物でよく見る。この下がどのくらいしっかり固められているかが問題。

 また、ベタ基礎であっても、基礎面が周囲の地面より低くなっているような建物では、流入した水が溜まってしまい、建物に湿気が入り込んで床下が腐ったりシロアリにやられたりすることになるので、その点もチェックしてください。
 ベタ基礎の場合は、水分が地下に浸透していかない分、湿気を抜く対策が重要です。
 最近の建築では、基礎の外側に通風口を開けず、建物との間全体に、外からは見えないような隙間を開けて湿気を逃す構造のものもあります。
屋根
 基礎同様に目が届きにくいのが屋根です。
 上から見ることができないので、欠陥があってもなかなか気づきません。
 しかし、屋根の材質や苔や錆のつき具合くらいは分かるはずなので、しっかり見てください。

 屋根材は、大きく分けて次のようなものがあります。
  1. 粘土系瓦……古来からある一般的な焼き物の瓦。釉薬をかけたものと素焼きのものがある。遮音性、耐熱性、耐久性に優れるが、重い。
  2. セメント・コンクリート系瓦……セメント・水・砂を主原料とした瓦。重いわりに粘土瓦より耐久性が劣るなど欠点が多いため、現在、新築ではまず使われない。
  3. スレート瓦(コロニアル、カラーベスト)……薄くて軽く、着色も楽なので一時期大流行したが、耐久性がないので、今ではあまり使われない。
  4. 金属系……昔は「トタン屋根」などと呼ばれる亜鉛メッキ鋼板がよく使われていたが、今はほとんどない。代わりにアルミニウムが55%程度含まれるガルバリウム鋼板がどんどん進化してきて主流になった。現在はガルバリウム鋼板の表面に細かな石粒を吹き付けたジンカリウム鋼板と呼ばれるものも登場し、お洒落な瓦風屋根も登場している。
 このうち、中古住宅の屋根として点数が低いのは、2のセメント・コンクリート瓦と3のスレート瓦です。
 まず、コンクリート瓦は傷んできた場合の吹き替えが面倒です。上から塗料を塗ってもすぐにボロボロと剥げていきますし、費用が無駄になるため、全部剥がして別の屋根材でやり直ししなければならず、かなりのコストがかかります。
 地震などにも弱く、重さがあるために建物への負荷が高く、落下してきたときの危険性も無視できません。遠目には普通の瓦と区別がつきにくいので、よく確かめましょう。

 スレート(コロニアル)も避けたい材質です。一時期大流行したため、都会風のお洒落な建物にも使われていたりします。別荘地物件にも非常に多いのですが、耐久性がなく、バブル期に建てられたお洒落な別荘などでは、屋根が苔だらけでボロボロになっているのをよく見かけます。
 そもそもこの素材は、商店の庇屋根などに使うために開発されたもので、外国では一般住宅の屋根に使っている例はまずありません。
苔が付き風化が進んだスレート瓦の屋根。これ以上傷みが進むと撤去して吹き替えるしかない。



この手のお洒落な瓦も、10年に1度くらい塗装が必要になることがある。

 1の一般的な瓦屋根は、瓦の材質は変わらなくても、施工した職人の技術が劣っていると、地震や暴風のときに瓦が落ちたり飛ばされたりします。
 あまり知られていないことですが、この「施工技術の差」は大変なもので、隣り合っている家の同じような瓦屋根が、災害に遭ったとき、片や無残に飛ばされ、片やまったく無傷のままだったということもよくあります。
 また、瓦の材質も、セラミック系の軽い素材のものも出てきて、見た目だけでは分からない性能差があります。
中越地震と大雪でペシャンコになった我が家。皮肉なことに、吹き替えたセラミック瓦の屋根は、瓦1枚剥がれることなく、きれいなまま落下していた。

屋根のリフォーム
 スレート屋根や古い金属系の屋根(トタン屋根など)は、傷みが進んで屋根裏に水が漏れる前に張り替えなければなりません。屋根から水が入り込んでいても、屋根裏で止まっている場合は気づくのが遅れ、壁や配線関連などにまでダメージが進んでからようやく気づくことになります。そのときはもう手遅れで、修繕費が桁違いにかかってきますので、「まだ大丈夫かな」という甘さは大敵です。
 スレートや古い金属系の屋根の場合は、上から最新のガルバリウム系鋼板を被せる方法(重ね葺き・カバー工法)がオススメです。今までの屋根がそっくり下に残るため、断熱や遮音の点で有利ですし、古い屋根の撤去費用(これがかなりな金額になる)もかかりません。
 屋根だけはケチってはいけません。重ね葺きで改修する場合も、鋼板の裏には防音ウレタンを張ったものを選び、古い屋根との間にはゴムアスの厚い防水シート(ルーフィング)を貼ります。
 ガルバリウム系鋼板の性能はこの10年くらいで驚くほど向上しています。昔の製品のように錆が出ることもなく、一度張ればほぼ一生心配はいらないでしょう。

裏に防音材(ウレタン)を張ったガルバリウム鋼板の屋根材。

古い屋根の上にゴムアスファルト系の防湿シートを貼る。接着剤のついているものは高価だが、隙間をピッタリ塞いでくれるので、防音効果もある。

二階建て以上の建物は足場を組む必要があるため、平屋より工事費が高くつく。屋根の勾配も問題で、きつい勾配の屋根は格好はいいが、修理や吹き替えのときは大変苦労するので、コストもかかる。



 このように、屋根が傷んでいる場合は後からかなり大がかりな工事が必要になるため、購入時にはしっかりチェックする必要があります。傷みが進んだ屋根の物件でも、他の長所を考えると「買い」だと思ったら、屋根のリフォーム代を最初から購入費に算入して考えましょう。
外壁
 外見でいちばん目につきやすく、建物の印象を支配するのが外壁です。
 しかし、それだからこそ、見た目の印象に左右されず、実質的な判断をするための基礎知識が必要です。

 中古物件の外壁には次のようなものがあります。
  1. モルタル系(湿式吹き付け塗装。吹付けタイル、リシン、スタッコ)
  2. サイディング(窯業系、金属系、樹脂系、木質系)
  3. 板張り
  4. ALC(軽量コンクリート)

 古いローコスト建築ではリシン吹きつけに代表されるモルタル系の外壁が中心でした。下地建材の上に骨材(細かい石や砂の粒)を混ぜた塗装材をスプレーガンで吹き付けていくもので、工事も簡単、コストもかからないということで、広く使われていました。仕上げ材の種類や吹きつけ方によって、吹付けタイル、リシン、スタッコなどの種類があります。
 この工法の外壁はひび割れが生じやすいという欠点があります。塗装を定期的に施さないと、はがれや塗膜の膨張などが生じかねません。
 特に、凹凸が多いスタッコ仕上げの壁は、細かい表面のリシンや吹きつけタイルに比べると凸凹に汚れが入り込んだり、空気が入って膨らんだりしやすいので、再塗装の際に手間や塗料代が何倍もかかったりします。新築時の見た目がリシンなどより豪華なので、一時期流行りましたが、今ではスタッコ仕上げを勧める業者はいないと思います。
 リシンや吹きつけタイルの壁は、その気になれば素人でも塗り替えやある程度のメンテナンスはできます。ただし、二階建て以上では足場を組んだりしなければならないので、素人では難しいし、危険でしょう。

 サイディングは現在最も多く使われている外壁です。中でも多いのは窯業系で、新築一戸建ての70%以上が窯業系サイディングだそうです。
 セメント系の素材に繊維を混ぜた薄い板を張り合わせていくもので、外見は石、タイル、木の板、煉瓦など、どんな柄にも似せられます。
一見すると煉瓦貼りに見えるが、煉瓦風のサイディング。↓
 
 重厚感はないですが、とにかく手軽にきれいな仕上がりになるし、防火性能や耐震性にも優れているので、コストパフォーマンスのよい外壁ではあります。
 この外壁の弱点は板と板の合わせ目で、シーラント剤が劣化して、そこから雨水が染み込むことがあります。
 しかし、これは素人でも補修は可能です。市販のシリコンシーラントを埋め込むだけで、当面は防水面での心配はなくなります。
 プロは、乾燥した後に上からの塗装も可能な変成シリコンシーラントのコーキング剤を使うのですが、今までの経験では、防水性だけなら、一般の安いシリコンシーラントのほうがむしろ劣化しにくいようにも感じています。透明なものがいちばん使いやすいのでお勧めです。はみ出しても目立ちません。
 透明のシリコンシーラントはパイプの割れ目を塞ぐ補修剤代わり、石やセメントブロックに冬季や金属の小物などを貼り付けるときの接着剤代わりにもなる便利なものなので、我が家では常備しています。
 



サイディングのつなぎ目のコーキングが劣化していくと、そこから水が染み込む恐れが出る。

透明なシリコンシーラントを塗り込んで補修。透明なので目立たず、劣化も少ない。

これは建築時に大工さんが釘を打ち損ねたのだろう。こういう傷もシーラントで補修しておくとよい。

 古いサイディングは、表面が劣化して粉を吹いたような状態になります。これは、できれば早いうちに、表面に透明なコーティング剤を上塗りすると、耐久性が上がります。その際、汚れや、粉吹き成分をしっかり水洗いして落としてから塗ることが大切です。
 これも、平屋なら素人にもできます。
↑二液性のUVプロテクトクリヤーというコーティング剤がお勧め。塗る前に2液を混ぜ合わせ、薄めるのはシンナーで。


↑UVプロテクトクリヤーを塗った後の外壁。見違えるように雨水を弾くようになった。5年以上経った今でも撥水性能はほとんど変わらない。




 純粋な木の板張りの家というのは、古い農家物件などの他は、あまり見なくなりました。地域によっては防火上、新築では許可されていないこともあります。
 古い家で、板がすでに落ち着いている場合などはいいのですが、塗装が傷んだり、色が変わってきたり、劣化・風化でどんどん薄くなってきたりといったことがありますので、メンテナンスはある程度覚悟しなければなりません。
 傷みが激しい場合は、いっそその上から新しい板を貼り重ねるとか、下地板を貼った上でサイディングにするといった改装もありえます。

 ALCを使った中古住宅はかなり新しい建築でしょう。火災保険料なども安くて済みますし、特に問題はないので、こういう物件があれば、ポイントが高いと思います。
 木造住宅でも、外壁は耐火性の高い軽量コンクリート系の板を使っているものもあります。風合いはないので、古民家趣味の人などは好まないかもしれませんが、性能的には板張りや吹きつけ塗装などより優れています。

 特殊な物件として、ログハウスというのもあります。
 ログハウスはカッコいいのですが、建てるときのコストがかなりかかります。
 安い土地にログハウスキットを購入して自分で建てられないかと考える人がいますが、簡単ではありません。
 安いキットは部材が薄いので、仕上がりもチープですし、本格的なログであっても、建てて1年後には必ず狂いが出るので(ログハウスの宿命)、調整・修正が必要です。これは素人には難しいでしょう。
 ログハウスは落ち着いてしまえば、頑強で地震にもびくともしないという長所がありますが、後から細かく改装したり増築したりするのはほぼ無理ですし、電気などの配線が難しい(剥き出し配線になる)という不便さもあります。ログとログの間に隙間が空いてしまったときの補修なども、かなり専門的な技術が必要です。
 木の風合いが好きな人は、ログハウスにするのではなく、外見はある程度諦めて、内装をすべて板張りにするといった方法のほうが、後々改装などの自由度が高くなります。
外壁はサイディングだが、内装はすべて無垢板張りという豪華な作りの家。外見と中の印象がまったく違った。(2011年、秩父)

古い板張りの上から、新たに板を貼る。越後の家でDIY中。危険なので、高い場所の素人工事はお勧めしない。
この家の屋根はコンクリート瓦なので、後にセラミック瓦に吹き替えたのだが、その後、中越地震で全壊した。


 このように、基礎、屋根、外壁という外側部分だけでもかなりのチェックポイントがあります。

 安い物件、古い物件にはいろいろと欠点もありますので、その後のリフォームのやりやすさやコストまで考えて購入計画を立てることが必要です。

 長くなりましたので、内部のチェックポイントは次項に分けます。


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中古住宅物件の選び方(3) 建物内部のチェックポイントと改装2021/01/19 21:40

繊維壁の上から板を張って大壁方式で改装中
建物の基礎や屋根工事は素人では手が出ない部分がありますが、内装関連についてはDIYでもかなりのことができてしまいます。
例外は水回りや配管で、これは素人工事では無理ですし、電気関連は資格も必要です。
そのことを頭に入れて、見た目の印象などよりも、どのように改装できるのかをチェックしていくことが大切です。

まずは水回りをチェック

 中古住宅のチェックでいちばん重要なのは水回りです。水回りが問題を起こすと、修理に高額な費用がかかるだけでなく、他の箇所にも大きなダメージを与えます。
 給水・排水共に、配管の大部分は目に見えない部分を通っていますので、かなり注意深く見ていかないといけません。
給水管の種類
 水が水道なのか井戸なのかといったことについての注意点はすでに説明しましたので、次は配管を点検します。
 まずは、給水管の種類を見ます。古い鉄管だと、内部がほぼ確実に錆びたり痩せたりしていますので、今はなんとかなっていても、すぐに漏水する可能性があります。
 寒冷地では凍結に強い、内部が樹脂でシールされている鉄管が使われていることが多いのですが、この種類の配管であればかなり安心できます。
 比較的新しい家では、塩ビ管など樹脂製の配管が多いです。塩ビ管は劣化がほとんどなく、凍結にも強いので、まともな塩ビ管をしっかり固定配管してあれば、これも安心できます。
 壁の裏や床下を走っている配管は見ることはできませんが、壁に湿気が出ていないか、台所やトイレ、浴室の壁や床に不自然な染みや水滴がついていないかをしっかりチェックします。

↑シンクや洗面台の下も覗き込んで、こうしたジョイント部分からの漏水がないかもチェック。
給湯設備
 給湯はボイラーで行うのが普通ですが、ガスなのか灯油なのかをまず確認します。どちらが優れているというわけではありませんが、ボイラーの製造年や性能・形式は確認します。あまりに古いものであれば、今は使えてもすぐに壊れる可能性があります。
 ボイラーは新しいものほど燃費などの性能がよくなっていますので、古いものは最初から交換したほうがいいかもしれません。そうした費用も計算に入れながら見ていきます。
 台所の内部に設置する小さな給湯器は、昔の家ではあたりまえにありましたが、今は新築の際に設置することはまずないでしょう。そのタイプの給湯であれば、給湯システム全体を付け替えるくらいのことを考えたほうがいいかもしれません。
 もちろん、昔ながらに、囲炉裏で土瓶にお湯を沸かす生活がいいのだ、というスタイルを否定するものではありません。
↑屋外設置のガスボイラー(給湯器)の製造年をチェック。これは2008年製。製品の形式番号をネットで検索すれば、製造時期や性能も詳しく分かる。寿命は大体10~15年。
浴室
 現状のまま使えるのかどうか。改装するならどこまでやるのか、といったことを考えながらチェックします。
 古い浴室で、風呂釜が室内にあったりするような面倒な構造であれば、いっそ浴室内を空っぽにして、ただの浴槽だけの製品を入れて、ボイラーからの給湯とシャワーだけにするという改装がいいかもしれません。コストがかからず、きれいに仕上げられます。

↑浴室に、単独の洋風浴槽(舟型で給湯管接続しない、ただの湯舟タイプ。受注生産品で約10万円だった)を持ち込んでみる。このまま置いてもいいが、埋め込むことも可能。



舟型の洋風浴槽をセメントで埋め込んでいるところ。



タイルで仕上げた。配管は浴槽に直結しておらず、上から入れる方式。沸かし直しなどしない生活ならこれで問題ない。
トイレ
 よほど古い農家物件などでない限り、今はもうポットン便所(くみ取り式)はないでしょうが、もしそういう物件であれば、迷わず、水洗化しましょう。
 浄化槽を設置することになりますが、山奥の一軒家で広い敷地があるなら、土壌浄化方式というのも可能です。これはDIYでもできます。

 水洗トイレでも、和式を洋式に変更するといったことはそれほど難しくありません。これは業者に任せましょう。便器は高いですが……。
 洋式便器がついているトイレに洗浄便座を追加するのは簡単です。価格も2万円くらいでありますし、DIYですぐにつけられます。ただし、トイレ内にコンセントがないと、そこまで電源を引っ張ってこないといけませんので、面倒です。コンセントの有無を確認しましょう。
 トイレの内装はDIYで十分できます。壁紙を貼り替える、板を貼るなどで、まったく雰囲気が変わります。

↑越後時代のリフォーム。和式のポットントイレを洋式に変更し、室内の壁を板張りに。板張りはDIYでやった。
 壁紙の張り替えはDIYでもできますし、コストも壁紙代だけですので大したことはありません。しかし、皺がよりやすいので、素人が失敗して何度もやり直して壁紙を無駄にするよりは、プロに依頼したほうがいいでしょう。内装屋さんに依頼しても、大工仕事は入らないのでそんなに高くはなりませんし、時間も短時間で終わります。
 面倒なのは古いタイプの繊維壁(表面がザラザラしていてボロボロ削れるタイプの壁)で、上に直接壁紙を貼れないため、下地工作が必要になります。壁が改装しやすいかどうかも確認しましょう。
 繊維壁や塗り壁の場合、いっそ板を柱の上から張って柱を見えなくさせる「大壁(おおかべ)」方式もお勧めです。これもDIYで十分にできます。趣味だと思えば楽しい作業です。
↑このタイプの繊維壁は、上から直接壁紙を貼れないが……、
柱の上から板を被せていく「大壁」方式の改装でガラリと印象を変えられる。


床(和室を洋室に)
 古い和室の畳を出してしまい、床を張って、壁も板張りにしてウッディな洋室に……といったことも、その気になればDIYでできます。自分でやれば材料費だけで済みますので、大工さんに頼むのとは桁違いに安くできます。
 ていねいにやる自信と根性がある場合は、下地板の上に根太(ねだ)を這わせて、間に断熱材を入れるといったこともできます。
 しかし、壁張りに比べると難易度はぐっと上がるので、初心者はプロに任せたほうがいいでしょう。「壁は自分でやるから、床だけお願い」という依頼の仕方もあります。大工作業は材料費よりも手間賃がバカにならないので、DIYと組み合わせることでコストがかなり変わってきます。
↑かつては(かいこ)部屋になっていた畳敷きの屋根裏部屋の畳を撤去して板張りに。洋風のロフト寝室になった。この程度はDIYでもできる。

照明
 田舎は夜になると周囲がまっ暗になります。室外灯が壊れていたり、なかったりする場合、1000円くらいから売られている中国製のソーラーライトがお勧めです。
 どのタイプも性能がよくて、いちいち配線をしなくていいのでお手軽。こんなのが役に立つのか?と思うかもしれませんが、明るさも十分ですし、5年くらいは問題なく使えます。安いので、壊れてもまた替えればいいだけです。

↑このタイプのソーラーライトは超お勧め。

↑配線いらずなのでどこにでも簡単に設置できる。

↑光量も十分で、電池交換の必要もない。安いので壊れたり劣化したりしたときは買い換えればいい。5年くらいは平気で初期性能を維持する。

 屋内の照明は好みで付け替えればいいのですが、古い家ですと照明用の電源ブラケットの規格が違っていたりして、ちょっと面倒なことがあります。

 照明に限りませんが、住宅の屋内設備の規格などは、概ね平成10(1998)年あたりで大きく変化(進化)しています。それ以降の建築であれば、概ね現代の規格と同じですが、それ以前の建築ですと、かなり贅沢な仕様の住宅でも、細かなところで「あれ? 規格が合わないな」とか「知っているのと違う」といったことが出てきます。
 中には、トイレの水洗タンクのように、昔ながらの方式(空気の入ったポリエチレンの浮き球で水の出口や給水バルブの開閉を行う完全機械式)のほうが、電気を使っている最新型(停電すると水が流せない)よりも非常時に強く、修理も楽、といったものもあります。なんでもかんでも電気に頼る都市型の生活は、災害時にはダメージが大きいことも覚えておきましょう。

↑階段上の照明が妙に和風なものがついていたので……、

↑洋風のものに交換した。



↑和室についていた照明がダサかったので……、
↑階段上についていた照明と取り替えた。

塗装
 塗装業者がよくセールスに回ってきますが、そういう業者に依頼することはお勧めしません。セールス要員は素人で、そうした素人セールス要員を雇わないとやっていけない業者にはぼったくりが多いのです。高いだけでなく、派遣されてくる作業員が素人もどきでろくな仕事をしないこともあります。
 よほど特殊な作業でなければ、塗装くらいはDIYでやってみましょう。

 バルコニーや玄関ステップなどの防水、撥水が必要な部分は、すべり止め入りの防水塗料を使います。これは若干価格が高めですが、接着性がよく、雨に濡れても滑らないので安全面でもお勧めです。
 錆びてボロボロになった鉄柵や鉄階段などは、デボマリンという特殊な塗料(接着剤に近い?)を使うと、見栄えはともかく、驚くほどの強度回復が望めます。
 これは鉄橋などの補修に使うもので、プロの塗装屋さんでも知っている人は少ないと思います。一部の塗料専門店でしか入手できませんが、売っている店に頼めば通販もしてくれるでしょう。
 デボマリンは粘土状で扱いが面倒。価格も高く、一般の塗装には向いていません。錆がすでに出ている鉄部の塗装には、ビルドという湿気に強い塗料が向いています。ビルドは柔らかくて、塗装後なかなか乾かないので扱いづらく、価格も普通の塗料より高いので、普通の塗装屋さんは使いたがりません。
 塗装に関しては、腕(塗る技術)よりも、ていねいさと、使う塗料の種類(性能)によって、その後の持ちが大きく違ってきます。時間をかけてていねいに(東北の言葉でいえば「までいに」)作業をする覚悟があれば、プロに頼むよりもDIYのほうがよい結果になることがあります。
 塗料については、塗料専門店に相談すると、いろいろ教えてもらえます。塗装屋さんと塗料専門店は、儲ける部分がまったく違う職種なので、塗装屋さんに訊いてもダメです。塗装屋さんは利益が出やすいように安い塗料を使いたがりますし、自分の職種を奪われてしまうようなDIYの秘訣は教えたがりません。しかし、塗料専門店としては、価格に関係なく性能のよい塗料を売ったほうが気持ちがよいので、本当のことを教えてくれます。
↑上がデボマリン、下がビルド



↑↓このくらいボロボロになった鉄の階段も……、



デボマリンを塗って穴を塞ぎ……、


上からビルドを塗っておけば、当分は大丈夫。


 その他、DIYによる補修、改修はいろいろ経験してきましたが、要するに、建物の基本構造部分がしっかりしていれば、内装や諸設備は工夫次第で、ある程度どうにでもなるということです。
 DIY補修を楽しむくらいの余裕と気力がないと、田舎暮らしは続きません。
 逆に言えば、そうした体力や元気がない年齢になってからの移住であれば、山奥の一軒家などは難しいので、適度にスカスカした住宅地のそこそこ新しい建築の物件を選んだほうがいいでしょう。十分にきれいな物件でも、地域によっては、都市部では考えられないような値段で売りに出されています。

 また、プロに発注する場合、手数料を取られても、良心的な建築設計士に依頼したほうが安心です。建築士はいい加減なことをすれば仕事が続けられなくなるので、施主の立場に立って責任ある仕事をします。最新の材料情報や工法についても勉強しているので、古いタイプの職人さんよりも合理的な方法を提示してくれるかもしれません。また、施工後に問題が出た場合、責任をとらなければならないので、職人さんとの間に立って問題を解決する努力をします。
 建築士は多方面にわたって職人さんを知っていますし、いい加減な仕事をする職人さんは建築士としても仕事を任せられないので淘汰されていきます。建築士が依頼する職人さんは、素人が直で依頼する場合よりも安心できます。
 結果として、1割の手数料を支払ってでも、ちゃんとした建築士を介したほうが安心で、安上がりになることが多いのです。

 移転先で信頼できる建築士に出会えれば幸いです。良心的な建築士かどうかは、少し話をすれば分かります。自分の仕事に誇りを持っている人は、話し方や話の内容で、熱意や責任感が伝わってくるものです。

 このままコロナ禍が続いたり、首都圏が直下型地震に襲われたりすると、地方物件が高騰することも考えられます。身体が動き、金銭的にもギリギリまで追い込まれていないうちに、生活を変える決断を下す勇気と柔軟さが必要かもしれません。


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