ルクセンブルク、モンゴルに学ぶCOVID-19最新情勢と対策2021/05/19 22:06

COVID-19を巡る世界の情勢は去年と今年では大きく変わった。
最新データから読み取れることは主に、
  • 今年初めくらいから欧米や中東の一部を中心にワクチン接種が始まったことで、欧米では感染者数や死者数が徐々に減ってきた
  • 変異株が多数現れて「ファクターX」の内容も微妙に変わり、今では感染の主舞台がアジアに移ってきた感がある
  • 医療体制をしっかり建て直した国と崩壊したままの国で、「死亡率」に開きが出ている
……といったことだ。
以下、いくつかの国をモデルに、最新のCOVID-19状況を把握してみたい。

ルクセンブルク

最近、Netflixで『カピタニ』という刑事ドラマを見て、制作国であり、ドラマの舞台となっているルクセンブルクという国に興味を持った。
Wikiによれば、
  • 神奈川県や佐賀県くらいの面積に人口は約50万人。(同じくらいの面積の神奈川県は約870万人、佐賀県でさえ87万人)
  • 首都ルクセンブルクは、ベルギー、ドイツ、フランスに囲まれ、ブリュッセルやストラスブールと並んで、ヨーロッパのど真ん中に位置する世界都市
  • 道路や空路(航空貨物大手のカーゴルックス航空が本拠地を置く)といった交通網がよく整備されていて、オランダ(国際的な海運業の中核)にも近い「欧州における物流の要所」
  • 国民1人あたりのGDPは世界第1位
  • 税金が安く、英語やフランス語、ドイツ語といった「欧州の主要言語がすべて通じる」理想的な環境にあるため、欧州圏にビジネス展開しようとする世界企業にとっては魅力的な立地条件を有している
  • IT先進国で、アップル、eBay、Skypeなど数多くの世界的IT企業が本社機能を移転している
  • 高度に発達した工業と豊かな自然(特に田園風景)とが共存。その自然の豊かさから「欧州における緑の中心地(Green heart of Europe)」と称される
  • 情報通信分野(放送メディア産業)の振興に力を入れてきた結果として、現在はRTLグループ(欧州随一の規模を誇る放送メディアの企業複合体)とSES S.A.(欧州のみならず世界有数の規模を誇る衛星放送事業者)の二大メディア複合体を擁し、欧州における同分野の中核を担っている
……のだそうだ

未だにワクチン接種予約方法が超アナログで混乱をきたしている日本から見るといろいろな点で羨ましい限りだ。
しかし、ルクセンブルクは世界の中でもCOVID-19感染が相当厳しい地域に位置している。様々な国に囲まれ、交通の要所でもあるということは、感染予防の点からは極めて不利な条件下にあると言えるだろう。

感染地域のまっただ中の小国。さぞ死者も出ているのではないかと思ってチェックしてみると、

↑ルクセンブルクのCOVID-19死者数の推移(worldometers.info より)
↑ルクセンブルクでは昨年3月に第1波がきて死者がかなり出た後はかなり踏みとどまり、年末年始にかけて大きな波がきて、今も増えたり減ったりしているが、感染者数に比べると死者は概ね少ない。
昨年11月のピーク時、感染者が1日1万人を超えていたが、死者は10人/日が最高で、それ以上にはならなかった。医療崩壊していなかった証拠だろう。

感染者数の推移を見ると、

↑ルクセンブルクの感染者(検査陽性者)数の推移(worldometers.info より)
やはり昨年末に急増している。
ルクセンブルクでのワクチン接種は今年1月から始まり、現在はおよそ国民の32%ということらしい。
これはヨーロッパ諸国としては平均的な数字だろう。
ちなみに、日本は2月末あたりから始まって、現在はおよそ3.5%。だいぶ違う。
↑ルクセンブルク、ヨーロッパ平均、日本のワクチン接種率の推移(Our World in Data より クリックで拡大)

ワクチン接種率が3割を超えたのが今年の3月半ばで、それ以降、徐々に新規感染者数も死者数も減っている。
次のグラフはルクセンブルクの感染者が無事に回復・退院した割合と死亡に至った割合の推移だ。

↑オレンジの線が死者の割合、緑が回復した人の割合(worldometers.info より)
昨年3月13日に最初の死者が出て以来、一気に下がり、以後は新規感染者数に比例して死者も増減しているが、「死亡率」は低いまま抑え込んでいることが分かる。

これはとても重要なデータで、医療崩壊をしたかどうかの指標になる。

日本

日本ではどうかというと、こうなる↓

↑日本の場合。回復者(緑色)と死者(オレンジ色)の割合の推移(worldometers.info より)
昨年3月~5月にかけては医療現場が混乱していたことが窺える。その後も夏にかけての死亡率は一気には下がらず、秋になってなんとか踏みとどまったことが分かる。

これは「感染した後に死亡した割合」であり、「死者数」ではない。感染者数と死者数の推移はこうなる↓

日本の場合。↑新規感染者数 と ↓死者数の推移(worldometers.info より)


死亡率は低く抑え込めているものの、感染者数に比例して死者数も増えていることが分かる。

↑新規感染者数(オレンジ色)と回復者数の推移(worldometers.info より)

インド

これが、目下医療崩壊が深刻なインドの場合だとこうなる↓。


↑インドの感染者数推移。今年4月に一気に上がり、今はなんとか減る傾向を見せているように見えるが……。(worldometers.info より。以下同)
↑インドの死者数推移。感染者数は減る傾向を見せているが、死者数はまだ下がっていない。


↑インドでの回復者と死者の割合の推移。割合にすると低いままだが、感染者数が多いので死者数は下がっていない。

インドでは医療崩壊が起きていると思われる。新規感染者数が減っているというのも、医療現場がパンクしているため検査が追いついていないだけではないだろうか。死者数についても、実際にはもっとずっと多いのではないかと疑われている。
日本がこうなるかならないかは、今が正念場だろう。その緊張感が、政府からまったく伝わってこないのは悲劇だ。

モンゴル

目下、私が最も注視している国がモンゴルである。
モンゴルは、昨年はずっと新規感染者が毎日一桁、二桁で続き、死者も出さないという、アジアの中でもCOVID-19被害が極端に少ない国だった。
それが今年3月に突然、感染者が1万6000人を超えるという急増に見舞われた。

↑モンゴルの感染者数↑ と 死者数↓

1日の死者数はずっとゼロだったが、今年4月以降には最多で12人という日もあった


↑5月19日現在の累積死者数は227人(worldometers.info より

モンゴルが他のアジア諸国と違うのは、それまでずっと感染者がゼロに近かったのに、感染者、死者が出ると直ちにワクチン接種を開始し、ものすごいスピードで摂取率を上げたことだ。
広い国土に人口が332万人程度という、極端に人口密度が低い国だからできたという面があるが、それにしても徹底している。

↑ごく短期間で、すでに国民の半数以上がワクチンを接種している。

同国は、今年に入って「一戸 一人」PCR検査実施キャンペーンを始め、その後すぐ、2月23日からワクチン接種をスタートさせる計画を立て、実行に移した。
国立感染症センターの倉庫にワクチン保管室が設置され、1月には-70度の冷凍機を26台(18万人分収蔵可能)を購入。
感染リスクの高い保健分野の医療従事者、警察をはじめとする公務員、高齢者、基礎疾患のある人を優先とすることも決められた。(montsame 2021/02/18
肝心のワクチンは、2月22日に、アストラゼネカ(製造はインド血清研究所)15万本、シノファーム(中国医薬集団)製30万本が到着。それらはインド政府、中国政府が無償提供。さらにはロシア製のスプートニクVも3月第一週に到着。
シノファームとスプートニクVについては世界保健機関(WHO)の許可が下りていない3月5日の段階で、モンゴル保健省が独自の判断で承認して接種を開始した。
その他、COVAXプログラム(WHOの途上国向け新型コロナウイルスワクチン共同購入枠組み)も利用してファイザーやモデルナのワクチンも使用しているらしい(その割合などは非公表)。
ワクチン接種費用のために世界銀行からおよそ5000万ドルの融資も受ける予定。
ワクチン以外では、4月10日から外出禁止令を発令し、全国民に1人当たり一律30万トゥグルク(約1万1,400円)を給付(情報元は「ビジネス短信」など)……と、とにかく徹底している。

モンゴルはモンゴロイド系人種の代表といえ、日本人とはHLA型をはじめ、遺伝子要因がかなり共通していると思われる。そのモンゴルが目下アジアにおいて最もワクチン接種率が高いわけで、今後、感染者数、死者数がどのように推移していくのか、注視している。
ワクチンの効果か、すでに感染者数は減ってきているようだ。
このまま一気に減っていけばいいのだが、もし、なかなか下がりきらずに死者も一定レベルで出続けるようなことになれば、日本にとっても相当怖ろしいことになる。

ワクチン接種率の推移。上からモンゴル、ルクセンブルク、インド、世界平均、日本 (Our World in Data より クリックで拡大

自己防衛を徹底するしかない

日本は残念ながら、ワクチン接種のシステムも滅茶苦茶だし、政府は問題の核心を直視せず、政局がどうのとか、政権維持がどうのという関心しかない。
この状況がすぐに改善されることは不可能なわけで、国民はひたすら冷静に状況を分析し、自分でできる感染防止策を続けるしかない。
もう飽き飽きしているとは思うが、極力人混みには出ない、人がいる場所ではマスクをする、といったことを続けるしかないだろう。
パニックや偏見で行動することがいちばん危険であり、社会状況を悪化させる。
そうなると、コロナそのもので健康を損なうよりはるかに怖ろしく、息苦しい社会になっていく。
それを避けることは、我々一人一人がしっかり意識を持って行動することで可能なはずだ。


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