そして私も石になった(14)戦争より効率のよい手段2022/02/14 19:46

戦争よりもずっと効率のよい「手段」


<では続けるよ。
 Gは、今の世界から人間を大幅に間引きたい。
 それにはどうすればいいか?
 人間をまとまった数「間引く」のが目的なら、戦争は効率が悪い。
  •  戦争では相手が抵抗してくる。やっかいだ。
  •  戦争ではそれまで築いてきた社会インフラや環境が破壊される。資源も浪費される。もったいない。
  •  戦争では主に若い男子が死ぬ。労働力としていちばん使える世代を減らすのは合理的でない。
  •  今までは、戦争によって技術革新が進むというメリットがあったが、第二次大戦以降はその効果も薄れてきた。
 となれば、当然、戦争以外の方法を使うよね?>

「戦争以外に人間を大量に死なせる方法……天災とか伝染病とかか」

<その通りだ。
 ここでスペイン風邪のことを思い出してほしい。
 第一次大戦で死んだ人間は、兵士、民間人合わせて1700万人。しかし、同時期に世界中で流行したインフルエンザで死んだのは1億人。世界人口19億人から一気に1億人が消えたんだよ。
 これはデマでも神話でもなく、歴史上の事実だ。
 おっと、「すぐに信じるな」と言ったばかりだったね。すぐには信じなくてもいい。これも、事実かどうかは、しっかり考えてみてくれ>

「あんたも結構面倒なやつだな。そんなこと、いちいち断らなくていい。俺はとりあえずあんたの話を聞いているだけだ。
 で、1億人が死んだとして、それもGが仕組んだことだったというのか?」

<そうだ。
 1918年に世界的に大流行して1億人を死なせたインフルエンザウイルスは、自然に発生したものではないんだ>

「じゃあ、どこかの研究所で人為的に作られたものだとでもいうのか? ありえないだろ、そんなこと。大正時代だぜ。人間はウイルスというものの存在さえ知らなかったじゃないか。顕微鏡の性能も悪かったから、ウイルスを見ることさえできなかったはずだ」

<そうだね。人間が自力で(ヽヽヽ)ウイルスをつくることは到底できない。でも、Gが介入していれば?>

「ああ~、それこそ……まあ、いいや。続けてくれ」

<後に、人間は電子顕微鏡も発明して、ウイルスの存在を知るようになった。それで、各国のいろいろな研究機関がスペイン風邪の正体をつきとめようと研究した。
 それで分かったことは、あのときのインフルエンザウイルスはそれまで地球上にはなかったタイプのウイルスらしいということだった。
 H1N1型と名づけられたそのウイルスは、その後もいろいろ変異して、毎年世界のあちこちでインフルエンザを流行らせた。その母体みたいなものがスペイン風邪のウイルスだったと。
 今ではそれが常識となって、毎年インフルエンザが流行りそうな冬が来る前に、製薬会社はインフルエンザ予防ワクチンというものを作って、接種を勧めるようになった。
 今度のインフルエンザは多分こんなタイプだと予想できるから、それに効きそうなワクチンを作りましたよ、と宣伝して。
 国もそれを援助した。
 これは、ひとつにはビジネスという側面がある>

「製薬会社が儲かる、ということか?」

<そう。これは分かりやすいよね。治療薬やワクチンが生み出す利益は莫大なものだからね。
 だけど、Gにとって大切なのはそこじゃない。
 こういう世界があたりまえだと、世界中の人々に思い込ませることが主目的なんだ。
 インフルエンザという流行病が毎年のように出てくる。それで死ぬ人がたくさんいる。死なないように、ワクチンを開発して予防接種をしましょう……という社会が、人道的でありがたい社会だと思わせる。
 現代の医学、医療技術、医療システムというものを、自分たちの味方であり、保護者だと信じこませる。
 誰も「それってなんかおかしいんじゃないか」とは疑わないようにする。
 そのために、病院は命を救う場所で、医者は自分たちの命を守ってくれるありがたい人たちだと、子供のときから教え込ませる>

「違うのか?」

<医者にもいろいろいるだろ。
 真剣に病人や怪我人を助けたいという情熱や信念を持って日々働いている医者はもちろんいる。でも、親が医者だったから継いだとか、医学部に入れるだけの学力があったからなんとなく医学部を受験したとか、医者になれば周りから尊敬されて、金にも不自由しなくて、カッコいい人生を過ごせるんじゃないかとか、その程度の動機で医者になってしまったというのもいっぱいいる。
 患者を治療するのは面倒だしダサい。最先端の研究だけしたいという者もいる。人体解剖や動物実験は好きだけど、老人のシワシワの身体に触るのは嫌だ、とかね。
 病院も同じだ。経営に行き詰まっている病院はたくさんある。利益を生むためには、製薬会社が勧めてくる薬価の高い新薬をどんどん与えていくのが手っ取り早いと考える病院経営者は少なくない。
 だから、医者の中にも、新種の病原体の開発こそが世界を激変させる最も有効で効率的な手段だという認識を持っていない者が大勢いる>

「なんだか話がどんどん極論になっていくというか、悪意を込めて歪曲しているように聞こえるなあ」

<そう感じるのは、きみの思考回路に「正常化バイアス」が組み込まれているからだよ。
 虐殺が成立する4つの条件を思い出してくれ。
 1つめは「相手を油断させること」「正常化バイアスを作ること」だったね。
 津波が来るぞ、と警告されても、まさかここまでは来ないだろうと思い込もうとする。
 身体に悪いものを与えられても、権威ある者や組織が「これは安全が証明されている」といえば、嘘であるはずがないと思い込む。「いや、危険かもしれない」と警告する者がいても、その意見は無視してしまう。
 ……もう気づいたかな? インフルエンザワクチンがたとえ身体に悪いものであっても、まさかそんなことがあるはずはないと信じ込ませる。これは周到な「準備」なんだよ>

「だけど、インフルエンザワクチンを打って死んだというニュースなんて聞いたことがないぜ。あったとしても極めて例外だろう? 飛行機はたまには墜落して乗客が死ぬとしても、その確率は極めて低い。飛行機は墜ちることがあるから全面禁止する、とはならない。インフルエンザワクチンだって同じことじゃないのか?」

<そう。まさに今きみが言った論理もまた、準備された「仕掛け」なんだ。
 メリットとデメリットを比較したらメリットのほうがはるかに大きい。だからメリットのほうを選ぶのは当然だ──と、そういう論理が理知的でスマートだという風潮を作っておく。自分は人より賢いと思いたい人間ほど、その論理を振りかざし、疑ってかかる者を馬鹿にする。
 実際には、ワクチンだけでなく、医薬品にはかなり危険なものがたくさんある。でも、危険性や、薬が引き金となって健康を害したり死んだりした例は、あまり報道されない。メディアは巨大スポンサーである製薬会社に都合の悪い情報は自主規制してしまうからね。政治もそうだ。
 これはまさに虐殺の2番目の条件である「抵抗する手段を持たせない」ということだね>

「だけど、大正時代にあったスペイン風邪がすでにGに仕掛けられたものだというなら、世界人口はとっくに激減していてもいいんじゃないのか? ウイルスをばらまけば殺せるんだから、わざわざ製薬会社とか政治なんて面倒な手段を使う必要もなさそうだけれどな」

<いやいや、そんな簡単なことじゃないよ。
 スペイン風邪を世界中に流行させた時代は、人間の持っている技術レベルや社会インフラが、まだGが望むようなレベルにまで達していなかった。だからもう少し時間をかけて、技術レベルを上げる必要があった。あれはまだ「予行練習」みたいなものだったんだ。実際に人間社会がどうなるかを確認するためのね。
 本番はこれからだよ。それも、いっぺんには来ない
 世界人口がいきなり10分の1に減るような急激な変化を起こしたら、人間はパニックを起こし、何をしでかすか分からない。それこそ核戦争みたいなものが起きたら元も子もない。
 だから、じわじわと何回にも分けて仕掛けてくるはずだ。
 おそらく数年以内には、Gは次の実験を行うだろう。新型のインフルエンザが出てくる。そのために、今からいろんな情報を流しているだろ。
 まず、学界ではスペイン風邪の正体は鳥インフルエンザが変異したものだったという説が定着し始めた。実際、鳥インフルエンザそのものがあちこちで流行している。その度に人間は慌てて、その地域の鳥を大量殺処分する。
 だけど、鳥インフルエンザは渡り鳥が世界中に運ぶわけだから、狭い地域のニワトリを一斉に殺処分しても意味がない。そういうことも理解させず、そうすることは「仕方がない」と思わせる。
 次は、鳥インフルエンザのウイルスは人間には感染しにくいが、変異はするので、人間に感染するような変異が起きれば、再びスペイン風邪のような億単位で人が死ぬ事態が起きかねないと宣伝する。そうして人々に恐怖心を植えつける
 恐怖を植えつけるのは虐殺の条件の3つ目だったね。
 そして、恐ろしい感染症に備えるために、国家規模で抗ウイルス薬を備蓄し、ワクチンの開発研究を進めるべきだという「常識」を作り上げる。恐怖とセットになった「誘惑」だ。
 実際、今はここまで「準備」が完了している。
 2003年に発生したSARSも「準備」の一環だ。SARSのウイルスは「一本鎖RNAウイルス」という種類のものだが、インフルエンザウイルスや一部の流行性感冒のウイルスと同じ仲間だ。SARSの出現によって、今までのインフルエンザより怖い感染症がいつ出てきてもおかしくないという不安が人々の記憶に植えつけられた。
 おそらく数年以内に、新たなインフルエンザウイルスが登場するだろう。そして世界中がまた浮き足立つ>

「そのインフルエンザで億単位の人間が死ぬのか?」

<いや、そうはならないはずだ。これもまだリハーサルだよ。その新型インフルエンザは騒がれるが、大きな被害は出さない。ただし、そのときに各国政府がどう動くのか動かないのか。新薬がどのように受け入れられ、どの程度の利益を生み出すのか、といったことを、Gはしっかり観察するはずだ。
 そこで製薬会社などが得た莫大な利益は、「本番」に向けて使われる。
 「本番」はそこから10年後くらいから進行していくんじゃないかと思うよ>
           


ジャンル分け不能のニュータイプ小説。 精神療法士を副業とする翻訳家アラン・イシコフが、インターナショナルスクール時代の学友たちとの再会や、異端の学者、怪しげなUFO研究家などとの接触を重ねながら現代人類社会の真相に迫っていく……。 2010年に最初の電子版が出版されたものを、2013年に再編。さらには紙の本としても2019年に刊行。
  Amazonで購入のページへGo!
  Kindle版は180円!⇒Go!

タヌパックブックス




Facebook   Twitter   LINE

コメント

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://gabasaku.asablo.jp/blog/2022/02/14/9464327/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。