日本で「犬」に狂犬病予防注射をするということ2016/05/02 11:41

ご近所の老犬(13歳くらいらしい)のお散歩係に就任して数か月。
いつも僕の顔を見るたびに狂喜乱舞して、リードをつける間もなくグイグイ引っ張って暴走するのに、数日前から突然元気がなくなり、日増しにひどくなっていた。
ついには腰も立たず、立ちあがろうともしない。
「どしたの? お散歩行かなくていいの?」と、しゃがみ込んで3分くらい話しかけてみたが、動かない。
諦めてそのまま帰った。
翌日、買い主さんに「様子がおかしい」と話したところ、「そういえば先週、狂犬病の予防注射打ったんですよ」と言われた。
それが原因なのだろうか……と、ネットでいろいろ検索してみたら、ほぼ間違いなくそれが原因らしいと分かった。
今までも、なぜ何十年も発生していない日本で狂犬病の予防接種が義務化されているのか疑問に思ってはいたが、子供の頃しか犬を飼っていないので、あまり深く考えたことがなかった。
「たぬ」にはフィラリアの薬だけはきちんきちんと飲ませていたけれどね。

「狂犬病」とは何か?

  • 狂犬病は人間も含めてほぼすべてのほ乳類に感染する。英語ではRabies または hydrophobia(恐水症)で、「犬」という単語は出てこない
  • ラブドウイルス科リッサウイルス属のウイルスを病原体とするウイルス性の人獣共通感染症の1つで、遺伝子型で7種に分けられるうちの1種。他の6種は主にコウモリが感染源
  • 感染した動物が噛みついたり引っ掻いたりして唾液などの体液が体内に入ることが主な感染原因。
  • ヒトからヒトへの感染例はないが、感染した人間が他人に噛みついたりすれば、理論上は感染する可能性はある
  • 潜伏期は数日から数年と幅が広い。一旦発症すると致死率はほぼ100%で、治療法はない
  • 全世界では毎年5万人くらいが死んでいる(うち約3万人はインド)。主な流行地はアジア、南米、アフリカ。北米ではアライグマなどの野生動物による感染が多い
  • 日本では1956年以降は感染報告はゼロで、根絶されている。他にもイギリス、ノルウェー、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイ……などなど、島国を中心に、根絶されたとされる地域は多い
  • 日本で狂犬病ウイルスが根絶された後の日本人の死者は、1970年にネパールを旅行中に犬に噛まれて帰国後に発症、死亡が1名。2006年に京都と神奈川在住の60代の男性2名(フィリピンに2年間滞在)がフィリピンで犬に噛まれた後、日本に帰国後に発症して死亡の合計3名
  • アメリカでは人への感染は年間数名程度。スカンク、コウモリ、アライグマ、キツネなどの野生動物で毎年6,000~8,000件。ネコが200~300件。イヌが20~30件の感染報告がある

こうしてまとめてみると、まず第一に「狂犬病」という名称がまずいだろうということが分かる。そういう名称にしているのは日本だけだ。
東南アジアなどでは犬を放し飼いにしているのがあたりまえで、しかも特定の飼い主がいない(なんとなく地域の人たちが餌をあげている)ような状況が多いので、ワクチン投与がなかなか進まない。だからアジアでは犬に噛まれて感染するケースが多い。
南米ではコウモリがいちばん多いし、アメリカではアライグマなどの野生動物がいちばん多い。
犬猫をペットとして飼っている環境が日本と近いと思われるアメリカでは、犬よりネコのほうが感染例は1桁多い。

アメリカの例では、こんな記事を見つけた。
 米国ではアライグマ、狐、スカンク、コウモリが狂犬病ウイルスの宿主となっていて、動物での狂犬病の87%を占めるといわれています。コウモリによる狂犬病は急には拡がらないので、流行の原因とはみなされていません。最近、問題になっているのはアライグマの狂犬病です。

 アライグマの狂犬病は以前は米国南東部フロリダ州に限局していました。しかし1989年10月にニュージャーシイ州でアライグマの狂犬病がみつかり、1990年だけで37例がみつかっています。地図を見るとフロリダからノースカロライナを飛び越して狂犬病が拡がったことがよく分かります。
この理由としては、ハンターが狩猟用のアライグマの数を確保するためにフロリダから3500頭のアライグマを1977年にバージニアに放したためと考えられています。人為的な流行の拡大です。
公益社団法人日本獣医学会 連続講座第17回「野生動物の狂犬病」 より)


以上のことから分かるのは、日本に再び狂犬病ウイルスが持ち込まれる可能性があるとすれば、海外から持ち込まれた動物を介して以外はまず考えられないということだ。
日本にいる犬が感染するとしたら、海外から感染した動物が持ち込まれ、その動物に咬まれたり引っ掻かれたりした場合だ。室内飼いされている犬、つながれている犬にそんな可能性があるだろうか?
それよりも、海外から持ち込まれる動物の徹底的な検疫体制を作ることが先ではないか。
「人間を噛む可能性がある動物は犬がいちばん多い」というが、そもそも、まずは飼っている犬が感染している動物(人間を含む)に接触しなければ感染することはありえない。
ワクチン注射は、すでにウイルスが存在している場所で、感染動物を根絶させるためには最も効果的な方法だ。これは間違いない。しかし、一旦根絶した後は、感染していない動物、しかも犬だけを選んでワクチン注射を続ける意味が見つけられない。
感染の可能性が高いのはむしろ海外渡航した人間である。ワクチンを打つ必要性があるとすれば、人間のほうだ。
海外で感染した人間が帰国後に犬に噛みつくことはまずないだろうから、日本の犬に注射しても意味がない。
また、検疫体制の不備を突いて海外から感染動物(可能性が高い例としてはフェレットなど)がペットなどとして持ち込まれてしまった場合も、最初に感染するのはその動物と接する機会がない犬ではなく、そのペットの飼い主である人間だろう。
ロシア船にのせられた犬が港で放されて云々という話もあるが、それとて、もしその犬が感染していたら、最初に噛まれるのは犬ではなく人間だろう。港に日本で飼われている犬が放されていることはまずないが、人間はいっぱいいるのだから。
ましてや、都会の犬のように室内飼いされている犬、放されていない犬がアライグマやフェレットに噛まれて感染する可能性は限りなくゼロだ。
一方で、狂犬病のワクチン注射をすることで老犬や幼犬が体調を崩し、下手をすればそのまま死んでしまうというケースはいくらでもある。

誤解しないでほしいのは、ここで言いたいのは、まずは海外から入ってくる動物の検疫を徹底せよ、ということだ。それをしないで、限りなく安全な国内の犬にせっせと毎年注射しているのはおかしいでしょ、と。
そもそも、野生動物をペットとして輸入・販売することを全面禁止にすれば、どれだけ狂犬病再侵入の危険を減らせることか。なぜできないのか。

オーストラリアでは狂犬病のワクチン注射は「禁止」されているという。犬への負担もさることながら、ワクチン注射で下手に抗体を作ってしまうと、ウイルスが国内に入り込んだときにすぐに発見できなくなる可能性があるから、ウイルスがワクチンへの適応性を持って変異してしまうこともあるかもしれないから、ということらしい。
すぐに発見できればすぐに処置できるので、感染が広がる前にブロックできる……と。
なるほど、そのほうがはるかに合理的な考え方だ。
酪農大国オーストラリアでは、ウイルスの侵入を防ぐことは国の産業を守る上で最上位重要項目だ。真剣に考えてそうしているのだ。

日本では、一旦決めてしまったことを変更するのは怖い、面倒だ、責任を取りたくない……という精神が、行政のあちこちで不合理を生じさせている。それによって被害を被るのはいつも弱者だ。
要するに、意味のないことは明白だけれど、「犬のことだ(注射で死ぬとしても犬のほうで、人間は死なない)し、費用は飼い主の全額負担だからいいや」「やめたら製薬会社や獣医師界から猛烈な突き上げが来るから放っておこう」ということなのだろう。

ご近所の犬はその後少しずつ回復し、昨日あたりはほぼ以前と同じように元気に歩けるようになった。一安心。でも、来年はどうなのか……。
犬を連れて散歩していると、いろんな人に声をかけられる。すると、「ああ、うちでもそうです。狂犬病の予防注射をした数日後に急にご飯を食べなくなって、何日かぐったりしていました」とか「前に飼っていた犬は狂犬病の予防注射をした翌週に突然ぐったりして死んでしまったので、今の犬にはこわごわさせている」といった話を聞く。
なんという理不尽な、そしてひどい話だろうか。

ちなみに、獣医さんによっては「病弱なので狂犬病予防接種は避けたほうがよい」というような証明書を出してくれるらしい。

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私の「現役」カメラ4台 2016年版2016/05/02 12:10

これをこんな風にぶら下げてお散歩している

1000万画素以下のカメラがほしい

デジカメの本を最初に書いたのは岩波アクティブ新書の『デジカメ写真は撮ったまま使うな!―ガバッと撮ってサクッと直す』 だった。アマゾンで確認したら2004年7月発売ってなっているから、もう干支が一回りした昔、中越地震前のことなのだなあ。
それから「ガバサク理論」なるものを主張し続けて、「ガバサク談義」(http://gabasaku.com/)なるサイトも作って、たまに記事をUPしているけれど、実際にはカメラ談義の内容もすべて「のぼみ~日記」に含まれている。
というわけで、よく訊かれる「どんなカメラを使っているのか?」に答えます。
ポイントは「お金がないので高いカメラは買えない」「室内撮りや狛犬撮影が多いのでレンズが明るいのが第一条件」「画素数は極力少ないものを選ぶ」……ですかね。

オリンパス XZ-10


1/2.3型 CMOS。3968×2976(約1181万画素)。F1.8-2.7/4.7mm~23.5mm(26~130mm)。30~1/2000秒。221g(カード、電池込み)


常にこの状態
1日中この状態で腰にぶら下がっている


朝起きてから夜寝るまで、常に腰にぶら下がっているカメラ。あ、これ面白そうと思ったらすぐに取りだしてサクッと撮る。
最大の長所はF1.8-2.7と、レンズが非常に明るいこと。望遠端(130mm相当)でもF2.7なのだからすごい。
欠点は動作がもっさりしていること(連射速度も驚くほど遅い)とコンパクト機としてはボディが分厚く、見た目が野暮ったいこと。いいカメラなのに売れなかった(多分)のは、商品をパッと見た感じの印象がダサいからだろう。コンパクト機は見た目で売れる商品だろうからね。
こういう真面目なコンパクト機はもうなくなってしまった。製造終了してずいぶん経つが、まだ新品在庫が売られているようだ。オリンパスはこれの後継機種を出すつもりはないらしいので、これが壊れたらかなり困るだろうなあ。
☆紹介記事は⇒こちら

XZ-10で撮影 1/640秒、F3.5 クリックで拡大


オリンパス Stylus1


1/1.7型 CMOS。4000x3000(1200万画素)。F2.8(全域)/6-64mm(28~300mm)。1/2000~60秒。402g(カード、電池込み)
28-300mm相当で全域F2.8という使いやすさが最大の魅力。画質もXZ-10よりは上。連写速度などもはるかに上。マクロから野鳥までなんでもこれ1台でこなせる万能カメラ。
正確な電子ファインダーがついているのもいい。いざとなればマニュアルでピント合わせがしっかりできる。
ただ、基本的には1/1.7型CMOSのコンパクト機だから、背景はぼけないし、画質もAPS-Cサイズのカメラには負ける。
☆紹介記事は⇒こちら

Stylus1で撮影。1/640秒。F3.5  クリックで拡大


ソニー NEX-5R+ソニー50mm/F1.8


APS-Cサイズ CMOS。4912 x 3264(約1610万画素)。F1.8/50mm(75mm)。 バルブ or 30~1/4000秒。276g(本体とカード、電池込み。レンズ含まず)


コンパクト機の小さなCMOSではどうしても物足りない、あるいは背景をしっかりぼかして撮りたいという場合は撮像素子を大きくするしかない(そうしないと物理的にレンズの焦点距離が伸びないから)。
それでもなるべくコンパクトにいきたい、ということで、レンズ交換式ミラーレスカメラの登場。これがまあ、中途半端な規格のものが多くて、もはや1200万画素クラスのCMOSを使ったAPS-Cサイズカメラは見つからない。仕方なく、その次の1600万画素クラスから選ぶ。
NEX-5Rはファインダーがついていないのが失敗だった。このクラスのカメラになるとやっぱりファインダーは必要だなあ。というわけで、ファインダーのついているNEX-6をお勧め。
これは動画撮影と狛犬写真集用に使っている。レンズはもっぱらSony製の50mm/F1.8。このレンズは安くて助かる。セット販売のズームレンズ F3.5-5.6/16-50mm(24~75mm)だと背景がしっかりぼけてくれないので、今ではしまい込んで忘れている。
動画がいい感じで撮れるし、内蔵マイクの音もそこそこよい。これ以上音質を求める場合は、かなり高価な録音機を別に買う必要がある。
☆紹介記事は⇒こちら


↑NEX-5R+50mm/F1.8で撮った動画


ペンタックス K-r+シグマ18-50mm/F2.8


APS-Cサイズ CMOS。4288×2848(約1221万画素)。F1.8(全域)/18-50mm(28-75mm)。30秒~1/6000秒。約598g(専用電池、SDカード込み、レンズ含まず)


これは最近購入。
昔撮った狛犬写真を見ていると、これはそこそこきれいに撮れているなと思う写真のほぼすべてがペンタックスK-100Dで撮ったものだった。APS-Cサイズで600万画素CCDの一眼レフ。画像が明るく、発色も階層が深くてきれい。画像ソフトによる後処理でも、1画素あたりの光が多い分、反応がいい(きれいに変化してくれる)。この前はニコンのD70で、この後はソニーのα300を購入したのだが、どちらもK-100Dで撮った写真よりも画質がよろしくなかった。
しかし、K-100Dは設計が古いせいか、最近の大容量SDカードを使うとデータがとんでしまうということが2度あった。1000枚超えたあたりで一気にデータが飛ぶなんて、怖くて使えない。それで半隠居させたのだが、K100Dのためにと購入したペンタックス用のレンズが何本かあるので、もう一度ペンタックスを使ってみようと思い立ち、いろいろ考えた末にこのK-rがいちばんバランスがよさそうだと判断。
画素数が少ない分、NEX-5Rより画質がよい。
ペンタックスはレンズが豊富で、安く手に入るのがありがたい。シグマやタムロンなどのレンズメーカーのAPS-Cサイズ用レンズは、ニコン、キヤノン用と同時にたいていペンタックスのKマウント用も出ている。
欠点は液晶モニターが固定式であること。ペンタックスはバリアングルモニターをつける意志がないらしい。
それと動画はほぼ使いものにならないので、静止画専用になる。

K-rで撮影。1/60秒、F1.8 クリックで拡大



以上の4台が目下「現役」のガバサクチーム。お金がないし、このところ魅力的な新機種がずっと出てこないので、当分このラインアップでやりくりすると思う。
ここに紹介した4機種はすべて製造終了している。同じものを今から買おうとすれば、新品ではStylus1の後継機種Stylus1sしか製造されていない。
XZ-10はぎりぎり新品が売られている。よほど在庫が残っていたのだろう。
NEX-6もK-rもずいぶん前に製造終了で、今はもう新品ではまず入手できないと思う。程度のよい中古を探すしかない。アマゾンで確認してみたら、ほとんどのカメラは中古も含めればまだ入手可能のようだ↑(2016年5月現在)
なぜ中古を探さなくてはいけないのか。それは、CMOS製造の最大手であり技術的にも他社を引き離しているソニーが、今なお高画素数追求路線をやめないからだ。1/2.3型で1600万画素だなんて馬鹿げている。いいことはひとつもない。
カメラ本体の設計がソニーよりうまいメーカーも、撮像素子だけはソニー製にかなわない。だからソニー製CMOSを使う。結果、画素数を抑えたCMOSがこの世に出てこない。
乏しい光量の小さな画素をいくらたくさん集めてもきれいな写真にはならない。映像エンジンなるコンピュータ処理でどれだけごまかして「脚色」しても、不自然な色味のものができあがるだけだ。
ソニーが今の技術で600万画素~800万画素くらいのCMOSを出せば、デジカメの画質は一気によくなり、世界中の人が幸せになれるはず。
それがなぜできないのか、不思議でしょうがない。




原発が壊れるのは靴下が片方なくなるのと同じ2016/05/03 13:41

同じ!
フェイスブックで「大笑いした」というネタが⇒これ。「いったいなぜ?靴下の片方だけが行方不明になってしまう謎が科学者によって解き明かされる」
 洗濯をするたびに靴下の片方が行方不明になってしまう。おかげでタンスの中は片方しかない靴下だらけで、新しく買いなおす出費もバカにならない。だが、この人類を苦しめるミステリーがついに解き明かされた。
 ミステリーの解明を行ったのは心理学者サイモン・ムーア博士と統計学者ジェフ・エリス博士……。


ほお~、そうですか。
心理学者と統計学者が本気で研究したわけですね。

 この調査から、イギリスでは1人当たり月平均1.3足の靴下が消失していることが判明。1年なら15足、一生なら1,264足にもなる。 靴下消失による損害は1人当たりの生涯でおよそ40万円(2,528ポンド)、年間3,158億円(20億ポンド)にも達する。


……というわけで、真面目な調査・研究なのだということは分かった。
で、ニヤニヤしながら読んでいたのはこのへんまで。
次の部分を読んで、急に笑っていられなくなった。

なお、靴下消失に関わる4つの心理的要因は以下の通りだ。

1. 責任の分散
 洗濯する者が自分以外の人間に責任を押し付けることから、誰も失くし物について責任を負わない。結局、靴下は見つからなくなってしまう。

2. 視覚的認識(ヒューリスティック)
 ヒューリスティックとは、暗黙のうちに用いる簡易な解法や法則のことをいう。さっと判断できる反面、必ずしも正しいわけではなく、判断結果にバイアスがあることも多い。このバイアスのせいで、例えば靴下やテレビのリモコンなどがいつもの場所にないと、失くしてしまったと思い込んでしまう。
 
3. 確証バイアス
 人は真実であってほしいと思ったことを真実であると思い込む傾向にある。今回の事例でいうなら、人は両方揃っていない靴下が目に入らなければ、それはないと信じ込みがちということだ。

4. 過失、過怠
 様々な事故や謎の背景にはヒューマンエラーがある。例えば、誰かが床に靴下が落ちているのを見たとしても、それを拾って洗濯物カゴや洗濯機の中に入れなかったりすることがある。この場合は過怠だ。あるいは色の濃い洗濯物の中に白い靴下を入れてしまったり、片方だけ適当な場所に置いてしまったりすることがある。これが過失である。


……これって…………。

もうお分かりだと思うが、少しだけ書き直してみた。

1. 責任の分散
 政府、電力会社、規制委員会それぞれが自分以外の人間に責任を押し付けることから、誰も事故や欠陥について責任を負わない。結局、重大事故は必ず起きてしまう。

2. 視覚的認識(ヒューリスティック)
 ヒューリスティックとは、暗黙のうちに用いる簡易な解法や法則のことをいう。さっと判断できる反面、必ずしも正しいわけではなく、判断結果にバイアスがあることも多い。このバイアスのせいで、例えばパッと見ていつも通りの風景だと、これで大丈夫と思い込んでしまう。
 
3. 確証バイアス
 人は真実であってほしいと思ったことを真実であると思い込む傾向にある。事故は絶対に起きないと言い続けていれば、いつか本当に起きないと信じ込むようになる。

4. 過失、過怠
 様々な事故や謎の背景にはヒューマンエラーがある。例えば、作業現場で誰かが床に小さなボルトが一本落ちているのを見たとしても、それを拾って正体を確かめようとしないことがある。この場合は過怠だ。あるいは微妙に寸法の違うボルトをちょっと緩いかもと感じつつ間違った場所に使ってしまったりすることがある。これが過失である。



靴下が片方だけなくなるのも、原発から放射性物質が漏れ出すのも、人間のやることであるから必ず起きる。原発が絶対に安全だと主張する人は、靴下はなくならない、靴下紛失事故は必ず防げる、と言っているのと同じことだ。

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ものを大切に長く使うと「罰せられる」国2016/05/14 22:37

都知事の公用車として有名になった黒塗りのトヨタアルファード(トヨタのサイトより)
舛添都知事の「公用車」として有名になった黒塗りのトヨタアルファード (トヨタのサイトより)

家とか自動車のような「長期にわたって使用される商品」を耐久消費財という。高価な物だし、貴重な資源とエネルギーを使って作るものだから、性能はもちろんのこと、長く使えるかどうかが重要になる。長く使うことで初期投入の資源やエネルギーの「元を取る」わけだ。
まだ使えるけれど、飽きたから買い換える、というようなものではない。そういう消費行動をする人は「ものを大切にしない」「資源を無駄遣いする」ということで軽蔑される(はずだ)。
しかし、日本という国は、いつの間にか「使い捨ててどんどん買い換えることこそがよい国民の行動である」「ものを大切に長く使う人は経済発展の足を引っ張るので企業や富裕層にとっては都合が悪い。よって罰を与える」という法律を作り、実施するというとんでもない国になってしまった。

先日、自動車税を支払った。
登録後約17年を経ている我が家の1台(スズキの1600cc乗用車。2003年に中古を37万円で購入した)は、「車齢13 年超のガソリン車」ということで重課税され、本来なら1600ccガソリン車は39500円のところ、45400円である。去年までも約10%の重課税で腹を立てていたが、今年はさらに5%上乗せされた。
「車齢 11 年超のディーゼル車、車齢 13 年超のガソリン車・LPG車の自動車税重課割合を概ね 10%重課から概ね 15%重課に引き上げる」という税制改悪を国土交通省が要望し、認められたからだ。
軽自動車や原動機付き自転車など、田舎では日常生活の足として欠かせない車も今年度から自動車税を上げられた。軽(660cc以下)の自家用車は従来7,200円の自動車税だったが、今年からは13年超の車は12,900円で、なんと約80%も引き上げられた。原付バイクは1000円から2000円に、100%増税だ。

一方で、「エコカー減税」はさらに拡充させた。
折りしも、舛添東京都知事が法外な出張費を使いまくり、正月に家族でホテル滞在した費用を公費で支払い、公用車で湯河原の別荘までほぼ毎週行き来していたことが報じられているが、舛添知事の公用車とはトヨタのアルファードという車だ(写真↑)
平成26年型というから、都知事就任後に購入させたのだろう。
アルファードのHYBRID Executive Loungeという上級グレードのお値段は約700万円(希望小売価格7,036,691円 税込)である。特別仕様の「ロイヤルラウンジSP」というカスタマイズを施すと約1500万円である。
運転手付きの「走る知事室」がどのグレードなのかは知らないが……。

旬な話題だったのでつい都知事の公用車に話を振ってみたが、問題は「公用車」の車種やお値段ではない。車両総重量が2.6トンあるこの巨大な車がハイブリッド仕様で「エコカー」であると認定されていて、税金を大幅免除されていることだ。
アルファードのHYBRID Executive Loungeはエコカー減税対象車であり、自動車重量税も自動車取得税も100%免除(合計約17万5000円)、自動車税も翌年は3万3500円減税になる。
「合計24万6800円も税金が免除されますよ」と、トヨタも胸を張って売り込んでいる。

トヨタといえば「いつかはクラウン」という名コピーがあった高級車クラウンも思い浮かぶが、この最上級グレード「マジェスタ“Fバージョン"」(車両総重量約2.1トン。約700万円)もエコカー減税対象車で、自動車重量税、自動車取得税、自動車税を合わせて約24万7200円の税が免除される

こういう車を1台製造するのに、一体どれだけの資源とエネルギーを使っていることか。その結果、移動させているのは公共交通機関を使わなくていい強者ひとりだったりする。これこそ「環境負荷の高い車」ではないのか?

いうまでもなく、この手の車をポンと買える人というのは相当な富裕層だろう。自分で運転せず、専用の運転手付きで乗っている人も多い。そういう車はエコカー減税だのグリーン税制だので何十万円も税が免除され、田舎での生活必需品として軽自動車やバイクに乗っている人たち(一般の納税者)には増税や重課税という「罰」を与えてむしり取る。
しかも「古い車は環境に負荷をかけるから」という大ウソをついて、車重が1トンもない軽自動車は増税し、2トンを超えるような高級車でも「エコカー」だと言い張って自動車重量税さえ免除する。そんな国が他にあるのだろうか?
どうしてもむしり取りたいのなら、正々堂々と「増税したいが、政権を支えてくれる富裕層ではなく、騙しやすくおとなしい大衆から取ったほうが楽だから」と言ったらどうだ。

毎年、この時期が来るたびに何度でも言おう。
こんな国でいいのか、と。

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