小林賢太郎はむしろ日本の危機を救った2021/07/24 17:45

これぞ小林賢太郎ワールド
1か月前くらいからは、さすがに誰もが「今から中止はもうないんだろうな」と思っていただろうが、本当に東京五輪が強行開催されてしまった。
しかも、開会式の音楽作曲担当者が辞任したり、息つく間もなく次から次へと問題噴出。トドメは、開会式前日に、開会式の演出総監督的立場にいた小林賢太郎が電撃解任されるというトンデモな事件まで起きた。

昨夜、開会式を見た。
以下、長い文になりそうなので、最初にひとつ結論的なことをいえば、

開会式に関しては、バッハと橋本聖子の中身の薄っぺらな長演説とIOCがねじ込んできたPR動画さえなければ、ほぼ満点といえる出来のものだった。
まさかこれほどのものを小林賢太郎の指揮の下に用意していたとは、想像できなかった。

以下、私がそうした気持ちになるまでのことを、なるべくていねいにまとめておきたい。(文中敬称略)

「言葉選び」を間違えた、はまさにその通り

まずは開会式前日に起きた、総合演出担当・小林賢太郎の電撃解任劇について触れないわけにはいかない。

ラーメンズのファンである私は、小林賢太郎の才能や作風については一通り知っている。人格や人生哲学まではよく知らないが、それでも「反ユダヤ主義者」とか「ナチのホロコーストを揶揄したコント」という報道はにわかに信じられなかった。
件のコントは20年以上前のもので、まだDVDもなく、VHSビデオテープで売られていたものの中に収録されていたという。
ネット上に出回っていたのですぐに確認した。
当時NHKの子供向け番組として有名だった『できるかな』の登場人物、ノッポさんとゴン太くんに分したラーメンズの二人が、番組のネタを考える企画会議風の会話をしている、という構成。

文字おこしすれば、こうだ。
片桐仁(ゴン太くん風):来週、何やるか決めちゃおうね。そういうことはちゃんとやんなきゃダメだから。何やる、何やる?

小林賢太郎(ノッポさん風):ああ、じゃあ、トダさんがさ……ほらプロデューサーの。「作って楽しいものもいいけど、遊んで学べるものもつくれ」って言っただろ?

片桐:ああ、ああ(頷く)。

小林:そこで考えたんだけど、野球やろうと思うんだ。今までだったらね、新聞紙を丸めたバット。ところが今回は、ここに「バット」っていう字を書くんだ。今までだったら、ただ丸めた紙の球。ここに「球」っていう字を書くの。そしてスタンドを埋め尽くす観衆。これは人の形に切った紙とかでいいと思うんだけど、ここに「人」って字を書くんだ。つまり文字で構成された野球場を作るっていうのはどうだろう?

片桐:ああ、いいんじゃない?

小林:ねえ!

片桐:じゃあ、ちょっとやってみようか。ちょうどこういう人の形に切った紙いっぱいあるから……

小林:あ、本当? ああ~! あの「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」やろうって言ったときのな。

片桐:そーうそうそうそうそう! トダさん怒ってたなあ。

小林:「放送できるか!!」ってな。

コントはこの後も続いて、二人は実際に紙で作った小道具を使った「野球」を始める。つまり、このコントのテーマはホロコーストとは何の関係もない。
文字や言葉で世界を構築する、というような実験に、子供の心を持った二人が挑んでいくという構成の中で、何か笑いが生まれないかという実験的なコントだった。
コントの出来そのものは、他の小林作品に比べてよくないし、それこそ小林がアドリブ的に口にしてしまった「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」というフレーズが致命的だったこともあるだろうが、ラーメンズの公式な(?)作品集には収録されていない。
小林がこの台詞を挟み込んだのは、子供というのは時としてとんでもなく無知で残酷なことを言う、ということから笑いが生まれるのではないか、という計算からだ。だからこのフレーズに対するオチでも、プロデューサーが「放送できるか!」と怒鳴ったということにしている。

もちろん「子供の無邪気さと残酷さは紙一重で、笑えないこともあるよね」というこのネタにこのフレーズを使ったことは大きな間違いで、他にもっといい「言葉選び」ができたはずだ。
元NHKプロデューサーは、自身のフェイスブックの中で「1995年に起きたマルコポーロの廃刊事件からヒントを得たのかもしれない」と書いていたが、小林がそこまで計算してこのフレーズを口にしたとも思えない。おそらく反射神経的な、瞬間的な判断ミスだったのだと思う。

確信は持てないのだが、私は過去にこれを見ているような気もする。
はっきりした記憶ではないのだが、そのときも「え? なんでそんな台詞をここで入れる?」と驚き、観客から笑い声が上がることにも違和感を感じたように思う。小林賢太郎ともあろう才人が、そんな大きなミスをするのか、残念だな、と。
全然違う! と突っ込まれることを承知で喩えてみれば、ボルトが2011年の世界陸上100m決勝で派手にフライングしたときの残念さにも似ている。おいおい、ここでそれはないだろ! という残念さと後味の悪さが。

……と、長々と説明してきたが、今回の「事件」に関しては、あまりにも事実を知らないまま得意げに論評している人たちが多いので、敢えて、こうして検証してみた。

怖ろしい時代になった

このミスがどれだけ致命的で、情けないものだったのかを誰よりも知っているのは小林自身だろう。
しかし、今回の「事件」の本質はそこじゃない。20代のエネルギーに満ちた時期に犯した一度のミスで、人生を丸ごとつぶされる公開処刑のようなものを見せられた我々の恐怖のほうだ。

五輪組織委の橋本聖子会長が小林賢太郎の解任を発表したのは7月22日昼前だが、そこに至るまでの経緯があまりにも急、かつ不透明だ。
様々な情報を整理してみると、
  • 21日夜:ネット上で芸能ニュースサイトなどがラーメンズの件のコントを取り上げ「五輪開会式演出・小林賢太郎にホロコーストいじりの過去」という論調で配信
  • 22日1時過ぎ:ツイッター上で、あるユーザーが「東京五輪競技大会開会式及び閉会式制作・演出チームのメンバーに選出された【小林賢太郎氏】の【ユダヤ人】に関する過去の発言について……中山防衛副大臣@iloveyatchanに相談させて頂きました。すぐにご対応くださるとのことです」と投稿
  • 22日2時17分:中山泰秀防衛副大臣がこれに対して「ご連絡頂きありがとうございました。早速サイモンウィーゼンタールセンターと連絡を取り合い、お話をしました。センターを代表されるクーパー師から、以下のコメントがありましたので、ご報告します」と返信
  • 22日3時10分 中山防衛副大臣がサイモン・ウィーゼンタール・センターの抗議文を掲載
  • 22日未明 サイモン・ウィーゼンタール・センター(以下SWC)が「SWCは東京五輪開会式ディレクターによる反ユダヤ主義の台詞に抗議する」と題した抗議文を掲示
  • 22日昼前 五輪組織委橋本聖子会長が会見を開き、小林解任を発表。その際「関係者からの指摘を受けて、早朝に確認した。すぐに協議するように指示したが、それまでは申し訳ないがまったく情報が取れていなかった」と述べる
  • 22日午後 菅総理が記者団からの取材に対して「言語道断。まったく受け入れることはできない」などと答える

(以下、ニュースソースの一部)

橋本会長は会見の際、記者から「それは中山氏の指摘か」と問われ、「違います」と否定したそうだし、中山副大臣は、自分がSWCに伝えたときはSWC側はすでにこの問題を知っていて、抗議文を作成していた、と言っている。
どちらの言葉にも嘘はないとしても、防衛副大臣が政府や組織委に確認もとらず、一民間人からのツイッターを受け、独断で米国の一民間団体に「通報」したことは間違いないのだ。
これこそ「言語道断」であり、国の信用・イメージを失わせる行為だろう。
この国は一体どうなっているのか。
さらに言えば、今回のことで「国際的な認識がない」としたり顔で論評している人たちにも、裏返しの薄っぺらさを感じる。
それは、言葉にできないほどひどい形で殺された人たちの気持ちを「自分がそうだったら」という想像力を持って、共感して発言しているのか、と言いたくなるのだ。
単に「ユダヤ人虐殺問題は国際的にはこうこうで……」という「知識」を持っている自分は教養人で、おまえとは違うんだ、みたいな上から目線、優越感で発言しているんじゃないかと感じることがある。
人の心は、単純には分析できない。どんな人も、心の奥には、自分でも制御できない悪魔的なもの、愚かなもの、未熟なものがある。
問題はそれをどう扱うか。制御するための教養や技術を持っているか、ということ。
20代の自分を振り返ってみれば、とてもそこまでの教養や技術を持ち合わせていなかったし、いっぱい地雷を踏んできた。無名の人間だったから、地雷の爆発も小さくてすんだというだけのことだ。

小林賢太郎が演出チーフになるまでの経緯

そもそも小林賢太郎は、いつどういう経緯で五輪開会式の総合ディレクターという役割を担うことになったのだろう。
発端は2019年12月のことだった。
2020年に開催される『東京パラリンピック』の開会式の演出をケラリーノ・サンドロヴィッチ、閉会式を小林賢太郎が手掛けることと、式の出演者を一般公募することが発表された。
出演者の募集は12月10日からスタート。式の「主役」となるリーディングキャスト、演出内容にあわせてパフォーマンスするオリジナルキャスト、集団群舞のパートでパフォーマンスするマスキャストをオーディションで選出する。審査員には佐々木宏、栗栖良依、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、小林賢太郎、中井元らが名を連ねる。
東京パラリンピック開会式の演出はKERA、閉会式は小林賢太郎 出演者募る ぴあニュース 2019/12/09

このときはオリンピックではなく、パラリンピックの閉会式担当で起用されたということが分かるが、すでに、その後「オリン『ピッグ』問題」で辞任することになる佐々木宏の名前がある。
佐々木が小林の才能を買って、自分が率いるチームに引き入れようとしたことが分かる。

そこで、さらに前まで遡って確認していくと、次のような流れが見えてきた。

  • 2018年7月 東京五輪開閉会式演出の総合統括に狂言師の野村萬斎の就任が決定
  • ⇒野村の下、演出チームとして映画監督の山崎貴、映画プロデューサーの川村元気らが参加
  • ⇒これに森喜朗が注文をつけ、2016年リオ五輪閉会式で安倍マリオを仕掛けた佐々木宏や椎名林檎ら、リオのメンバーをねじこむ
  • ⇒その後、実質チームリーダーが山崎貴→野村萬斎→MIKIKOとコロコロ代わる。野村萬斎を降ろしたのは森が主導
  • ⇒2019年6月 MIKIKOが実質上の総合演出責任者になる
  • ⇒2019年12月 東京パラリンピックの開会式の演出をケラリーノ・サンドロヴィッチ、閉会式を小林賢太郎が手掛けることが発表される。二人を誘い入れたのは佐々木宏
  • ⇒2020年 東京五輪がコロナで1年延期が決まる
  • ⇒2020年4月 組織委がMIKIKOによる開会式演出案をIOCに提示。IOCは大満足であると伝える
  • ⇒2020年5月11日 MIKIKOが電通の代表取締役から責任者の交代を通告される。後任は佐々木宏
  • ⇒2020年12月 当初の演出チーム解散を発表。組織委は「コロナ禍に伴う式典の簡素化を短期間で進めるため権限を一本化する」として佐々木体制を認める
  • ⇒佐々木はMIKIKOを排除し、IOCが絶賛したMIKIKO案を自分の手柄のようにパクリ、音楽担当に小山田を呼ぶ
  • ⇒2021年3月 佐々木が「オリンピッグ」発言で辞任。その直後、開会式演出の実質的責任者だったMIKIKOが、自身に連絡がないまま、新たな責任者が任命されていたとして辞任
  • ⇒残った小林賢太郎が演出リーダーに押し上げられる?

……という流れだったらしい。



つまり、小林が総合演出の立場に押し出されたのは今年の春以降で、わずか3か月ほどで、ゴタゴタ続きの現場を立て直し、グチャグチャになっていたであろう開会式演出をまとめ上げなければならなかったわけだ。
しかも、この時期にはすでに「五輪はできないだろう」という見方が強く、世論も五輪中止・再延期が7割を超え、再延期が事実上不可能なことを踏まえれば、中止の可能性が非常に高かった。
短期間で演出案をまとめ上げても、MIKIKO案がすっ飛んでしまったように、闇に葬られる可能性があったのだ。

そんな状況でまともな演出などできるはずはない、と、私を含め、多くの人が思っていただろう。
無観客が決まったのもギリギリだったし、これはもう、世界からのリモート映像をつなぎ合わせて「ゆく年くる年」みたいな構成にするとか、アニメのキャラを総動員したチャラいものになるのがオチだろう……と。

こんな感じかな? と思っていた(画像はワシントンポスト紙のWEBサイトより)


想像をはるかに超えていた開会式演出

7月14日、五輪開会式、閉会式の制作・演出チームが発表された。
スタッフのトップに「Show Director 小林賢太郎」の名があった。

私は小林が開会式演出を引き受けたことを知って、複雑な思い……いや、正直にいえば、ちょっとガッカリした。
小林は、ラーメンズが実質活動を終了した後も、NHKのBSで毎年、オリジナル作品を発表する特番を持たせてもらったり、いろいろな公演の演出や脚本を手がけたりしていた。しかし、私としては「なんだか偉くなってしまい、つまらなくなってしまったな」という感想を持っていた。
ラーメンズの相方・片桐仁も、テレビ番組にちょこちょこ出ていたが、やはり小林と組んでいたときのような爆発的な魅力は失せていた。彼らの名前や姿を見るたびに、ラーメンズはもう復活しないのか……という思いだけが残る。
で、挙げ句の果てには、佐々木宏の後始末を引き受けたのか……と、残念な気持ちになったのだった。

しかし、開会式が始まった途端「え?!」と目を凝らした。

オープニングシーンからして、これはもう小林賢太郎ワールド全開ではないか。しかも、とても思想性があり、これはどういう意味が込められているのだろう、と、何度も見直したくなる。

オープニングで、一人黙々とランニングマシーンでトレーニングする女子アスリートを演じたのは、現役の看護師・津端ありさ。ボクシング女子ミドル級で五輪出場を目指していたが、コロナ禍で世界最終予選が1年延期された末に中止になり、チャンスを失ったという。
諦めてうなだれる彼女の回りで乱舞する赤い衣装のダンサーたちと、赤いリボンでの表現──赤い筋がアスリートの体内を流れる血潮にも、人々を襲うコロナウイルスにも見える。心の葛藤と身体の葛藤をこんな風に表現できるのかと唸ってしまった。

後半で登場したパントマイムの が~まるちょば(HIRO―PON)とGABEZ(ガベジ)が演じた「動くピクトグラム」も、これこそまさに小林賢太郎のアイデアに違いないと分かる演出。コバケンがいなければあのシーンは生まれなかっただろう。

これぞ小林賢太郎の世界! と思わせた「動くピクトグラム」


よくもまあ、あれだけの短時間、ゴタゴタ、バカな介入の嵐という多重苦を乗り越えてここまでやれたものだと、感動するしかなかった。

小林賢太郎がいなかったら

ここで「もし、小林賢太郎がいなかったらこの開会式はどうなっていたのだろう」と想像してみた。
ある程度、形はできても、心に訴えるものがない、空疎なものになっていたのではないか。
世界中から「ああ、やっぱりね」「アニメキャラにダンス? ハイハイ。今の日本がオリンピックやると、こういう感じなんだろね。分かる分かる」的な評価をされていたのではないか。
開会式の前に散々傷つけられた日本人の誇りや自信が、開会式の中身でさらに決定づけられてしまったのではないか。
また、防衛副大臣らの愚かな破壊工作のおかげで、ショー部分は全部カット、入場行進とスピーチと聖火点灯だけ、となっていたら、いくつも開いた傷口に塩を塗り込まれるような結果になっていたのではないか。
選手たちも白けに白け、自棄を起こしてつまらぬ問題を起こす輩が出てきたりしたかもしれない。

しかし、蓋を開けてみたら、そういう開会式ではなかった。
IOCの図々しいPRビデオと、橋本、バッハ両会長の薄っぺらな上に長いだけの演説がなければ、ほぼ満点をつけてもいいような演出内容だった。

国民の7割以上が疑義を感じているオリンピック。開会式まで3か月もないというタイミングで演出を指揮するように言われた小林はどんな気持ちでこれを引き受けたのだろう。
どんなに頑張っても、大会は中止になって、仕事は闇から闇へと葬り去られるかもしれない(実際、MIKIKO案がそういう運命をたどったことを小林は見ているはずだ)。
やれたとしても、かつてのファンから「ラーメンズも権力側に囲われたか。がっかりだぜ」と背を向けられるかもしれない。

中止にならなかった以上、関係者ができることは、残された時間と金と一人一人の努力で傷を最小限にすることしかない。
こんな現場は嫌だと言って逃げることはできる。そして多くの人たちと一緒になって、五輪ヤクザや政治家たちによって汚しに汚されたこのイベントを冷ややかに見ていることもできる。
しかし、別の解があるのではないか?
どんな理由であれ、これだけ問題を抱えた五輪の開会式は世界中から注目される。そんなステージはこれからさき二度と訪れないかもしれない。
であれば、自分が持っている力を全力でぶつけてみるのも、表現者としての「解」ではないか。
この葛藤は参加する選手たちも同じだろう。
小林はそう思って、この困難極まりない仕事に取り組んだのかもしれない。

その結果、日本のボロボロになった誇りと精神状況が、かなり救われた。ギリギリのところで「防衛」できた。
私はそう思う。
実際、この私は、開会式を見て、様々なことを改めて学ばされた。

何よりも、必死に仕事をした若者を平気で見殺しにする国家権力者……という図式を生々しく学ばせてもらえた。
「人生の一時期不適切な冗談をネタにしていたけれど、その後それを改め、人を傷つけないお笑いの道を歩み、事が起こってこのコメントを出す人を、言語道断と言って叩ける人はどれほど立派なのかと思います。またこの人を多少なりとも擁護しない日本政府は何なのかと思います」
(米山元知事 小林賢太郎氏解任に怒り「この人を多少なりとも擁護しない日本政府は何なのか」 スポニチアネックス 2021/07/22
……という、米山元新潟知事の言葉は、もっともである。

文化とか芸術とかとほど遠い「別の地平」にいる権力者が「言語道断」などと言っているが、あんたは彼に「救命された」ってこと、死ぬまで分からないんだろう。

長くなったので、このへんでキーボードから離れよう。

最後に一言だけ。
ラーメンズのファンとしては、あの黄金コンビが復活して、「無観客開会式ごっこしようぜ」みたいなコントをしてくれることを夢想している。

「ここに新聞紙を人形に切ったやつがあるから、これを来賓席に並べてさ」
「会長にはお菓子のおもてなしを忘れないようにしないとな」
「甘露飴ならあるよ」
「おお、それはいいな。あと、コカコーラは全種類用意な」
……

(文中敬称略)



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熱海の土石流は「犯罪事件」である2021/07/12 20:20

NHK「クローズアップ現代」より
NHK 「クローズアップ現代・カメラが捉えた脅威 緊急報告・熱海土石流」より(映像は今回の現場ではなく、過去に起きた京都の事例からのもの)
デタラメな太陽光発電所、風力発電所の建設がどれだけこの国を壊しているか、日本のメディアは、実態を絶対に伝えようとしない。
「再生可能エネルギー」という言葉が聖なる言葉になってしまっていて、不都合なニュースを最小限に伝えるときも「地球温暖化対策のために再生可能エネルギーの普及は不可欠ですが……」みたいな枕詞をつける。
不可欠でもなんでもないし、今のようなことを続けていたら、資源小国の日本は取り返しのつかないことになる。いつまでこんなバカなことをやり続けるつもりなのか。

熱海市で起きた「土石流」事件では、数十人の死者・行方不明者が出た。
原因は明らかで、
  • 沢の上流の谷に残土や産廃を投棄して埋めてしまったこと
  • 山の尾根筋を削って太陽光発電パネルを敷き詰めたこと
の2つだ。
しかし、メディアは「盛り土」という言葉を繰り返すばかりで、問題の本質を意識的に避けている感がある。
「原因はまだ特定できませんが……」というフレーズを繰り返す。

テレビには連日、「専門家」と呼ばれる人たちが入れ替わり立ち替わり登場するのだが、言うことが全部違う。
崩れた場所に見えている黒い土を指して「これが火山灰起因の本来の固い地層」という人がいるかと思えば、「火山灰土がこんなに黒いはずはないので、何か脂分を含んだ残土や産廃起因ではないか」という人もいる。どちらも「地質学者」なのだそうだ。

すぐ隣のソーラー発電施設は、当初、わざとテレビの画面に映らないようにしていたフシがある。
ようやく原因の一つである可能性に触れた学者が現れたが、案の定、その後、この説をフォローする報道はマスメディアからはほとんど出てこなかった。
別の学者はそのソーラー発電所脇に亀裂のような凹みがあるのを指して、「隣の盛り土が崩れたので引っ張られるようにして亀裂が生じている」と解説していた。
……いや、これはおそらく崩落の前からあったものだろう。今回のことでえぐれが広がっているとしても、だ。
田舎に暮らしている人ならみんな知っている。山に道を造れば、大雨が降ったときに流れる水で土がえぐれ、溝が掘られるのだ。そこを水が流れていって、どんどんえぐっていく。
だから、川内村に住んでいたときは、自分で私道の脇に雨水の通路を掘っておかなければならなかった。何もしないと道の真ん中を雨水が流れて溝が掘られてしまうため、車が通れなくなるのだ。
それを、ずっと前からその道の奥に棲んでいる人に言われて、道の横にシャベルで側溝を掘り、それが埋まらないように、ときどき掘り起こしていた。
こういう水の逃げ道がないと、道や斜面が大規模に崩落する。
都会の「専門家」って、そういう基本的な生活感もないままに理論だけで勝手に推理するような人が多いのだなぁと、改めて思った。
南伊豆の風車被害を見に行ったときも、現地の住民に教えてもらった。風車を建てるために山に道を造ったため、そこが雨水の道になってしまって土砂が上から流れてきて被害が生じた、と。
それで、慌てて「沈砂池」を道路の横に造ったけれど、たちまちそこも埋まってあふれてしまった、と。

山にウィンドファームやメガソーラーを作るな!

これは全国の風力発電・太陽光発電建設現場で起きている典型的な公害なのだが、メディアはほとんど報道しない。
私が2011年まで住んでいた川内村に隣接する滝根小白井ウィンドファームでも、建設中から降雨後の泥水流出がひどく、下流の夏井川では岩魚や山女が産卵できなくなり、夏井川漁協が事業者に補償を求めた。

↑風力発電施設工事のとき、大量の泥水が海や住宅地に流れ込んだため、対策として作られた「沈砂池」。しかし、大雨の後はこれもたちまちあふれてしまい、さらにもう一つ作る羽目に。写真は2010年1月、南伊豆にて


土木学会特別上級技術者の塩坂邦夫氏は、今回の熱海土砂詐害事件について、周辺の宅地開発・メガソーラー建設で、山の尾根が伐採され、土も削られたことで保水力が失われ、雨水の流れ道も変わってしまったことも一因、と指摘した。
それに対して、難波喬司・静岡県副知事(元・国土交通省大臣官房技術総括審議官)は、「そんなに広い地域の水が集まっていれば大洪水になっているはずだ」として塩坂氏の見解を否定した、という(盛り土崩落、宅地開発影響か 2021/07/09 時事通信社)

↑TBS『ゴゴスマ』で、自らのチームがドローンで撮影した映像を元に、今回の崩落原因を推理する塩坂氏。
ソーラーパネル設置のために削られた尾根は崩落現場より上にあり、ソーラーの建設道路が雨樋のように雨水を流すことになった可能性が指摘された。


崩落現場のすぐ隣りの尾根を削って建設された太陽光発電所。


塩坂氏はその後、7月9日には静岡県庁で記者会見し、「周辺の宅地開発で尾根が削られて水の流れが変わり、従来の範囲よりも広い地域から大量の雨水が盛り土一帯に流れ込んだ」と結論づけた。

現地調査に基づき「人災だ」と見解を公表した地質学者の塩坂邦雄さん(76)は9日、県庁での記者会見で、造成で尾根が削られたことによって雨水の流れ込む範囲(集水域)が変化、盛り土側に雨水が流入した結果、土石流を誘発したと分析した。
(略)
 塩坂氏は、盛り土付近の造成で尾根が削られたことにより、逢初川の集水域よりさらに北部にある、鳴沢川の集水域約20万平方メートルに降った雨も、盛り土側に流れ込んだと分析している。造成地側から盛り土側に水が流れた跡も確認したという。
(略)
河川の流域の一部分を別の河川が奪う地理的現象で、造成によって水の流れが変化し、逢初川よりも北部の鳴沢川に流れ込むはずの雨水が、谷を埋めた盛り土に流入。雨水が逢初川側に流れ込んだと主張した。
2021/07/09 熱海土石流 造成が誘発した人為的な「河川争奪」地質学者が指摘 毎日新聞

熱海の土砂災害を引き起こした背景は「モリカケサクラ」と同じ構図

山の頂上や尾根を伐採すると保水力や地下水脈が変わってしまい、土砂災害の原因となる、というのは、広く知られたことである。
それなのになぜ、国や熱海市は尾根筋の伐採・掘削や谷への残土・産廃の投棄を放置してきたのか。

マスコミが触れようとしないので、ネットで検索するしかない。
すると、すぐに答えが出てきた木下黄太氏のブログ記事三品純氏の記事にしっかり書かれていた。

まず、谷に残土や産廃を投棄して埋めた張本人は小田原市では悪名高い不動産業者。
その社長は自民党系の同和団体である「自由同和会神奈川県本部」会長。
ネット上には、2014年、自民党本部で行われた自由同和会中央本部第29回全国大会で議長を務めるこの社長の写真もあって、背景には安倍晋三首相(当時)が「日本を、取り戻す」というスローガンと共に大写しされたポスターが何枚も並んで写っている。

あの辺りの山を無理矢理切り崩して、まず先に道を作っていったんです。
道を作る時に、図面が先にあるわけではなくて、こういう感じがいいんじゃないかみたいな感じで現場で緩く決めていって、それで道ができていくような流れです。その後で測量部の人がやってきて、測量して図面を書くという流れでした。計画がきちんとあるわけではなくて、むしろやったことを、後付で図面を作ってるという話です。まあ適当なんですよ、本当に。
とにかく道路を作れば、その先でまた森を崩して平地を作るみたいな状態です。
だからものすごく土砂が出るんですよ。
そうした現地での開発で出た土砂が捨てられた土砂の大半であったと思います。
木下黄太のブログ 2021/07/09 元社員への取材内容から抜粋)

↑こうしたことは、日本全国の山でごく普通に行われている。私も川内村時代には、そうした現場をたくさん見てきた。
とにかく、山を伐採し、削って平らにすれば、雨水は行き場を失い、土砂と一緒に流れていく。あたりまえのことなのだ。

テレビや新聞が意識的に避けているとしか思えない、これらの記事を読んでいくにつけ、気持ちが悪くなり、ただでさえ体調不良の昨今、見ないでおきたいという思いも強くなる。
しかし、どうもこのままうやむやにされてしまう可能性も出てきたので、議事録や登記簿などからはっきり分かっていること、信用できそうな記事から、ものすごくざっくりとこれまでの経緯をまとめると、↓こうなる。
  • 2006年9月  小田原市の不動産会社S社が伊豆山赤井谷一体を買取りで取得
  • 2007年頃~ 同社は麓側から徐々に工事道路を建設し、尾根筋を伐採、造成し始める
  •       並行して、谷に造成工事で出た土やビル解体などで出た産廃を投棄して埋め始める
  • 2007年7月  台風4号による降雨で、同社が所有し、宅地開発をしていた伊豆山七尾にある熱海市の水道施設調圧槽が同社所有の山林地からの土砂、流木により一部埋没。市は同社に対して土砂、流木の排除対応処理を文書で依頼するも、同社は応じず放置。市議会で問題になる。市議会の建設公営委員会での質疑応答にて、市の担当者は「(相手が)同和系列の会社でございまして、ちょっと普通の民間会社と違いますので……」という答弁。
  • 2009年6月  市議会で再度、同社の危険な開発行為問題について質疑応答あり。この時期、同社は宅地開発を諦めていた様子。熱海市内のホテル解体工事で出た産廃なども谷に埋めていたことを、同社の元社員が証言
  • 2009年11月 同社社長が小田原駅前に所有していたビルの一室を、違法風俗店と知りながら本来の家賃を上乗せして貸していたとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑で神奈川県警に逮捕される。
  • 2011年2月22日 熱海市が同社所有の赤井谷の土地を差し押さえ。
  • 2011年2月25日 不動産、建設関連を複数所有するZ社の社長が買取り。面積は周辺一帯で合計約40万坪。
  • 2013年8月~10月 Z社傘下の複数の会社がZ社が買い取った伊豆山周辺の土地での太陽光発電所建設を申請し認可される。


このZ社の社長は、1989年、1985~87年までの3年間の所得20億4,000万円を8億3,000万円余と過少申告。所得税5億1,200万円を脱税したとして逮捕されている。さらには2004年にも、2003年12月期までの5年半で約4億円の所得隠しを指摘されていたことで摘発され、追徴課税されている。他にも関連会社がアスベストの不法投棄事件とか、もういろいろと……。

ほんとに気分が悪くなってきたので、もうやめたい。
どれもネット上を検索すれば簡単に読めるデータや記事なので、知りたい人はどうぞ探してみてほしい。
現代日本が抱えるさまざまな問題が、これでもかというほど、分かりやすく浮かび上がってくる。



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東京五輪2020契約書のトンデモ度2021/05/27 16:02

「ぼったくり男爵」が強気なわけ

今月初め、米国ワシントンポスト紙に掲載されたサリー・ジェンキンス氏(スポーツジャーナリスト)のコラム "Japan should cut its losses and tell the IOC to take its Olympic pillage somewhere else" が話題になった。
「国際オリンピック委員会(IOC)のフォン・ボッタクリ男爵と金ぴかイカサマ師たちの間では、いつの間にやら、日本を自分たちの足置き台として使おうということで決まっていたようだ。」と始まるこのコラム、日本では「ぼったくり男爵」という言葉だけが広まった感があるが、そこに書かれている内容を、アスリートも含めて、多くの人が読むべきだと思う。
原文は⇒こちらだが、幸い、クーリエジャポンのサイトに日本語での全訳が載っている。⇒こちら
ごく一部だけ抜き出してみる。
東京での夏季五輪開催が国益を脅かすのなら、日本の指導者たちはIOCに対し、略奪(plunder)はよその公国(duchy=公爵が支配する領土)へ行ってしてくれと言うべきである。
フォン・ボッタクリ男爵、別名トーマス・バッハIOC会長とそのお供の者たちには悪癖がある。それは自分たちをもてなすホストに大散財をさせることだ。まるで王族が地方にお出ましになったとき、そこの小麦が食べ尽くされ、あとに残るのが刈り株だけになるときのような話だ。
五輪マスト・ゴー・オンと横柄に言い張れるIOCの神経はいったいどうなっているのか。
その答えは、IOCの権力の源泉であるオリンピックの開催都市契約にある。これはIOCがいかに高圧的な組織であり、なぜ五輪開催都市が深刻な負債を抱えることになるのかを明らかにする文書である。
こんな「不平等条約」があっていいのか? その契約書全文も、今は日本語訳で全文が読める。⇒こちら

2013年9月7日にブエノスアイレスにおいて締結されたこの契約書は、IOC(ジャック・ロゲ会長、リチャード・キャリソン財務委員会委員長)と東京都(猪瀬直樹・都知事)、JOC(竹田恆和・会長)の間に交わされたもので、この4名の署名がある。

この契約書は80ページ以上にも上るので、そんなものは読んでいられないと言われそうだが、序文だけでも読んでみてほしい。
序文を読むだけでも、この契約の中身が相当危険なものであることを感じ取れるだろう。
オリンピック憲章に基づき、IOC は、オリンピック・ムーブメントの最高の権威であって、これを主導し、また、オリンピック競技大会は、IOC の独占的な財産であって、IOC はこれに関するすべての権利とデータ(特に、組織、運営、利用、放送、記録、表現、複製、アクセス、流布に関する、あらゆる形態、手法またはメカニズムのすべての権利であるが、これらには限定されるわけではない)を、 既存のものか将来開発されるものかを問わず、全世界を通して永続的にこれを所有する。

全てのオリンピック資産に関するあらゆる権利、およびそれらを使用する全ての権利は、営利目的、商業目的、または宣伝目的のための使用を含むがそれのみに限らず、独占的に IOC に帰属する。IOC はその権利の全部あるいは一部を、単独または複数の当事者に対して、IOC の定める条件および条項により、自ら単独の裁量にて使用の許諾をすることができる。

こんな文言を含んだ長い序文の後に、契約内容がズラッと書かれているのだが、開催都市・開催国がいかに屈辱的な立場を呑まされているかが、これでもか、というくらい並んでいて、目眩がする。

前述のコラムの筆者サリー・ジェンキンス氏は、一例としてこう述べている。
「医療サービス」に7ページが割かれており、開催国は五輪関係者として資格認定を受けた人全員に対し、「無料」で医療を提供しなければならないとされている。現地の病院に五輪関係者専用の病室を用意することもそこには含まれる。東京の組織委員会によれば、IOCの要求に応じるために約1万人の医療スタッフを振り向けなければならないという。

契約書には確かにこう書かれている。
保健サービス:開催都市、NOC、および OCOG は、開催都市および開催国の関係当局を通じて、本大会に関連する医療/保健サービスのあらゆる事項について責任を負うものとする。
開催都市、NOC、および OCOG は、IOC から受けたすべての指示に従い、本国への送還を含む必要かつ適切な医療/保健サービスのすべての施策の確実な実施について責任を負う。
医療サービスは、本大会のために開催国に滞在中発生したあらゆる症状について、IOC が指定する一部カテゴリーの資格認定を受けた人々(選手、チーム役員、その他のチームスタッフ、技術委員、メディア、放映権を持つ放送機関、オリンピックのスポンサー/サプライヤー/ライセンシーのほか、IOC、IF、各国の国内オリンピック委員会の代表および職員が含まれるが、これらには限定されない)に対し、無料で提供するものとする。これらのサービスの範囲とレベルは IOC の書面による事前承認を必要とする。医療/保健サービスに関するさらなる詳細は、「医療サービスに関するテクニカルマニュアル」および「財務に関するテクニカルマニュアル」に示されている。

日本では、大会期間中に選手村で感染が広がったら、とか、選手だけの特権のように報じられているが、この契約書を読む限り、選手やチーム役員だけでなく、オリンピックのスポンサー、サプライヤー、メディアスタッフも含まれ、さらに念押しのように「これらには限定されない」とまで記されている。ものすごく曖昧かつ広範囲の「関係者」すべてが、五輪開催に関係して日本国内に滞在していたときの「あらゆる症状」について、無料で医療提供されることを保証しなければいけない。しかもその細かな内容についてはIOCが決定権を持っているというのだ。
これはもう、IOCは開催国の法律や国内事情に関係なく超法規的権力を握っていると言っているようなものだ。

これだけではない、例えば選手村の規定では、
OCOG(大会組織委員会)は、OCOG 単独の費用負担により、オリンピック選手村とその他の適切な宿泊施設を、IOC がその単独の裁量にて決定する期間中、すべての必要なサービスと共に提供する。
OCOG は、IOC がその単独の裁量にて決定する正式に資格認定を受けた選手およびチーム役員に対して、オリンピック選手村とその他の適切な宿泊施設における部屋と食事を、それらが利用可能な期間中、無料で提供するものとする。

となっていて、これが「お・も・て・な・し」ということか……と思うわけだが、その後にはさらに、
OCOG は、「オリンピック競技大会におけるアクレディテーション(資格認定)-ユーザーズ・ガイド」および「宿泊に関するテクニカルマニュアル」にて示されるように、放映権を持つ放送機関とオリンピックのスポンサーを含む、資格認定を受けたすべての者に十分かつ適切な宿泊施設を提供する責任を負い、かつ提供するものとする。
これらの資格認定を受けた者へのホテルまたはその他のタイプの宿泊施設の割当ては、大会基本日程に従い、IOC の書面による事前承認を必要とする。

新しく計画され建設されたホテルなど、本契約に基づき、IOC またはその他 IOC が承認した取決めによって具体的な価格が設定されていない場合には、本大会に参加する資格認定を受けた者のホテル客室、会議室、メディア村の部屋や関連するサービスの上限価格は、開催都市の申請書または立候補ファイルに記載された同等の品質、立地、サービスを持つホテルおよび部屋の料金を超えないものとする。開催都市の申請書または立候補ファイルに具体的な料金が記載されている場合で、これらの料金が上昇した場合、OCOG がその上昇分を支払う財務上の責任を負う
……などと事細かに書かれている。
要するにホテルの料金も「IOCが認定した価格以上になったら、差額は大会組織委員会が支払うこと」になっているのだ。

この調子で、大会開催に関して外国から入ってくる物品、機材、動物などには、「専属の入国・関税局、またはそれと同様の組織の創設を含む、必要なあらゆる手段を取る」とか、「開催国において支払われるべき関税、その他の税、または類似の金銭的負担を課せられることなく、迅速かつ簡易な方法で適切かつ必要な就労許可を得られるようにする」(12. 一定の人物、物品、動物に関する入国手続)

税金についても、
「開催都市および/または OCOG は、それらが源泉徴収税、関税、付加価値税、その他の間接税であるかにかかわらず、また現在あるいは将来のものであるかにかかわらず、本大会に関連して生じた収益に関して、(略)IOCまたは上記の当該第三者のいずれかが受け取った支払いについて、開催国、スイス、その他の管轄地域に支払わなければならない場合、IOC または上記の第三者が、適用される税金の支払後、当該税金が課せられないとしたら受け取れたはずの金額相当額を受け取れるように、開催都市または OCOG(あるいは、該当する債務者)が金額を上積みして支払うものとする。」
「開催都市および OCOG は、IOC または当該第三者が開催国で直接税および/または間接税の支払いを義務付けられる場合、当該直接税および/または間接税が請求されなかった場合と同じ状況になるように、状況に応じて、IOC または当該第三者に対して、彼らが開催国で負担されうる直接税および/または間接税を補償するものとする。」

……と、日本国内だけでなく、IOCがスイス(IOCの本部はスイス、ローザンヌにある)に支払うべき税金分も日本の五輪組織委員会が負担しろ、と言っている。

もっと驚くのは、オリンピック以外のイベント開催に関してまで口を出していることだ。
「IOC の書面による事前承認なしに、本大会期間中と本大会の前後の1週間に、開催都市自体、その近隣、あるいは他の競技会場で、本大会の計画、組織、資金調達および運営の成功、または本大会の一般公開やメディア報道に影響を与える可能性のある主要な公的または民間のイベント、会議、その他の会合を開催しない。」

組織委員会は、運営を進めるために何をやるにしても、いちいちIOCに事前の許可を得る必要があることも明記している。

「IOC の書面による事前承認なしに、本大会に関連して、OCOG と(政府組織または非政府組織かを問わず)国内、地方、または地元の組織との間でいかなる契約も締結しない。」
「IOC の書面による事前承認なしに、本大会に関連して、OCOG と(政府組織または非政府組織かを問わず)国際的組織、超国家的組織、あるいは外国政府との間で、交渉を実施したり、契約を締結したりしない。」

……とまあ、何様のつもりだ的内容が、これでもかこれでもか、と並んでいるのだ。

そして、駄目押しのように、
理由の如何を問わず IOC による本大会の中止または IOC による本契約の解除が生じた場合、開催都市、NOC および OCOG は、ここにいかなる形態の補償、損害賠償またはその他の賠償またはいかなる種類の救済に対する請求および権利を放棄し、また、ここに、当該中止または解除に関するいかなる第三者からの請求、訴訟、または判断から IOC 被賠償者を補償し、無害に保つものとする。OCOGが契約を締結している全ての相手方に本条の内容を通知するのは OCOG の責任である。

……と記している。
要するに、どんな事態になってもIOCは責任をとらない。開催国側がすべて後始末しろ。IOCには絶対に損をさせるな、という内容である。
こんな内容の契約書が21世紀の現代に存在しうるのか? と驚いてしまった。

これが「ぼったくり男爵」の中身である。

「切る」べきは代々木公園の木ではない

この内容を踏まえた上で、改めてジェンキンス氏のコラム全文を読んでほしい。すべて理解できるようになるはずだ。

コロナがあってもなくても、こんなオリンピックを「平和の祭典」と呼ぶことはできない。
ジェンキンス氏が言うように、
オリンピックは前々から深刻な病弊を抱えており、いまの東京の窮状も、その病弊の表れと言っていい。五輪は、関係者全員を痛みと疲労の極限まで追い込むイベントと化しており、
強欲と法外なコストのせいで、五輪は開催国にとって重大災害と同じくらいの負担を強いられるイベントになっている
のだ。

最後に、このところIOCと東京五輪についてはキレッキレのコメントを連発しているデーブ・スペクター氏のツイッター。


そう。どんなに苦しくても、痛みを伴っても、「IOCを切れ」。
日本はぼったくり男爵の「duchy」(貴族が支配する領土)ではない! とIOCと世界に向かって宣言し、行動するしかない。
これが唯一の答えだ。



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アジアにおけるワクチン接種率2021/05/17 15:54

モンゴルのCOVID-19死者数の急増(worldometers.infoより)
昨日(2021/05/16)、COVID-19の感染率、死亡率や、ワクチン接種とその効果と不安材料に関する報道について、いろいろ危惧する点がある、ということを書いた。
何度も追記して長くなってしまったし、公開後に新たに知ったデータなどもあるので、ここで、問題点別にまとめなおしてみたい。
(2021/05/19~ さらに改稿)

「大阪はインドより死者数が多い」は本当だが……

まず、アジア圏(特に東アジア)の諸国では欧米諸国より1桁も2桁も死者数が少ないこと(ファクターX)を無視した報道が多い。
例えば、最近「大阪のCOVID-19死者数はインドより多い」という発言が話題になっている。確認すると、大阪府のCOVID-19による累計死者数は1958人(5/17時点)で、人口100万人あたりにすると約223人。インドは191人。確かに「インドより多い」とは言える。
ちなみに、5月8日時点ではそれぞれ192人対174人だったから、どちらもここ9日間で一気に増えている。このまま増え続けると、コロナだけでなく、他の病気や怪我でも適切な対応をしてもらえず命を落とす確率が増えるという怖ろしい事態が待っている。
この「インドより多い」という表現は、インドはCOVID-19死者数が飛び抜けて多い国だというイメージのもとで語られているフシがあるが、実際にはインドの人口あたり死者数は世界100位前後で、累積死者数では「飛び抜けて死者が多い国」とは言えない。
しかし、現在のインドの死者数増加スピードは凄まじく、
インドは、新規感染の平均報告数で世界でも最多となっている。世界で報告される1日の新規感染者の約2人に1人の割合を占める。 (ロイター COVID-19 TRACKER
だそうだ。
また、インドは感染者数はやや減少傾向になっているようだが、ネパール、日本は増えたままなかなか減らない。


日本政府最大の失策は水際対策の失敗と状況把握の遅れ

人口300万人以上の国の、人口100万人あたりのCOVID-19死者数順位は、

ハンガリー(3027人)、チェコ、ボスニア、ブルガリア、北マケドニア、スロバキア、ベルギー、スロベニア、イタリア、ブラジル、ペルー、イギリス、ポーランド、クロアチア、アメリカ、スペイン、メキシコ、ポルトガル、フランス、ルーマニア、コロンビア(1583人)……の順(worldometers.info 2021/05/17時点での集計より)。

多くの日本人はイメージできていないと思うのだが、東欧諸国がものすごく多い
インドの197人は欧米諸国より1桁低い。日本は91人でインドの半分くらいということになっているが、インドは人種的にはアーリア系が多く、日本を含めた東アジア諸国(モンゴロイド系が多い)とは「ファクターX」的な要因がかなり違うであろうことも頭に入れておかなければならない。
ちなみに、韓国は37人、オーストラリアは35人、タイは8人、ニュージーランドは5人、台湾は0.5人、ベトナムは0.4人……で、アジア、オセアニア圏の国では日本の死者数は非常に多い
「日本は欧米諸国に比べて非常に少ない」ではなく「アジア諸国の中ではインド、インドネシア、フィリピン、ネパールの次に多く、韓国の倍以上、香港の3倍以上、台湾の180倍以上の割合で死者が出ている」と伝えるのが正しい。
東アジア諸国で死者が少ないのは人種的(HLA=ヒト白血球抗原型など遺伝子関連の)要因が「ファクターX」になっているのだろうということは、今では世界中の研究者が考えている。しかし、オーストラリアやニュージーランドは人種的には欧米諸国に近いので、イギリスやアメリカ並みに死者が出ていてもおかしくなさそうだが、日本よりずっと少ない。
これは両国とも島国であるという特質を生かして、水際対策を徹底し、感染拡大防止策もしっかりやってきたことが成功しているのだろう。
同じ島国の日本はそれがユルユルだった結果、もはや手遅れ状態になってしい、他国よりも遅れた今になって危機が増大していることも、メディアはしっかり伝えなければならない。

ワクチンですべて解決となるかはまだ分からない

メディアは「日本のワクチン接種率1.1%でOECD中最下位」といった報道をしたがる。
OECDは「経済協力開発機構」のことで、現在37か国が加盟している。しかし、その37か国中、アジアの国は日本と韓国だけである。
では、COVID-19の死者が欧米より極端に少ないアジア諸国のワクチン接種率は現在どのくらいなのだろうか。
日本経済新聞社が「チャートで見るコロナワクチン 世界の接種状況は」というデータをまとめてくれている。それによると、アジア諸国では、

国:100人あたりの接種回数(多い順)
  1. モンゴル:72.8回
  2. ブータン:63.1回
  3. シンガポール:55.0回
  4. 中国:25.3回
  5. 香港:24.4回
  6. インド:12.9回
  7. 韓国:8.6回
  8. ネパール:8.6回
  9. インドネシア:8.3回
  10. マレーシア:5.9回
  11. 日本:4.8回
  12. ミャンマー:3.3回
  13. タイ:2.9回
  14. フィリピン:2.4回
  15. ベトナム:0.9回
  16. 台湾:0.8回
……となって、日本はやはり下から数えたほうが早い。
しかし、よく見ると感染防止対策を絶賛され、実際に死者数も100万人あたり0.5人しかいない台湾が最下位なのだ。
日本が100人あたり4.8回なのに対して台湾は0.8回。5分の1以下である。
それなのに100万人あたりの死者数は日本が91人に対して台湾は0.5人。日本は台湾の182倍である。
台湾やモンゴルは今までほぼ完全に感染を押さえ込めていたが、ここにきて、おそらく変異株の影響があるかと思うが、急に感染者、死者が出てきたため、急遽ワクチン接種政策を進めている。

↓国:100万人あたりの死者数(累積)、100人あたりの接種回数、100万人あたりの検査数
  1. インド:197人、12.9回、226,213人
  2. インドネシア:174人、8.3回、56,252人
  3. フィリピン:173人、2.4回、113,832人
  4. ネパール:169人、8.6回、93,640
  5. 日本:91人、4.8回、103,731人
  6. モンゴル:62人、72.8回、850,497人
  7. ミャンマー:59人、3.3回47,540人
  8. マレーシア:58人、5.9回、320,936人
  9. 韓国:37人、8.6回、182,298人
  10. オーストラリア:35人、11.1回、681,057人
  11. 香港:28人、24.4回、1,965,735人
  12. タイ:8人、2.9回、116,148人
  13. ニュージーランド:5人、7.9回、416,339人
  14. シンガポール:5人、55.0回、1,772,663人
  15. 中国:3人、25.3回、111,163人
  16. ブータン:1人、63.1回、957,402人
  17. 台湾:0.5人、0.8回23,948
  18. ベトナム:0.4人、0.9回31,514
(↑青字は日本よりワクチン接種率が低い。緑字は日本より検査数が少ない。)
これを見る限り、ワクチン接種率と死者数は比例していないように見えるが、ワクチン接種開始前に医療崩壊などで一気に死者が出たケースが多いだろうから、累積の死者数との比較ではなく、今後の動向を注視しなければならない。

モンゴルの今後の動向が気になる

特に気になったのは、昨年まで死者数ゼロだったモンゴルが、ここにきて突然、感染者数も死者数も増え始めたことだ。

モンゴルの新型コロナ感染者数↑と死者数↓の推移グラフ。(worldometersinfoより


モンゴルが今までCOVID-19での死者ゼロだったのは、草原地帯などが多く、人口密度も低い国内にウイルスが入ってきていなかったからだろう。それが一気に感染が広がったことの背景には、何らかの変異株が入ってきて、今までの均衡を破ったのではないかと疑う。同じモンゴロイド系人種の国でのことだけに、今後どうなっていくのかが非常に気になる。
モンゴルは感染者が出てきた今年2月から急遽ワクチン接種に乗り出し、急ピッチで接種人口を増やした。上記データによれば、目下人口100人あたりの接種回数は72.8回で、アジア圏諸国の中でも断トツトップである。そのため、感染者数は減ってきているが、今後、もし感染者数や死者数が下がりきらずにあるレベルでダラダラ続くとしたら、日本にとっても大きな不安材料になる。

医療体制の改革と水際対策の徹底が急務

これらのデータから読み取れることは、ファクターXがほぼ同じ国であれば、死者が増えるかどうかは、感染拡大を抑えられるか、医療崩壊を防げるかにかかっているということだ。
つまり、COVID-19で重症者・死者を出さないための最大の施策は水際対策の徹底と感染防止の努力、そして医療崩壊を防ぐことだろう。
マスクをするとか密を避けるといった努力は国民一人一人の意識で対処できるが、水際対策や医療体制のほうは国民サイドではどうにもならない。
水際対策、感染防止策がこれだけルーズな国で10万人規模の入国者が大都市に集まる東京五輪を開催するのは、世界に対して無責任だと非難されても仕方がない。
最近、スポーツ競技会開催における感染防止策として「バブル」方式という言葉をよく聞くようになった。
競技会開催中、選手を「泡(バブル)」の中に包み込むように外部との接触を完全遮断するというものだ。
チームごとにホテルのフロアを貸し切り、食事も練習も別時間、別空間にして混じらせない。ホテルの各フロアには警備員を配置して選手や関係者が無断で出入りしないように見張る。
しかし、オリンピックのような大規模な大会でこれが可能だろうか? 仮にできたとしても、それはもはや「平和の祭典」「国や人種の垣根を越えた国際交流の場」とはほど遠い、囚人の護送のような風景になってしまう。
そんな大会にわざわざリスクを冒してまで出たくないと、出場を拒む選手も続出するだろう。そうなれば「世界最高レベルのスポーツ大会」でもなくなる。
こうした視点での議論もあまりなされていない。
オリンピックを中止しろ、いやそれはヒステリーだ、といった二項対立を煽るのではなく、きちんと「開催できる可能性と条件」「この状況下で強行する意義」について、データに基づいた論理的議論をしてほしいものだ。

認知症高齢者、基礎疾患のある高齢者へのワクチン接種を再考せよ

最後に、前回も書いたことだが、特養などの介護施設に入っている認知症の超高齢者に「機械的に」ワクチンを打つのは人道に反すると私は思っている。
前回も掲載したが、厚労省が公開している「新型コロナワクチン接種後に死亡として報告された事例の一覧(令和3年2月17日から令和3年5月7日までの報告分)」の中に見られる、認知症や心不全、脳梗塞歴を持つ高齢者の死亡例をもう一度見てほしい。
  • 102歳 女 2021年4月12日接種 4月16日死亡 基礎疾患:誤嚥性肺炎、慢性心不全(大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症)、マインベース・テオロング・アムロジピン・テルミサルタン(を内服) 死因:誤嚥性肺炎、気管支喘息、心不全
  • 90歳 女 2021年4月20日接種 4月22日死亡 基礎疾患:心臓病、高血圧、大動脈解離(H24)、心房細動(R3)、脳梗塞、骨粗しょう症、バイアスピリン、リセドロン等内服 死因:急性心不全、心筋梗塞等
  • 101歳 女 2021年4月23日接種 4月26日死亡 基礎疾患:高齢、高度アルツハイマー型認知症 死因:心肺停止
  • 90歳台 女 2021年4月19日接種 4月20日死亡 基礎疾患:不明 死因:老衰
  • 92歳 女 2021年4月26日接種 4月28日死亡 基礎疾患なし 死因:老衰
  • 91歳 女 2021年4月27日接種 4月27日死亡 基礎疾患:アルツハイマー型認知症、慢性心不全・陳旧性心筋梗塞(3年以上前)、胆のうドレナージ術後(2021年1月) 死因:心肺停止
稀ではあるが、新型コロナワクチンの副反応の中でもいちばん危険だと疑われているのは、抗体反応と関係して血栓ができ、心不全や脳卒中などを起こして急死するというものだ。それなのに、ただでさえ抵抗力のない超高齢者にワクチンを機械的に打つのは、どう考えても間違っていると思わざるをえない。
例えば、終末期にある認知症高齢者が大腿骨骨折した場合、手術を受けさせるべきか、誤嚥性肺炎を悪化させて口から食事が取れなくなったとき、経管栄養を施すべきか。そうした難しい問題に完全な正解はない。本人がすでに判断力を失い、寝たきりに近い状態の場合、医師や家族が代わりに決断しなければならない。本人がいかに苦しまず、穏やかな終末期を過ごせるかを考え抜いた末に決めなければならない。
そうした苦労を無視するかのように、「国が早くワクチンを打てと言っているから打つ」という姿勢はどうなのか。介護や医療現場の思考停止につながりかねないのではないか。

また、日本でワクチンの副反応と疑われる死亡例や重篤化例が目立つのは、欧米人と同じ量を打っていることも一因になっているのではないかという指摘をする医師もいる。副反応の重さや報告例は1回の接種の量に比例するというデータもあるそうで、平均体重が欧米人よりも軽い東アジアの人たちには欧米での量と同じでは過剰なのではないかというものだ。確かに、超高齢で体力もなく、体重も軽い人がほとんどの高齢者施設入所者などに大柄な欧米人と同じ量をそのまま打ってしまっている現状は問題がありそうだ。
終末期にある高齢者たちが、ていねいな介護のもとで穏やかな終末期を過ごす権利を奪われるようなことにならぬよう、慎重な対応が求められる。
ともかく、医療従事者を含めて、ワクチン接種は自由意志に基づくという大原則の厳守、ワクチン差別をさせない広報と共に、早急に考えてほしい課題である。



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新型コロナワクチン狂想曲の実像 厚労省データをもとにまとめてみた2021/05/16 14:15

同調圧力で煮込まれることがいちばん怖い
ワクチン関連のことは、東京五輪関連以上に、何か書くと総攻撃を受ける気配が濃厚だし、デリケートな問題を数多く含んでいるので、身を守るためには黙っていたいのだが、知らないうちにとんでもない事態に進みそうなので、敢えて書く。
最初にお断りしておくが、私は「ワクチンを打つ、打たない論争」に火をつけるつもりは毛頭ない。これから書くことはすべて厚生労働省が公表しているデータに基づいた数値や内容である。厚労省のWEBサイトで丹念に捜せば元データや資料が直接見られる。
個々の記事は新聞記事に絞っており、個人のコラムなどからの引用ではない。
これらのデータが、あまりにも細切れに、散発的にしか表に出てこないので、ただでさえ分かりづらいCOVID-19やワクチンの現状が見えにくい。
なんとか全体像や最新の状況が見えるようにまとめてみたい、判断するための正しい材料を整理してみたい。そうした思いでこれを書いている。

「ワクチン報道」の危うい過熱ぶり

メディアの「ワクチン待望論」的な煽りや視点の持ち方が相当おかしい。
分かっているデータがあるのに、妙に及び腰で、わざと見えにくくしているフシがある。一方で、ウケ狙いの記事ばかり飛ばしてくる。
市長が医療従事者枠でワクチンを打ったのはけしからんとか、どうでもいい。むしろ、ワクチンを早く打たないと大変なことになると脅したり、ワクチンに少しでも不安があるという言葉を発する者を総攻撃したりする同調圧力が暴走することのほうが怖ろしい。

ワクチンについては、多くのことがまだ未解明であり、副反応や将来にわたっての影響がよく分からないまま打っている「見切り発車」であることは間違いない。
毎日数千人単位で死者が出ているような国・地域では、とりあえずワクチンでなんとかしろ、となるのは仕方がないだろう。しかし、当初から死者の割合が極端に低かった東アジアでは、まずはウイルスの侵入を防ぐ、感染を広げずに抑えるというやり方が先だったはずだ。
実際、他の国々はそれに概ね成功している。台湾などは見事なお手本だ。
台湾でCOVID-19での死者は100万人あたり0.5人、日本は同・91人で182分の1(worldmeters.infoのデータより)だが、ワクチン摂取率を比較すると、5月13日現在、台湾は100人あたり0.5回であり(日本経済新聞社作成のデータより)、日本の同・4.4回のおよそ10分の1である。
アジア・オセアニアの国々を人口あたりのCOVID-19死者数の少ない順に、100人あたりワクチン接種回数を併記して並べてみると、
国:100万人あたりの死者数、100人あたりの接種回数
  • ベトナム:0.4人、0.9回
  • 台湾:0.5人、0.5回
  • ブータン:1人、63.1回
  • 中国:3人、25.3回
  • シンガポール:5人、55.0回
  • ニュージーランド:5人、7.9回
  • タイ:8人、2.9回
  • 香港:28人、24.4回
  • オーストラリア:35人、11.1回
  • 韓国:37人、8.6回
  • マレーシア:58人、5.9回
  • ミャンマー:59人、3.3回
  • モンゴル:62人、72.8回
  • 日本:91人、4.4回
  • ネパール:169人、8.6回
  • フィリピン:173人、2.4回
  • インドネシア:174人、8.3回
  • インド:197人、12.9回
(↑青字は日本よりワクチン摂取率が低い)
……となり、日本よりワクチンを打っていない国で日本よりはるかに死んでいない国が多数あることが分かる。
つまり、単純に、ワクチンを打てば死ななくなる、というわけではない

ワクチンを巡るドタバタについては、いろいろな問題が指摘できるのだが、一番気になるのは安全性についての情報発信が頼りなさすぎることだ。
頭痛や倦怠感といった副反応はほぼ「ある」と思っていいようだが、その情報がほとんど出てこない。
仕事を休めない人やプロアスリートなどにとっては、たとえ数日間のことであったとしても重大な問題だ。

現役の医療従事者がワクチン接種後に急死している

接種後に急死した人が若い人も含めてすでに二桁いることも、あまり報道されていない。個別のケースが地方紙で散発的に記事が出るだけで、全国紙やテレビが包括的に報道しているのを見たことがない。
厚生労働省は5月12日、「新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要」として、「令和3年2月17日から令和3年5月2日までに報告された死亡事例は計 28 件となった。なお、上記に加え、令和3年5月3日から令和3年5月7日までに、医療機関又は製造販売業者から死亡として報告された事例が 11 件あった。」と報告した。
つまり、厚労省が把握しているだけで5月7日までに39件の死亡例があった。

画像は厚労省発表のデータより

厚労省が公開している「新型コロナワクチン(コミナティ筋注、ファイザー株式会社)接種後に死亡として報告された事例の一覧(令和3年2月17日から令和3年5月7日までの報告分)」から60代以下の死亡例だけ拾ってみると……、
  • 61歳 女 2021年2月26日接種 3月1日死亡 基礎疾患なし 死因:くも膜下出血
  • 46歳 男 2021年3月19日接種 3月20日死亡 基礎疾患なし 急性大動脈解離心タンポナーデ
  • 26歳 女 2021年3月19日接種 3月23日死亡 基礎疾患なし 脳出血(小脳)、くも膜下出血
  • 69歳 女 2021年3月17日接種 3月26日死亡 基礎疾患なし 脳出血
  • 65歳 男 2021年3月9日接種 3月28日死亡 基礎疾患不明 急性心不全(心臓死以外の原因となる所見なし)
  • 62歳 男 2021年4月1日接種 4月2日死亡  基礎疾患不明 風呂場で溺死
  • 51歳 男 2021年3月25日接種 4月8日死亡 基礎疾患なし 心室細動
  • 37歳 男 2021年4月5日接種 4月8日死亡 基礎疾患花粉症 死因不明
  • 55歳 男 2021年4月17日接種 4月19日死亡 既往症高血圧など 急性心筋梗塞
  • 44歳 女 2021年4月21日接種 4月25日死亡 基礎疾患なし  くも膜下出血
  • 45歳 女 2021年4月21日接種 4月26日死亡 基礎疾患なし 死因不明
  • 40歳 女 接種日不明 2021年4月26日死亡 死因不明
  • 26歳 男 2021年4月28日接種 5月3日死亡 基礎疾患片頭痛 死因不明
  • 63歳 女 2021年4月30日接種 5月3日死亡 基礎疾患なし 死因:脳底動脈瘤破裂、くも膜下出血
  • 51歳 女 2021年4月23日接種 5月7日死亡 基礎疾患:肺胞低換気症候群、肥大型心筋症、肺高血圧、腎不全(透析中)
  • 69歳 男 2021年4月29日接種 5月7日死亡 基礎疾患:大動脈解離、前立腺がん 死因:胸部大動脈解離
……となる。
その後も、
愛媛県は5月13日、医療従事者の50代女性が新型コロナウイルスのワクチン接種後に死亡したと明らかにした。2回の接種を受けたが、心不全や呼吸困難など副反応が疑われる症状があったという。(新型コロナ ワクチン接種後に50代女性死亡 医療従事者 副反応疑い症状あり 毎日新聞 2021/05/14

長崎県は13日、医療従事者を対象とした新型コロナウイルスワクチンの優先接種を受けた60代女性が、接種から数日後の今月上旬に死亡したと発表した。死因は脳底動脈瘤(りゅう)破裂とくも膜下出血で、現時点でワクチン接種との因果関係は不明。医療従事者の接種後の死亡確認は、県内で2例目。(ワクチン接種から数日後に死亡 長崎県の60代医療従事者 西日本新聞 2021/05/13

新型コロナウイルスのワクチン接種を巡り、神奈川県は14日、県内でこれまでに接種後に3人が死亡したと明らかにした。(ワクチン接種後、神奈川で3人死亡 2人の因果関係を分析中 神奈川新聞 2021/05/14

三重県は14日、県内で新型コロナウイルスワクチンの接種を受けた40代女性が接種から5日後の今月2日に死亡したと発表した。(新型コロナワクチン 40代女性、接種後に死亡 因果関係は不明 伊勢新聞 2021/05/15

……など、ここ数日だけでも、現役医療従事者を含むワクチン接種後死亡例が次々に報告されている。
65歳未満の死亡例はほぼ全員が現役の医療従事者だろう。つまり、健康体で毎日医療機関で働いていた人たちである。
わずか2か月あまりで健康体の現役医療従事者がワクチン接種後にこれだけの人数急死していることをどう捉えればいいのか。

二桁の急死例は「無視できる範囲」なのか?

これに対して、「現時点で医療従事者や高齢者などに行われたワクチン接種は合計400万回以上。接種後に死亡したのが39人なら、数百万人のうちの数十人だから無視していい」という論法がよく聞かれる。
厚労省も、2021年4月9日に公開した審議会資料の中で、「ワクチン接種後の出血性脳卒中死亡率は、0.12件/100万人・日であり、一般人口における出血性脳卒中死亡率0.97件/100万人・日と比較すると少ないので、問題ない」という論旨を記載している。
しかし、これはおかしいのではないか。ワクチン接種後に急死した人の中には現役の医療従事者が数多く含まれているのだ。病人や高齢者も含めた一般人口での出血性脳卒中の死亡率と比較するのは適当ではないだろう。
↑厚労省が2021/04/09に公開した審議会資料より。

インフルエンザワクチンの接種後の副反応疑いの死亡例と比較するなら分かる。これは過去10年以上にわたって、年間0件~4件程度である(厚労省「インフルエンザQ&A」より)。

さらには、ワクチン接種後の死亡例は厚労省に報告されている数十例がすべてではなさそうだ。
3月20日死亡の46歳の男性は旭川赤十字病院の事務職員である。3月19日に接種したが、翌20日に体調が急変し死亡。しかし、死亡原因がワクチン接種との関連性が証明できないとして、当初は報告されていなかった。それを、遺族が「報告してほしい」と要望し、4月になってから報告された(接種後に死亡、報告悩む医療機関…遺族は「国に伝えて」2021/05/09 読売新聞)。
他にも報告されていないケースがあるのではないだろうか。
さらには、これは死亡例だけであり、重篤な状態に陥ったケースは入っていない。数百例あるとも聞こえてくるが、そのデータもあるのかないのかよく分からない。
ワクチン接種後に重篤な状態になった人をしっかり病院が受け入れて治療できる体制が整っているのか、余裕があるのかも不安である。

打ちたくない人の人権を守れ

COVID-19感染での死者の年代別割合では、依然として若年層は低く、10代以下はほぼゼロである。


(画像は日本経済新聞社作成より)
それを踏まえると、若年層がワクチンを打って具合が悪くなったり、最悪死んでしまう確率と、ワクチンを打たずにCOVID-19になって重篤化したり死んでしまう確率と、どちらが高いのか……と疑いたくなる。
医療従事者がワクチン接種後に死亡した例では、40代、50代の女性が比較的多いように見える。
現段階で医療従事者で2回のワクチン接種を終えた割合は25%くらいらしいが、現場を知る医療従事者ほどワクチンの副反応には不安を抱えているのではないだろうか。しかし、口には出せないし、接種を拒否すると同調圧力で職場に居づらくなる。ただでさえストレス漬けの日々に、ワクチンストレスも加わって悲惨なことになっているのではないかと危惧する。

政府や厚労省は高齢者へのワクチン投与をとにかく急がせていて、まだワクチンが1箱も届いていない自治体にまで「7月末までに高齢者へのワクチン投与を完了させよ」と圧力をかけている。
新型コロナウイルスの高齢者へのワクチン接種をめぐる国の全国調査で、「7月末に完了できない」と回答していた兵庫県内の複数の市町に対し、国や県が強い働きかけをして完了時期を変更させていたことが神戸新聞の取材で分かった。国の12日の発表では、県内の全41市町が「7月末に完了」と回答しているが、実現に疑問を抱く市町も多く、調査の信頼性が問われる。(高齢者ワクチン接種完了時期 国が圧力「7月末で」 神戸新聞 2021/05/14

首都圏のある市長は4月下旬、総務省幹部から電話を受けて「7月に終わらせるにはどんな手伝いができるか」と繰り返し聞かれたという。医療従事者の確保が見通せず、8月以降と回答した市長は「『7月中にできる』と言わせたい様子だった。達成できなければ、自治体のせいにするつもりかもしれない」と憤る。同様の照会を厚生労働省から受けた首都圏の町長は「数字だけでも接種が進むように見せたくて、圧力をかけているのでは」と語った。(高齢者のワクチン接種「7月完了」に躍起の政府 自治体へ働き掛け強める 東京新聞 2021/05/13

しかし、今までも何度か書いてきたが、特養などの介護施設に入っている認知症の超高齢者に「機械的に」ワクチンを打つのは人道に反するのではないか
上記の厚労省が出している「死亡例」の中には、
  • 102歳 女 2021年4月12日接種 4月16日死亡 基礎疾患:誤嚥性肺炎、慢性心不全(大動脈弁狭窄症兼閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症)、マインベース・テオロング・アムロジピン・テルミサルタン(を内服) 死因:誤嚥性肺炎、気管支喘息、心不全
  • 90歳 女 2021年4月20日接種 4月22日死亡 基礎疾患:心臓病、高血圧、大動脈解離(H24)、心房細動(R3)、脳梗塞、骨粗しょう症、バイアスピリン、リセドロン等内服 死因:急性心不全、心筋梗塞等
  • 101歳 女 2021年4月23日接種 4月26日死亡 基礎疾患:高齢、高度アルツハイマー型認知症 死因:心肺停止
  • 90歳台 女 2021年4月19日接種 4月20日死亡 基礎疾患:不明 死因:老衰
  • 92歳 女 2021年4月26日接種 4月28日死亡 基礎疾患なし 死因:老衰
  • 91歳 女 2021年4月27日接種 4月27日死亡 基礎疾患:アルツハイマー型認知症、慢性心不全・陳旧性心筋梗塞(3年以上前)、胆のうドレナージ術後(2021年1月) 死因:心肺停止
……といった、どう考えても本人がワクチン接種に対する理解ができていたとは思えないケースも載っている。
心臓病や脳梗塞の既往症のある90代以上の認知症高齢者にワクチンを打ってしまっているのだ。
しかも、死因が「心肺停止」とか「老衰」というのも多い(「心肺停止」が「死因」?)。この人たちは、介護スタッフや医療者以外、家族とも面会禁止で接触していなかったはずで、施設外で感染することも人に感染させることもありえない人たちだ。
そういう超高齢者に機械的にワクチンを投与して、数日後に亡くなったときの死因は「老衰」とか書いているのだ。余計なことをして終末期の苦しみや不安を増加させただけではないのか。
ただでさえ(コロナ以前から)、終末期の近い高齢者(特に認知症が進んでいる高齢者)への医療をどうするかは、医療者も家族も介護スタッフも、ものすごく悩みながら対応している。そうした苦労を無視するかのように、「国が早くワクチンを打てと言っているから打つ」という姿勢はどうなのか。介護や医療現場の思考停止につながりかねないのではないか。
「接種後に老衰で亡くなることがある」と伝える? m3.com
最後のケースの91歳女性の報告には、「接種当日の朝の食事は全量摂取するなど著変なし。(ワクチン接種との)因果関係あり」と記されている。

こういう状況の中で、厚労省から各自治体へ、高齢者向けのワクチンが間に合わない場合、医療者用に配布した分を回すようにとの指示があったという(「ワクチン足りず、医療従事者用を回せ」国が高齢者接種の7月末完了で“脅し” 自治体が反発 2021/05/13 AERA DOT)。

厚労省からの指示書。画像はAeraドット より

何がなんでも高齢者へのワクチン接種を完了させたことにしたいのだろう。
都心に大規模ワクチン接種会場を設営というが、感染を恐れて家に籠もっていた高齢者たちがゾロゾロと長距離移動して東京に集まってくることのほうがよほど感染リスクが高いのではないか?
……もう、滅茶苦茶である。

とにかく、「現状の各種データを分かりやすく可視化して示してくれ」と言いたい。
判断するための正しい材料を提示してくれ。
データや情報を出さないまま、ウケ狙いや前のめりの報道はやめてほしい。
同調圧力鍋の中で国民がグツグツと煮込まれていくような社会には大きな悲劇が待っている。それは歴史が何度も証明してきた。
この調子では、1年後、2年後、この国はどうなっているのか。


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