日光東照宮の修復作業がひどいという話(1) 神厩舎の猿 ― 2017/09/02 20:00
東照宮の修復作業がひどすぎるとクレーム続出

日光東照宮の大規模修復作業が進み、今年は陽明門、三猿、眠り猫といった知名度トップ3が全部修復が終わったというので参拝客(観光客?)で賑わっている。原発爆発後、日光への観光客が落ち込んでいたことを思うと大変結構なことだ。
で、最近になって、三猿や眠り猫の修復がおかしいんじゃないか、下手すぎるんじゃないかという批判が続出して、新聞記事にまでなっている。
我が家から東照宮までは車で30分くらいで行けるので、日光市民になってから2回訪れているが、正直なところ、陽明門、三猿、眠り猫などにはほとんど興味がないので、写真もあまり熱心に撮らない。
彫刻であれば廻廊の彫刻のほうが陽明門よりずっと出来がいいし、三猿、眠り猫に至っては、アートとしてはなんの価値もないとさえ思っている。
でもまあ、ここまで話題になっていると「そんなにひどいの?」と、手元にある写真を見直してみた。
陽明門や三猿、眠り猫が修復される前の2013年の写真と、今年の4月に行ったときの写真を比べてみよう。

「聞か猿」のbefore after。毎回「三猿はどうでもいいや」と、サラッと遠くから撮だけなので、同じ角度のものが揃っていないのだが、まあ、どっちもどっちだよなあ。もともとがそんなにアート性の高いものではないと思うし

修復前の言わ猿。これも睫が「マスカラかよ!」と突っ込みたくなるほどで、とても誉められたものではないが……

修復後の言わ猿。睫は薄くなった代わりに、赤いアイシャドウ?が三重に加えられた。で、黒目の大きさが左右で違うっていうのは、いくらなんでも雑すぎる

で、よく見ると修復後の目の輪郭の内側にうっすらと以前の目の輪郭が見えている。つまり、今回の修復で、目は意識的に前よりも大きくしたことが分かる


さらに、睫を強調するのは前のバージョンで顕著で……

赤いシャドウも今回からというわけではなく、前のバージョンにもあったのだね

で、目は今回急に大きくしたのかというと、前のバージョンでは目の輪郭の外側に輪郭が残っているのが見て取れるので……

前のバージョンで意識的に小さくした可能性もある。元々の目の輪郭がもはや分からなくなっているのだ

印象が変わったことは事実なのだけれど……



前のバージョンでは一応毛の流れというか、どの方向に生えているかが分かる。腕の毛ならば肩から手先方向に生えているように描かれているのが見て取れるのだが、今回のはただ線を等間隔に描き込んだだけで、毛の流れなどまったく分からない。
これを見ても下手だ、センスがないと感じない人は、それこそ「ピカソより普通にラッセンが好き~」な人と同レベルだろう。
もしもこういう絵が描かれた掛け軸がなんでも鑑定団に出てきたら、鑑定する以前に一笑に付されと思う。
今回の「修復」では、一旦下の塗料を全部落として真っ白に塗りつぶしてから新たに描いたということなので、彩色職人がゼロから描いたことになる。そういう方法を採ったとしても、だったら「よりよい出来」にだってできたはずだ。前回の修復の出来が結構ひどいのだから。
三猿は神厩舎にある8面あるレリーフの1つが有名になりすぎたわけだが、この際、「彫刻」として、アートとして、そもそもどれだけのものだったのかという、根本的な問いかけをしてみたほうがいいんじゃないだろうか。
猿は馬を守る動物であるという伝承から猿のレリーフが施されたというが、場所からいっても、それほど気合いの入った作品だったとは思えない。
はっきり言えば、動物園の看板のようなものだろう。家光の大号令の下、大急ぎで作られた中で、担当の職人がどれだけ力を入れたのか疑問だし、実際、出来からしても大したものではない。東照宮全体が歴史的建造物であり、神厩舎も重要文化財になっているため、自動的にそこに付随している猿のレリーフも重文ということになるが、これが無名の寺社にあったならばどうか。観光資源としては活用されただろうが、少なくとも「芸術作品」として評価されることはなかったのではないか。
もちろん、東照宮自体を価値がないと言っているわけではない。同じ彫刻群でも透塀や廻廊に施されたものはアート性が高いと思うし、奥の院参道にある石造り狛犬や鋳抜門などは貴重な文化財であると同時にアートとしても素晴らしいものだと思う。
じっくり鑑賞して回ればたっぷり1日かかる場所であることに間違いはない。そこは間違えてはいけない。
眠り猫や陽明門についてはまた後ほど……。大江 新太郎(1876~1935)や伊東忠太(1867~1954)らが東照宮修復の歴史にどのように関わっていたかなどについてまで、ちょっとだけ探ってみたい。
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