ウクライナ紛争の構図(1) ― 2022/04/04 16:20
吾狼: そもそも今のウクライナ紛争って、どういう経緯で始まってしまったのかという説明が、どの国のメディアもきちんと伝えていないような気がするんですよね。
幽大: 西側諸国のメディアは「悪の帝国ロシアと欲ボケした独裁者プーチンが平和に過ごしていた農業国ウクライナを侵略して傀儡政権を作ろうとしている、という図式で説明しているようだが……。実際はもっと複雑なんだろう?
イシコフさんはロシア人の血が流れていると聞いたが、ロシア側の論理というのはどうなんだね。
イシ: 確かに私の父はロシア人、母はハンガリー生まれの日本人ですけど、物心ついたときからずっと母方の祖父の家、つまり、日本で暮らしてきましたから、ロシアの国情とかロシア人のものの考え方とかは分からないですね。
父は貿易商で、日本とロシアを行ったり来たりしていましたが、私は父とはほとんど接触がないんですよ。というのは、私が二歳になる前に母は病死してしまって、貿易商の父は仕事が忙しくて私の面倒をみられなかった。金は持っていたので、たっぷり養育費をつけて母方の実家に私を預けたんです。その後、父は再婚しています。
というわけで、私は日本で育ったんですが、通っていたのはインターナショナルスクールで、そこで英語を話す子供たちと一緒に育ったんです。だから、日本人の感性ともかなり違うのかな。
幽大: 相当特殊な生い立ちなんだね。それならロシアの国情が分かるということではないか。
イシ: でも、インターナショナル時代の友人とは今でもやりとりしていますから、いろいろ情報は入ってきますよ。私の友人たちはみんな一筋縄ではいかないので、裏情報的なものや怪しげな噂話も多いですけどね。
吾狼: いいですねえ! そういうのを聞きたいわけですよ。ぼくたちは。
イシ: 大した情報じゃないよ。吾狼さんも知っているような話ばかりだと思うけど。というか、吾狼さんのほうが情報量は多いんじゃない? 吾狼さんはどう分析しているの?
吾狼: え? ぼくですか? なんかブーメランだな。まあいいや。
ぼくとしては、ここ数十年繰り返されてきた戦争の構図とあまり変わらないんじゃないかと思ってます。中東戦争とかアフガンとかと。
イシ: 具体的にはどういうこと?
吾狼: 日本を含めて西側メディアは、プーチンが仕掛けた一方的な侵略戦争みたいに報じてますけど、基本的にはアメリカがウクライナに仕掛けた「内戦」が引き金になっているんじゃないか、と。
イシ: うんうん。
吾狼: ウクライナの歴史はあまりにも混沌かつ凄絶で、ぼくたちみたいに戦争を直接知らない人間が簡単に口にするのは許されないでしょうけど、直近では、2014年のマイダン革命と呼ばれているクーデターとクリミアを巡るパワーゲームのもつれ、ドンバス地域の治安の問題が絡み合ってもともと不安定だったウクライナの内政という土壌があったわけですよね。
それを利用して、アメリカがウクライナの分裂と西側寄りの政権樹立を企てたのがあのクーデターだったんじゃないですか。
一方で、アメリカをリーダーとするNATO勢は、ロシアの封じ込めと弱体化を狙ってじわじわとロシアに圧力をかけていった。ロシアがそれに乗ってアフガンのときみたいに軍事行動を起こせば、それを利用してロシアの国力を落とすことができると踏んだんじゃないですかね。
イシ: アフガンがきっかけでソ連は崩壊していったからね。その再現を目論んだ、と。
吾狼: でも今回、ロシアは簡単には乗ってこなかった。反発しつつもしっかり準備を整えていた。で、ここにきてバ~ンと……。
ロシアとしては、しっかり準備を重ねてきたんだから、この機会をうまく利用してロシアと中国が中心となる新しい世界経済圏の成立を目指すぞ……みたいな感じですか。
イシ: うんうん。まあ、私の周囲でも概ねそうした見立てではあるね。
で、バ~ンと弾けた後の展開については、ロシア側もNATO側も誤算があった。
本来なら圧倒的な軍事力を持つロシアが簡単に制圧すると思われていたのが、ウクライナ軍が予想以上に踏ん張っているのがロシアにとっては大誤算だったと報じているメディアが多いけれど、現在のウクライナ軍というのはNATO軍と同じだからね。アメリカがイラクを一方的に攻撃して破壊したときとはまったく違う。
2014年のマイダンクーデター以後、ウクライナ軍はウクライナ国内と国外でアメリカ軍とNATO軍によって訓練されてきた。最新兵器を装備して、高度な命令系統下で敏速果敢に行動できる軍隊になっているそうだ。ウクライナの外に派遣されても、世界中どの地域にいるNATO軍とも即座に連携できるらしい。
一方、ロシアとしては肥沃な穀倉地帯であるウクライナの土地をなるべく傷つけないで制圧したいわけだから、ドカドカ爆弾を落とすみたいなことはしたくない。だけど、ウクライナ軍が強力だから簡単にはいかず、前線では焦りから指揮系統が乱れたり、やりすぎたりもしているだろうね。
幽大: その結果、どんどん一般市民が死んでいる。
イシ: たまらないですね。でも、戦争を仕掛けている連中としては、ウクライナの一般市民がどれだけ死のうがあまり関心はないでしょう。目的を果たすための駒としか見ていない。昔からずっと、戦争というのはそういうものですよね。
吾狼: 人命第一、平和な暮らしが第一だと考えたら、なんとかこぎ着けたミンスク合意を実行して、不必要にロシアを刺激しないというのが現実的な最良解だったはずですしね。でも、NATO側はそうしなかった。
イシ: どう考えても、NATO側の挑発がいきすぎだよね。
2008年4月にルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATOの首脳会議では、アフガニスタン紛争とNATOの拡大戦略が主要議題だった。加盟国の拡大については、旧ソ連のウクライナとグルジアの加盟候補国への格上げが議論された。結局、ロシアを配慮して見送られたんだけど、その会議後、アメリカの政治担当国務次官に就任したばかりだったウィリアム・バーンズは、こんなメモを残しているそうだよ。
「NATOの加盟国拡大については、ダメなものはダメだ。ロシアは本気だ。もし、我々がロシアの要求を真面目に受けとめなければ、遅かれ早かれロシアは軍事行動に出るだろう。それはウクライナの破壊を意味する。その結果、ウクライナはクリミアとドンバスを失うだろう」と。
吾狼: まさにそれが今起きているわけですね。
イシ: そういうことだね。
このときのNATO首脳会議では、アフガン問題について、NATOがアフガン指導部を強化し、軍部と民間NGOなどの協力を進めるというようなことも決議されている。その手法も、マイダンクーデター以降、ウクライナでNATOが進めてきたことと一致するよね。
今回、ロシア軍がまっ先に空爆したポーランド国境近くにある軍事訓練施設は「国際平和維持軍訓練センター」という名称だもんね。そこではNATO軍から派遣された外国人指導官たちが、年間5大隊のペースで精鋭部隊を育て上げ、ドンバス地域に派遣していたといわれている。
ウクライナ紛争は今始まったわけじゃない。2014年以降、東部ドンバス地域では多くの市民が殺されてきた。ウクライナ軍精鋭部隊の中には、ロシア語を話すウクライナ人は殺してもかまわないというような極端な思想を持つ連中もいるという。目の前でロシア語を話す同胞が殺されるのを黙って見ているわけにはいかない、というのがロシアの言い分だよね。それを一方的なロシア側のでっちあげプロパガンダだという人もいるけれど、本当にそうなのか?
ちなみに、2008年の時点でNATOの拡大政策に懸念を示していたウィリアム・バーンズという人物は、2005年から2008年まで駐ロシア大使をつとめていたから、ロシア国内外のことには精通していた。その後、2008年から2011年までアメリカの政治担当国務次官。2011年から2014年まで国務副長官という経歴を持つインテリ外交官なんだけど、なんと、2011年からはバイデン政権下でCIA長官に就任しているんだよね。
ウィリアム・ジョセフ・バーンズ(写真はWikiより)
吾狼: 彼の頭の中を覗いてみたいですね。
イシ: 吾狼さんは若いなあ。私は嫌だよ。あまりにもドロドロの怖ろしい闇に吸い込まれそうで怖い。
吾狼: お二人に比べたら若輩者ですけど、ぼくももうすぐ50ですよ。あ、若いのか。
幽大: ひよっこだな。ピヨピヨ。
吾狼: はいはい。ピヨピヨ。
まあ、とにかく今のウクライナ紛争の背景は、複雑すぎて、外野から見ていてもよく分からない、というのは確かですね。
ロシアにしても、NATOから挑発されたといっても、本当にこの段階でバ~ンといっちゃったのはどうなのか、と。後悔しているんじゃないですかね、プーチンは。
イシ: そのへんは分からないよね。入ってくる情報があまりにもグチャグチャで、どこまで信じていいのか分からない。
大枠の構造は見えるんだけど、個々の要素が見えにくいんだな。
例えば、プーチンが惚けてるんじゃないかとか、甲状腺癌なんじゃないか、いやパーキンソン病だろとか、そういう情報の真偽については、私は判断できないでいるんだ。バイデンの認知症説にしても同じだね。
入ってくる情報について、100%事実かもしれないし、まったくの嘘かもしれない。両極端がありえる。だから、情報の真偽を可能性の割合みたいなもので振り分けながら整理していく必要があると思ってるんだ。
吾狼: 同感です! 具体的にはどんな感じですか。
まずは、2014年のクーデターをアメリカが仕掛けたという話は?
イシ: それは80%くらい事実だろうね。
デモ隊の中に訓練されたスナイパーがいて、デモ隊の民衆を狙い打ちしたというのは、映像でも証拠があがっているようだし。
ステパン・バンデラという超国家主義、ファシズム思想の持ち主を死後も崇拝している過激派グループが、マイダンクーデターを先導した。彼らをアメリカ国内の訓練施設で養成していたのはCIAだという話も、60%は本当だろうと思ってる。
ステパン・バンデラ(1909-1959) 写真はWikiより
バンデラの評価は真っ二つに割れていて、バンデラとナチスを結びつけてネオナチ勢力のシンボルのように言うのはロシア側のプロパガンダに過ぎないという人たちもいるけれど、彼が国粋主義的な思想で行動していたことは確かなんじゃないかな。
今はウクライナ愛国党のアンドレ・ベレツキーが人種差別と暴力肯定のアジテーターの代表で、ヨーロッパを再び白人だけのものするとか、ウクライナはその前線基地になるといったことを公言しているらしい。そんなベレツキーが率いるアゾフ大隊のことや、そこに軍事支援しているのがアメリカだということは、日本ではまったく報道されていないよね。これらの話はバンデラとは違って現在進行形のことだから、全部でっち上げだと言うのはさすがに無理があるんじゃないかと思うよ。
で、ベレツキーの人種差別というのは「言語の違い」による差別というのが含まれていて、ロシア語を話すウクライナ国民は非国民であり、排除していいという論理らしい。実際、現政権によるロシア語禁止令が可決されようとしたとき、ドンバスの人たちは猛反発して、衝突が激化した。明日から関西弁は禁止するという法律が日本の国会で真面目に審議されるようなものかな。もっと極端だろうけど、そういうことが東欧では今も普通に起きているってことだよね。
ロシア語を話すウクライナ国民というのは、具体的には東部ドンバス地域の人たちのことで、ウクライナの正規軍になっているアゾフ大隊を始め、ウクライナの軍隊や警察は、マイダンクーデター以後ずっと、ドンバス地域への砲撃や虐殺を続けているという。
これも60%以上は事実だと思う。現地で生の体験をしているわけではないから90%とは言えないし、この手の内戦では双方に非人道的な行動が出るだろうから、どちらかが100%正義だとかも言えない。
でも、犠牲になるのが一般市民だということは間違いないわけで、今も毎日紛争に巻き込まれて人が殺されている。これは100%事実。まったくやりきれないよね。
吾狼: 第二次大戦後、ウクライナやポーランドにはナチスのホロコーストに加担した人たちが大勢残ったそうですね。その思想がじわじわと広がっていって、教育にも影響を与えた、と。
子どもにバンデラ主義という白人至上主義や超国家思想が植えつけられることは、軍事支援とかよりずっと怖ろしいことだと思うんですよ。
イシ: その通りだね。ウクライナという国は、そうした複雑な要素が絡み合っているから、今の紛争に関しても問題解決の糸口がなかなか見えてこない。ロシアが一方的に攻め込んだみたいに考えている人たちが多いだろうけど、実際にはこれはウクライナという広大で肥沃な土地で起きている「内戦」に、東西冷戦時代のゾンビみたいなものが介入している悲劇なんだよね。
ザックリ言って、ウクライナの西側の国民と、ロシア語を日常語にしてロシアとのつき合いが深い東側の国民では、文化や思想が違う。
でも、西側の人たちだって、今まで何度も最悪の戦場にさせられてひどい経験をしてきているから、国に再びナチズムが入り込むことの怖さを知っている。だからこそ選挙でヤヌコーヴィチのような中道派路線の大統領を選んだんだと思うよ。でも、その政権が暴力で倒された。そのクーデターに参加したのも同じ西側の一般市民。巧みに先導されたとはいえ、今の政権を決して傀儡政権だとは思っていないだろうし。
幽大: どうも西洋人ってのはやることが極端だな。肉食ってるからかな。
吾狼: あ、それちょっと問題発言かも……です。幽大さん。
幽大: まあいいじゃないか、このくらいは。ここはただの酒呑み話なんだからさ。
吾狼: え? 幽大さん、呑んでるんですか、今。
幽大: だめなのか? 余輩は別に酔って暴れたりはせんぞ。
イシ: どうせオンラインですしね。暴れても私たちは困らないですから、適当にやりましょう。深刻になったところで、私たちにはどうすることもできないわけですからねえ。
幽大: 西側諸国のメディアは「悪の帝国ロシアと欲ボケした独裁者プーチンが平和に過ごしていた農業国ウクライナを侵略して傀儡政権を作ろうとしている、という図式で説明しているようだが……。実際はもっと複雑なんだろう?
イシコフさんはロシア人の血が流れていると聞いたが、ロシア側の論理というのはどうなんだね。
イシ: 確かに私の父はロシア人、母はハンガリー生まれの日本人ですけど、物心ついたときからずっと母方の祖父の家、つまり、日本で暮らしてきましたから、ロシアの国情とかロシア人のものの考え方とかは分からないですね。
父は貿易商で、日本とロシアを行ったり来たりしていましたが、私は父とはほとんど接触がないんですよ。というのは、私が二歳になる前に母は病死してしまって、貿易商の父は仕事が忙しくて私の面倒をみられなかった。金は持っていたので、たっぷり養育費をつけて母方の実家に私を預けたんです。その後、父は再婚しています。
というわけで、私は日本で育ったんですが、通っていたのはインターナショナルスクールで、そこで英語を話す子供たちと一緒に育ったんです。だから、日本人の感性ともかなり違うのかな。
幽大: 相当特殊な生い立ちなんだね。それならロシアの国情が分かるということではないか。
イシ: でも、インターナショナル時代の友人とは今でもやりとりしていますから、いろいろ情報は入ってきますよ。私の友人たちはみんな一筋縄ではいかないので、裏情報的なものや怪しげな噂話も多いですけどね。
吾狼: いいですねえ! そういうのを聞きたいわけですよ。ぼくたちは。
イシ: 大した情報じゃないよ。吾狼さんも知っているような話ばかりだと思うけど。というか、吾狼さんのほうが情報量は多いんじゃない? 吾狼さんはどう分析しているの?
吾狼: え? ぼくですか? なんかブーメランだな。まあいいや。
ぼくとしては、ここ数十年繰り返されてきた戦争の構図とあまり変わらないんじゃないかと思ってます。中東戦争とかアフガンとかと。
イシ: 具体的にはどういうこと?
吾狼: 日本を含めて西側メディアは、プーチンが仕掛けた一方的な侵略戦争みたいに報じてますけど、基本的にはアメリカがウクライナに仕掛けた「内戦」が引き金になっているんじゃないか、と。
イシ: うんうん。
吾狼: ウクライナの歴史はあまりにも混沌かつ凄絶で、ぼくたちみたいに戦争を直接知らない人間が簡単に口にするのは許されないでしょうけど、直近では、2014年のマイダン革命と呼ばれているクーデターとクリミアを巡るパワーゲームのもつれ、ドンバス地域の治安の問題が絡み合ってもともと不安定だったウクライナの内政という土壌があったわけですよね。
それを利用して、アメリカがウクライナの分裂と西側寄りの政権樹立を企てたのがあのクーデターだったんじゃないですか。
一方で、アメリカをリーダーとするNATO勢は、ロシアの封じ込めと弱体化を狙ってじわじわとロシアに圧力をかけていった。ロシアがそれに乗ってアフガンのときみたいに軍事行動を起こせば、それを利用してロシアの国力を落とすことができると踏んだんじゃないですかね。
イシ: アフガンがきっかけでソ連は崩壊していったからね。その再現を目論んだ、と。
吾狼: でも今回、ロシアは簡単には乗ってこなかった。反発しつつもしっかり準備を整えていた。で、ここにきてバ~ンと……。
ロシアとしては、しっかり準備を重ねてきたんだから、この機会をうまく利用してロシアと中国が中心となる新しい世界経済圏の成立を目指すぞ……みたいな感じですか。
イシ: うんうん。まあ、私の周囲でも概ねそうした見立てではあるね。
で、バ~ンと弾けた後の展開については、ロシア側もNATO側も誤算があった。
本来なら圧倒的な軍事力を持つロシアが簡単に制圧すると思われていたのが、ウクライナ軍が予想以上に踏ん張っているのがロシアにとっては大誤算だったと報じているメディアが多いけれど、現在のウクライナ軍というのはNATO軍と同じだからね。アメリカがイラクを一方的に攻撃して破壊したときとはまったく違う。
2014年のマイダンクーデター以後、ウクライナ軍はウクライナ国内と国外でアメリカ軍とNATO軍によって訓練されてきた。最新兵器を装備して、高度な命令系統下で敏速果敢に行動できる軍隊になっているそうだ。ウクライナの外に派遣されても、世界中どの地域にいるNATO軍とも即座に連携できるらしい。
一方、ロシアとしては肥沃な穀倉地帯であるウクライナの土地をなるべく傷つけないで制圧したいわけだから、ドカドカ爆弾を落とすみたいなことはしたくない。だけど、ウクライナ軍が強力だから簡単にはいかず、前線では焦りから指揮系統が乱れたり、やりすぎたりもしているだろうね。
幽大: その結果、どんどん一般市民が死んでいる。
イシ: たまらないですね。でも、戦争を仕掛けている連中としては、ウクライナの一般市民がどれだけ死のうがあまり関心はないでしょう。目的を果たすための駒としか見ていない。昔からずっと、戦争というのはそういうものですよね。
吾狼: 人命第一、平和な暮らしが第一だと考えたら、なんとかこぎ着けたミンスク合意を実行して、不必要にロシアを刺激しないというのが現実的な最良解だったはずですしね。でも、NATO側はそうしなかった。
イシ: どう考えても、NATO側の挑発がいきすぎだよね。
2008年4月にルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATOの首脳会議では、アフガニスタン紛争とNATOの拡大戦略が主要議題だった。加盟国の拡大については、旧ソ連のウクライナとグルジアの加盟候補国への格上げが議論された。結局、ロシアを配慮して見送られたんだけど、その会議後、アメリカの政治担当国務次官に就任したばかりだったウィリアム・バーンズは、こんなメモを残しているそうだよ。
「NATOの加盟国拡大については、ダメなものはダメだ。ロシアは本気だ。もし、我々がロシアの要求を真面目に受けとめなければ、遅かれ早かれロシアは軍事行動に出るだろう。それはウクライナの破壊を意味する。その結果、ウクライナはクリミアとドンバスを失うだろう」と。
吾狼: まさにそれが今起きているわけですね。
イシ: そういうことだね。
このときのNATO首脳会議では、アフガン問題について、NATOがアフガン指導部を強化し、軍部と民間NGOなどの協力を進めるというようなことも決議されている。その手法も、マイダンクーデター以降、ウクライナでNATOが進めてきたことと一致するよね。
今回、ロシア軍がまっ先に空爆したポーランド国境近くにある軍事訓練施設は「国際平和維持軍訓練センター」という名称だもんね。そこではNATO軍から派遣された外国人指導官たちが、年間5大隊のペースで精鋭部隊を育て上げ、ドンバス地域に派遣していたといわれている。
ウクライナ紛争は今始まったわけじゃない。2014年以降、東部ドンバス地域では多くの市民が殺されてきた。ウクライナ軍精鋭部隊の中には、ロシア語を話すウクライナ人は殺してもかまわないというような極端な思想を持つ連中もいるという。目の前でロシア語を話す同胞が殺されるのを黙って見ているわけにはいかない、というのがロシアの言い分だよね。それを一方的なロシア側のでっちあげプロパガンダだという人もいるけれど、本当にそうなのか?
ちなみに、2008年の時点でNATOの拡大政策に懸念を示していたウィリアム・バーンズという人物は、2005年から2008年まで駐ロシア大使をつとめていたから、ロシア国内外のことには精通していた。その後、2008年から2011年までアメリカの政治担当国務次官。2011年から2014年まで国務副長官という経歴を持つインテリ外交官なんだけど、なんと、2011年からはバイデン政権下でCIA長官に就任しているんだよね。
ウィリアム・ジョセフ・バーンズ(写真はWikiより)
吾狼: 彼の頭の中を覗いてみたいですね。
イシ: 吾狼さんは若いなあ。私は嫌だよ。あまりにもドロドロの怖ろしい闇に吸い込まれそうで怖い。
吾狼: お二人に比べたら若輩者ですけど、ぼくももうすぐ50ですよ。あ、若いのか。
幽大: ひよっこだな。ピヨピヨ。
吾狼: はいはい。ピヨピヨ。
まあ、とにかく今のウクライナ紛争の背景は、複雑すぎて、外野から見ていてもよく分からない、というのは確かですね。
ロシアにしても、NATOから挑発されたといっても、本当にこの段階でバ~ンといっちゃったのはどうなのか、と。後悔しているんじゃないですかね、プーチンは。
イシ: そのへんは分からないよね。入ってくる情報があまりにもグチャグチャで、どこまで信じていいのか分からない。
大枠の構造は見えるんだけど、個々の要素が見えにくいんだな。
例えば、プーチンが惚けてるんじゃないかとか、甲状腺癌なんじゃないか、いやパーキンソン病だろとか、そういう情報の真偽については、私は判断できないでいるんだ。バイデンの認知症説にしても同じだね。
入ってくる情報について、100%事実かもしれないし、まったくの嘘かもしれない。両極端がありえる。だから、情報の真偽を可能性の割合みたいなもので振り分けながら整理していく必要があると思ってるんだ。
吾狼: 同感です! 具体的にはどんな感じですか。
まずは、2014年のクーデターをアメリカが仕掛けたという話は?
イシ: それは80%くらい事実だろうね。
デモ隊の中に訓練されたスナイパーがいて、デモ隊の民衆を狙い打ちしたというのは、映像でも証拠があがっているようだし。
ステパン・バンデラという超国家主義、ファシズム思想の持ち主を死後も崇拝している過激派グループが、マイダンクーデターを先導した。彼らをアメリカ国内の訓練施設で養成していたのはCIAだという話も、60%は本当だろうと思ってる。
ステパン・バンデラ(1909-1959) 写真はWikiより
バンデラの評価は真っ二つに割れていて、バンデラとナチスを結びつけてネオナチ勢力のシンボルのように言うのはロシア側のプロパガンダに過ぎないという人たちもいるけれど、彼が国粋主義的な思想で行動していたことは確かなんじゃないかな。
今はウクライナ愛国党のアンドレ・ベレツキーが人種差別と暴力肯定のアジテーターの代表で、ヨーロッパを再び白人だけのものするとか、ウクライナはその前線基地になるといったことを公言しているらしい。そんなベレツキーが率いるアゾフ大隊のことや、そこに軍事支援しているのがアメリカだということは、日本ではまったく報道されていないよね。これらの話はバンデラとは違って現在進行形のことだから、全部でっち上げだと言うのはさすがに無理があるんじゃないかと思うよ。
で、ベレツキーの人種差別というのは「言語の違い」による差別というのが含まれていて、ロシア語を話すウクライナ国民は非国民であり、排除していいという論理らしい。実際、現政権によるロシア語禁止令が可決されようとしたとき、ドンバスの人たちは猛反発して、衝突が激化した。明日から関西弁は禁止するという法律が日本の国会で真面目に審議されるようなものかな。もっと極端だろうけど、そういうことが東欧では今も普通に起きているってことだよね。
ロシア語を話すウクライナ国民というのは、具体的には東部ドンバス地域の人たちのことで、ウクライナの正規軍になっているアゾフ大隊を始め、ウクライナの軍隊や警察は、マイダンクーデター以後ずっと、ドンバス地域への砲撃や虐殺を続けているという。
これも60%以上は事実だと思う。現地で生の体験をしているわけではないから90%とは言えないし、この手の内戦では双方に非人道的な行動が出るだろうから、どちらかが100%正義だとかも言えない。
でも、犠牲になるのが一般市民だということは間違いないわけで、今も毎日紛争に巻き込まれて人が殺されている。これは100%事実。まったくやりきれないよね。
吾狼: 第二次大戦後、ウクライナやポーランドにはナチスのホロコーストに加担した人たちが大勢残ったそうですね。その思想がじわじわと広がっていって、教育にも影響を与えた、と。
子どもにバンデラ主義という白人至上主義や超国家思想が植えつけられることは、軍事支援とかよりずっと怖ろしいことだと思うんですよ。
イシ: その通りだね。ウクライナという国は、そうした複雑な要素が絡み合っているから、今の紛争に関しても問題解決の糸口がなかなか見えてこない。ロシアが一方的に攻め込んだみたいに考えている人たちが多いだろうけど、実際にはこれはウクライナという広大で肥沃な土地で起きている「内戦」に、東西冷戦時代のゾンビみたいなものが介入している悲劇なんだよね。
ザックリ言って、ウクライナの西側の国民と、ロシア語を日常語にしてロシアとのつき合いが深い東側の国民では、文化や思想が違う。
でも、西側の人たちだって、今まで何度も最悪の戦場にさせられてひどい経験をしてきているから、国に再びナチズムが入り込むことの怖さを知っている。だからこそ選挙でヤヌコーヴィチのような中道派路線の大統領を選んだんだと思うよ。でも、その政権が暴力で倒された。そのクーデターに参加したのも同じ西側の一般市民。巧みに先導されたとはいえ、今の政権を決して傀儡政権だとは思っていないだろうし。
幽大: どうも西洋人ってのはやることが極端だな。肉食ってるからかな。
吾狼: あ、それちょっと問題発言かも……です。幽大さん。
幽大: まあいいじゃないか、このくらいは。ここはただの酒呑み話なんだからさ。
吾狼: え? 幽大さん、呑んでるんですか、今。
幽大: だめなのか? 余輩は別に酔って暴れたりはせんぞ。
イシ: どうせオンラインですしね。暴れても私たちは困らないですから、適当にやりましょう。深刻になったところで、私たちにはどうすることもできないわけですからねえ。
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