民主圧勝と言うけれど、実際には今までの自公連合より少ない2009/08/31 18:53

民主圧勝というが、ただ「逆転」しただけ

昨日(30日)、投票日の開票直前、ネット経由で各報道機関の出口調査の結果が速報として配信されてきた。

報道各社の衆院選結果予測によると、民主党が300議席を超える見通しで、政権交代が確実に。
各社による政党別の獲得議席予測は以下の通り。
◆自民  96~106
◆公明  18~23
◆民主  315~326
◆共産  10~12
◆社民  7~11
◆国民新 3~4
◆みんな 6~7
◆日本  1~2
◇午後6時現在の投票率は48.40%(前回比-1.60%)
◇期日前投票は1398万人(同+56%)で過去最多

結果は、この予測より自民党(119)が多く、民主党(308)が少なく、公明(21)は予想通り、共産(9)、社民(7)、国民新党(3)は軒並み予想の下限だった。
民主の予想獲得議席上限が326となっているが、民主党が送り出した候補者数の合計は330だから、これはもう比例区で足りなくなり、何議席か損するな……と思っていたところ、その通りになった。
比例区近畿ブロックで13人分の当選枠を得ながら、比例区単独候補を8人しか届けず、選挙区で落選した候補者が3人しかいなかったため、2議席を自公候補に譲るというおバカ(というか、超余裕?)なことをした民主党。 その落ちた3候補も、惜敗率は98.1%、92.0%、87.3%と接戦であり、下手をすると2議席どころか5議席を他党に渡す結果になったかもしれない。
2議席が民主から自公に移ったということは、これだけで4議席差が縮んだことになる。民主党がミスをしなければ、310議席は確実に取れていたわけだ。
今回の選挙の結果、自公連合対その他の勢力図は、選挙前の331対147から140対340(うち、民主・社民・国民系は322)になった。民主の圧勝と言われているが、その前の自公連立の議席数331より今回の民主・社民・国民新党系合計の322は9議席少ないのである。
参院で突き返されても衆院で法案を再議決できるオールマイティ状態は3分の2(320)議席。322議席というのはそれを満たしてはいるが、わずか2議席だから、今までの自公連立の331議席よりはずっと微妙な線と言える。政策面で正反対を向くことが多い社民党と国民新党を一緒にまとめるのは、自民党が公明党を説得するよりずっと大変であろうし……。

またしても自公候補をアシストした共産党

今回の選挙では、今まで連戦連勝だった公明党が、小選挙区で全敗するという事態が起きた。
公明党は基本的に選挙区候補者の比例区への重複立候補をさせていないので、比例区では候補者は1位から完全序列がつく。つまり、1位指名候補者はその時点で事実上当選である。
小選挙区は自民党と選挙協力して勝てるところにしか候補者を立てない。このように、自信満々に投票結果を完全に読み切った選挙をする党だが、いかに党員を大量動員できる公明党といえども、投票率が70%近くまで上がれば(実際には小選挙区が69.28%、比例区が69.27%で、前回の衆院選の67.51、67.46%よりわずかに上がった)、無条件で小選挙区に勝つことはできないということが証明された。

ところで、かつて「与党218 対 野党262 という試論」という文章を書いた(2003年11月10日執筆  2003年11月18日 asahi.com のコラムAICに掲載 内容は⇒こちら
比例区で民主党が自民党の投票数を上回った2003年の衆院選で、なぜ野党は与党に60議席も負けたのか、その最大原因は日本共産党が、勝てない小選挙区すべてに候補者を立てて、結果的に自公候補を強力にアシストしたからだ、という論考である。
今回の2009年衆院選において、日本共産党は小選挙区への立候補者をかなり減らした。一説には、没収供託金の額が億単位になって負担に耐えられなくなったからだという。
(ちなみに、今回ほぼ全選挙区に候補者を立てた幸福実現党の没収供託金は、ざっと計算すると、小選挙区288人×300万円+比例区49人×600万円=11億5800万円である。幸福の科学は形を変えて「納税」したつもりなのだろうか)

今回、共産党が小選挙区で候補者を絞り込んだことは民主党や民主党と選挙協力した社民党、国民新党、新党日本などの候補者には有利に働いたはずだが、実際には共産党が候補者を見送った選挙区の多くで民主党候補は自民党候補に大差をつけて圧勝しており、それほど関係なかったと思われる。
共産党が候補者を立てた選挙区は、自民党の大物が立っている注目選挙区が多かった。そこではことごとく自公アシストを招いている。
例えば、東京11区

◎ 下村 博文(自民) 117,472 重複1位
× 有田 芳生(日本) 113,998 重複1位(97.0)
× 徳留 道信(共産)  36,487 重複4位(31.1)

◎は当選、○は比例区復活当選、×は落選、最後の( )内数字は惜敗率

日本新党の副代表・有田芳生候補は、前回の参院選選挙でも僅差で敗れて涙をのんだが、今回も共産党の自民党援護射撃によって、わずか3474票差で破れた。共産党票の10分の1があれば下村候補を破れた。
共産党の徳留候補は比例では4位指定であり、最初から当選はできるはずがない候補である。党としても、間違っても当選は期待していない。結果として、自民党の元官房副長官当選を強力にアシストした。

次に東京8区。

  候補者名 (政党) 得票数  比率   

◎ 石原 伸晃(自民) 147,514 49.95% 重複1位
× 保坂 展人(社民) 116,723 39.52% 重複1位(79.1)
× 沢田 俊史(共産)  24,965  8.45% 単独

ここは民主党が社民党の保坂候補を推薦して選挙協力をした選挙区だが、共産党は勝てる見込みがまったくない候補者を立てた。法定得票数(6分の1)にも供託金没収分岐点(10分の1)にも満たない8%台の得票しか得ていない。それを分かっている共産党支持者の多くは、保坂候補に投票したのではないだろうか。
しかし、それでも2万5000票の共産党票が死に票となり、自民党の石原候補を後押しした。
この2万5000票全部を保坂候補の票に上乗せしても、石原候補の票にはわずかに届かない。しかし、最初から共産党が選挙協力をしていたら、保坂候補はもう少し石原候補を追いつめ、もしかしたら破っていた可能性はある。
保坂候補は、前回、自民党が圧勝した2005年のいわゆる「郵政選挙」で、自民党が圧勝したため、比例区東京ブロックで候補者が足りなくなり、自民党が獲得した議席を次点だった社民党が棚ぼたで取ったために当選したという経歴を持つが、その後、議会では民主党の長妻議員などと並んで数々の質問を政府に提出し、自民党の暴走を食い止めようと健闘してきたジャーナリスト出身議員だ。巨大風力発電プラント建設の危険性、補助金申請におけるいい加減さなどにもいち早く問題意識を持って対応してきた。こうした議員は党派を問わず希少であり、必要な人材と言える。
社民党の保坂展人候補の落選と新党日本の有田芳生候補の落選は、議会内で具体的なデータを示しながら問題提起ができるジャーナリスト出身議員が誕生しなかったという重大な損失を招いた。残念でならない。


続いて京都5区。

◎ 谷垣 禎一(自民) 87,998 46.53% 重複3位同率
○ 小原 舞 (民主) 80,966 42.81% 重複1位(92.0)
× 吉田早由美(共産) 17,941  9.49% 単独

ここも、共産党・吉田候補は供託金没収だが、その票を「反自民」に使えていれば、小原候補は98907票となり、楽々と選挙区当選を果たすと同時に、谷垣候補は惜敗率88.97%で破れる。

次に神奈川2区。

◎ 菅 義偉(自民) 132,270 46.52% 重複1位 (党選対副委員長)
○ 三村和也(民主) 131,722 46.32% 重複1位(99.6)
× 高山 修(共産)  20,366  7.16% 単独

ここも同じで、共産党・高山候補は供託金没収。当選した自民党・菅選対副委員長と次点の民主党・三村候補の票差はわずかに548票である。2万余票の共産党票のわずか3%が加われば逆転していた。

もうひとつ、塩崎・自民党元官房長官が出ていた愛媛1区。

◎ 塩崎 恭久(自民) 130,330 48.60% 重複1位
○ 永江 孝子(民主) 127,562 47.57% 重複1位(97.9)
× 田中 克彦(共産)  8,035  3.00% 重複2位(6.2)

ここも、共産党・田中候補の得票率は3%に過ぎないが、民主党・永江候補の票にこの8千票を足せば、自民党・塩崎候補を逆転できたのである。
四国は比例区でも共産党は議席を取れていない。従来からの保守王国で、共産党が四国で議席を獲得できる可能性は極めて低かった。比例区四国ブロックの定数は6だが、共産党が獲得した票数は6.67%である。議席1つでもを獲得するためには獲得票の倍以上が必要なので、最初から無理だと分かっているエリアと言える。
そういうブロックでも、共産党の比例区候補者はきっちりと1位、2位と事前に党から順位をつけられるのだから、これはもう民主主義、つまりは投票者が議員を選ぶ選挙とは言えない。

伊吹文明候補を復活当選させた共産党票

自民党が選挙区で敗れ、比例区で復活当選した選挙区でも、共産党は自民党候補者の惜敗率を上げて復活当選しやすくするというサポートをしている。例として、元自民党幹事長・伊吹文明候補が選挙区で敗れ、比例区で復活当選した京都1区を見てみる。

◆京都1区

◎ 平 智之 105,818 43.03% 民主 新 経営指導会社長 重複1位
○ 伊吹 文明 81,913 33.31% 自民 前 〈元〉党幹事長 重複3位同列(77.4)
○ 穀田 恵二 54,605 22.21% 共産 前 党国対委員長 重複1位単独(51.6)


伊吹文明候補の惜敗率は77.4で、近畿ブロックで自民党が獲得した9議席分の7番目で拾われ、復活当選した。
自民党近畿ブロックでは、1位と2位は単独候補で、この2人は選挙をやる前から事実上当選が決まっている。
3位に選挙区との重複立候補者が40名、同順位で並び、惜敗率順に拾われることになっていた。
以下のような結果だ。

名簿順位 氏名 経歴 重複 惜敗率/修正後の惜敗率
○ 1 近藤 三津枝 前 単独 (元キャスター)
○ 2 柳本 卓治 前 単独 (党大阪特別顧問)
○ 3 高市 早苗 前 〈元〉少子化担当相 (奈良2区) 96.1/83.0
○ 3 竹本 直一 前 〈元〉財務副大臣 (大阪15区) 87.3/72.0
○ 3 石田 真敏 前 財務副大臣 (和歌山2区) 79.2/--
○ 3 松浪 健太 前 〈元〉内閣府政務官 (大阪10区) 77.6/66.4
○ 3 伊吹 文明 前 〈元〉党幹事長 (京都1区) 77.4/51.0
○ 3 谷 公一 前 〈元〉国交政務官 (兵庫5区) 76.8/--
○ 3 谷畑 孝 前 党政調副会長 (大阪14区) 76.7/63.7
× 3 河本 三郎 前 〈元〉文科副大臣 (兵庫12区) 76.2/--
× 3 上野 賢一郎 前 〈元〉総務省職員 (滋賀1区) 73.1/62.1
× 3 中山 泰秀 前 〈元〉外務政務官 (大阪4区) 72.8/60.2
× 3 岡下 信子 前 〈元〉内閣府政務官 (大阪17区) 70.2/57.5
× 3 渡海 紀三朗 前 〈元〉文部科学相 (兵庫10区) 69.6/--
× 3 北川 知克 前 党副幹事長 (大阪12区) 67.9/58.5
× 3 奥野 信亮 前 〈元〉日産自取締役 (奈良3区) 67.5/60.0
× 3 大塚 高司 前 〈元〉参院議員秘書 (大阪8区) 67.4/57.6
× 3 中馬 弘毅 前 〈元〉行革担当相 (大阪1区) 66.8/56.9
× 3 盛山 正仁 前 〈元〉国交省部長 (兵庫1区) 66.3/55.9
× 3 関 芳弘 前 〈元〉銀行員 (兵庫3区) 66.3/56.0
× 3 原田 憲治 前 〈元〉大阪府議 (大阪9区) 65.1/56.8
× 3 松浪 健四郎 前 党外交部会長 (大阪19区) 64.3/56.7
× 3 渡嘉敷 奈緒美 前 〈元〉杉並区議 (大阪7区) 63.4/51.5
× 3 藤井 勇治 前 〈元〉自治相秘書官 (滋賀2区) 60.9/--
× 3 木挽 司 前 〈元〉伊丹市議 (兵庫6区) 60.2/51.8
× 3 谷本 龍哉 前 内閣府副大臣 (和歌山1区) 59.9/54.3
× 3 戸井田 徹 前 〈元〉厚労政務官 (兵庫11区) 59.0/--
× 3 清水 鴻一郎 前 病院理事長 (京都3区) 55.8/44.6
× 3 武藤 貴也 新 〈元〉議会会派職員 (滋賀4区) 53.9/46.0
× 3 宇野 治 前 内閣府政務官 (滋賀3区) 53.1/48.4
× 3 井沢 京子 前 機械製造業役員 (京都6区) 52.2/44.1
× 3 大前 繁雄 前 学校法人理事長 (兵庫7区) 51.5/44.7
× 3 森岡 正宏 元 〈元〉厚労政務官 (奈良1区) 50.9/45.3
× 3 井脇 ノブ子 前 学校法人理事長 (大阪11区) 45.1/37.7
× 3 山本 朋広 前 〈元〉松下政経塾生 (京都2区) 42.3/社民あり
× 3 川条 志嘉 前 党国際局次長 (大阪2区] × 38.5/無所属あり
× 3 中川 泰宏 前 JA京都会長 (京都4区] × 32.1/無所属あり


リストの最後の数字は、その選挙区の共産党票を当選した民主党票に足したときの惜敗率である。「--」と書いてあるのは、その選挙区には共産党候補が立っていなかったことを示す。
伊吹文明候補は、もしこの選挙区で共産党候補が取った54,605票が当選した民主党候補に流れていたとしたら、惜敗率は77.4から一気に51.0へと激減し、近畿ブロックでの惜敗率で20人に抜かれ、完全な復活圏外となる。
このように、共産党候補が票を取れば取るほど自民党候補の惜敗率が上がり、復活当選しやすくなる。
一方、以下は比例区近畿ブロックでの共産党候補リストである。
日本共産党 近畿ブロック候補者
名簿順位 氏名 重複か 惜敗率
○ 1 穀田 恵二(京都1区) 51.6
○ 2 吉井 英勝(大阪13区) 42.4
○ 3 宮本 岳志(比例単独)
× 4 瀬戸 恵子(比例単独)
× 5 原  俊史(京都2区) 25.6

京都1区に共産党から立候補した穀田候補は、比例近畿ブロックで単独1位であるから、選挙区選挙をしなくても当選は最初から決まっていた。
つまり、穀田候補が京都1区で取った5万4605票というのは、自民党の大物・伊吹候補を復活当選させるための強力なサポートになっている。

似たようなことは岐阜1区でも見られる。

◆岐阜1区

◎柴橋 正直 111,987 50.03% 民主 新 〈元〉UFJ銀行員 重複1位
○野田 聖子 99,500 44.45% 自民 前 消費者行政相 重複1位(88.8)
×鈴木 正典 9,832  4.39% 共産 新 〈元〉赤旗記者 重複4位(8.8)


野田候補は選挙区で敗れたが、自民党比例区東海ブロックの惜敗率3位(自民党が獲得したのは6議席)で復活当選を果たした。
ここでは、共産党・鈴木候補の票が2桁違っていて(供託金没収)、これが民主党・柴田候補に全部流れたとしても、野田候補の惜敗率はそれほど下がらなかった。計算してみるとその場合の野田候補の惜敗率は81.7%で、東海ブロックの自民党獲得議席6の最後に滑り込む。
しかし、次点候補二人が81.1%で続いているので、かなりきわどかったと思われる。
野田候補は声をからして「野田聖子を助けてください!」と絶叫している姿がテレビで何度も流れていたが、共産党・鈴木候補は少なからず彼女を助けていたのである。

拘束名簿式比例代表選挙は民主的な選挙と言えるのか?

今の衆議院選挙のルールについて、「選挙区で落ちた候補者が比例で復活するのは納得できない」という声はよく聞く。
しかし、民主党のように、選挙区候補者を全員1位で並べて名簿を提出する場合、当選は惜敗率で決まるので、ある程度は選挙民の1票が「候補者を選ぶ」機能を果たしている。
しかし、日本共産党や公明党のように、当選圏内の人数を厳格に順位付けして名簿を提出した場合は、投票する側はまったくと言っていいほど「候補者」を選ぶことができない。
公明党のように、選挙区で立候補している候補者は比例区に重複立候補はさせないというのであれば分かる。しかし、共産党は重複立候補だろうか比例単独だろうが関係なく、最初から順位を指定している。選挙をやる前から、比例区で票が取れるブロックで1位指名された人は当選するし、そうでない人は復活当選もありえない。
自民党も、重複立候補者の上に単独比例候補者を並べているブロックがある。
東北ブロック単独1位の吉野正芳候補(環境副大臣)、同単独2位の秋葉賢也候補(元・総務政務官)。北関東ブロック単独1位の佐田玄一郎候補(党政調副会長)。北陸信越ブロック単独1位の長島忠美候補(元・山古志村村長)。近畿ブロック単独1位の近藤三津枝候補(党報道局次長、元・テレビキャスター)、同単独2位の柳本卓治候補(元・環境政務次官)。中国ブロック単独1位の阿部俊子候補(元・日本看護協会副会長)。九州ブロック単独1位の野田毅候補(元・保守党党首)。
……以上8人は、選挙をする前から当選が決まっており、投票する側としては彼らの当落にまったく関与できない。
前回、東京比例区で単独1位で、投票前から当選が決まっていた猪口邦子氏は、今回、出たいなら重複立候補者の後ろに回って23位になれ、と言われて断った。猪口氏は、事実上一度も選挙の洗礼を受けないまま大臣を経験し、なおかつ党から捨てられるという特殊な経歴を持つことになった。
中越地震のときの復興シンボル的な元村長や環境副大臣といった人たちが、なぜ特別扱いで「無投票当選」扱いになるのか、自民党支持者でも理解不能だろう。

こうした不透明で理不尽なことに満ちている選挙のルール。
今回は民主圧勝の印象だけで忘れられそうだが、ネットでメッセージを発するのが選挙違反に問われるという、馬鹿げたルール(公選法)もまだそのままになっているし、ひとつひとつ変えていかなければいけないことは山のようにある。
ほんとに大変ですね、民主党「さん」も。