中古住宅物件の選び方(1) 立地面での注意点2021/01/18 11:19

豊かな自然環境の中に住めると思ったら……

地方移住のススメ(5)

さて、ここまで地方移住の考え方として、地域選びや災害危険度についてまとめてみましたが、いよいよ個別の中古住宅物件の選び方について、私の経験をまとめてみます。
よくある「こんな物件は買ってはいけない」編ですが、すべてに満足のいく物件がビンボー人に購入可能な価格で見つかることはまずないので、多少の欠点にどう対処するかについても触れていきます。

車を使えない人は地方移住は無理なのか?

 都市部やその近郊での住まい選びでは、交通の便という要素が非常に重視されますし、不動産価格にも直接跳ね返ってきます。
 駅まで徒歩圏なのか、バスを使わなければならないのか、バス便は多いのか……といったことですが、田舎物件では、まず、電車やバスという交通手段をほぼ諦めなければならないような物件も多数あります。
 となると、車を使えない(免許を持っていない、高齢で運転が不安といった)人は田舎暮らしはハナから諦めなければいけないのでしょうか?
 ある意味そうとも言えるのですが、ここで少し考え方を変えてみましょう。
 田舎といっても、タクシーを呼べるくらいの場所であれば、車を持たない生活も不可能ではありません
 例として、地方都市郊外で、最寄り駅、あるいは大型スーパーや病院まで2.5kmほどの場所を考えてみます。
 2.5kmというのは、健脚なら徒歩30分くらいですから、歩けないとは言いきれません。しかし、雨の日も風の日も雪の日もあります。歳を取って足腰が弱ってくれば、2.5km歩くのはかなりの重労働ですし、ましてや荷物を持っていたら……。
 しかし、駅前にタクシーが常駐していて、家からでも呼べばタクシーがすぐに来てくれるような環境であれば話は別です。
 タクシー料金は地域によって違いますが、例えば栃木県では、普通車は全域で、
  • 距離制運賃 初乗運賃 1100mまで500円
  • 加算運賃 以後271mごとに100円
  • 時間距離併用制運賃※ 1分40秒ごとに100円加算
 です(2020年12月25日改定)。
 ※時間距離併用制運賃:時速10km以下になると時間を距離に換算する方式が併用される。

 神奈川県の小田原・泉地区では、
  • 距離制運賃 初乗運賃 1800mまで780円
  • 加算運賃 以後243mごとに90円
  • 時間距離併用制運賃※ 1分30秒ごとに90円加算
です。

 群馬県A地区(太田市、館林市、桐生市、みどり市など)では、
  • 距離制運賃 初乗運賃 1452mまで600円
  • 加算運賃 以後274mごとに90円
  • 時間距離併用制運賃※ 1分40秒ごとに90円加算
です。

 家から駅やスーパーなどまでの2.5kmをこれにあてはめると、栃木県(例えば宇都宮市)の場合、初乗りの1.1kmを超えて残り1.4kmを271mで割ると5.17なので、およそ6UPとなり、500円+100円×6で1100円となります。
 小田原市では1050円、群馬県A地区(例えば太田市)では、960円です。
 この中でいちばん高い宇都宮市の場合でも、往復で2200円。ひと月に5回利用すると、年間で60回。2200円×60回=13万2000円です。
 太田市だと往復で1920円。ひと月に5回利用すると年間で11万5200円です。
 これを高いと考えるか安いと考えるか……。
 自家用車を所有すると、まったく使わなくても、自動車税、重量税などの税金、車検代、保険料……と、維持費だけで年間20万円は下りません。これに燃料代や修理代、タイヤなどの消耗品代などが加わります。
 車を運転すれば事故を起こす危険性がありますし、間違って人を傷つけたりしたら大変なことになります。
 タクシーを月に5回使って駅やスーパーまで往復するのに年間十数万円は安いのではないでしょうか。

 地方のスーパーマーケットやショッピングモール、ホームセンターなどには、入口にタクシーの案内表示があります。これは、タクシーで買い物をしている人たちが相当数いることを示しています。都会人はこうした発想の転換がなかなかできませんが、一度実践してみれば「なんでもっと早く気づかなかったのだろう」と思うかもしれません。

道路と玄関の位置関係

 玄関前に車が直接つけられない家というのがあります。車が入れる道から少し歩かないといけないような立地です。
 また、家の前に道路があっても、そこから玄関まで階段になっている家もあります。これらは田舎物件ではそれほど多くはないのですが、リゾート物件などにはよくあります。
 さて、ここで問題です。
  1.  物件Aは、車が入っていける道路の終点から十数mほど緩い坂道を歩かなければなりませんが、家自体は平坦な土地にある庭も広い平屋。
  2.  物件Bは、車が横付けできる道に面していて、立派な地下車庫(大型車が3台も余裕で入る電動シャッター付き)がありますが、家の玄関まではかなり急な階段がおよそ20段。
  3.  物件Cは、車が直接つけられる道に面していますが、斜面に建っており、玄関が二階でメインの生活空間であるLDKは一階(玄関から屋内階段を降りる)。庭はさらにその下。
 あなたならこの3つの物件のどれがいちばん住みやすいと思いますか?

物件A:十数メートル緩やかな坂道を歩くが、平坦地の平屋で庭も余裕がある


物件B:立派な電動シャッター付き地下車庫があるが、玄関までは階段


物件C:車はつけられるが、玄関が2階で斜面に建つ
※コンプラ上、上記画像B、Cは実際の物件とは違う外観に加工してあります。

 どれも欠点を抱えていますが、まず、前述の「タクシー生活」をするなら物件Aがお勧めです。
 車が直接つけられないのが決定的な弱点のように思えますが、これはタクシー生活にはほとんど関係ありません。
 アプローチはそれほど長くはなく傾斜も緩やかですし、大きな荷物を運び込むのもさほど問題ありません。配送業者や引っ越し業者のプロにとって、こうした場所よりずっと嫌なケースが都市部にはたくさんあります(マンションなど)。
 平坦な土地に建つ平屋なので、災害時にも安全ですし、大工さんなどの職人さんが入ったときの作業スペースも十分です。
 緊急時にも、消防車や救急車はすぐそばまで入れるので問題ありません。
 しかし、言うまでもなく、すでに車を使っている生活や、自家用車が必須の生活スタイルを考えている場合は対象外です。

 物件Bは、一見立派な豪邸ですが、玄関までの急な階段が最大の問題です。車から荷物を運び込むのも大変ですし、足腰が弱った老人や病人、怪我人はひとりでは無理です。
 雪が降ったり凍結したりしたときの危険度も高いので、事故の可能性もあります。
 建物は1階と2階に25畳くらいの広い部屋があり、大変立派なのですが、夫婦二人暮らしなどでは広すぎてもてあますでしょうし、冬季の暖房も大変です。
 しかし、若い人が広い部屋を生かす生活スタイル(アトリエにするとか教室にするとかスタジオにするなど)を考えた場合、これだけの広さの物件が1000万円以下なら魅力的です。

 物件Cはリゾート分譲地などによくある「斜面物件」です。車は玄関横のカースペースにつけられるのですが、玄関が2階で、主たる居住空間が階段を下りた場所にあるため、なんとなくモグラ生活のような雰囲気があります。慣れれば問題ないのですが、階段を必ず上り下りしないといけないので、歳を取って足腰が弱ったときや、大きな荷物の運び入れ、運び出しには苦労します。また、斜面なので、地震に襲われたときの土砂崩れや地盤の沈下なども心配です。
 このタイプの物件は、一階のさらに下側斜面にも土地所有分が伸びている場合が多いのですが、この部分は斜面なので庭としてもほとんど利用できず、役に立ちません。ただ草が生えるままになり、管理が面倒なだけになりがちです。
 しかし、子供のいる若い家族などであれば、こういう立地のために価格が安くなっていることが魅力でしょう。室内階段も、運動になると考えれば悪い面ばかりでもありません。終の棲家ではなくても、人生のうちのいちばん充実しそうな30代~50代あたりを過ごす家として、安く手に入るなら悪くないかもしれません。

 このように、欠点を持つ物件は、その欠点を包み込める生活ができるかどうかで魅力度が変わります
 なんらかの欠点がある物件は、高い価格をつけても売れないために、相場より相当安く売られていることが多いです。ビンボー生活者にとって「安い」ということは大変重要なことなので、無視できません。
 しかし、いくら安くても、前項で説明したように、河川のそばや崖下、崖上の物件は避けましょう。

設備面でのチェック

 生活に欠かせないライフラインは、個人の力ではどうにもできないものもあります。都会生活しか経験していない人は見落としがちですので注意してください。
 自治体が運営している公営水道が引かれていればそれほど問題ないとは思いますが、水源の健全性は重要な問題です。公営水道だから安心とは言いきれません。現代は、自然災害だけではなく、人災や犯罪によっても水源の健全性が損なわれることが増えています。ゴミの不法投棄や、塩谷町のように、国の政策によって、ある日突然、水源地が放射性ゴミを含んだ処分場予定地にされるという青天の霹靂のような事態も起きます。
栃木県塩谷町は原発爆発で出た放射性ゴミの処分場建設地として狙われ、町全体が騒然となった。時間と共に、誘致によって金が入りそうな地元の業者と、環境を死守したい住民が対立して、住民間の関係がズタズタに引き裂かれるという悲劇も起きる。
 水道には、地域の管理組合や集落の自治会が管理している私設水道に近いようなものもあります。その場合の運営費負担額や管理状態はチェックしておかなければなりません。中には「水道」と名がついていても、水源がたまに涸れてしまうとか、大雨の後では水が濁ることがあるといったものもあります。
 水道が引かれていない場合は、井戸か沢水利用しかありませんが、これは田舎ではごく普通のことです。私が7年暮らしていた福島県の川内村は、東京都千代田区の17倍の面積を持つ村でしたが、村に一切水道がない村でした。学校や役場も井戸水で、村の中心部でも水は井戸を掘るしかありません。
 井戸がすでにある物件でも、それが浅井戸なのか深井戸なのか、自噴するほど水量・水圧がある井戸なのか、ポンプで組み上げないといけない井戸なのかなど、井戸の品質を確認しなければなりません。もちろん井戸水の水質も大切で、中には飲料に適さない水しか出ない井戸もあります。
 私が購入した家は、不動産屋の説明では深井戸とのことでしたが、実際には浅井戸で、しかも水源がほぼ沢水であることが分かったので、後から業者に依頼して別途深井戸を掘ることになりました。しかし、掘削業者は「ここなら間違いなく出る」と言っていたのに、50m以上掘っても出ず、2本目でようやくなんとかなる程度の水が出るという、ひやひやの挑戦でした。岩盤地盤だったために掘り進むのが大変で、日数はひと月、費用は軽く100万円以上かかりました。
 なんとか水が出たからいいものの、出なければ100万円以上が無駄になるところでした。
場所を変えて2本目を掘っているところ(2008年12月)
 ポンプで吸い上げないといけない井戸では、停電になったりポンプが壊れたりすると水が使えないことも覚えておいてください。寒冷地では井戸ポンプが凍結で壊れることはよくあります。
 しかし、良質の地下水が豊富に出る井戸があることは大変贅沢なことで、1年中美味しい水がただで飲めますし、災害時にも最低限のライフラインとなります。
排水
 田舎物件では、本下水がついていない物件は普通にあります。その場合は浄化槽と簡易下水が普通ですが、浄化槽には合併浄化槽(トイレも生活排水も一緒に浄化)と単独浄化槽(トイレのみの浄化槽)があり、現在は多くの自治体で単独浄化槽は基本的に新規設置を認めていません。生活排水が浄化されずに垂れ流しになるからです。
 単独浄化槽であっても、合成洗剤やシャンプーリンスを使わない(石鹸や重層だけ使う)、台所排水に油を一切流さない(吸い取るか拭き取ってゴミとして処理する)生活であれば問題は起きませんが、そうでない場合は生活排水で下水が汚染されることになり、周辺住民とのトラブルのもとにもなります。
 本下水が来ていれば問題ないかというと、そう簡単ではなく、大地震などで下水が壊滅的に破壊されたときなどは、復旧ができず、大問題になります。
 私が12年二地域居住をしていた新潟県の川口町では、山奥の限界集落に水道、都市ガス、本下水があるという信じられない環境でしたが、皮肉なことにこれが仇となり、震災後は道路が簡単に復旧できなくなりました。町は住民に「ガスや本下水を放棄するならすぐに道路復旧に取りかかれるが、そうでなければすぐには無理だ」と告げ、住民はすぐにガスと下水の放棄を選びました。その後、住民は「元の土地を諦め、もう住まないと約束するなら、代替地を斡旋する」という条件をのみ、集落は完全消滅しました。中には新築したばかりで、地震にも耐えた家もあったのに、そこに住めなくなってしまったのです。
 普通の田舎の集落のように、プロパンガス、浄化槽排水、井戸水なら、建物を直せば生活が続けられたので、状況は全然違っていたでしょう。  本下水、都市ガスというのは、災害には弱いライフラインなのです。
中越地震で本下水のマンホールが浮き上がった道路。ガス管や下水管の再埋設には金も時間もかかるため、道路復旧を急ぐためには下水を諦めるしかなかった。

ガス
 田舎物件では都市ガスが引かれていることは稀で、プロパンガスがあたりまえです。
 プロパンガス自体は災害時にも止まることがないですし、火力も強いのでいいのですが、プロパンガス業者がしっかりしていないとガス切れになったり、後継者がいなくて店が廃業したりということがあります。
 また、都市ガスと違って、プロパンガスは同一地域でも業者によって販売価格が違います。また、同じ業者でも顧客別に価格を違えていることもあります。古くからの顧客や飲食店などには安く販売し、別荘の住民には高く販売するということは珍しくないので、そのへんも事前にしっかり調べておく必要があります。
 どうしてもガスが使えない場合、炊事は電気で、お湯は灯油のボイラーでという方法もありえますが、田舎暮らしで火を使わない生活というのも味気ないですし、災害時、停電時にはどうにもなりません。
通信
 田舎では、特に山間部でなくともテレビの地上波が入らない地域というのはよくあります。しかし、インターネット高速回線が引けるのであれば、テレビはひかりテレビなどを利用すればいいので大きな問題ではありません。
 ケータイの電波も、届いたほうがいいに決まっていますが、届かなくてもネットの高速回線があれば家庭内Wi-Fiで家にいるときはケータイが使えます。
 つまり、何よりも、ネットの高速回線(光回線)が引けないというのは大問題です。
 元より、田舎ほどネットを使いこなす生活は必須といえますが、これからのウィズコロナ時代ではますます重要です。
電気
 ほとんどの場合、電気は心配ないでしょう。よほどの山の中でも、電力会社はしっかり電線を引いてくれますし、現代で電気が来ていない家が売りに出されているということはまずありませんから。(もっとも、川内村で暮らしていたときは、電気が来ていない獏原人村で暮らす友人や、わざと電気を引かないという友人もいましたが)
 ただ、電線が切れやすい場所とか、そうした事故が起きたときにすぐに修理に駆けつけてもらえなさそうな場所というのはあります。また、家にどのような形で電線が引き込まれているかもチェックしましょう。引き込み線が道路を横切っている場合、大型車が引っ掛けたり、木の枝がかかりやすかったりしていないか、という点です。
進入路
 道路と家との位置関係などについては最初に解説したとおりですが、家までの進入路が公道なのか私道なのか、私道の場合は他人の土地になっていないか、他人の土地になっている場合、共益権などの通行権利が保証されているかといったことが重要です。
 また、道が細くなっていたり、急なカーブがあったり、橋やトンネルがあったり、道の上を大木の大枝が横切っているような場合、大型トラックが通れるかも重要です。引っ越し業者や配送業者が入って来れないようだと、大変な苦労をします。

迷惑施設建設地として狙われる可能性
 現代では、ある日突然襲ってくる災害は自然災害だけではありません。自然環境の素晴らしい田舎ほど、大型風力発電施設、廃棄物処分場、メガソーラーといった迷惑施設、環境破壊施設の建設地として狙われやすいのです。
伊豆の大瀬漁港から見た風景。大型風車のせいで風景が一変。(2010年1月)

↑2000kw級の大型風車のブレード(羽根)。今は3000kw級以上にさらに大型化している。(2010年6月。川内村にて


静かな環境を求めて都会から引っ越して来たのに、風力発電のおかげで人生がすっかり狂ってしまった……と嘆く男性。妻は大型風車からの低周波健康被害で身体を壊し、別居しながらの病院通い生活になってしまった(2010年1月。南伊豆にて


奈良県の例。大量のソーラーパネルを山を伐採して急斜面にいい加減に設置。下の集落の生活は、土砂崩れの危険度が一気に上がっただけでなく、水質汚染、田畑への泥水流入、そして何よりストレス増大による健康被害が深刻。

住宅地の空き地に設置されたソーラーパネル。小規模であってもこんな風にシートで覆われてしまうと下の土は死ぬ。今まで熱を吸っていた緑地が消えて、逆にその面積分が熱を持つので、隣接する住宅の環境も変わる。設置面積が大規模だとシートで被うこともできず、草ぼうぼうになると除草剤を撒いたりするので、水質汚染や薬剤吸引による健康被害も心配。いずれにしてもこういうものが隣地などに設置されると住環境が破壊される。また、天候次第で急に発電したり止まったりするので、周囲の電力線の電圧状態が不安定になり、精密機器が狂ったり、瞬間停電を起こしたりすることもある。

 田舎の自然環境やのんびりした雰囲気に惹かれて移住してきたのに、その直後にこうした悲劇に襲われるケースを私はたくさん見てきました。何より、私自身がそうです。川内村から日光に移った最大の理由は、原発爆発よりも大型風力発電施設建設による周囲の山の破壊でした。
 これはなかなか予測がつかないのでやっかいですが、引き起こされる被害(特にストレスによる精神的な被害)は大変なものです。
 不愉快なことですが、田舎暮らしにはこうしたリスクもあるということは覚えておいてください。

 これら様々な立地環境をまずは調べた上で、次に建物のチェックとなるわけですが、それは次の項に分けます。


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