「普通に考えれば」永久凍土式遮水壁はありえない2013/08/09 12:00

1Fの地下水汚染問題で、鹿島などは「凍土型遮水壁」(⇒経産省サイトのPDF  ⇒東電サイトのPDF)などという提案をしているが、これはあまりにも非現実的で費用対効果が低い「机上の計画」だと思う。
この計画は、簡単に言えば、建屋の周辺にパイプを深く埋めてそこにマイナス40度くらいの冷却剤を入れて土地を永久凍土のようにカチカチに凍らせ、その「凍土」を遮水壁とすることで地下水流入=汚染水増大を防ぐという計画。
言うまでもなく、その冷却剤を長期間維持管理するためのエネルギーは膨大なものになる。 すでに1Fの収束作業に使っている電力だけでも大変な負担なのに、これ以上、効率の悪いエネルギーの使い方をするという発想がどうしようもない。「甘えている」としか思えない。
国から金が出るから、請け負えば儲かるんじゃないか……という発想の延長上に出てきた案にしか見えない。
原子力ムラを構成していた企業が、「フクシマ」以降も、除染やらなにやらで手を代え品を変え税金にたかり続けようとしている。これをやめさせ、本当に合理的な方法を追求しないと、どんどん手遅れになる。

★ついでに言えば、電気を生まなくなっている日本中の原子力発電所の維持管理にどれだけ電気を使っていることか(原発は発電を止めていても炉心や使用済み燃料を冷やし続けなければ暴走する)。これだけでも原発のコストが安いなどというPRがどれだけとんでもない嘘か分かる。

「普通に」考えれば、指針はおのずと見えてくる。

1) 1号機~3号機の炉心を取り出すなどということはもはや不可能だと結論するべき。近づけないのだから無理に決まっている。燃料を取り出せるのは4号機のみだろう。

2) であれば、チェルノブイリのように石棺方式、あるいはそれに準じた形で「封印」する方法を考えるしかない。再臨界がありえないだけ温度が低くなったのを確認できた後は、いかに封印できるかを考える。そのためにはありとあらゆる手段を検討する。おそらく、ドームスタジアムのようなバルーン屋根の形成と従来のコンクリート、鉄骨による壁の形成、樹脂などによる密閉など、あらゆる方法の併用・複合方式が探られていくことになるはず。

3) 壊れた1~4号機だけでなく、1Fそのものを孤島のように周囲の環境から切り離すという発想が必要。その方法は、複雑な装置を使ってエネルギーを大量消費する方法ではなく、完成後はなるべく人手や外部からのエネルギーを必要としない単純な土木的処置のほうが望ましい。

4) 1Fからのこれ以上の汚染物質拡散を防ぎ、管理体勢の破綻を防ぐため、周辺の土地で汚染が低い場所は1Fの管理のための作業拠点(資材置き場、作業員のための福利厚生施設なども含む)とする
富岡町や大熊町の一部などは、汚染が低いところを線引きして「避難解除準備区域」などとしているが、そうした中途半端なごまかしはやめて、1Fの管理に必要な作業拠点区域として国が直接に特別管理していく。つまり、一般住民の帰還はさせないという方針をまず打ち出すべき。いつまでも「いつかは帰れます」などという望みを持たせるようなやり口はやめよ。生活の場を失った人たちには、新天地で新生活を始められるようなバックアップを。

5) 逆に、1F周辺の汚染の高い場所(帰還困難区域など)は、「除染」するのではなく、居住地としてはさっさと諦めて、汚染物質の保管・管理区域として、再飛散、流出を完全に封じ込められる汚染物管理施設を造る。そういう風にしっかり「区分け」していくしかない。
いつまでも「処分場は福島以外に」などという感情論をぶつけ合っているのは愚か。そもそも「処分場」ではない。処分はできないのだから。「仕方ないからそこに集めて管理・監視する」場所。そういう場所が必要なのは自明であり、汚染が薄い場所に持っていったり、拡散させてはいけないことも明らか。

……以上、「普通に」考えればこうではないか? という基本指針の叩き台。
なぜこういう方向に進んでいかないのか?
「素人」から見ると、「専門家」を名乗っている人たちの言動があまりにもすっとぼけていて、目眩がする。

「太平洋はおしまい」なのか?2013/08/27 19:33

問題となったシミュレーション図
最近、インターネット上にこのシミュレーション図が「10年後、太平洋は終わりだ」といったニュアンスのコメントと共に拡散され、話題になっている。
このシミュレーション図(↑ クリックで拡大)はドイツのキール海洋研究所(GEOMAR)が2012年7月6日に発表した福島第一原発からの放射能汚染水の海洋拡散シミュレーション図
上が汚染が漏れ出して891日後、下が2276日後。
1Fから流れ出したセシウムは海洋上をこのように拡散されていくであろうという予測。
動画も公開されている↓


このシミュレーション動画が拡散されるもととなったひとつと思われるブログには、元駐スイス大使の村田光平氏がラジオ出演したときの、
「日本が汚染水を止めるための国策化をやって、対策を打ち出していかないことには、世界は、もう納得しない」「汚染水流出をこのまま食い止めらられなければ、領海の適切な管理ができない国と見なされ、排他的経済水域の権利を失うことにもなりかねない」といった発言も紹介されている。
これはまったくその通りで、とにかくなんとかしなければならない緊急課題であることは間違いない。

しかし、ネット上でこの図が拡散されていく上で、「10年後には太平洋は終わりだ」といったコメントだけが強調されていく傾向が見られた。
それに対して、
「これは海洋汚染の『希釈モデル』であり、汚染源に対しての『相対濃度』がどのように変化していくかを示しているシミュレーション。どの程度汚染されるかという数値を示したものではない」
という指摘があった。
よく見ればその通りだ。
右上には色分けの「相対尺度」を示す目盛りが示されているが、そこには、
surface concentration relative to initial values off Japan
とある。
表題は
Model simulations on the long-term dispersal of Cs-137 released into the Pacific Ocean off Fukushima
だ。
汚染源である日本(1Fから出てくる汚染の初期値)に対する相対濃度を示したものなのだ。
この目盛りを見ると、右端の黄色が「1」で左端の白い部分あたりに「10のマイナス12乗」と記されている。
6年後にはほぼ太平洋全体が赤から赤紫色に、ほぼ均一に染まっているわけだが、この赤から赤紫の範囲は10のマイナス4乗からマイナス6乗くらいだろうか。
汚染源である1Fが「1」の量のセシウム137を海に放出すると、6年後には太平洋のほぼ全域で、汚染源の初期値に対して10のマイナス4乗からマイナス6乗くらいの濃度で拡散されているであろう、というシミュレーションだということが分かる。
10のマイナス3乗(オレンジのあたり)はミリ。10のマイナス6乗(紫のあたり)はマイクロ。
汚染源での初期値(黄色=1)が仮に100万ベクレル/リットルだとすれば、紫色部分(10のマイナス6乗)あたりは1べクレル/リットルということになるが、初期値がどのくらいかということにこのシミュレーションは触れていない。つまり、具体的にどのくらい汚染されるかについては言及していない。
海流などによって「このように拡散されるであろうというシミュレーション」なのだ、ということを理解しておかなければならない。
結論としては、「最後はかなり均等に拡散していく」ということなのだろう。
真っ赤に染まっている⇒大変だ! ということではない。

ただし、よ~~く見れば、日本近海よりむしろアメリカ西海岸側のほうが濃度が高いように予測されている。これはものすごく重要なことで、海洋汚染を責任持って止めようとしなかった未熟で無責任な国家として「国際社会」から告発される可能性がある。

僕もフランスのCEREAが出しているセシウム137による地表の汚染シミュレーション図を講演などで使うのだが、目的は「福島に近い西日本よりアメリカ太平洋岸やロシアの東部のほうが影響があった。つまり、汚染されるかどうかは距離よりも風向き次第なのだ」ということを言いたいために使う。アメリカ西海岸はもうおしまいだとか、そういうことを煽るのが目的ではない。
「距離よりも風向き次第なのだ」ということをなかなか分からない、分かろうとしない人がかなりいるからこうしたシミュレーション図を使うのだ。


ところが、なぜかネット上の議論というのは、「もう終わりだ」「福島はもうおしまいだ。逃げろ」「福島産の食い物を食べさせて殺す気か」みたいな話ばかりやたらと加熱する。
その加熱ぶりに比べると、こういう事態を起こした責任者たちがのうのうと金をもらって海外逃亡していることへの怒りとか、1Fの現場がいかに劣悪な「労働環境」で、このままでは人材がいなくなり、もうすぐ作業そのものが不可能になるかもしれないことへの危機感がとても弱い。

海の汚染のことを考えると生きているのが嫌になるほど絶望的になる。実際にどうなのかはよく分からない。でも、実際の数値がどの程度「人間の健康にとって」やばいかとかより、海を汚した、今も汚し続けている、そのこと自体がやりきれない。
もっと端的に言えば、「フクシマ」は人々から回転寿司屋に入って安い寿司を心置きなく食う楽しみを奪い、子供と一緒に海に行って泳いだり潮干狩りする楽しみを奪った。我々は日々の生活の中で「フクシマ」のおかげでいろいろなダメージを受けている。
実際には心配するような汚染度合ではないとか、そういうことではない。(そういう話も、しっかり認識しなければいけないし、冷静に判断していくために重要だが、そうした数値論だけで済む話ではない、という意味だ)
「海が汚れてしまったんだ」と考えなければならないこと自体が、大変な精神的苦痛なわけで、そのダメージを数値で表すことなんてできない。
自分が生まれ、暮らしている日本という国がそういうことをやってしまった。やってしまった後に反省がないどころか開き直って、今まで以上に悪辣なことを続けようとしている。
……そこでしょ! 怒りを向けるべき部分は。それを思うだけで病気になりそうだよ!

しかし、だからこそ資料やデータには極力冷静に向き合わなければいけない。
「太平洋はもう終わりだ」みたいな部分だけが強調的に広まっていくことには大きな弊害がある。
有効な対策がとれずに汚染物質を垂れ流し続けている現場の無策をどうするか、具体策を考えなくては、という大切な議論に余計なノイズを入れてしまう可能性がある。
大量の汚染物質を垂れ流していることは事実であって、それがいかにひどいことか、今さら強調してもしきれない。それなのに、なんら有効な対策をとれないで(とらないで)いる東電と国をこのままにしておいてはいけないのは自明。
そこをしっかり追及するような方向でネットの議論も進めていかないと。

地雷を踏むことを覚悟で言えば、理系を自称する人たちのスノッビズムみたいなものには、僕もときどき鼻白むことがある。でも、グラフやデータを正しく見ることができる人たちから揚げ足をとられないようにすることも大切。
その上で、「素人考えですけど、ほんとはこうじゃないんですか?」「こんなアイデアは全然ダメなんですか?」って、臆せずに発言し、提案していく姿勢が大切だと思うのだ。