「太平洋はおしまい」なのか? ― 2013/08/27 19:33
最近、インターネット上にこのシミュレーション図が「10年後、太平洋は終わりだ」といったニュアンスのコメントと共に拡散され、話題になっている。
このシミュレーション図(↑ クリックで拡大)はドイツのキール海洋研究所(GEOMAR)が2012年7月6日に発表した福島第一原発からの放射能汚染水の海洋拡散シミュレーション図。
上が汚染が漏れ出して891日後、下が2276日後。
1Fから流れ出したセシウムは海洋上をこのように拡散されていくであろうという予測。
動画も公開されている↓
このシミュレーション動画が拡散されるもととなったひとつと思われるブログには、元駐スイス大使の村田光平氏がラジオ出演したときの、
「日本が汚染水を止めるための国策化をやって、対策を打ち出していかないことには、世界は、もう納得しない」「汚染水流出をこのまま食い止めらられなければ、領海の適切な管理ができない国と見なされ、排他的経済水域の権利を失うことにもなりかねない」といった発言も紹介されている。
これはまったくその通りで、とにかくなんとかしなければならない緊急課題であることは間違いない。
しかし、ネット上でこの図が拡散されていく上で、「10年後には太平洋は終わりだ」といったコメントだけが強調されていく傾向が見られた。
それに対して、
「これは海洋汚染の『希釈モデル』であり、汚染源に対しての『相対濃度』がどのように変化していくかを示しているシミュレーション。どの程度汚染されるかという数値を示したものではない」
という指摘があった。
よく見ればその通りだ。
右上には色分けの「相対尺度」を示す目盛りが示されているが、そこには、
surface concentration relative to initial values off Japan
とある。
表題は
Model simulations on the long-term dispersal of Cs-137 released into the Pacific Ocean off Fukushima
だ。
汚染源である日本(1Fから出てくる汚染の初期値)に対する相対濃度を示したものなのだ。
この目盛りを見ると、右端の黄色が「1」で左端の白い部分あたりに「10のマイナス12乗」と記されている。
6年後にはほぼ太平洋全体が赤から赤紫色に、ほぼ均一に染まっているわけだが、この赤から赤紫の範囲は10のマイナス4乗からマイナス6乗くらいだろうか。
汚染源である1Fが「1」の量のセシウム137を海に放出すると、6年後には太平洋のほぼ全域で、汚染源の初期値に対して10のマイナス4乗からマイナス6乗くらいの濃度で拡散されているであろう、というシミュレーションだということが分かる。
10のマイナス3乗(オレンジのあたり)はミリ。10のマイナス6乗(紫のあたり)はマイクロ。
汚染源での初期値(黄色=1)が仮に100万ベクレル/リットルだとすれば、紫色部分(10のマイナス6乗)あたりは1べクレル/リットルということになるが、初期値がどのくらいかということにこのシミュレーションは触れていない。つまり、具体的にどのくらい汚染されるかについては言及していない。
海流などによって「このように拡散されるであろうというシミュレーション」なのだ、ということを理解しておかなければならない。
結論としては、「最後はかなり均等に拡散していく」ということなのだろう。
真っ赤に染まっている⇒大変だ! ということではない。
ただし、よ~~く見れば、日本近海よりむしろアメリカ西海岸側のほうが濃度が高いように予測されている。これはものすごく重要なことで、海洋汚染を責任持って止めようとしなかった未熟で無責任な国家として「国際社会」から告発される可能性がある。
僕もフランスのCEREAが出しているセシウム137による地表の汚染シミュレーション図を講演などで使うのだが、目的は「福島に近い西日本よりアメリカ太平洋岸やロシアの東部のほうが影響があった。つまり、汚染されるかどうかは距離よりも風向き次第なのだ」ということを言いたいために使う。アメリカ西海岸はもうおしまいだとか、そういうことを煽るのが目的ではない。
「距離よりも風向き次第なのだ」ということをなかなか分からない、分かろうとしない人がかなりいるからこうしたシミュレーション図を使うのだ。
ところが、なぜかネット上の議論というのは、「もう終わりだ」「福島はもうおしまいだ。逃げろ」「福島産の食い物を食べさせて殺す気か」みたいな話ばかりやたらと加熱する。
その加熱ぶりに比べると、こういう事態を起こした責任者たちがのうのうと金をもらって海外逃亡していることへの怒りとか、1Fの現場がいかに劣悪な「労働環境」で、このままでは人材がいなくなり、もうすぐ作業そのものが不可能になるかもしれないことへの危機感がとても弱い。
海の汚染のことを考えると生きているのが嫌になるほど絶望的になる。実際にどうなのかはよく分からない。でも、実際の数値がどの程度「人間の健康にとって」やばいかとかより、海を汚した、今も汚し続けている、そのこと自体がやりきれない。
もっと端的に言えば、「フクシマ」は人々から回転寿司屋に入って安い寿司を心置きなく食う楽しみを奪い、子供と一緒に海に行って泳いだり潮干狩りする楽しみを奪った。我々は日々の生活の中で「フクシマ」のおかげでいろいろなダメージを受けている。
実際には心配するような汚染度合ではないとか、そういうことではない。(そういう話も、しっかり認識しなければいけないし、冷静に判断していくために重要だが、そうした数値論だけで済む話ではない、という意味だ)
「海が汚れてしまったんだ」と考えなければならないこと自体が、大変な精神的苦痛なわけで、そのダメージを数値で表すことなんてできない。
自分が生まれ、暮らしている日本という国がそういうことをやってしまった。やってしまった後に反省がないどころか開き直って、今まで以上に悪辣なことを続けようとしている。
……そこでしょ! 怒りを向けるべき部分は。それを思うだけで病気になりそうだよ!
しかし、だからこそ資料やデータには極力冷静に向き合わなければいけない。
「太平洋はもう終わりだ」みたいな部分だけが強調的に広まっていくことには大きな弊害がある。
有効な対策がとれずに汚染物質を垂れ流し続けている現場の無策をどうするか、具体策を考えなくては、という大切な議論に余計なノイズを入れてしまう可能性がある。
大量の汚染物質を垂れ流していることは事実であって、それがいかにひどいことか、今さら強調してもしきれない。それなのに、なんら有効な対策をとれないで(とらないで)いる東電と国をこのままにしておいてはいけないのは自明。
そこをしっかり追及するような方向でネットの議論も進めていかないと。
地雷を踏むことを覚悟で言えば、理系を自称する人たちのスノッビズムみたいなものには、僕もときどき鼻白むことがある。でも、グラフやデータを正しく見ることができる人たちから揚げ足をとられないようにすることも大切。
その上で、「素人考えですけど、ほんとはこうじゃないんですか?」「こんなアイデアは全然ダメなんですか?」って、臆せずに発言し、提案していく姿勢が大切だと思うのだ。
このシミュレーション図(↑ クリックで拡大)はドイツのキール海洋研究所(GEOMAR)が2012年7月6日に発表した福島第一原発からの放射能汚染水の海洋拡散シミュレーション図。
上が汚染が漏れ出して891日後、下が2276日後。
1Fから流れ出したセシウムは海洋上をこのように拡散されていくであろうという予測。
動画も公開されている↓
このシミュレーション動画が拡散されるもととなったひとつと思われるブログには、元駐スイス大使の村田光平氏がラジオ出演したときの、
「日本が汚染水を止めるための国策化をやって、対策を打ち出していかないことには、世界は、もう納得しない」「汚染水流出をこのまま食い止めらられなければ、領海の適切な管理ができない国と見なされ、排他的経済水域の権利を失うことにもなりかねない」といった発言も紹介されている。
これはまったくその通りで、とにかくなんとかしなければならない緊急課題であることは間違いない。
しかし、ネット上でこの図が拡散されていく上で、「10年後には太平洋は終わりだ」といったコメントだけが強調されていく傾向が見られた。
それに対して、
「これは海洋汚染の『希釈モデル』であり、汚染源に対しての『相対濃度』がどのように変化していくかを示しているシミュレーション。どの程度汚染されるかという数値を示したものではない」
という指摘があった。
よく見ればその通りだ。
右上には色分けの「相対尺度」を示す目盛りが示されているが、そこには、
surface concentration relative to initial values off Japan
とある。
表題は
Model simulations on the long-term dispersal of Cs-137 released into the Pacific Ocean off Fukushima
だ。
汚染源である日本(1Fから出てくる汚染の初期値)に対する相対濃度を示したものなのだ。
この目盛りを見ると、右端の黄色が「1」で左端の白い部分あたりに「10のマイナス12乗」と記されている。
6年後にはほぼ太平洋全体が赤から赤紫色に、ほぼ均一に染まっているわけだが、この赤から赤紫の範囲は10のマイナス4乗からマイナス6乗くらいだろうか。
汚染源である1Fが「1」の量のセシウム137を海に放出すると、6年後には太平洋のほぼ全域で、汚染源の初期値に対して10のマイナス4乗からマイナス6乗くらいの濃度で拡散されているであろう、というシミュレーションだということが分かる。
10のマイナス3乗(オレンジのあたり)はミリ。10のマイナス6乗(紫のあたり)はマイクロ。
汚染源での初期値(黄色=1)が仮に100万ベクレル/リットルだとすれば、紫色部分(10のマイナス6乗)あたりは1べクレル/リットルということになるが、初期値がどのくらいかということにこのシミュレーションは触れていない。つまり、具体的にどのくらい汚染されるかについては言及していない。
海流などによって「このように拡散されるであろうというシミュレーション」なのだ、ということを理解しておかなければならない。
結論としては、「最後はかなり均等に拡散していく」ということなのだろう。
真っ赤に染まっている⇒大変だ! ということではない。
ただし、よ~~く見れば、日本近海よりむしろアメリカ西海岸側のほうが濃度が高いように予測されている。これはものすごく重要なことで、海洋汚染を責任持って止めようとしなかった未熟で無責任な国家として「国際社会」から告発される可能性がある。
僕もフランスのCEREAが出しているセシウム137による地表の汚染シミュレーション図を講演などで使うのだが、目的は「福島に近い西日本よりアメリカ太平洋岸やロシアの東部のほうが影響があった。つまり、汚染されるかどうかは距離よりも風向き次第なのだ」ということを言いたいために使う。アメリカ西海岸はもうおしまいだとか、そういうことを煽るのが目的ではない。
「距離よりも風向き次第なのだ」ということをなかなか分からない、分かろうとしない人がかなりいるからこうしたシミュレーション図を使うのだ。
ところが、なぜかネット上の議論というのは、「もう終わりだ」「福島はもうおしまいだ。逃げろ」「福島産の食い物を食べさせて殺す気か」みたいな話ばかりやたらと加熱する。
その加熱ぶりに比べると、こういう事態を起こした責任者たちがのうのうと金をもらって海外逃亡していることへの怒りとか、1Fの現場がいかに劣悪な「労働環境」で、このままでは人材がいなくなり、もうすぐ作業そのものが不可能になるかもしれないことへの危機感がとても弱い。
海の汚染のことを考えると生きているのが嫌になるほど絶望的になる。実際にどうなのかはよく分からない。でも、実際の数値がどの程度「人間の健康にとって」やばいかとかより、海を汚した、今も汚し続けている、そのこと自体がやりきれない。
もっと端的に言えば、「フクシマ」は人々から回転寿司屋に入って安い寿司を心置きなく食う楽しみを奪い、子供と一緒に海に行って泳いだり潮干狩りする楽しみを奪った。我々は日々の生活の中で「フクシマ」のおかげでいろいろなダメージを受けている。
実際には心配するような汚染度合ではないとか、そういうことではない。(そういう話も、しっかり認識しなければいけないし、冷静に判断していくために重要だが、そうした数値論だけで済む話ではない、という意味だ)
「海が汚れてしまったんだ」と考えなければならないこと自体が、大変な精神的苦痛なわけで、そのダメージを数値で表すことなんてできない。
自分が生まれ、暮らしている日本という国がそういうことをやってしまった。やってしまった後に反省がないどころか開き直って、今まで以上に悪辣なことを続けようとしている。
……そこでしょ! 怒りを向けるべき部分は。それを思うだけで病気になりそうだよ!
しかし、だからこそ資料やデータには極力冷静に向き合わなければいけない。
「太平洋はもう終わりだ」みたいな部分だけが強調的に広まっていくことには大きな弊害がある。
有効な対策がとれずに汚染物質を垂れ流し続けている現場の無策をどうするか、具体策を考えなくては、という大切な議論に余計なノイズを入れてしまう可能性がある。
大量の汚染物質を垂れ流していることは事実であって、それがいかにひどいことか、今さら強調してもしきれない。それなのに、なんら有効な対策をとれないで(とらないで)いる東電と国をこのままにしておいてはいけないのは自明。
そこをしっかり追及するような方向でネットの議論も進めていかないと。
地雷を踏むことを覚悟で言えば、理系を自称する人たちのスノッビズムみたいなものには、僕もときどき鼻白むことがある。でも、グラフやデータを正しく見ることができる人たちから揚げ足をとられないようにすることも大切。
その上で、「素人考えですけど、ほんとはこうじゃないんですか?」「こんなアイデアは全然ダメなんですか?」って、臆せずに発言し、提案していく姿勢が大切だと思うのだ。
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