『阿武隈裏日記』を改題しました。
たくきの日記はこちらからお入りください

久々に感動した買い物2017/08/17 11:25

2800円のミニアンプを買ってみた


こんな感じ


Amazonでコードレスのミニアンプが2800円で出ていた。おや、これはもしかするとEWIをつなげば、アンプのない場所でも身体一つで演奏できるのでは? と思ってポチしてみた。


これ↑。AROMAというブランドで、2796円


翌日届いた。

小さいだけでなく軽い。こんなんでちゃんと音が出るのだろうかと思うほど軽い


エレキギター用なので最初からディストーションが入った状態で立ちあがるが、ディストーションを切れば普通に使える。
SDカードで伴奏とミックスしたり、単純にスマホなどの外部スピーカーとしても使え、マイクもつなげられて、録音までできてしまうのだが、そういう機能はとりあえず試してない。腰につけてEWIを短いケーブルでつないで音が出せればOK。
やってみたらなんとかなりそうなので、そのままEWIを持って親父がいるデイホームに向かった。


小さいので、EWIのソフトケースに入ってしまった


デイホームでは、入所しているおばあさんから「俺は河原の枯れすすき」をやってとリクエストされ、なんとかやってみせた。表情はほとんど無表情だったけれど、施設長は「目がきらきらしていたから、脳にいい刺激になったはず」と言っていた。

こんな風に、ちょっとした宴会や飲み会の余興にはもってこいだ。最近は旅行にも行かなくなったけど、野外で空や海に向かって吹いたりもできるわね。




これ↑ お勧め!。マイクをつなげば拡声器としても使えるし、スマホをつないで普通に外部スピーカーとしても使える。2796円は安い!


タヌパックスタジオで生まれた音楽の1つ『アンガジェ』(↑Clickで再生)



連作小説「まえだっちとわたし」 第一話 前田清花2017/06/07 21:54


●第一話● 前田清花(さやか) 22歳



∇‡∇

 聖哉(せいや)と別れてきた。
 ものすごく腹が立つ。聖哉にではなく、今まであの程度の男とズルズルつきあってきてしまった自分にだ。
 あと、最後がお金のことでトラブったというのが情けなさすぎてイラつく。
 マックに入って、注文した途端、あいつは「払っといて」と言ってトイレに消えた。
 なにそれ。わたし、今日は3000円も持ってないんだよ。慌てて今注文した総額を頭の中で計算した。
 どういうつもりなのか、あいつはテーブルになかなか現れなかった。
 で、ようやくトイレから出てきたと思ったら「ごめん。財布忘れたっぽい。1万円貸して」……って、ヘラヘラ笑いながら言った。

「持ってないよ。今だって足りるかどうかドキドキしたんだから」
「足りるかって、ここの? 千円ちょっとだろ?」
「そうだけど」
「嘘だろ~。おまえいくら持ってんの? 今」

 聖哉はわたしより2歳年下で、なんか聞いたことのない大学に行ってる。「危機管理学部」だとか……学部名もなんだか聞いたことのないような……。
 わたしはそこそこ名前の知られた私大の理学部を卒業して、今年から社会人。聖哉がわたしのことを「おまえ」って呼ぶのを、今まではそんなに気にしなかったけど、なんか、急にムカついてきたんだ。さっきは。

「俺、今まで結構おごってやってね? マック一回くらいいいじゃん、って思ったけど、そんなにやべえの? おまえのケーザイジョータイ」

 確かに、何回かおごってもらったよ。でも、割り勘がほとんどだったよ。
 ……って、なんでそんな細かいこと、今持ち出すんだ。イラつく。耐えられなくなってきた。

「給料悪くないって言ってたじゃん。なんだっけ、ばい……」
「胚培養士」
「なんかよくわかんねえけど、バイトってわけでもないんだろ? 月20以上はいきそうって言ってなかったっけ?」
「まだ見習いだから17万くらいだよ」
「見習いで17ならいいじゃん。時給1000円に直したら……え~と……何時間分だ?」
「170時間」(そんな計算もできんのか、こいつは)
「そっか。30日で割ったら……え~と……」
「6時間弱でしょ。でもなんで30で割るの? わたし、休みゼロ?」
「だけど非正規じゃなかなか月17万はきついっしょ。見習い期間で17ももらえたらすげーよ。そのうち20くらいには上がるんだろ?」
「いろんなことがうまくいけばね。でも、わたし、借金軽く500万超えだからね。その20万から毎月5万ずつ返済したって100か月。3万ずつなら167か月で14年。順調に返済し続けたとしてもその時はアラサーどころか、下手したら40代だよ」
「そっか。じゃあ、金持ちとくっつくしかないか」

 そう言うと、聖哉はクククっと鳥みたいな声で笑った。
 この笑い方が可愛いと思ったこともあった。そう思うと、本当にもう耐えられなくなってきた。自分のバカさにだ。

「聖哉だって抱えてるんでしょ、学資ローン」
「うん」
「いくら?」
「月12万」
「フルじゃん。わたしよりやばくない?」
「なんとかなるっしょ」

 そう言ってまたクククっと鳥みたいに笑った。
 その瞬間、わたしの中で何かがプツンと切れた。ほんとに「プツン」って音が響いたんだ。脳の真ん中へんで。
 何が危機管理学部だよ。自分の危機管理、まったくできてないじゃん……とか、いろんな思いがいっぺんに噴火して、会話を続ける気持ちもなくなってしまい、わたしは無言のまま立ちあがると店を出た。
 聖哉は何も言わなかった。何が起きたのか理解できなかったんだと思う。
 
∇‡∇

「あちらの男性から同席リクエストが来ています」

 ……という声で数時間前の風景から引き戻された。
 店員が微妙な作り笑顔でわたしの横に立っている。軽く上げた右手の先には、眼鏡をかけたスーツ姿のおっさんがいた。わたしと目が合うと、軽く会釈した……ように見えた。
 激やば! 気を抜いていた。
 まさかこんなに早くわたしを指名してくる人がいるなんて。
 ここは「女性1ドリンク無料」のバー。店名は確か「プラチナウィンド」とかなんとか、ツッコミどころがいろいろありそうな名前だったけど、それはどうでもいい。
 男性客だけが入店の際にお金を払う。
 店内は男性客ゾーンと女性客ゾーンに別れていて、女性は鏡張りの壁に向かって、男性客カウンターには背を向けた形で座っている。(中には堂々と男性客ゾーンのほうを振り返って座っている女もいるけど)
 男性客は鏡に映る女性を見て、気に入った子がいれば店員に言ってそばに呼ぶことができる。
 俗に「出会い系」なんて呼ばれているお店。
 女性客の多くは売春目的だろう。……だろう、っていうのは、わたし自身はまだ身体を売ったことはないから、そういう店だということは知っているという意味だ。
 この店に来るのは2回目だった。最初は怜華と一緒に来た。怜華はバイト先の先輩だけど歳は1コ下。「今の時間だとご飯もただで食べられるかも」とかいって、この店に入った。
 お店のシステムとかについては、怜華からザックリとだけど教えてもらった。二人連れだと誘われにくいから大丈夫、とかも言っていた。
 あのときは1時間くらいいて、しっかりご飯もただで食べてから、誰にも指名されないまま店を出た。
 自分で言うのもなんだけど、わたしは美人でもかわいい系でもない。眼鏡かけているけど、お洒落じゃなくてマジ目が悪いだけ。メンテ代がかかるコンタクトより安いから眼鏡──それだけ。
 化粧やお洒落に使うお金もないから、こんな店に来てもおよそ指名されるなんてないだろうと気を緩めていた。周りには一目でプロだと分かる年増女や派手目の若い子もいたし……。
 わたしは恐る恐るそのおっさんを見た。
 安くなさそうなスーツにネクタイ。そういう姿で来る男は少ない。変なやつだなと思った。超ヤバイやつだったらどうしよう。
 逃げる口実を考え始めたとき、店員が少し屈むようにして耳打ちした。

「あのかたは紳士ですよ。保証します」

 こういう店の店員がそんなことを言うのが引っかかったけれど、仕方なくその男の隣に移動した。

「こんばんは。前田です」

 わたしが隣りに座るとすぐ、おっさんはにこやかにそう言った。すごくいい声で、しかも店員が言ったように、マジ「紳士」っぽくてビックリした。
 それにしても前田って……なにそれ、わたしとマルカブリ。

「レイカです」

 わたしは咄嗟に、最初にこの店に連れてきてもらったバイト仲間の名前を言ってしまった。言った後、ちょっとだけ罪悪感のようなものを感じたけど、すぐにどうでもいいや、って思い直した。

「ここにはよく来るんですか?」

 え? わたしに敬語? なにこの……人。(なんかもう、その時点でおっさんって呼ぶのは声に出さなくてもしっくりこない感じがした)

「いえ、2回目です」
「そう……」
「お……(お客さん、って言いそうになって、なんで店に雇われているわけでもないのにお客さんって呼ばなきゃいけないんだと気づいてやめた)……あの……よく来られるんですか? このお店」
「そうだね。ときどきね。お店の人にはもう顔を覚えられているかな」
「あの……なんでわたしを……?」
「特に理由は……いや、ちょっと怒ったような表情に見えたから、気になったのかな。嫌なことでもあったの?」

 あったよ。でも、あんたに説明する義理はないよ。

「別に……。すみません……なんか……愛想悪くて」
「いや、そんな……謝ることはないよ。お腹はすいてない?」

 すいてるよ。なけなしのお金はたいたバーガーも食べそこねたし。
 黙っていると、「前田さん」は気を効かせてくれたのか、こう続けた。

「何か食べる? ここじゃないほうがよければ外の店でもいいけど。ぼくもちょっとお腹空いてきているところだし」
「……はい……」

 危険な感じはしなかったので、思わずそう答えてしまっていた。
 
∇‡∇

 店を出ると、前田さんはいきなりこう言った。

「どこがいいかな。マクドナルドでもいい?」

 よくないよ。さっき聖哉と別れてきた場所じゃん。
 あ、そうか、ホテルに誘う前だから、なるべくお金も時間もかからないほうがいいってことか……。まいった~。わたし、そういう覚悟できてないし……。ほんとどうしたらいい?
 黙っていたら、前田さん、少し困ったような顔で言った。

「ここでもいいけど、お酒は飲める歳だよね?」

 すぐ目の前に看板はあちこちでよく見る居酒屋チェーン店があった。

「はい。大丈夫です」

 そう答えた後、どういう意味での「大丈夫」なのか、自分でもよく分からないまま言っているなと気づいた。
 マックよりはいいけど、個室に案内されたりすると怖いような気もした。でも、居酒屋ならすぐに出るのは不自然だから、むしろホテルに誘われるまでに時間が稼げるかもしれないとも思った。

「じゃあ、ここにしよう」

 入ったお店は賑やかで、客の年齢層は低そうだった。
 店員はわたしたちをどういう関係だと思っただろうか。気を利かせたのか、奥の狭い仕切りのある席に案内した。4人入ればぎゅうぎゅうになるようなスペースで、ドアはない。
 前田さんはメニューを先にわたしのほうに向けて「お腹空いてるんじゃない? 食事も頼んでいいよ。ぼくも軽く食べるから」と言った。
 その席は掘りごたつ式の席だったけれど、席についても前田さんは上着も脱がず、ネクタイも緩めず、黒い書類鞄を大事そうに自分のすぐ横に置いた。
 改めてよく見ると、黒い鞄は皺や傷だらけで、ものすごく使い込んでいた。でも、スーツやネクタイは高級そうだし、安サラリーマンには見えない。
 ちょっと間があったけれど、結局、前田さんは「すごく薄い水割り」ととろろ蕎麦。わたしはアップルサイダーとピザという、とても変な組み合わせで注文した。
 店員が注文を受けて消えると、前田さんはいきなり訊いてきた。

「学生さんですか?」
「いいえ」
「お仕事は何を?」

 なんだこの人。そんなこと訊いてどうすんだよ。……と思ったけれど、なぜか口調が嫌らしくないっていうか、自然体っていうか、そんなに嫌な感じはしなかったのが不思議だった。

「バイトはいろいろしてきましたけど、今年からは一本に絞れて……まだ見習いみたいな感じですけど」
「正規雇用になれたってこと?」
「……そうですね。保険証ももらえたし……」
「え? 今までは健康保険証がなかったの?」
「……はい。親が保険料払っていなかったみたいで……」

 なんだか役所の窓口で質問されているような感じ。やっぱりいい気はしない。

「病院に行ったときとかはどうしていたの?」
「病院には行かないです。保険証がないから。一度だけそれが分からないまま行ってしまって、そのときは結局十割負担でした。それ以降は一度も……。だから、保険証がもらえたのは嬉しくて……」

 前田さんはずいぶん驚いたような顔をしていた。

「あの……こんな話、面白いですか? つまらないですよね。不幸自慢みたいで」
「そんなことないよ、全然。とても勉強になる」

 はあ~? 勉強になる?? やっぱりこのおっさん変だ。もしかして不幸話マニア? 若い女の苦労話聞いてコーフンする変態?
 わたしはまたちょっと身構えてしまった。

「それで、今の仕事というのは、どんな仕事なの?」

 あ、そっか。さっきの質問にちゃんと答えてなかったね。
 どうしようか。あ、でも、今の仕事の話は特に不幸話じゃないし、退屈なだけだろうから、正直に答えても飽きられるだけで、とりあえず時間稼ぎできるかな。
 そう思って、わたしは真面目に説明することにした。

「胚培養士です」
「はいばいようし?」
「……っていっても分からないですよね?」
「不妊治療で体外受精とかを手伝う……?」

 驚いた。胚培養士と聞いただけですぐに分かる人がいるなんて。

「知ってるんですか? もしかして前田さんって、お医者さんですか?」
「いやいや、全然。医学は素人ですよ。胚培養士のことは聞いたことはあるけれど、そんなに詳しくは知りません。ただ、胚培養士って、士ってつく職業なのに国家試験があるわけでもなく、国が認定する資格がいらないでしょ。無資格で人間の生命の操作に携わるっていいんだろうか、というような話が、以前、同僚との雑談の中で出たことがあってね。……でも、そのまま忘れてました」
「あの……前田さんって……」

 何者? って思ったけど、それ以上訊いてはいけないと思って口ごもった。すると、前田さんのほうから言ってくれた。

「公務員です。宮仕えだから、職場はいろいろ変わるんだけどね」

 そこで店に注文したものが届き始めて、会話のペースが少しだけゆっくりになった。
 前田さんはお腹が空いていたらしくて、注文したとろろ蕎麦をたちまち完食。わたしもずいぶんお腹空いていたんだけど、前田さんのペースには追いつけず、仕方なく、「ピザも食べますか?」と言った。前田さんは苦笑しながら「いやいや。ぼくはもういい。よかったら他にも頼んで」と言ってくれた。

「胚培養士って、実際には臨床検査技師とか獣医学部の卒業生がなったりするケースが多いんじゃないの? あなたも何かそういう経歴だったの?」

 なんかめんどくさい質問が来た。胚培養士でこんなに食いついてくるとは思わなかった。しかも、ついでという感じじゃなくて、本当に興味があるという顔だ。
 どうしようか……。正直ちょっと戸惑ったけど、こんな話をしているだけでいいなら、ホテルに誘われるよりはいいから、ある程度ちゃんと答えることにした。

「今は資格とかは何も持ってないです。獣医学部でもないです。大学は理学部でした。生物関係なので、胚培養士という仕事があるってことは知ってました。就職は、他にも製薬会社とか農協とかパン工場まであちこち受けたんですが全部落ちて、今いる病院での募集に最後ようやく引っかかって……」

 前田さんは頷きながら熱心にわたしの話を聞いていた。一言も聞き逃すまいとするような真剣な目つきになって、ちょっと怖くなった。なんか、警察で取り調べを受けているような気にもなったけど、合間にふっと見せる笑顔が自然で、わたしの気持ちも少しずつ楽になっていった。
 今までこんなこみ入った話を誰かに話したことはほとんどない。大学は私立で、学資ローンをフルに借りてなんとか通っていたから、学内で友達を作る余裕なんてなくて、授業以外の時間はびっちりバイト。睡魔と空腹と鬱だけの時間がただただ過ぎていった4年間だった。
 親ともたまにLINEで必要最小限の連絡をかわすだけで、近況報告みたいなこともしたことがない。
 こんな専門的な話をちゃんと聞いてくれる人が目の前にいるというだけで、なんだか開放感というか、ストレスが発散できるような感覚がわいてきた。うまく言えないけど、すごく不思議な感覚……。

「見習い扱いでもちゃんと就職できたことはすごくラッキーだと思ってます。でも、学資ローンの返済が500万以上あるんですよ。返済は秋からなんですけど、どう計算しても全部返し終えるのはずっと先だし、今の職場にずっとい続けるためには、やっぱり学会の資格取らないとだめだし、取るためにもこれからまたお金がかかるし……」
「学会の資格?」
「国家試験じゃないですけど、学会が2つあって、それぞれが認定する資格試験があるんです。それを取らないと仕事ができないということではないみたいなんですけど、やっぱり持っていないといつまでも見習いというか、部屋の掃除係や器具の点検みたいな仕事しか任せてもらえないみたいな……。だから、いずれはその資格を取りたいと思ってます。でも、正直、自信がないです」
「ああ、聞いたことがある。資格じゃなくて『認定』だね。その試験が難しい?」
「試験も難しいでしょうけど、やっぱりお金の面で。お金がないと勉強する余裕とか生まれないですよ。バイトづけだった学生時代よりはいいかもしれないけど、これからは返済していかなくちゃならないわけだし。それにつぶされて鬱になったりして動けなくなったら、解雇されちゃうだろうし。そういうプレッシャー、すごいですよ」
「ご家族は?」
「お父さんは失業中。お母さんはパートとかしてるけど、もちろんそんなんじゃどうにもならないし。妹がひとりいて、歳が離れていてまだ高校生なんですけど、やっぱりバイトづけでつぶれそう。わたしもそうだったけど、妹のほうが厳しいかも。おじいちゃんがボケちゃった分、きついと思う……」
「おじいさんの介護を妹さんが?」
「家族で手分けしてやってます。頭はそうとうやばくなってるけど身体はそこそこ動くんで、要介護2どまりで特養とかには入れなくて、今はおじいちゃんの年金の範囲内でデイサービスとかでやりくりしてるみたいだけど、介護保険料が上がってなんだかんだで年金の手取り額も少しずつ減っているみたいで、今まではおじいちゃんの年金の一部も家族の生活費に充てていたんですけど、これからは逆に、おじいちゃんの介護にかかるお金のほうが年金より多くなりそうだから、もう無理~、みたいな」
「それであなたも追い詰められて、あのお店に行って……?」

 前田さんはわりとあっさりと切り込んできた。

「え? いえ、そうじゃなくて……今日は特別でした。ちょっと気持ちが乱れていて……さっき、彼と……もう元彼ですけど……別れてきたんです。それもなんかもう、言うのもくだらない理由っていうか、しょーもない感じで別れて、自分が惨めで……」
「そう……。別れたほうがいいような相手だったの?」
「はい。今までズルズルきたのが許せない……自分が許せない、ってことですけど……そういう相手でした。多分、あいつはまだ別れた気になってなくて、ちょっと喧嘩したくらいに思っているんだろうけど、もう会わない。連絡来ても拒否るつもり」
「そう……。あなたがそう決めたらなら、きっとそれでいいんだと思いますよ。これから先、まだまだいろんな出会いがあるだろうし。なにより、あなたはちゃんと今、仕事を持っている。まずはお仕事をしっかりやることです。その毎日の中で開けてくる運もあるだろうし」

 なんだろこの人。学校の先生? きっとそうだ。公務員って言ってたし。職場が変わるとも言ってたから、公立学校なんだろう。もしかして校長先生くらい偉い人なのかも。
 だったら、やっぱり仕事のこととかあまり訊いてはいけないし、訊いても言うわけないな、と思った。
 その居酒屋にいたのは1時間半くらいだっただろうか。前田さんは突然腕時計を見ると、「じゃあ、今夜はこのへんで、ぼくはそろそろ帰らなくちゃ」と言った。
 え? ほんとに? これで終わり? なにこれ。人生相談?
 ポカンとしているわたしを置いて、前田さんはさっさと店の会計を済ませた。

「今日はありがとう。遅いから気をつけて帰ってね。これ、少ないけどタクシー代」

 店を出る直前、前田さんはそう言ってわたしに5000円札を1枚差し出した。

「よかったら、またお話聞かせてください」

 わたしはほとんどまともに返事もできないほど呆気にとられていた。でも、別れ際、LINEの交換だけはしてしまった。
 危ない人ではないと思ったから。
 
∇‡∇

 前田さんのことは強烈に印象に残ったけれど、その後は何もないままだった。
 LINEは交換したけれど、前田さんからもわたしからも、結局何も送らなかった。
 変な人だったな。でも、面白い経験だった。もう二度と会うこともないんだろうなと思うと、ちょっと残念な気もした。
 職場ではそれほどトラブルもなく、いいことも悪いこともなく時間が過ぎた。
 病院だから、男性医師や看護師、検査技師などもいたけれど、数からいえば女性のほうが多かった。地味な眼鏡女子のわたしは、男からも女からもあまり声をかけられることもなく、特に仲のいい友達ができるわけでもなかった。
 ひとり口の悪い男の研修医がいて、「きみって、いわゆる『チョイブ』……ちょうどいいブスだよね」なんて言われたりもした。首締めたろか~、田中光兵太(こうへいた)。おまえのあだ名、ヘーコイタにして病院内に浸透させてやろうか。今はわたしの頭の中だけでそう呼んでいるだけだけどな。
 秋になって、いよいよ学資ローンの返済が始まった。利率変動方式といって、返済開始時期にならないと正確な返済額が分からないので不安だったが、不安は見事的中して、予想よりも額が多かった。
 追い打ちをかけるように、千葉にいる家族の状況も悪化した。
 おじいちゃんは夏に脳溢血を起こして救急搬送。もともと認知症で、日々扱いがやっかいになっていたのが、一気に寝たきりになってしまった。
 口から食事が取れなくなり、わたしが知らないうちに、両親は胃ろう処置を決めてしまった。就職してから医療現場を少しは見てきているわたしには、意志表示できないような脳障害の患者に胃ろう措置がどれほど悲惨なことになるか分かっている。なぜ一言相談してくれなかったのだろう。
 しかも、これまた知らないうちに、おじいちゃんは愛知県にある介護施設に送り込まれてしまった。「胃ろうアパート」と異名を取る最悪の民間設備だ。胃ろう患者専門に受け入れている無届けサ高住。想像するのも恐ろしい。
 妹は公立高校に通うのも厳しくなり、中退してバイトだけの生活になった。大学まで行ったわたしに恨み言のひとつでも言うかと思ったら、全然そんなことはなく、明るく振る舞っている。
 でも、ひとつきつかったのは「おねえちゃんみたいに学資ローンの返済で息切れする20代よりは、さっさと仕事経験して、いろんな人に出逢って玉の輿にでも乗る可能性を残しておきたいから」という言葉だ。まったくその通りだもの。
 がんばれ妹。
 わたしはマジで応援している。玉の輿に乗ってくれ。そのほうがわたしの心も軽くなるから。
 わたしだってほんとは玉の輿とやらに……。
 ノンノンノン。今のわたしのように借金や金のない家族を抱えている女性と結婚しようという男性なんているはずがない。わたしがもう少し美人ならまだしも……ね。
 で、仕事はといえば……。
 バイト漬けの学生時代に比べれば、仕事の内容は特にきついというほどではなかったけれど、すればするほどわたしには「好きになれない仕事」だと思うようになった。
 お金のことでプレッシャーを受け続け、結婚はもちろん、子供を持つなんて到底考えられないわたしが、経済的に恵まれた夫婦の「不妊治療」のために働いている。
 余計なことを考えてはいけないと分かっていても、「そこまでして子供がほしい? 贅沢だね~。いいご身分だね~」と心の中で呟いてしまう……。
 きついな~。でも、つぶれるわけにはいかないよな~。高校中退してバイト漬けの妹のことを考えても、ほんとなら大学出ているわたしが稼いで援助しなければいけないのだから……。
 そんなこんなで、ぎりぎりで踏ん張っていたある日、仕事を終えて、培養室の掃除を一人で終わらせ、鍵を閉めて帰ろうとしてたとき、マナーモードを解除したスマホに変なLINEのトークメッセージが入った。

〔覚えてますか? その後、お仕事は順調ですか?〕

 汎用アイコンの下に「まえだっち」って出たので、一瞬誰のことだか分からなかった。わたしが自分でそういう名前に変更していたのに。
 少し迷ったけれど、返信した。

〔ご無沙汰してます。その節はごちそうさまでした。お礼も言えず失礼しました〕
〔いえいえ〕
〔わたしはなんとかやってます〕
〔それはよかった。いろいろあるでしょうが、きついときはふっと息を吐いて、淡々とこなしてください。真面目にやっていれば、いいこともありますよ、きっと〕
〔ありがとうございます〕
〔ではでは。がんばってネ〕

 え? それだけ?
 また会いませんか、とかではなくて?
 わたしからおねだりしたほうがいいのだろうか。またご飯ごちそうしてください、とか?
 でも、やっぱりそれは無理だ~。こっちからは言えないよ。
 でも、思いきっておねだりすれば、前田さんは会ってくれるだろう。そしてまた、わたしの話を真剣に、時折笑顔になって聞いてくれるだろう。
 その時間と空間をつい想像してしまった。心が少しずつ緩んでいくような感覚に浸れるかもしれない。
 でも、わたしからは言えないよ。なんでさっき誘ってくれなかったんだよ、前田さん。
 わたしがいけなかった? なんとかやってます、じゃなくて、きついんです、つぶれそうです、とでも言えばよかったの? そう言えば「じゃあ、また食事でも行きましょうか」って誘ってくれた?
 後悔の気持ちがどんどんじわじわ膨らんできて、スマホを持ったまま、わたしはしばらくドアのそばに立ち尽くしていた。

「わ! ビックリした~!」

 突然、目の前で声がした。

「幽霊かと思った~。勘弁してよ~。血圧上がっちゃうよ~」

 うざい!
 顔を見るまでもない。田中光兵太(こうへいた)だ。

「チョイブの次は幽霊に昇格ですか?」

 わたしはマジ頭にきてそう言った。

「チョイブ? なにそれ?」

 おいおい。忘れたのか? 自分が軽く口にした言葉が、人をどれだけ傷つけるか、おまえさんは気がつかないんだね。想像もできないんだね。
 わたしは確かに「ちょうどいいブス」かもしれない。口説くのに緊張するような美人じゃないし、そばにいるだけでゲロりそうなドブスでもない。中の下くらい? 下の下じゃないからいいだろってか? 「ちょうどいい」をつけるだけありがたく思えってか?

「チョイブって何?」

 ヘーコイタが繰り返した。

「はあ? 田中さんが言ったんでしょ」
「俺が?」
「ちょうどいいブス、チョブス……って……わたしに言わせるわけ?」

 わたしの語気がそうとう鋭かったのか、ヘーコイタはマジでびびったようだった。急に神妙な表情になって言った。

「俺が? そんなことを? ……だったら、ごめん……なさい……」

 え? わたし、今そんなに怖い顔してる? やだよ。せめて最後までジョークっぽくしてくれよ。

「いや、きっとそれは、いい意味で言ったんだよ。逆に、いい意味で。伝わりづらかったかな。ほんとごめん」
「いい意味とか、逆にとか、イミフな言い訳はいいです」
「いや、言い訳じゃなくて、……いや、言い訳だけど、ほんとにいい意味で言ったんだよ。まえだっちはなんていうか、安心感があるっていうか、安定しているっていうか……」
「まえだっち? わたしのことですか?」
「あ、ごめん。自分の中ではそう呼んでいたもんだから、つい。……前田さんは……」
「今ちょうど、わたしがまえだっちって名前をつけていた前田さんって人からLINEが入って読んでいたところなのよね。60くらいのおっさん。だから違う呼び方にしてもらえますか?」
「え? ……じゃあ、下の名前とか? 清花(さやか)さん?」

 おや、ヘーコイタはわたしの下の名前をちゃんと知っていたのか。それは感心。

「それでよし」
「じゃあ、清花さん。お詫びにどこかで夜食でもどうでしょう?」

 え?
 ビックリした。
 ビックリしすぎて、まじまじとヘーコイタの顔を見てしまった。
 いつものようなからかっている顔ではなかった。ちょっと頬が赤くなっていた。

「へー……」

 思わずヘーコイタと言いそうになる。やばいやばい。

「へー、って、なんか女王様っぽいっすね。そういうのも逆にヤバイな……あ、いい意味ですから。俺がMってわけでもなくて……純粋に……なんつうか……」

 ヘーコイタはまだちょっとあわあわしていた。
 へ~。そうきたか。
 わたしは一呼吸置いて、精一杯の優しい声で答えた。

「マクドナルド以外がいいな」
「了解っす、女王様!」

 ヘーコ……コーヘータは右足を少し引いて右手を軽く差し出し、いつものおどけた声にもどってそう言った。不思議と、もうウザイとは感じなかった。
 
 前田さん(まえだっち)。後でLINE入れますね。
 わたしはなんとかやっていけそうです。
(第一話 了)




タヌパックスタジオで生まれた音楽の1つ『アンガジェ』(↑Clickで再生)


数万円で高音質PCオーディオ環境を作る2017/02/02 19:34

こんなんでも「いい音」が聴ける時代に

高音質ミニマムPCオーディオ環境の作り方


最近、KORGのDS-DAC-100mという再生専用USBオーディオインターフェイスをつけたところ、PCからの音楽再生品質が劇的に上がったので、それを踏まえて、
  • PCに溜め込んだデジタル音楽ファイルを
  • できる限りコンパクトな環境で
  • できる限り安く
  • できる限り高音質で
楽しむ方法について簡単にまとめてみる。

 必要なものは4つ

  1. パソコン
  2. オーディオインターフェイス
  3. パワーアンプ
  4. スピーカー
1)のパソコンはメインに使っているものでももちろんいいのだが、古いノートパソコン(OSはXPでもなんでもいい)などが余っていたらそれをスタンドアローンで音楽再生専用にしてしまうのも一つの方法だ。
普段の仕事場環境(仕事机の上など)にコンパクトながら高音質の心地よいオーディオ再生環境を構築するのか、リビングなどに専用の環境を作るのかによる。

 キモは高品質DAC

2)のオーディオインターフェイスは重要。汎用性の高いUSB接続のものでよいが、再生専用で極力高音質なものが必要。
パソコンの代わりにiPadやiPod touch、iPhoneを使おうとすると、USB端子がないので、Thunderbolt端子につなげるオーディオインターフェイスが必要になる。しかし、再生専用のコスパの高いThunderbolt仕様オーディオインターフェイスというのは見あたらない。あるのはiOS端末で楽器演奏や歌を録音したりする目的で作られたものが多く、マイクプリなどを含む分、肝心のD/Aコンバータ (DAC =デジタル信号をアナログの音声信号に変換する部分)の品質に疑問がある。それなら古いノートパソコンなどにUSBの高品質オーディオインターフェイスをつけたほうがはるかに高音質が期待できる。
具体的には、以下のような機種。
     

M-Audio USBオーディオインターフェイス 3ポートハブ M-Track HubはUSBハブポートとしても使えるあたりがミソか。
出力端子がヘッドフォンを含めて標準フォーンジャックだったり、でかいボリュームつまみをアクセント的につけていたりするところも質実剛健なイメージ。

FX-AUDIOの DAC-X6J も評判がいい製品。このメーカーは部品の品質にこだわり、コスパの高いものを採用している真面目さを感じられる。

KORGの DS-DAC-100m は、僕が最近買って、今実際に使っているやつ。再生専用で定価が3万円台というのは、それだけD/A部分に金をかけているのだろう(と信じたい)。実際、音質はパソコンの内蔵DACなどよりずっとよい。
外部のオーディオインターフェイスをつけるからには、このクオリティ以上にしないと意味がない。

アンプは数千円で高音質が手に入る時代に

3)については中華デジタルミニパワーアンプを勧める。
Tripath社のTA2020、TA2024というデジタルアンプICを使ったシンプルなパワーアンプを選べばほぼ間違いはない。
Lepyが代表的だが、中国製は溶接ミスなどの初期不良などがある危険性は覚悟したほうがいい。僕は3つ買って1回もハズレはなかったが、たまにあるらしい。
少し高いが(といってもオーディオインターフェイスより安いのだからすごい時代だ)、FX-AUDIO- FX202Jはコイルやコンデンサに品質のよいものを使っているようで、安心感がある。DC12V/2A DCジャック5.5mm×2.1mm(センタープラス)が別途必要なので、似たスペックのAC電源アダプターがない場合は購入が必要。



最後は4)のスピーカーだが、これは完全なアナログ製品、いわば「楽器」であり、最も音が変わるし、値段もタイプも様々だ。単純に高い製品がいい音で鳴ってくれるとは限らないから難しい。
3)のデジタルアンプは音質はすばらしいが出力はあまりないので、あまり能率の悪いスピーカーは組み合わせたくない。
楽しむつもりで、いっそ自作バックロードホーンなどはどうか。バックロードホーンは密閉型スピーカーとはだいぶ違うリアリティある音場が体験できて、とにかく「楽しい」。エンクロージャの塗装などをやればDIYの楽しみも得られるし。

バックロードホーン型エンクロージャーキットBW-800 2本で送料込み6000円ちょっと。サイズは300H×210D×110W(mm)

 と……

FOSTEX FE83En 長い歴史を誇るFOSTEXのユニット 2本で約9000円

を組み合わせる。
スペースがあるなら10cmにサイズアップして、さらにトールボーイ型エンクロージャにしてみるのもよい↓

トールボーイ型バックロードホーンエンクロージャーキットTBW-1000(2本分で12000円+送料)サイズは662H×200D×140W(mm)


今は亡き長岡鉄男氏がFOSTEXのFEシリーズを使って作り出した「バックロードホーン自作ブーム」はおよそ50年前。僕も中学生の頃にやってみた。今でもアナログの世界はあの頃となにも変わっていないのだ。


ちなみに僕の場合は仕事机の上なので、昔購入した中国製TANNOYがのっている。悪くはないが、特に面白いスピーカーではない



上からKORGのDS-DAC-100m(USBオーディオインターフェイス)、MUSEのデジタルアンプ(TA2024採用)、その下は外付けDVDドライブ、その下がTANNOYのミニスピーカー。つながっているパソコンは仕事に使っているメインマシンのaba のファンレスパソコン(Core i7/Windows7 64bit)


以上、具体的にまとめてみた。
最終的にはスピーカー次第だが、低価格でかつて数十万円かかったクオリティのオーディオを楽しめる。
ポイントは、
  • デジタル部分は割り切る(値段を気にしない)
  • アナログ部分を重視する(音というのは結局はアナログなのだから)

ということ。
デジタル信号を処理している部分は現代のパーツを信じ、それをアナログ波に変換するD/Aコンバータ(DAC)部分や、最終的に音として空気中に再生するスピーカー部分にはしっかりこだわる。

昔に比べれば、数万円でいい音が手に入るし、レコードやCDのようなかさばる「もの」がいらないのだから、いい時代ではある。


タヌパックスタジオで生まれた音楽の1つ『アンガジェ』(↑Clickで再生)



ネットの基本も分からないままいきなりトンチンカンなPDFを送りつける弁護士2016/07/31 14:41

3つめは法曹界の劣化の話。
先日、東京の弁護士事務所から「侵害情報の通知書兼送信防止措置」という不思議なタイトルのメールが送られてきた。
ウイルスかspamかと思ったが、念のため添付PDFを見てみると、女性用トイレの盗撮写真をのせているサイトの管理者がうちだと決めつけて「法的処置をとる」などという文面だった。
あまりのトンチンカンぶりに唖然とした。
もちろんそんなサイトとは無関係だし、過去においてもまったく関与したことがない。
なにを根拠にこちらをそのサイトの「管理者」とみなしたのか、なんの説明もない。
ドメインレジストラは世界最大級の一次レジストラで、DNS(ネームサーバー)もその一次レジストラが所有・提供しているものを使っていた。この一次レジストラはうちでも使っていてドメインの再販をしているが、そのレジストラを卸元としてドメインを再販しているパートナー業者は世界中に数千は存在する(もしかすると万の単位かもしれない)。そのうちのどこかが管理しているドメインなのだろう。あるいは所有者が直接一次レジストラから購入して管理している可能性も高い。
使われているドメインのWhois情報はプライバシー保護代理会社のもので、真の所有者は閲覧できないが、これも世界中にこの手の会社があり、普通にやっていること。その会社は一次レジストラの提携先で、利用者は世界中にいる。
サイトに使われているドメインのIPを調べたらサーバーはスウェーデンの企業が提供しているようだ。
どこを見てもうちとはなんの関係もない。
想像するに、レジストラやWhois情報保護代理会社、DNS情報などを検索して、たまたまうちの名前(屋号)が出てきたので、うちがこのサイトの管理者だと勝手に思い込んだのだろう。
これは例えば、トヨタの○○という車を使った犯罪者がいて、その被害者から相談を受けた弁護士が、ネットで「トヨタ○○」と検索したらたまたまトヨタ車を代理販売している地方の小さな個人営業の自動車修理屋を見つけて「犯人を突き出さなければ告訴する」と息巻いているような話。
要するにこの弁護士(女性名で二人連名)は、インターネットの基礎知識(ドメインとは何か、レジストラとはどういうものか、DNSとは何か、Whois情報保護代理会社とはどういうもので何をしているのか……)を知らず、IPアドレスの割り出し方法すら知らず(そんなものはホスト名の名前検索をすればすぐに出てくる。素人でも1秒でできる)、簡単な下調べもしないままにまったくトンチンカンな迷惑メールを送りつけてきたわけだ。
これが、「こういう被害者からの相談を受けているのだが、このドメインはもしかしておたくが管理していませんか?」と訊いてくるならまだ許せる。
ああ、この人はネットの基本を知らないでネット犯罪被害者の担当になった新米弁護士なのかな。アホらしいけれどリサーチ方法の基本を少し教えてあげようかな、くらいにとらえていたかもしれない。
それがいきなり「質問」ではなく、「貴社にて適切な措置をお取りいただけない場合には貴社に対する法的措置も検討せざるを得ません」などという文面のPDFを送りつけてくるのである。
この人たちは本当に弁護士なのか? 頭は大丈夫なのか? と愕然とさせられた。
しかもである、このPDF文書には、依頼者の名前がフルネームで記されている。
「当職らは○○氏から委嘱を受けた代理人として……」と始まり、その○○氏(女性)がトイレで盗撮をされたかのような写真が云々、と、内容についても書いてある。これはもはや、不必要に個人のプライバシーを赤の他人にばらまいてしまっていることにほかならない。
こんなメールが来なければ、こちらはその○○さんがそういう被害にあっていることなど知るよしもないし、名前を見ることもないのだから。
これが本当に弁護士の仕事なのか?
このトンチンカンなメールをよこした弁護士には「もっと勉強してください。こういうトンチンカンなものを送りつけられ、こちらは大変迷惑です」と返信したが、未だに謝罪の言葉ひとつよこさない。不愉快極まりない。
まったく人違いの家に土足で踏み込んできてわけの分からない言いがかりをつけた後、間違いだと分かっても謝罪もせずに無言で立ち去る……これはもう「当て逃げ」犯罪と同じではないか。

建設業界や電力業界、政界、財界……だけでなく、法曹界の劣化もここまできているのかと、愕然としてしまった。

よいお買い物

テレビ、洗浄便座、電動アシスト自転車などなど、「幸福になれる買い物」のヒント集。失敗しないための最低限の知識



4Kテレビ商法は「老人詐欺商法」か2016/07/05 18:14

総務省のサイトに掲載された「お知らせ」

4K放送が地上波で始まることはない

総務省が6月30日付けで
現在市販されている4Kテレビ・4K対応テレビ※1を利用して、衛星基幹放送による超高精細度テレビジョン放送を視聴するためには、平成30年の実用放送開始にあわせて発売予定の機器が別途必要になります。

……という注意喚起を掲載したことで、ネット上では一騒動起きているようだ。
なにを今さら、と思う。
4Kテレビ放送についてまとめれば、
  • 4Kテレビ放送が地上波デジタルで実現する可能性はほぼない(少なくとも熟年世代が生きているうちにはありえない)
  • 現在「4Kテレビ」と銘打っている、4K放送対応チューナーを内蔵したテレビで4K放送を見る方法は、①スカパー!プレミアムサービスで見る ②ひかりTVなどインターネット経由で見る ③4K対応のケーブルテレビで専用セットトップボックスを使って見るの3つしかない
  • スカパー!プレミアム放送は「スカパー!4K総合(Ch.596)」「スカパー!4K映画(Ch.595)」の2つだが、これはBSアンテナでも受信できる110度CSではなく、専用アンテナが必要。しかも有料放送
  • 今年夏以降にBS-17(いままでデジタル地上波の難視聴地域対策に使っていた帯域)で試験放送が始まるが、「試験放送」なので内容はあまり期待できない

……と、これだけ知るだけでも「じゃあ、そんなもの買う必要はないじゃん」ってことはすぐ分かる。
BSとCSで4K実用放送が開始されるのは2018年の予定だが、これは従来の放送とは仕様が違うために、まだ製造もされていない専用外付けチューナーが必要で、しかもアンテナも従来のBS/CSアンテナでは受信できない可能性が高い。特にマンションなどで共用アンテナを使っている家庭では、個人では対応できない可能性がある。

……という、どうにもならない代物なのだが、すでに薄型テレビ販売において4分の1が4Kテレビになっているという(JEITA 一般社団法人 電子情報技術産業協会調べ 2016年5月度調査結果)。

老人詐欺商法が日本経済を救う?

高額な商品だけに、買えるのは熟年層以上だろう。デジタル家電に強い(多分)若い世代が4Kテレビを買っているとは思えない。となると、購入している人たちのどれだけが「4Kテレビの実態」を知って買っているのかは極めて疑問だ。これを買えば、今までのテレビよりきれいに映ると単純に思いこんで買っているいる人が相当数いるはずだ。
「オリンピックも始まるし、ここは思いきって買い換えようか」なんて人もいるのだろう(そういう人たちに限って、地上波しか見ていなかったりする)。

となると、もはやこれは「シニア世代詐欺商法」と呼べるのではないか? 
前回の「NTTが「コラボ契約」に切り替えた客の回線障害対応は門前払いする件」でも書いたが、養父は使えなくなった光回線の利用料(月額1万円弱)を何年にもわたって自動引き落としで払い続けていた。「ルーターの電源を抜いているから使用料はかかっていない」と思い込んでいたらしい。
デジタルライフの進歩、複雑さについていけない熟年世代は多い。そういう人たちからうまく金を巻き上げる商法だけでも、現在の日本国内の経済はずいぶん支えられているのだろう。
それでいいのか?
こんなことを続けていたら、日本はますます世界から取り残され、本当の技術革新や合理的な国家運営から外れた外道な道を進むことになるだろう。

4Kテレビは買ってはいけない

スポーツの生中継とかでない限り、テレビ番組をリアルタイム視聴するなんて考えられない。(そういうテレビの視聴方法をしていると馬鹿になる)
テレビを買う場合にいちばん重要なのは録画・再生機能だろう。
  • 外付けHDDで録画でき、HDDが複数台増設できる
  • 内蔵チューナーが最低でも地上波・BSともに複数基あり、W録画(同じ時間帯の2つの番組を同時録画)以上ができる

この2つの機能が最重要だ。
ところが、50V型の大型テレビなのに内蔵チューナーが1つしかなくてシングル録画しかできない(録画している間は他のチャンネルが見られない)、なんていうテレビが存在する。そんなものは役に立たない。
4Kなどというものに金をかけているために、最重要である録画機能がおろそかになっている機種も見うけられる。そんなものを買ってはいけない。
さらには、デジカメの無意味な高画素化と同じで、液晶パネルを高画素化することで、色再現能力などが犠牲になる可能性があることも忘れてはいけない。
現行のデジタル放送でさえ、多くの人は2.5メートル離れると720pと1080pの区別ができないといわれている。ましてや私のように老眼&近視の人間は、4Kの高精細映像を認識するにはとてつもなくでかい画面を間近に見るといった視聴方法しかないだろう。

例えば、NHKの連続テレビ小説や大河ドラマは、地上波では1440×1080iで、BSでは1920×1080iで放送されているので、地デジで見るよりもBSで見たほうが「きれい」なはずだが、その差を感じられる人、気づいている人がどれだけいるだろうか。
オフセット印刷も同じで、200DPI以上なら精細さの差は肉眼ではほとんど区別できない。オフセット印刷の標準DPI(解像度)は350DPIなので、これを400DPIや600DPIに上げても意味がない。
なんでもかんでも解像度を上げればいいというものではないのだ。最重要なのは見ているもの(作品や情報)の質なのであって、解像度ではない。

4Kテレビが出てきた唯一のメリットは、従来解像度のテレビの値段が下がっていることくらいだろう。ただし、これも、メーカーが4Kテレビに力を入れているため、2Kテレビで基本性能を重視したよいモデルはどんどん消えていっている。その意味では、「テレビを買い換えるなら今」なのかもしれない。もちろん、複数チューナー内蔵、録画用複数HDDを接続可能な高性能2Kテレビを買うのである。

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都知事不要論──タレントに無給でやらせて政治は副知事がやれ2016/06/21 15:44

  • 2002年6月に道路関係四公団民営化推進委員会委員に就任し、多くの委員が脱落する中で、道路公団民営化に奔走。
  • 旧道路公団は債務超過だから民営化できないという既得権者の抵抗を信じず民営化を進め、毎年、道路公団に導入されていた国費3000億円をなくす。
  • 2007年4月、地方分権改革推進委員会委員に就任し、国の出先機関を整理合理化。
  • 2007年6月。副知事就任後は、参議院議員宿舎建設差し止め、北海道夕張市への職員派遣、周産期医療体制整備、少子高齢化対策、東京都水道局の海外展開、地下鉄一元化、首都直下地震対策、尖閣諸島購入の寄付金募集、東日本大震災への対応(消防庁ヘリ出動、ツイッター情報提供)、天然ガス発電所建設、東電への株主提案。
  • 特定のプロジェクトを設定し、そのために組織を横断的に活用する手法で都職員のノウハウをうまく使った。

……以上、猪瀬直樹氏の「政治家」としての実績(と言われている事例)。元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一氏の評価より)
この評価に対しては異論もあるだろうが、とにかく猪瀬直樹氏は副知事時代、「仕事をしていた感」がとてもあった。
これに対して、高慢で嫌われる人間性は似ていると思うが、舛添要一氏は都知事就任後に何をしたのか。全然印象に残っている「仕事」がない。
辞任が決まって彼の都知事としての評価をするなら「異様ともいえる巨額の海外出張費をはじめとする都の放漫経営ぶりを知らしめた」ことだろうか。

ところで、猪瀬氏にしても、石原都政の副知事時代にこそ仕事をしていた感があったが、都知事に就任してからはなんだかパッとしない。
どうも、都知事になると、セレモニー出席のような名誉行事が増えてお殿様気分になり、惚けてしまうのではないか。
都庁内部でも「知事には偉そうにふんぞり返ってもらっていて、仕事をしない人のほうがやりやすい」なんていう空気が充満する。だから馬鹿げた海外出張費も通る。このままでは知事だけでなく、都の職員、特に上層部の精神が軒並み腐敗していく一方だ。

東京都には副知事というのが4人まで就任できる。舛添辞任と同時に、今まで3人だった副知事に「オリンピック担当副知事」を増やして4人枠目一杯体制で行くことになったらしい。
副知事の給料は約122万円なので、4人だと約488万円だ。ちなみに都知事の給与は約134万円だそうだ。
であれば、実質の都政は全部副知事がトップで指揮することにして、都知事というのは警察の一日署長さんみたいなものにしたらどうか。
副知事は都職員以外のオンブズマンで構成する第三者委員会が認定する「責任感と実行力のある仕事人」を選出。
都知事は無給の名誉職で、タレントとか文化功労者みたいな人が3か月交代でやるとかにすればいい。
海外出張でのセレモニー出席、イベントでの挨拶、賞の授与式で表彰状を渡すなどなど、政治家としての資質に関係のない仕事はもちろんのこと、各施設の視察もその「名誉都知事」が無給でやる。
視察といっても、たかだか1時間かそこいらでよそ行き顔で出迎える施設を覗いたところで問題の本質は見えてこない。本当に必要な視察は、副知事以下、担当部署の責任者たちがしっかりやればいい。
名誉都知事はテレビに絵作りとして露出するから、無給であっても、タレントなどでやりたい人はいっぱいいるだろう。

東京都は他の自治体とは違って、自治体というよりは「日本国の中核システム」のようなものだ。だからこそ「知名度がないと当選できない」なんていう知事はいらないんじゃないかね。

奇跡の「フクシマ」──「今」がある幸運はこうして生まれた

7つの「幸運」が重なったからこそ日本は救われた! 電子書籍『数字と確率で実感する「フクシマ」』のオンデマンド改訂版。
A5判・40ページ オンデマンド 中綴じ版 580円(税別) 平綴じ版 690円(税別)
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新・マリアの父親

たくき よしみつ・著 第4回「小説すばる新人賞」受賞作『マリアの父親』の改訂版。
新・マリアの父親
A5判・124ページ オンデマンド 980円(税別) 
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舛添要一氏は認知症なのか──という考察2016/06/16 22:15

「舛添おろし」というよりは、一種の憂さ晴らしショーは、辞任であっさり終了らしい。
このお祭り騒ぎを、我が家では「あの人は軽度の認知症になってしまったのではないか」という見立てで眺めていた。
  • 一つのことに執着する(権力の座にしがみつく)
  • 善悪の判断がつかない(極端な公私混同)
  • 異常行動(視察の大半が美術館めぐり)
  • 脇が甘い(少額の出費をバレバレの名目で落とそうとする)
……認知症っぽいよなあ……だって、あれだけ頭のいい人間がやることにしてはあまりにもアホすぎるし……。

果たしてそうなのか? もう一度分析してみることにする。

最初に、2014年2月に、ある人から受けた質問に対して、かなりイライラしながら書いた返信のことを思い出して読み返してみた。
こんな内容だった。

舛添氏は本物の悪党、というよりも、悪党組織に魂を売り渡している小物ですね。
そのことを僕は四半世紀以上前の『朝まで生テレビ』で感じました。
原発の是非を巡って討論しているとき、彼は推進「寄り」に位置していました。自分はすべて理解している知恵者なんだという素振りで。
そのとき彼がさらっと口にした言葉がきっかけでした。
舛添氏は、反原発の論客として呼ばれていた槌田敦氏に対して、
「槌田さんのエントロピー論は本来ならノーベル賞級の、日本が世界に誇れる物理学者の仕事だと私は認めていますが……」と言ったのです。
この時点では、僕はまだ槌田敦のエントロピー論というのを知りませんでした。ですが、この舛添氏の「槌田さんはノーベル賞級の~」という一言が引っかかって、彼は何を知っているのだろうと思い、『資源物理学入門』(NHKブックス)を買って読んでみたのです。
槌田敦氏と一緒に出ていた室田武教授の『エネルギーとエントロピーの経済学』(東洋経済新報社)も併せて読みました。

とてつもない衝撃を受けました。
そうだったのか! と。
それまでもやもやしていたものがすべて、さ~~っと霧が晴れるように理解できました。

そして改めて知ったのです。舛添要一という男は、これを読んで、内容を理解した上で、ああいう行動(権力側に常につくという行動原理)をとっている人間なのだと。

彼は、「他の馬鹿な連中とは違って、俺は原発の闇を知っている。でも、現実社会ではほとんどの人間がそのことを理解できない。結果、巨大な力に利用され、呑み込まれていく。それが社会というものなんだよ。あんたがどんなに正しい論を構築して訴えても、社会はそれを理解できないんだ。正論を言えば言うほど社会の中では排除され、出世できなくなる。俺はそういう生き方はしない」と、暗に言いたかったのでしょう。
悪党に徹すればいいものを「本当は分かっているんだぜ。俺は他の連中と違って馬鹿じゃないからな」とアピールしたいというスノッブ根性が、「私は槌田敦さんはノーベル賞級の~」という余計な一言になって現れたのです。(おかげで僕は重要なことを学ぶきっかけをもらったわけですが)

つまり、彼は「分かった上で」やっている。
正義や合理性を訴えても、所詮、現実の世の中では力を持っている悪党集団に勝てるわけがない。民主主義なんてのはお題目で、民衆は馬鹿の集団なのだから、頭のいい人間は、最初から力のある悪党集団の側にたてついて一生を棒に振るようなことはしない──という行動理念で生きている。
物事の道理を理解できない政治家が悪行を働いているのとは違って、分かっているのに正しいことをしない、そういう人間なのです。

だから、今度の都知事選でも、彼は、本音としては「馬鹿ども相手で疲れるなあ」と思いつつも、都知事という権力者の椅子は悪くない、と思って出てきたのでしょう。そんな人物を都知事の椅子に座らせたらどういうことになるか……。
それでも、多くの都民は「舛添が安全牌かな」という程度の意識で舛添氏に投票する。その「安全牌」という臭いは、自分たちのせこい保守意識から出てくるわけですが、長い間瞞され、利用されてきた「自分にはなにもできない。世の中なるようにしかならない」という「おこぼれちょうだい主義」の性癖がどんどん劣化して、今や自分たちのささやかな日常さえ吹っ飛ばされる危機に面していることが察知できなくなっている。
……これが現実です。

政治の世界に最低限度まともな品格や理性を持った人間を送り込まないと、一気に最悪の道を突っ走る。「今はもう戦前ではなく戦時中だ」という警告はその通りです。
構造を変えない限り、よい方向には進まないのです。
構造を変える方向に進ませるには、現時点でどうすることがいちばん「マシ」なのか。
何が最悪なのか。
その最悪を避けるためには何をしてはいけないのか。

それをしっかり考えられないと、社会運動、市民運動も、うまく取り込まれ、権力者の延命に利用されてしまいます。

勉強しない人が熱心な運動をしているのをよく見ます。
そういう人は、読むべき本を読まず、情報を自ら分析しようとせず、自分の感性に合った(要するに「好きな」)人の言葉を直接聞こうとします。
ネット上でも「これは(自分が尊敬する)○○さんに訊いてみよう」というような書き込みをよく目にしますが、ばっかじゃないのかと言いたい。
甘い! 
それではカルト宗教信者と変わらないではないですか。

敵は物理学だけじゃなくて、人心掌握方法や扇動技術、権力への取り入り方、世の中の泳ぎ方と、あらゆることを勉強しているのですよ。すべて知り尽くした上で悪行を行っている、そういうモンスターたちなのですよ。
勉強しないウブな人間が瞞され、うまく利用されてしまうのはあたりまえではないですか。


これが2年半くらい前までの僕の舛添氏に対する評価だ。
舛添要一氏が普通のレベルからすれば相当に勉強ができるし、頭のいい人だということはほぼ万人が認めるところだろう。
ここまでうまく成り上がったのだから、世渡り術もすごい、と。
そんな人物があそこまで杜撰なことをして墓穴を掘るのだろうか? 認知症になったとしか考えられないよね……というのが我が家での会話だったのだが、考えてみると、彼がやっているような政治資金の公私混同、異常な浪費行動というのは、石原慎太郎氏や麻生太郎氏、あるいは現首相と比べてみみっちいレベルであり、そんなことで権力の座を追われるなど想像できなかったのだろう。
また、彼にとっては、自民党を離党した段階で首相への道はなくなったので、都知事というのは権力者ゲームの「上がり」であり、これ以上は頑張る必要がない。あとはこの権力の座をおいしく味わい、楽しく生きればいい。友達はいないから、趣味と家族との時間を楽しもう……そう考えての、彼にとっては正しい老後生活だったのかもしれない。となると、認知症ではなく、ただの慢心だったのかな。
法律論なんか出したって大衆は反発するだけだということくらい分かっていると思ったけれど、あれだけ滅茶苦茶な言い訳を重ねるとは、よほどの慢心、老化現象か。
「ああいえば上祐」ってのがあったけれど、「よういうよ要一」か。

認知症という病名はともかく、「病気」としか思えない政治家が多すぎる。もちろん、病人たちに政治を任せている人たちも無責任すぎる。

ここで忘れてはいけないのは、清原にしても舛添にしても、悪の本丸から目をそらせるためのツールになってしまったこと。
東京五輪誘致の贈賄事件は? 甘利氏の贈収賄事件は? パナマ文書は? ……

いちばん重い病気にかかっているのは、やはりマスメディアだなあ。


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再エネ比率の高い新電力と契約したい……という無知無理解2016/04/17 11:48

我が家もスマートメーターになったが……
我が家の電気メーターも新電力契約のためスマートメーターになった


どんな電気を使うかを選べると思うのは誤解

新電力への契約切り替え率はまだ1%に満たないらしい。
うちでは3月中にいちばん安くなりそうな(年間で1万円くらいは安くなりそうな)新電力事業者と契約を交わした。といってもネットで必要事項を書き込んで送信しただけで、紙の書類などは1枚たりともやりとりしていない。気持ちがいいほど簡単だった。
それにともない、東京電力の関係事業者が電気メーターの取り替え作業にやってきた。送電網は東電のものをそっくりそのまま使うわけで、メーターの交換も当然東電がやる。

さて、ここでヒステリックな反論を予想しつつも、重要なことを書いてしまおう。

東京新聞に、電力自由化「発電方法示して」声拡大 地方議会、政府内にもという記事が掲載された。
 東京都武蔵野市議会は3月28日、事業者に電源構成などの開示を義務付けるよう国に求める意見書を全会一致で可決し、安倍晋三首相や林幹雄経産相ら宛てに郵送で提出した。
 電源構成は原子力や再生可能エネルギー、火力など各電源からどんな比率で電力調達しているかを示す情報。意見書では「消費者は電気料金の抑制のみを望んでいるわけではなく、より安全で持続可能なエネルギーを望んでいる」と指摘する。
 電源構成が分かれば、消費者は「環境を汚染しない再生エネを選びたい」「原子力は嫌だ」「二酸化炭素(CO2)排出量の多い石炭は避けたい」など、自分の考えに合った多様な選択が可能になる。


……これは東京新聞の意見ではない。武蔵野市議会に意見書を提出したという市議会議員の意見だ。
これに類する意見はずいぶん前からネット上でもいっぱい読まされたが、最初にはっきり言おう。そんなことは妄想であり、単純な誤解、無理解だ。




上の円グラフは日本の電力がどのように発電・調達されているかの構成比だ。平成23年というのは福島第一原発が爆発した2011年。全国でまだ動いている原発があったから、原発は10%残っている。
それが2014年には原発はゼロ。その分、増えたのはLNG(液化天然ガス)と石炭。火力でも石油は減っている。水力が変わらないのは、全国の発電用ダムは増えていないし、既存の水力発電所はフル稼働しているということだろう。
水力を除く再エネ(太陽光、風力、地熱、バイオマスなど)は1.4%から3.2%に増えているが、これは政府が高額な買い取り価格を約束して、その分を電気料金に上乗せすることを合法化したからだ。それでも3.2%にすぎない。
その結果、全国あちこちでメガソーラーやら巨大風車がどんどん建ち、自然破壊や低周波による健康被害が増えたわけだが、日が照らなければ発電しない太陽光発電や、風がいつ吹くか分からないから発電予測すら立たない風力発電だけで電力を安定供給することなど不可能だし、かえって資源の無駄遣いになるということはさんざん書いてきた通りだ。風のない雨の日や夜間には、風力発電や太陽光発電の発電量はゼロである。こうしたものを増やせば増やすほど、同じ発電能力を持つ火力発電所を別に作らなければいけなくなる。
で、問題の「新電力業者の電源構成」を公開しろという話だが、例えば、自社が売る電力の6割が再生可能エネルギーであるということをPRしている事業者がある。
再エネの比率がそこまで高いということは、言い換えれば、その事業者が自社で発電している電気の総量はわずかであり、多くは提携先である大電力会社(例えば東京電力)に依存しているということを意味している。

公開すべきは「電源構成比」ではなく「自前の発電能力」

Clickで拡大
自社での発電実績が乏しくても「再エネ比率」が高いとPRする事業者を選ぶとこうなる。ちなみに再エネ比率で謳っている数字は「設備容量」だから、実際にはその数分の1しか発電できない。


上の図(クリックで拡大)は、電源構成比で再エネ比率が5%の事業者Aと60%の事業者Bがいたとして、実際にはどういうことになっているのかということを説明するために作成した。
事業者Aは一般家庭に電気を売ることができるようになった今年4月以前からPPS(新電力事業者)として企業や自治体などに電力を供給している実績があり、自社の発電所も所有して実際に発電事業をしている業者だ。この事業者Aの売電実績を100とする(事業者Aの下のグラフ)。
事業者Aの売電実績は100だが、自社発電所の発電能力は82(上のグラフ)で、足りない分の18は提携事業者(大手電力会社など)から買っている。
事業者Aが所有している発電設備のうち再エネと呼ばれるもの(ほとんどは太陽光発電)の比率は5だが、この数字は発電実績ではなく設備容量なので、実際にはその15%程度しか電気は作れない(太陽光なら夜間や曇りの日は発電できないから、当然そうなる=「設備利用率」)。発電実績のグラフで、自社の発電能力のうち再エネの分(水色の部分)が減っているのはそういう意味だ。

一方、再エネ比率が60%ですよと謳っている事業者Bは、実際には自社での発電能力は10しかない。しかし、「自然エネルギーを大切にしている事業者から電気を買いたい」という人たちからの契約を増やして、売電実績は事業者Aの倍の200に達しているとする。
となると、足りない190以上の分はすべて提携他社から供給される電気なわけで、全売電量に占める再エネの比率は5%を切ることになる。

つまり、原発の電気を使うのは嫌だから、電気代が高くついても再生可能エネルギーを中心とした事業者と契約するという「意識の高い」人が増えれば増えるほど、その新電力事業者が提携している(原発を抱えている)大電力会社が発電している電気が契約者に回されることになる。

中には、契約した新電力事業者の「電源構成比」通りの電気が自分の家に届くと思い込んでいる人もいる。送電網が今までと同じ(東京電力管内なら東電の送電網)なのだから、そんなことありえないことくらい、ちょっと考えれば分かりそうなものだろうに。
送電網に入る電気はあらゆる発電所から送られてくる電気が混ざっている。どう配分するかは発電所と消費地の距離や天候の変化などによって決まる。どの事業者と契約しようが、契約者の家に届く電気の発電元は選べない
だから、公開するべきなのは、新電力事業者がどれだけの発電実績(能力)を持っているのかというデータだ。トータルの発電能力が小さいのに「うちは再生可能エネルギーで発電しています」などと売り込んでいる業者は、PR材料としてあちこちに(優遇措置で)メガソーラーや大型ウィンドタービンを建てて、実質はほとんど提携先の大電力会社の電気を転売しているだけということになる。
もっと穿った見方をすれば、そういう業者は最初から本気で発電する気はなく、提携先の大電力会社の経営を黒子のように裏で支える取引をしたいのではないか……。

公開するべきなのは、新電力事業者がどれだけの発電実績(能力)を持っているのかというデータだというのは、こういう意味である。

火力発電施設を持たない新電力会社は無責任だ

ここでさらに注意したいのは、自社の発電能力といっているものがどんなものなのかということだ。
実際に自社で所有している発電所のことなのか、それとも全国のソーラー発電事業者などから「1円高く」買い取った電気をも「自社の発電能力」といっているのか。そこをはっきりさせてほしい。

⇒ここに、「東京電力エリアで電力供給サービスを提供している新電力事業者(PPS)の一覧(25社)」という資料がある。
数字は自己申告のようだし、いつの時点でのデータなのかもいまひとつはっきりしないが、非常に興味深い。
例えば、最新月実績で990,300 MWhを誇る「株式会社エネット」は、「直近の1年間で約12,033GWhの供給実績」があるとされているが、同時に「年間自社発電量は0 MWh」とある。これが間違いでなければ、要するに多くの提携事業者から電力を買い取ってそれを再販している大手ということだろうか。

年間1,578,674 MWhで第4位のエネオスでんきは、年間自社発電量:786,135 MWhとなっているから、それなりの規模の発電所を自己所有しているということなのだろう。

何かと話題の多いソフトバンクでんきは、年間供給力:14,356 MWhで自社発電量は0 MWh。目下、自社傘下の企業が全国にメガソーラーをどんどん建設しているようだが、例の「国が決めた買い取り価格より1円高く買い取りますよという商法」でも有名になった。

ここで「買い取る」とか「再販」といった言葉を使ってみたが、実際には各ソーラー発電設備は従来通りの送電網(10電力会社)につながれていて、例えばそれまで東電に売電していたのをソフトバンクでんきのような「1円高く買い取ります」という新電力業者に売ることにしたとしても、設備関係になんら変化はない。コンピュータ上で数字をやりとりしている中での契約変更なのだ。
これは、「一般家庭がどの事業者と契約しようが、契約者の家に届く電気の発電元は選べない」というのと同じことだ。

昨年(2015年)、 日経BP社のエネルギー専門誌「日経エネルギーNext」が「第1回 新電力実態調査」というのを実施して、その結果を発表した。
回答企業122社のうち、「送受電実績がある」と回答したのが38社、「これまで送受電実績はない」と回答したのが84社。
このうち、「自社で発電所を持っている」と答えたのは送受電実績のある38社のうちの31社(81.6%)。実績なしの84社のほうは59社(70.2%)でそれほどの差はなかったが、実績なしの59社のほうはほとんどが太陽光発電で、火力発電所はほとんど持っていなかった。
自社発電所の中身は「実績あり」と「実績なし」では大きく異なる。「実績あり」の新電力の場合、55.3%が太陽光発電を持っている一方で、石炭火力(10.5%)や石油火力(10.5%)、ガス火力(23.7%)、バイオマス発電(15.8%)、廃棄物発電(10.5%)といった火力系の発電所を併せ持っているケースが多い。
これに対して、「実績なし」の新電力は67.9%が太陽光発電を持っているものの、火力系の発電所はほとんど持っていない。つまり、電力市場に新たに参入を検討している新電力の多くは、極端な太陽光依存の状態にある。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の導入で、全国に太陽光発電所が急拡大した。つまり、新電力が急増している背景にFITがある。現在は太陽光で発電している電力を大手電力会社に買い取ってもらっているが、全面自由化を契機に自社での販売を検討する太陽光発電事業者が増えているのだ。
(2015年3月25日 日本経済新聞「本番前に淘汰開始、太陽光バブルが生んだ「新電力バブル」 」)


要するに、自分では1kwも発電をせず、株取引や為替レートのように、単に数字のやりとりだけで儲ける企業がいっぱい出てきたわけだ。

5月18日の第6回買取制度運用ワーキンググループにて、FIT電源の買取制度の一部変更が決定されました。

事の発端は、買い集めてきた太陽光発電の電気を卸電気市場に「転売」するだけで、数億円もの利益を出した企業が現れたことです。
これは、自社の火力発電の電気を市場に売るのとは訳が違います。

FIT(固定価格買取)の認定を受けた太陽光発電の電気の買い取りには、その買い取り量に応じて、新電力が負担調整機関から交付金を受け取ることができ、また、この交付金は「再生可能エネルギー発電促進賦課金」という税金を原資としています。

そのため、太陽光発電を卸電力市場に横流しするだけでは、再生可能エネルギーの普及には寄与していないため、交付金を給付する趣旨とは外れているということで、問題視されたのです。

スマートエネルギー研究会のブログ「プレミアム買取ビジネスが危うい!FIT買取制度の変更について!」より)


太陽光や風力は、日が照らない時間、風が吹かない時間は発電量ゼロである。その時間帯は火力発電からの供給を増やして調整しなければいけないから、太陽光や風力の電源構成比を上げれば上げるほど、火力発電の設備を余分に用意しなければいけないし、頻繁に火力側の出力調整をしなければならなくなる。変動幅が大きいと調整しきれずに停電する。
問題児の太陽光や風力には税金原資の再エネ賦課金をたっぷりつけて損をしないように甘やかし、実力のある火力発電には援助しない。つまり、太陽光や風力メインで参入しようという新電力会社は、税金にたかっておいしいところだけ持っていき、責任のある運用はしない。提携先の大電力会社の火力発電に頼りっぱなしという無責任経営をめざしていることになる。

健全で合理的な電気事業の再構築こそ原発廃絶への唯一の道

こういう基本的な構造を理解せず、勘違いしている人が多いのであれば、このまま新電力事業者の契約数が増えないのも、別にいいんじゃないかとさえ思う。
自前の発電所をあまり持たず、コンピュータで数字(金)をやりとりして従来の(提携業者の)発電所が作った電気を看板を変えて再販しているだけのような業者が増えていけば、健全な電力事業、電力インフラは望めない。どんどん歪んだ方向に流れていく危険性がある。

現在、日本の電気の約9割は火力発電で賄っている。そのうちの9割近くはLNGと石炭。これは、もし日本が原発を使わないという選択をした場合、当面はこういう電源構成でやっていくことになるだろうということを意味する。
2014年は原発ゼロだったが、それで困った、危機的状況になったわけではない。であれば、そのやり方をベースにして、あとはいかに効率を上げるか、環境負荷を減らしていくかという努力をすればいい。

ガス火力の効率は技術革新でどんどん上がっている。天然ガスの確認埋蔵量、可能採掘量も増えている。石炭の脱硫技術も日本は世界のトップレベルを誇っている。石油は貴重だからただ燃やしてしまうのは惜しいと思うだろうが、原油を精製すれば必ず一定の割合で出てくる重油は熱源に使う以外あまり使い道がない。
原発を輸出するなどというたわごとを言っているよりも、すでに実績のある火力発電系の技術革新にさらに磨きをかけて世界をリードしていこう、と、堂々と言えばいいではないか。
火力発電を悪者にして、二酸化炭素温暖化説などという全世界的経済詐欺手法のお先棒を担いできた背景には、原発ビジネスをなにがなんでも守るという意図があったことを忘れてはいけない。

原子力ムラの利権族は、反原発運動を原発維持や再生エネルギー詐欺という新たな利権構築に利用することに成功している。
これ以上騙されてはいけない。
本気で原発をやめさせるには、こうした間違いだらけのシステムをひとつひとつ正していくことが必須なのだ。
何度もいってきたように、総括原価方式と再エネ賦課金などの不公正な補助金をやめさせれば、原発は維持できず、なくなる。
あとは、現在の再エネ賦課金同様に、電気料金の領収書・計算書には「原発後始末負担金」として廃炉や事故賠償金の分を我々がどれだけ負担しているかを明示すればよい。そうすることで、ようやく日本国も日本人も、自分たちが犯した間違いを認識し、将来の世代への責任を果たしていく意識を少しでも持つようになるかもしれない。


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少子化問題・人口減少社会の正しい?解釈とは2016/04/07 22:41

ダイヤモンドオンラインの、日本劣化は避けられるか? 「人口減少社会」の誤解と真のリスク ――松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授
同氏の 未曽有の人口減少がもたらす 経済、年金、財政、インフラの「Xデー」 がとても示唆に富んでいたので、自分のための備忘録として内容をまとめてみる。

最初の「人口減少社会」の誤解と真のリスクでは、まず、現在、日本の人口が減っていることに対する多くの国民の誤解についてまとめている。

  • これまでの人口減少の主因は「少子化」ではなく、「死亡者の急増」。日本が戦争に向かって突き進んでいた1920~40年頃の「産めよ、殖やせよ」政策で生まれてきた人たちが1980年代後半以降、死亡年齢に達し、年を追って大量に亡くなったことが主原因。
  • 戦争や疫病などの社会的事件によって若い世代が亡くなっているわけではないので、ある意味それほど深刻な人口減少ではない。
  • 地方の人口減少も、「東京に若者がどんどん出て行ってしまうため」というより、地方に大量にいる高齢者が次々と亡くなっているから。
  • 「少子化」が人口減少の「主因」ではない以上、今の人口減少現象は避けようがない。
  • 高齢化の「主因」も少子化ではない。「長寿化」が主因。出生率が低下しなくても、高齢化は進行する。これを止める手立てはない。

……こう指摘した上で、しかし、「団塊世代」が死に終わった後の死亡者数はピークを越えて横ばいになるので、それ以降の人口減少は出生数が減少し続けることで起きる、と説明している。

ちなみに長寿化の説明で、
1950年の平均寿命は61.3歳(男女平均)でしたが、2010年の平均寿命は83.01歳と、たった60年の間に20歳以上も寿命が延びています。
とあるけれど、1950年(戦後5年目)の平均寿命が61歳だったというのは、戦争でとてつもない数の人が死んでしまったからだから、一概に「異常な長寿化」とも言えないと思う。

また、松谷氏は次に、日本が中絶大国になったことが子供を産める女性人口の激減につながったといった主旨のことを書いているが、これもすべて鵜呑みにはできない。
現在の日本の中絶率は、医学界の推計によると52%にも上ると言われます。

という記述にしても、裏付けられる資料などは見つけられなかった。
ただ、この裏付け資料を探している中で、非常に興味深いデータを見つけた。
僕が生まれた1955年の出生数は173万0692人。中絶数は117万0143件。生まれてくる可能性のあった胎児は約290万人で、そのうち117万が中絶されているのだから、割合は約40%にもなる。闇の中絶はカウントされていないだろうから、実際には半数以上の胎児が中絶されたと考えられる。
僕が生まれた1955年当時は、母親の胎内に宿っても「親に生んでもらえる確率」は半分しかなかったのだ。
これが2009年だと、出生数が106万9000人に対して中絶数は22万6878件。約21%。闇中絶の数は1955年当時に比べれば激減しているだろうから、多く見積もっても22%くらいだろう。だから、50年あまりの間に中絶率は半分(以下?)に減ったことになる。それでも、出生数の2割以上の中絶が「正式に」カウントされているというのは驚きだが……。
中絶件数のデータは総務省統計局のものを見て確認したので、間違いはないと思う。

性の乱れが進んでいると言われるが、実際には戦後まもなくのほうがはるかに妊娠に対する考え方が緩かったというか、罪の意識が薄かったのではないか。
実際に、母親の話なんかを聞いていてもそう感じる。
かつては「足入れ婚」と言って、婚姻届を出さない前に夫の家に女性が入るような習慣が全国的にあった。嫁を即家庭内労働力として必要とした農家に多かったという話もあるが、「1年しても子供ができなかったら婚約解消」「嫁としてちゃんと仕事をこなせるかどうか試す」といった「お試し期間」を設ける意味合いも強かった。
その結果、婚姻届を出す前に妊娠したものの、夫(になるべき男性)が逃げてしまって母子家庭になったり、中絶したりといったケースも多かった。親戚にもそうした実例がある。

現代では「できちゃった婚」が増えていて(これはデータとして確か)、これも若い世代の性の乱れだのなんだのと言われるが、むしろ逆じゃないかという見方もできる。出生率が低下している中でできちゃった婚の赤ん坊が増えているだけ。しかも、中絶しないで、経済的に苦しくても結婚しようというのだから、むしろ親として人間としてはまともではないか、と。

話がだいぶ脱線してきたが、松谷氏のこのコラムの最後には注目すべき指摘がある。

  • 合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子どもの数)が2を割ると人口減少につながるが、日本では2013年時点で1.4台。しかしこれは「女性が子どもを生まなくなったせい」ではない。
  • 既婚女性(有配偶者女性)だけに限った出生率は足もとで2.0台で、1970年代から変わっていない。既婚女性は生涯に平均2人の子どもを産んでいて、むしろ微増傾向にある。
  • なのに女性全体の出生率が下がるのは、結婚をしない女性や「子どもを持たない」と決めた女性が増えているから。実際、2010年の国勢調査によれば、女性の生涯未婚率(49歳を越えて未婚の女性が対象)は10.61.%に上っている。
  • この傾向がどんどん進んで、仮に「2040年には3割の女性が未婚」という事態になれば、残り7割の既婚女性が生涯3人の子供を産まなければ女性全体の合計特殊出生率2台は実現できない。これはおそらく不可能。

……と説明した上で、
日本人はこれから、人口減少社会を前提に考えて生きて行かなくてはならない。人口が減っても、子どもが減っても、引続き安心して豊かに暮らせる社会をつくっていくほうに、目を向けるべきなのです。

……と結論づけている。

途中の解釈や説明に??という箇所がいくつかあるものの、「人口が減っても、子どもが減っても、安心して豊かに暮らせる社会を作らなければいけない」という結論はその通りだ。

で、その方法について、別稿で論じていて、そっちのほうが興味深かったのだが、長くなるのでそれはまた次の項で……。

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日本企業の劣化2016/04/07 22:34

ダイヤモンドオンラインの「日本企業は劣化したのではなく、もともといい加減だった」(山崎元のマルチスコープ)という記事がちょっと話題を集めている。
「立派だ」とされていた日本企業のあちこちで、急激な「劣化」が起こっているように思えてならない。
という話から始まり、
  1. 日本企業はもともとひどかったのだが、それが近年、見つかりやすくなっただけではないか
  2. 仕事に対する「やる気」自体があちこちの現場で低下していて、かつてなら「常識だろう」と思うレベルで実行されなくなってしまう事例が頻発しているのではないか

……という2つの仮説を展開している。

1つ目については、
「日本企業」が特に悪かったり、劣化したりしたわけではないのではないか。そもそも、「企業」というものは、世界的にいい加減なものなのだと考えることが妥当なのではないか。

と言っている。
まったく同感だ。
大企業だからしっかりしている、なんていうのは錯覚・幻想であって、規模の大小に関係なく、企業なんてものはしょせんいい加減なものなのだ。
ガバナンスが進んでいたはずのアメリカの企業にあっても、共に意図的な巨大粉飾事件と言うべき、エンロン事件もあればワールドコムの問題があった。また、ネットバブルの時代も、サブプライム問題から金融危機に至る時期も、多くの大手金融機関でガバナンスがまともに機能していたとは言い難い。金融業界の「プレーヤー」にとって、顧客もカモだったし、自分が勤める会社の株主(資本家!)もカモだった。合法的だが半分詐欺のようなビジネスが、彼らの高額報酬の裏に存在した。

その後、日本にもコーポレート・ガバナンスのアメリカ的強化を良しとする「風」が吹いた(企業統治で商売したい人々や、社外取締役の天下り先を作りたい官僚などが自分に都合良く感化されたのが実態だろうが)。委員会設置会社などという大袈裟な仕組みを持つ企業が登場したが、ガバナンス優等生とされた、東芝やソニーがどうなったかは、読者がご存じの通りだ。


2つ目については、こう指摘している。
仕事の意義を押し付けつつ、仕事の成果によって金銭的な報酬の差を少々つけると焚きつける、日本企業の多くが導入している「成果主義」は、「所詮仕事はカネのためなので、カネ相応に働けばいい」という気分につながって、現場に関わる社員たちのインセンティブを、かえって劣化させているのではないだろうか。

「お金をたっぷり支払う」ことを現場単位まで導入する資力は日本企業にはなさそうだ。さりとて、報酬が仕事のインセンティブとして大きな意味を持たないような世界で、「仕事」に対するプロフェッショナリズムに基づく緊張感を鍛え直すのも、難しそうだ。

次善の策としては、せめて経営トップ層が、報酬水準も含めて現場の社員ともっと近づくことだが、彼らは、当面、「ROE(自己資本利益率)」や「ガバナンス(企業統治)改革」を旗印に、お友達の社外取締役を味方につけて、自分たちの報酬水準を上げつつ企業を経営することに忙しい。


……う~ん、困ったね。

現場の実態はこうなのに、日本人の多くは未だに「技術大国日本」神話や「寄らば大樹の陰」という生き方原理を信じている。
じゃあ、どうすればいいのか……。
この記事(コラム)では有効な具体策までは提示していない。
少しでもマシな解決策を提示している記事を他の人のものに見つけたのだが、それはまた次にて……。

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