『阿武隈裏日記』を改題しました。
たくきの日記はこちらからお入りください

3万円の手作りクッキー2018/04/22 18:42

「ナイナイのお見合い大作戦!」という番組を見た。最後に女性たちが手に手に小さな包みや箱を持ち、「私が焼いたクッキーです。受け取ってください」みたいな感じで男性に差し出すシーンで、微妙な違和感を覚えた。男性が女性に、のときは全員が花束だったなあ。女性が男性に、の場合はクッキーとかなのか……。

手作りクッキーは特別なものである。愛情を込めて、大切な人のために焼く。
手作りクッキーを「食べてください」と渡される人は幸せだが、世の中には手作りクッキーをもらえない人もいっぱいいる。
そういう人はお金を出して市販のクッキーを買ったりする。地位のある人は、自分が買わずとも、人が高価なクッキーを買ってくれることもある。
でも、市販のクッキーは大量生産のコピーで、手作りクッキーとは違う。味がどうのという問題ではなく、「違う」。
だからみんな、手作りクッキーが好きだし、手作りクッキーを欲しがる。

ケースF:
「お忙しそうですね……」
「いろいろ大変だったけど、これからがウンコだから。手作りクッキーちょうだい」
「ダメですよ。ここはお仕事の場ですから」
「そんなに仕事したいんだ~。じゃあ、おうち行っていい?」
「そういうの、ほんとやめてください」
「きみんち行って、手作りクッキー食べて、ウンコして、クローズアップ現代見て、寝るか~?」

ケースY:
「手作りクッキー、お好きなんですか?」
「そうだね。でも、焼いてくれる人いなくてね」
「お寂しいですね」
「きみが焼いてくれる?」
「材料費と手間代で3万円いただければ」
「いいよ。じゃあ、それでお願いするよ」

さて、この2つのケースを、同じ「手作りクッキー」の話として同列に語っている人がいるが、全然違う話だと思うよ。



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ホリエモン、籠池夫妻、貴乃花の共通点と相違点2018/02/06 14:30

12年前の戌年の今頃、メディアはホリエモン逮捕のニュースで埋め尽くされていた。ワイドショーは連日そのことを大きく取り上げて、人びとは嫌でも彼の顔を見せられた。
そのときAIC(朝日新聞デジタル版のコラム)に書いたものが⇒ここに残っていたので読んでみた。
一部抜粋してみる。
今回の逮捕につながった直接の違法行為は、主に「粉飾決算」と「風説の流布」ということらしい。
粉飾決算というのは、まずいことになっている実態をごまかして、大丈夫ですよ、心配いりませんよと思い込ませるために嘘をつくことである。
例えば、国民年金を破綻させた社会保険庁がさんざんやってきたこともこの類のことであろう。
風説の流布というのは、自分の都合のいいように嘘の情報を流して世の中の流れをミスリードすること。アメリカ政府がやった「イラクには大量破壊兵器が……」という嘘情報などはまさにそれだろう。
「気持ち悪さの正体」 2006年1月31日にAICに掲載)
どう考えてもおかしいよな、と分かっていても、相手が大きすぎると、自分の日々の生活には関係のない話のように感じて、いちいちムキになって反応しない……これは仕方のないことかもしれない。
で、このコラムではこう続く。
昔から「ひとり殺せば殺人犯だが、千人殺せば英雄」という言葉がある。
ホリエモン逮捕のニュースと、それを報道する姿勢に対して我々が抱く気持ちの悪さの正体は、そこにあるような気がする。
つまり、「小物がスケープゴートにされた」ことをみんな内心では感じているのだが、日頃の鬱憤を晴らすために、ついつい「そらみたことか」「真面目に生きなきゃダメだよ」と反応してしまう。今のホリエモンは、ガス抜きの「安全弁」なのだ。

もっともっと巨大数のインチキ、大規模で悪質な嘘を操る力には所詮逆らえない
嘘のうまい大統領や総理大臣は、そのことで罪を問われることはない。
国民から強制的に集めた金を滅茶苦茶に運用し、とんでもない損失を出した役人のトップもまた、そのことで罪に問われることはなく、死ぬまで使い切れないような巨額の退職金をもらって老後を暮らしている。
この国には、そこにズバッと切り込むメディアも存在しない。これから先も、期待できない。
だから、せいぜいホリエモン逮捕で憂さを晴らしておく。そんな自分の矮小さを、みんな心のどこかでは分かっている。
「やっぱりね」「遅すぎたよね」「こんなことが許されていいはずがないよね」などと言いながらも、いまひとつカタルシスを得られない理由はそこにある。

二宮清純氏がこう言っていた。
「ホリエモンは、すべての人の心の中に存在している負の姿。彼を見ていると、見たくない自分自身の嫌な部分を見せつけられているようで、気持ちが悪くなる」
まさにその通りだろう。
ざまあ見ろ、と言えば言うほど、じゃあ自分はどうなの、という心の声が聞こえてくる。

あれから時が一回り。12年後の今はどうだろう。
テレビをつければ相撲協会の不祥事と貴乃花の理事選落選なんて話に異常な時間を使って垂れ流している。ホリエモンと貴乃花ではまったく性格は違うが、人びとに一種のガス抜きショーを与えるスケープゴートにされている点では似ている。
その意味では籠池夫妻も同じ役割をしていた。
常人とは違う特異なキャラクターの持ち主が、倫理観をなくした権威集団、利権集団に刃向かった末につぶされる図を見て面白がる。
でも、そのドラマは鞍馬天狗や水戸黄門や仮面ライダーみたいなシンプルな構造ではない。
下世話な興味で見てしまうが、どう展開したところでカタルシスは得られない。

「これだけテレビが食らいついてアンチキャンペーンを張るということは、相撲協会には強力な安倍友がいないということだ」という卓見を聞いた。
なるほど。
ホリエモンにも政権内に友達はいなかった。籠池夫妻は途中から切り捨てられ、今は危険な邪魔者として留置所に異常な長期間拘留されている。ちなみに貴乃花親方が
「国家安泰を目指す角界でなくてはならず“角道の精華”陛下のお言葉をこの胸に国体を担う団体として組織の役割を明確にして参ります」(AERA dot.「貴乃花親方が池口恵観氏にあてたメール全文」より)
などと書いた手紙を送った相手である池口恵観氏は、安倍晋三はじめ多くの政治家と親交があることから「永田町の怪僧」と呼ばれているそうだ。
貴乃花と安倍官邸は直接のつながりはないかもしれないが、共通のお友達(師匠?)はいるということなのだろうか。
さらには、貴乃花親方が理事選で二票しかとれずに落選した直後、笑顔で節分の豆まきをする姿がテレビに映し出されていたが、あの豆まきをしていた場所は宇治市の龍神総宮社という宗教法人だ。
「龍神総宮社は、天のご使命を持って御誕生された辻本源冶郎祭主先生により、作られた宗教法人です。平成6年3月に祭主先生が天上界に御帰魂された後も、その御尊志は御長子である辻本公俊 祭主先生に継承され、祭事が執り行われております。」(同社WEBサイトでの紹介文)

その少し前は、弟子の貴公俊が十両昇進を決め、一足早く十両になっている貴源治とともに「史上初の双子関取」が誕生したことも報じられたが、この二人の四股名は、先の龍神総宮社の紹介文にも書かれているように、同社の創始者と現祭主の名前からとっている。
貴乃花は昔から霊能者だの占い師だの教祖だのといった人たちへの傾倒が激しく、右傾化、カルト化しやすいことでいろいろ話題を提供してきたが、その危うさは今も変わらない。
その点で、単純なお金信奉者のホリエモンの時よりも全体の関係図が少し複雑になって、モヤモヤ感が増してはいる。
ともあれ、「安倍友パワー」がないらしい相撲協会でさえ、結局は守旧派温存、誰も責任を取らないで済んでしまうということが分かって、ドラマを見させられていた国民はますます白けてしまった。

思えば、ロッキード事件とかハチの一刺しの頃は、政界ドラマも派手だった。
今は、籠池夫妻のような格好のテレビ向きトリックスターが出てきても、存分に活躍?させることなく、ちょろちょろと水をかけて消火してしまう。
どれだけまずい証拠が出てきても政権は安泰。逮捕状が出ている容疑者を逮捕寸前に上からの命令でもみ消す。
誰の目にも「悪」「不正」「不条理」であると映ることが、大した知恵も実行力もない権力機構に取り込まれ、かき混ぜられ、薄められ、なんとなくうやむやのままになっていく。そんな国であることを、国民が選んでいる。
その貧乏くささや張りのなさが、今の弱った日本の姿そのものなのだなあと思うと、どうしても気が滅入るのだよなあ。



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死ぬ夢は見ても殺される夢は見ない2018/02/02 22:14

雪明かり
先日、夜中に久しぶりに「死ぬ夢」を見た。
どういう状況で死ぬのか、思い出せないのだが、何か黒くて四角い巨大なアイコンというかスイッチのようなものが目の前にあって(垂直ではなく、地面の上に置いてあるような感じ……そのへんはっきりしない)、そこに乗るだか触れるだかした瞬間、あ! これで死ぬんだ! とはっきり分かり、思わず軽い悲鳴を上げて目がさめた。
毎晩、寝るときには「このまま目がさめなければいいかもしれない。そんな死に方ができたら最高だ」と思いながら、す~っと眠りに落ちるのだが、寝ている最中はまだまだ死への恐怖、生への執着があるのだと実感した一瞬だった。

心身ともに疲れて、ああ、睡い、身体が重い、このまます~っと死ぬならそれでいい……と思うような死に方ならいいのだが、気持ちが伴わないままで、突然死を突きつけられるのはやはり怖いのだな。

しかし、考えてみると、「死ぬ夢」は見ても、「殺される夢」というのは見た記憶がない。見ているのかもしれないが、覚えてない。銃で撃たれたり、ナイフで刺されたり、刀で斬られたり……そういう夢は見たことがない(と思う)。それだけ平和な時代に生きているということだろうか。
これが戦国時代や戦時中なら、絶対に「殺される夢」を見るのではないだろうか。

たまに見る死ぬ夢のうち、いちばん多いのは高いところから落ちるというもの。あ、ここから落ちたら絶対に助からない。あと1秒か2秒で死ぬのだ……と思って、恐怖のうちに目がさめる、というパターン。
死ぬ準備ができていないままの死は怖い。

目がさめてから思った。
まだ生きる気満々じゃん、俺って。やることはいっぱいある。それを人から評価されるかどうかはどうでもいい。自分の価値観に従って生きられるだけでも、奇跡のような幸運、幸福ではないか……と。



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投票前から事実上当選している候補者が70人2017/10/11 18:27

コラージュではないそうだ。落語か!

投票前から事実上当選している候補者が70人

昨日、衆院選が公示された。
名づけるなら、「証拠隠滅解散」からの「逃げ恥選挙」というところだろうか。
総理大臣が「完全人払い」をしてブロックアウトした農地の前で公示後第一声を上げるなど、まるで落語のようなことになっているが、こんなひどいことになっても、選挙後はしっかり自公で300議席、希望と維新を合わせた「改憲勢力」が軽く8割を超えそうだという予測もある。
愚痴っていても身体に悪いだけなので、ここは少し視点を変えて、「選挙で政治家は選べるのか?」というテーマを扱ってみたい。

現在、日本の衆議院選挙は「小選挙区比例代表並立制」と呼ばれる形態で、小選挙区289と全国を11ブロックに分けた比例区176の合計465議席を選挙によって決める。
比例区は政党名で投票され、政党が獲得した票数の割合で分配された議席数によって、政党があらかじめ提出した候補者名簿の上位から順番に当選していく仕組み。
政党はその届け出名簿に掲載する候補者に順位をつけなければならないが、小選挙区にも立候補している候補者の場合、同一順位で掲載し、小選挙区での惜敗率(当選者の得票の何割に迫ったか)の高い順に当選させるということができる。
多くの政党では候補者への公平を期すため、小選挙区との重複立候補者には同一順位をつけるが、公明党や共産党はすべての候補者に順位をつけている。
また、自民党などの他党でも、小選挙区には立候補させず、単独1位や2位で比例区のみに立候補させたり、重複立候補者にも順位をつけて特定候補を確実に当選させようとするブロックもある。
例えば、比例区九州ブロックの自民党は、

  1. 園田 博之(75 前 10 元・官房副長官)単独1位
  2. 宮路 拓馬(37 前 1 元・総務省職員)単独2位
  3. 今村 雅弘(70 前 7 元・復興相)単独3位
となっていて、前回8名を当選させている自民党の上位3位までの単独順位候補者であるこの3名は、名簿に登載された時点で事実上当選が決まっている
今村候補は、復興相として記者会見の際に記者に暴言を吐いて名をはせた人物だが、「あんなとんでもない人間を議員にさせておくわけにはいかない」と思っても、選挙で落選させるわけにはいかないわけだ。

候補者名簿が出揃ったので、今回の選挙で「すでに当選している候補者」たちのリストを作成してみた。
(  )内は左から年齢、前職・元職・新人の別、当選回数、主な経歴……である。
2017衆院選 投票前から当選が決まっている候補者一覧 ★比例区で単独1位、2位、3位で名簿掲載されている候補者のうち、2014衆院選の比例区結果からすでに「当選している状態」の候補者

■北海道(定員8)

自由民主党:

  1. 渡辺 孝一(59 前 2 党総務副部会長)単独1位
  2. 鈴木 貴子(31 前 2 元NHK職員)単独2位
 前回当選者は3名。鈴木宗男の娘はすでに事実上当選。

 

公明:

佐藤 英道(57 前 2 元農水政務官)単独1位
 前回当選者1名

 

共産:

畠山 和也(46 前 1 党中央委員)単独1位
 前回当選者1名
 
 

■東北(定員13)

自民:

江渡 聡徳(62 前 6 元防衛相)単独1位
 前回当選者5名

公明:

  1. 井上 義久(70 前 8 党幹事長)単独1位
  2. 真山 祐一(36 前 1 党青年副委員長)単独2位
 前回当選者2名

希望の党:

寺田 学(41 前 4 元首相補佐官)単独1位
この人は、2010年6月、史上最年少で内閣総理大臣補佐官に就任し、菅内閣・菅第1次改造内閣・菅第2次改造内閣・野田第1次改造内閣・野田第2次改造内閣・野田第3次改造内閣で務めた(Wikiより)。つまり旧民主党、民進党の内実や民主党政権時代の官邸内情報を知る人物。そういう人物が希望の党に重用された点に注目すべきだろう。

立憲民主:

  1. 岡本 章子(53 新 元・仙台市議)単独1位・宮城1区重複
  2. 山崎 誠(54 元 1 元・横浜市議)単独2位
  3. 阿久津 幸彦(61 元 3 元・内閣府政務官)単独3位
 前回民主党として4名当選。岡本候補は東北ブロックの立憲民主党唯一の候補なので、単独1位は不自然ではない。

共産:

高橋 千鶴子(58 前 5 党中央委員)単独1位
 前回1名当選


■北関東(定員19)

維新:

青柳 仁士(38 新 元・国連職員)単独1位・埼玉4区重複
 前回3名。青柳候補は、前回、前々回は比例復活も果たせずに落選。今回、豊田真由子候補と同じ選挙区ということで、選挙区はマスコミに注目されているが、なぜこの人だけが他の4人の重複立候補者を差し置いて単独1位になっているのか不思議。

公明:

  1. 石井 啓一(59 前 8 国土交通相)単独1位
  2. 岡本 三成(52 前 2 外務政務官)単独2位
  3. 輿水 恵一(55 前 2 党遊説局長)単独3位
 前回3名

共産:

塩川 鉄也(55 前 6 党中央委員)単独1位
 前回2名なので、梅村 早江子(53 前 1 党准中央委員)単独2位・埼玉15区重複も極めて有力。


■東京(定員17)

公明:

  1. 高木 陽介(57 前 7 党幹事長代理)単独1位
  2. 高木 美智代(65 前 5 厚生労働副大臣)単独2位
 前回2名

共産:

  1. 笠井 亮(65 前 4 党政策委員長)単独1位
  2. 宮本 徹(45 前 1 党中央委員)単独2位・東京20区重複
 前回3名

維新:

木村 剛司(46 元 1 元・墨田区議)単独1位
 前回3名(今回も3名立てているが、前回ほど維新に票が集まるとも思えないので……)


■南関東(定員22)

自民:

宮川 典子(38 前 2 文部科学政務官)単独1位
 前回8名

公明:

  1. 富田 茂之(64 前 7 党幹事長代理)単独1位
  2. 古屋 範子(61 前 5 党副代表)単独2位
  3. 角田 秀穂(56 前 1 党千葉県副代表)単独3位
 前回3名
 

共産:

  1. 志位 和夫(63 前 8 党委員長)単独1位
  2. 畑野 君枝(60 前 1 党中央委員) 単独2位・神奈川10区重複
 前回3名なので単独3位の斉藤 和子( 43 前 1 党准中央委員、千葉13区重複)も有力。


■東海(定数21)

公明:

  1. 大口 善徳(62 前 7 党国対委員長)単独1位
  2. 伊藤 渉(47 前 3 党愛知県代表)単独2位
  3. 中川 康洋(49 前 1 党三重県代表)単独3位
 前回3名

共産:

  1. 本村 伸子(45 前 1 党准中央委員)単独1位
  2. 島津 幸広(61 前 1 党准中央委員)単独2位
 前回2名

維新:

杉本 和巳(57 元 2 党県代表代行)単独1位・愛知10区重複
 前回3名なので、単独2位の喜多 義典(50 新 党事務局長代理)も有力か


■北陸信越(定数11)

自民:

山本 拓(65 前 7 元・農水副大臣)単独1位
 前回5名

公明:

太田 昌孝(56 新 党長野県代表)単独1位
 前回1名
 

共産:

藤野 保史(47 前 1 党中央委員)単独1位
 前回1名
 

立憲民主

  1. 西村 智奈美(50 前 4 元・厚労副大臣)単独1位・新潟1区重複
  2. 松平 浩一(43 新 弁護士)単独2位
 前回民主党として3名


■近畿(定数28)

公明:

  1. 竹内 譲(59 前 4 元・厚労副大臣)単独1位
  2. 浮島 智子(54 前 2 (元)環境政務官)単独2位
  3. 浜村 進(42 前 2 党青年副委員長)単独3位
  4. 鰐淵 洋子(45 新 元・参院議員)単独4位
 前回4名
 

自民:

奥野 信亮(73 前 4 総務副大臣)単独1位
 前回9名

維新:

森 夏枝(36 新 党府女性局長)単独1位・京都3区重複
 前回8名。なぜこの人だけが重複なのに単独1位になっているのか? 京都3区に超大物が出ているわけでもないのに……
 

希望:

  1. 樽床 伸二(58 元 5 元・総務相)単独1位
  2. 井上 一徳(55 新 元・防衛省職員)単独2位・京都5区重複
 ここもなぜ井上氏だけが単独2位? ちなみに京都5区は候補者5人全員が新人なのに

共産:

  1. 穀田 恵二(70 前 8 党国対委員長)単独1位・京都1区重複
  2. 宮本 岳志(57 前 3 党中央委員)単独2位
  3. 清水 忠史(49 前 1 党准中央委員)単独3位・大阪4区重複
  4. 堀内 照文(44 前 1 党准中央委員)単独4位・兵庫8区重複
 前回4名。穀田氏は原発の全電源喪失危機を国会で早くから指摘していた理系のインテリで国会には是非とも必要な人材だが、確実に比例区で当選できるのだから、京都1区に立つ必要があるのだろうか。
前回京都1区の当選者は伊吹文明(自民)で、穀田氏は2位。惜敗率は72.4%。3位の維新候補者と合わせた票数は伊吹候補を軽く上回っていた。であれば、伊吹候補を倒すためには、出ない、もしくは立憲民主から1人立てて共産は応援に回るという手もあったのではないか。そのほうが反自民票を上乗せできたかもしれない。


■中国(定数11)

公明:

  1. 斉藤 鉄夫(65 前 8 党幹事長代行)単独1位
  2. 桝屋 敬悟(66 前 7 元・厚労副大臣)単独2位
 前回2名

維新:

灰岡 香奈(34 新 元・和木町議)単独1位・広島2区重複
 前回1名。ここも不思議。

共産:

大平 喜信(39 前 1 党准中央委員)単独1位
 前回1名
 

■四国(定数6)

自民:

  1. 福井 照(63 前 6 元・文科副大臣)単独1位
  2. 福山 守(64 前 2 元・環境政務官)単独2位
 前回3名

公明:

石田 祝稔(66 前 7 党政務調査会長)単独1位
 前回1名

立憲民主

武内 則男(59 新 元・参院議員)単独1位(1人しか立っていない)
 前回民主党として1名。前回は自民党が547,185票で3名、民主党は326,803票で1名だったが、もう少しで2名までいけた。今回、比例区に1人だけでいいのか? 弱気すぎないか?


■九州(定数20)

自民:

  1. 園田 博之(75 前 10 元・官房副長官)単独1位
  2. 宮路 拓馬(37 前 1 元・総務省職員)単独2位
  3. 今村 雅弘(70 前 7 元・復興相)単独3位
 前回8名。九州の自民党は強い。記者会見室で逆ギレしたあの人も、選挙をする前から当選している。

希望:

中山 成彬(74 元 7 元・文部科学相)単独1位
 極右のシンボル的人物は希望の党という看板も得て、選挙をする前から当選。

公明:

  1. 江田 康幸(61 前 6 元・環境副大臣)単独1位
  2. 遠山 清彦(48 前 3 党国際局長)単独2位
  3. 浜地 雅一(47 前 2 党福岡県代表)単独3位
 前回4名なので、4位の吉田 宣弘(49 前 1 党国対副委員長)も有力

共産:

  1. 赤嶺 政賢(69 前 6 党幹部会委員)単独1位・沖縄1区重複
  2. 田村 貴昭(56 前 1 元・北九州市議)単独2位・福岡10区重複
 前回2名



公明党と日本共産党は組織が強固で、組織内の序列もはっきりしているので、昔から比例区ではきっちり順位をつけて「絶対に当選させる議員」というものがいた。今に始まったことではない。
注目したいのは、自民、立民、希望、維新など、基本的には重複立候補者を全員1位にして公平を期している党で、単独1位、2位になっているケースだ。
抜き出してみると、

自民:
  • 渡辺 孝一(59 前 2 党総務副部会長)
  • 鈴木 貴子(31 前 2 元NHK職員=鈴木宗男の長女)
  • 山本 拓(65 前 7 元・農水副大臣)
  • 奥野 信亮(73 前 4 総務副大臣)
  • 福井 照(63 前 6 元・文科副大臣)
  • 福山 守(64 前 2 元・環境政務官)
  • 園田 博之(75 前 10 元・官房副長官)
  • 宮路 拓馬(37 前 1 元・総務省職員)
  • 今村 雅弘(70 前 7 元・復興相=記者に「出ていけ」と逆ギレした人)

これは典型的に「優遇」されている例。

希望:
  • 中山 成彬(74 元 7 元・文部科学相)
  • 寺田 学(41 前 4 元・首相補佐官)
  • 樽床 伸二(58 元 5 元・総務相)
  • 井上 一徳(55 新 元・防衛省職員)

希望の党は「抱え込みたい人材」を優先している印象を受ける。

維新:
  • 青柳 仁士(38 新 元・国連職員)
  • 木村 剛司(46 元 1 元・墨田区議)
  • 杉本 和巳(57 元 2 党県代表代行)
  • 森 夏枝(36 新 党府女性局長)
  • 灰岡 香奈(34 新 元・和木町議)

維新がこれらの人たちを優遇する理由はよく分からない。上にとって覚えのよい人たちということだろうか。

分かりやすいのは立憲民主党で、東北ブロックの単独1位岡村候補、北陸信越ブロックの西村候補の2人は、どちらもそれぞれのブロックに入る小選挙区で唯一の立憲民主党公認候補だから、この2人を単独1位にするのは自然なことであり、不公平感はない。

いずれにしても、投票前から事実上当選している状態の候補者が70名前後いるという事実を、有権者は知っておく必要があるだろう。





日光東照宮の修復作業がひどいという話(3) 陽明門2017/09/02 20:32

陽明門って「日本」じゃないよね




さてさて、ここまできたら国宝・陽明門についても言及せざるをえない。
上の写真を見て、「素晴らしい! さすがは国宝だけある」と感心する人がどれだけいるだろうか。これだけ見たら、中華街の看板かなと思うのでは?
中国にディズニーランドもどきの遊園地ができたときのような「なんだこれ感」といったら、さすがに怒られるだろうか。でも、何度見ても、そういう印象しかない。
そもそも陽明門のテイストや題材は中国そのものであり、当時の殿様がいかに中国、あるいは(中国文化を取り入れた)宮中文化に憧れていたかが分かる。アートを理解していない金持ちの家を訪ねると、庭には石灯籠とミロのビーナス像があって、玄関入ると竜の置物やら巨大な切り株に漆を塗ったやつとかが雑然と飾られている……という光景はよくあるが、そういうのに近い感覚を覚える。
中国テイストでも、一つ一つのモチーフがよく出来ているというならまだいい。しかし、どう見てもこれは違うだろう。
上の獅子↑を見ても、明らかにデッサンがおかしい。こんな前脚ありえないでしょ。
誰が見ても「稚拙」でしかないのだが、陽明門はれっきとした国宝なのである。



修復時の彩色が下手だの色が鮮やかすぎるだのという話ではない。もともとの彫刻が下手すぎるのだ↑ この獅子などは、歯(金歯)の補修もおかしいが、もとの彫りそのものがよろしくないから、どう頑張って彩色したところで国宝にふさわしい深みや凄みは出せないだろう。




う~ん、そうかのう……



ディスられてるよ、俺たち。てへぺろ



歯並びもネイルチップも、こんなのありえな~い


では、なぜ陽明門は国宝なのだろうか?

いろいろ調べているうちに、非常に興味深い論文を見つけた。
東京工業大学付属図書館の学位論文アーカイブの中にあった「古社寺保存法時代の建造物修理手法と保存概念」(平賀あまな 2001年)という論文。
ものすごい力作論文で、分厚い本一冊くらいの分量がある。非常に興味深い内容で驚かされたのだが、引用されている資料も旧仮名遣い文語体がほとんどで、全部読むのは大変なので、ここではそのごくごく一部を、内容をあまり変えないようにコンパクトにしつつ紹介したい。

まず、日光東照宮の修復は、江戸時代は20年に1度くらいのペースで小まめにやられていたようなのだが、明治以降はそう簡単ではなくなった。
それで傷みが目立つようになり、栃木県内の実業家や政治家が政府に保存を訴えたが相手にされず、やむなく明治12(1879)年に二社一寺の保存を目的とした「保晃会」が結成され、修理・保全作業に向けて動き出した。
その結果、明治32(1899)年から大正12(1923年)年にかけて大修復作業が行われた。
最初の工事監督は星野男三郎という人だが、建築家の大江新太郎(1879-1936)が明治40(1907)年から工事監督を引き継いだ。
また、大江の先輩格である伊東忠太(1867-1954)もこの工事には大いに意見を出し、影響を与えていたという。
2人の方針は「造営当初の姿を再現する」ことで、そのためには古い漆や絵の具などを剥がして新たに塗り直すという、当時ではタブーとされていた方法に踏み込んだ。欠損した彫刻は、社殿内に残された類似の彫刻物を参考にして作らせた。
大江は、東照宮の価値は「桃山時代から江戸時代への過渡期における建築や美術の様式を伝える標本」としての価値であり、材料が本物かよりも形や色がいかに当時のものに近いかが重要だと考えた。
また、復元後はできるだけその状態を維持できることを重視し、補修するにあたって江戸時代にはありえなかったコンクリートや新素材も躊躇せずに取り入れたという。
例えば、本殿の屋根はもともとは檜葺きだったことが分かっていたが、銅板に変更し、その下には当時最先端の素材でできたルーフィングを施した。東照宮の改築時には、日光の厳しい冬に耐えられるだけの対策が不足していたとの認識もあった。

しかし、古色ゆかしき風情が消えてけばけばしく生まれ変わった修復後の東照宮を見て、当時、多くの人たちは激しく非難を浴びせた。
そうした批判にも、大江と伊東は「時代を経て変化した色や形に価値を見出すのは意味のないロマンティシズムだ」という論法で敢然と反論したという。

東照宮の補修作業はその後も何度も行われているから、神厩の猿や回廊の眠り猫に限らず、今では元々はどうだったのかを知ることはほとんどできないといえるのだろう。

そういう意味では、三猿の目がパッチリして動物園の看板風になったからといって、大騒ぎすることもないのかもしれない。

大江や伊東のように「東照宮の価値は当時の建築・美術様式のサンプルとしての価値である」と考えるのはおかしくはない。江戸初期の建造物はあまり残っていないわけだから、国宝や国の重文に指定される意義も当然ある。
しかし、美術として、アートとして、芸術としての価値が高いから国宝だと勘違いしている人が多いようにも思う。
国宝である陽明門は、歴史的遺物としての価値は高いが、芸術性という点からはまったくよろしくない。これははっきり言いきっていいと思うのだ。
例えば、上に挙げた陽明門の獅子の彫刻と、長い間しまい込まれて人の目にも触れなかった宇都宮・東下ヶ橋の天棚の獅子の彫刻を並べてみれば、彫り師の力量の差は歴然だ。

陽明門↑



東下ヶ橋の天棚 後ろ鬼板↑



東下ヶ橋の天棚は大きなものだが、彫刻群は飛び抜けてすぐれているとは思わない。もっとよくできた彫刻は他の彫刻屋台などにたくさん刻まれている。一つだけパッと思い浮かぶものをあげておけば……↓

鹿沼 銀座二丁目の彫刻屋台 内欄間↑ (Clickで拡大)
ここで並べて見せたのは、獅子の彫刻としてたまたま目に入ったからにすぎない。それでも、陽明門の獅子と比べればはるかにうまいと、誰もが分かるはずだ。
そして、何よりも忘れてはいけないのは、東照宮は権力者が力と金にものをいわせて、無理な工期で作らせたものだが、彫刻屋台は庶民がなけなしの金を出し合い、職人たちも、金以上に「心意気」で、自由に作ったものという大きな違いがあるということ。
幕府から庶民に華美禁止が言い渡されてからは、彫刻屋台は彩色をせず、白木彫刻でどこまで「粋」や凄みを追求できるかを競った。色をつけられない分、彫りは細かくなり、動物の表情なども「彫り」の技術で細やかに表現した。
工芸としてもアートとしても、どちらが価値があるか……その判断は人それぞれの価値観や美意識次第だが、僕は迷わず彫刻屋台に軍配を上げたい。

だからこそ何度でも言いたいのだ。彫刻屋台への認識を改め、もっと公的援助を出してしっかり保存し、多くの人たちの目に触れるような施策をしてほしいと。

『彫刻屋台図鑑01 鹿沼の彫刻屋台』


ユネスコ無形文化遺産登録で注目が集まる鹿沼の彫刻屋台。全27屋台を128ページフルカラーで「アート」として見つめ直す写真集。
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日光東照宮の修復作業がひどいという話(2) 眠り猫2017/09/02 20:20

眠り猫の修復では目よりも毛が嫌だ



↑修復前の眠り猫(2013年9月) ↓再修復後(2017年4月)


三猿の「修復」があまりに雑でひどいというクレームは多かったが、眠り猫についても一悶着あった。
2016年11月に修復後の姿がお披露目されたが、それを見た来訪者たちから「眠り猫なのに起きているじゃないか」というクレーム?が相次いだので、年を越して1月になってから再修復させたという。
僕が見たのは4月だったので、11月からひと月半ほどの間「薄目を開けて」いたという眠り猫は見ていないのだが、写真を見る限り、「薄目」に関しては違和感がないなあ。パッチリ開いたら大ごとだろうけれどねえ。
もともと小さな彫刻だから、生で見ても、閉じているのか薄目なのかなんて分からないんじゃないだろうか。
それよりも金色の絵の具でチャカチャカっと毛を描き込んでいるほうがはるかに気になる。
猿の毛の描き方以上に雑だし、そもそもこういう毛の描写がオリジナルにあったのだろうか? この毛を描き込んだことで、作品全体のクオリティが一気に下がったような印象を与えてしまっている。クレームをつけるなら目よりもこの毛のほうではないかな。

ちなみに、日光東照宮では、本殿、石の間及び拝殿、正面及び背面唐門、東西透塀、陽明門、東西回廊は国宝に指定されており、眠り猫は回廊の一部だから、自動的に「国宝の一部」ということになる。
回廊にはたくさんの彫刻が施されており、そのほとんどは見事なものなのだから、この際、眠り猫の彩色修復はむしろおとなしめに、地味にやっておけばよかったのではないかと思ったりもする。


『日光東照宮の狛犬と日光のはじめ狛犬たち』

狛犬図鑑01 日光のはじめ狛犬たち
あなたの知らない日光がここにある! 山奥にひっそりいる幻のはじめ狛犬なども網羅。ご案内は⇒こちらから



久々に感動した買い物2017/08/17 11:25

2800円のミニアンプを買ってみた


こんな感じ


Amazonでコードレスのミニアンプが2800円で出ていた。おや、これはもしかするとEWIをつなげば、アンプのない場所でも身体一つで演奏できるのでは? と思ってポチしてみた。


これ↑。AROMAというブランドで、2796円


翌日届いた。

小さいだけでなく軽い。こんなんでちゃんと音が出るのだろうかと思うほど軽い


エレキギター用なので最初からディストーションが入った状態で立ちあがるが、ディストーションを切れば普通に使える。
SDカードで伴奏とミックスしたり、単純にスマホなどの外部スピーカーとしても使え、マイクもつなげられて、録音までできてしまうのだが、そういう機能はとりあえず試してない。腰につけてEWIを短いケーブルでつないで音が出せればOK。
やってみたらなんとかなりそうなので、そのままEWIを持って親父がいるデイホームに向かった。


小さいので、EWIのソフトケースに入ってしまった


デイホームでは、入所しているおばあさんから「俺は河原の枯れすすき」をやってとリクエストされ、なんとかやってみせた。表情はほとんど無表情だったけれど、施設長は「目がきらきらしていたから、脳にいい刺激になったはず」と言っていた。

こんな風に、ちょっとした宴会や飲み会の余興にはもってこいだ。最近は旅行にも行かなくなったけど、野外で空や海に向かって吹いたりもできるわね。




これ↑ お勧め!。マイクをつなげば拡声器としても使えるし、スマホをつないで普通に外部スピーカーとしても使える。2796円は安い!


タヌパックスタジオで生まれた音楽の1つ『アンガジェ』(↑Clickで再生)



連作小説「まえだっちとわたし」 第一話 前田清花2017/06/07 21:54


●第一話● 前田清花(さやか) 22歳



∇‡∇

 聖哉(せいや)と別れてきた。
 ものすごく腹が立つ。聖哉にではなく、今まであの程度の男とズルズルつきあってきてしまった自分にだ。
 あと、最後がお金のことでトラブったというのが情けなさすぎてイラつく。
 マックに入って、注文した途端、あいつは「払っといて」と言ってトイレに消えた。
 なにそれ。わたし、今日は3000円も持ってないんだよ。慌てて今注文した総額を頭の中で計算した。
 どういうつもりなのか、あいつはテーブルになかなか現れなかった。
 で、ようやくトイレから出てきたと思ったら「ごめん。財布忘れたっぽい。1万円貸して」……って、ヘラヘラ笑いながら言った。

「持ってないよ。今だって足りるかどうかドキドキしたんだから」
「足りるかって、ここの? 千円ちょっとだろ?」
「そうだけど」
「嘘だろ~。おまえいくら持ってんの? 今」

 聖哉はわたしより2歳年下で、なんか聞いたことのない大学に行ってる。「危機管理学部」だとか……学部名もなんだか聞いたことのないような……。
 わたしはそこそこ名前の知られた私大の理学部を卒業して、今年から社会人。聖哉がわたしのことを「おまえ」って呼ぶのを、今まではそんなに気にしなかったけど、なんか、急にムカついてきたんだ。さっきは。

「俺、今まで結構おごってやってね? マック一回くらいいいじゃん、って思ったけど、そんなにやべえの? おまえのケーザイジョータイ」

 確かに、何回かおごってもらったよ。でも、割り勘がほとんどだったよ。
 ……って、なんでそんな細かいこと、今持ち出すんだ。イラつく。耐えられなくなってきた。

「給料悪くないって言ってたじゃん。なんだっけ、ばい……」
「胚培養士」
「なんかよくわかんねえけど、バイトってわけでもないんだろ? 月20以上はいきそうって言ってなかったっけ?」
「まだ見習いだから17万くらいだよ」
「見習いで17ならいいじゃん。時給1000円に直したら……え~と……何時間分だ?」
「170時間」(そんな計算もできんのか、こいつは)
「そっか。30日で割ったら……え~と……」
「6時間弱でしょ。でもなんで30で割るの? わたし、休みゼロ?」
「だけど非正規じゃなかなか月17万はきついっしょ。見習い期間で17ももらえたらすげーよ。そのうち20くらいには上がるんだろ?」
「いろんなことがうまくいけばね。でも、わたし、借金軽く500万超えだからね。その20万から毎月5万ずつ返済したって100か月。3万ずつなら167か月で14年。順調に返済し続けたとしてもその時はアラサーどころか、下手したら40代だよ」
「そっか。じゃあ、金持ちとくっつくしかないか」

 そう言うと、聖哉はクククっと鳥みたいな声で笑った。
 この笑い方が可愛いと思ったこともあった。そう思うと、本当にもう耐えられなくなってきた。自分のバカさにだ。

「聖哉だって抱えてるんでしょ、学資ローン」
「うん」
「いくら?」
「月12万」
「フルじゃん。わたしよりやばくない?」
「なんとかなるっしょ」

 そう言ってまたクククっと鳥みたいに笑った。
 その瞬間、わたしの中で何かがプツンと切れた。ほんとに「プツン」って音が響いたんだ。脳の真ん中へんで。
 何が危機管理学部だよ。自分の危機管理、まったくできてないじゃん……とか、いろんな思いがいっぺんに噴火して、会話を続ける気持ちもなくなってしまい、わたしは無言のまま立ちあがると店を出た。
 聖哉は何も言わなかった。何が起きたのか理解できなかったんだと思う。
 
∇‡∇

「あちらの男性から同席リクエストが来ています」

 ……という声で数時間前の風景から引き戻された。
 店員が微妙な作り笑顔でわたしの横に立っている。軽く上げた右手の先には、眼鏡をかけたスーツ姿のおっさんがいた。わたしと目が合うと、軽く会釈した……ように見えた。
 激やば! 気を抜いていた。
 まさかこんなに早くわたしを指名してくる人がいるなんて。
 ここは「女性1ドリンク無料」のバー。店名は確か「プラチナウィンド」とかなんとか、ツッコミどころがいろいろありそうな名前だったけど、それはどうでもいい。
 男性客だけが入店の際にお金を払う。
 店内は男性客ゾーンと女性客ゾーンに別れていて、女性は鏡張りの壁に向かって、男性客カウンターには背を向けた形で座っている。(中には堂々と男性客ゾーンのほうを振り返って座っている女もいるけど)
 男性客は鏡に映る女性を見て、気に入った子がいれば店員に言ってそばに呼ぶことができる。
 俗に「出会い系」なんて呼ばれているお店。
 女性客の多くは売春目的だろう。……だろう、っていうのは、わたし自身はまだ身体を売ったことはないから、そういう店だということは知っているという意味だ。
 この店に来るのは2回目だった。最初は怜華と一緒に来た。怜華はバイト先の先輩だけど歳は1コ下。「今の時間だとご飯もただで食べられるかも」とかいって、この店に入った。
 お店のシステムとかについては、怜華からザックリとだけど教えてもらった。二人連れだと誘われにくいから大丈夫、とかも言っていた。
 あのときは1時間くらいいて、しっかりご飯もただで食べてから、誰にも指名されないまま店を出た。
 自分で言うのもなんだけど、わたしは美人でもかわいい系でもない。眼鏡かけているけど、お洒落じゃなくてマジ目が悪いだけ。メンテ代がかかるコンタクトより安いから眼鏡──それだけ。
 化粧やお洒落に使うお金もないから、こんな店に来てもおよそ指名されるなんてないだろうと気を緩めていた。周りには一目でプロだと分かる年増女や派手目の若い子もいたし……。
 わたしは恐る恐るそのおっさんを見た。
 安くなさそうなスーツにネクタイ。そういう姿で来る男は少ない。変なやつだなと思った。超ヤバイやつだったらどうしよう。
 逃げる口実を考え始めたとき、店員が少し屈むようにして耳打ちした。

「あのかたは紳士ですよ。保証します」

 こういう店の店員がそんなことを言うのが引っかかったけれど、仕方なくその男の隣に移動した。

「こんばんは。前田です」

 わたしが隣りに座るとすぐ、おっさんはにこやかにそう言った。すごくいい声で、しかも店員が言ったように、マジ「紳士」っぽくてビックリした。
 それにしても前田って……なにそれ、わたしとマルカブリ。

「レイカです」

 わたしは咄嗟に、最初にこの店に連れてきてもらったバイト仲間の名前を言ってしまった。言った後、ちょっとだけ罪悪感のようなものを感じたけど、すぐにどうでもいいや、って思い直した。

「ここにはよく来るんですか?」

 え? わたしに敬語? なにこの……人。(なんかもう、その時点でおっさんって呼ぶのは声に出さなくてもしっくりこない感じがした)

「いえ、2回目です」
「そう……」
「お……(お客さん、って言いそうになって、なんで店に雇われているわけでもないのにお客さんって呼ばなきゃいけないんだと気づいてやめた)……あの……よく来られるんですか? このお店」
「そうだね。ときどきね。お店の人にはもう顔を覚えられているかな」
「あの……なんでわたしを……?」
「特に理由は……いや、ちょっと怒ったような表情に見えたから、気になったのかな。嫌なことでもあったの?」

 あったよ。でも、あんたに説明する義理はないよ。

「別に……。すみません……なんか……愛想悪くて」
「いや、そんな……謝ることはないよ。お腹はすいてない?」

 すいてるよ。なけなしのお金はたいたバーガーも食べそこねたし。
 黙っていると、「前田さん」は気を効かせてくれたのか、こう続けた。

「何か食べる? ここじゃないほうがよければ外の店でもいいけど。ぼくもちょっとお腹空いてきているところだし」
「……はい……」

 危険な感じはしなかったので、思わずそう答えてしまっていた。
 
∇‡∇

 店を出ると、前田さんはいきなりこう言った。

「どこがいいかな。マクドナルドでもいい?」

 よくないよ。さっき聖哉と別れてきた場所じゃん。
 あ、そうか、ホテルに誘う前だから、なるべくお金も時間もかからないほうがいいってことか……。まいった~。わたし、そういう覚悟できてないし……。ほんとどうしたらいい?
 黙っていたら、前田さん、少し困ったような顔で言った。

「ここでもいいけど、お酒は飲める歳だよね?」

 すぐ目の前に看板はあちこちでよく見る居酒屋チェーン店があった。

「はい。大丈夫です」

 そう答えた後、どういう意味での「大丈夫」なのか、自分でもよく分からないまま言っているなと気づいた。
 マックよりはいいけど、個室に案内されたりすると怖いような気もした。でも、居酒屋ならすぐに出るのは不自然だから、むしろホテルに誘われるまでに時間が稼げるかもしれないとも思った。

「じゃあ、ここにしよう」

 入ったお店は賑やかで、客の年齢層は低そうだった。
 店員はわたしたちをどういう関係だと思っただろうか。気を利かせたのか、奥の狭い仕切りのある席に案内した。4人入ればぎゅうぎゅうになるようなスペースで、ドアはない。
 前田さんはメニューを先にわたしのほうに向けて「お腹空いてるんじゃない? 食事も頼んでいいよ。ぼくも軽く食べるから」と言った。
 その席は掘りごたつ式の席だったけれど、席についても前田さんは上着も脱がず、ネクタイも緩めず、黒い書類鞄を大事そうに自分のすぐ横に置いた。
 改めてよく見ると、黒い鞄は皺や傷だらけで、ものすごく使い込んでいた。でも、スーツやネクタイは高級そうだし、安サラリーマンには見えない。
 ちょっと間があったけれど、結局、前田さんは「すごく薄い水割り」ととろろ蕎麦。わたしはアップルサイダーとピザという、とても変な組み合わせで注文した。
 店員が注文を受けて消えると、前田さんはいきなり訊いてきた。

「学生さんですか?」
「いいえ」
「お仕事は何を?」

 なんだこの人。そんなこと訊いてどうすんだよ。……と思ったけれど、なぜか口調が嫌らしくないっていうか、自然体っていうか、そんなに嫌な感じはしなかったのが不思議だった。

「バイトはいろいろしてきましたけど、今年からは一本に絞れて……まだ見習いみたいな感じですけど」
「正規雇用になれたってこと?」
「……そうですね。保険証ももらえたし……」
「え? 今までは健康保険証がなかったの?」
「……はい。親が保険料払っていなかったみたいで……」

 なんだか役所の窓口で質問されているような感じ。やっぱりいい気はしない。

「病院に行ったときとかはどうしていたの?」
「病院には行かないです。保険証がないから。一度だけそれが分からないまま行ってしまって、そのときは結局十割負担でした。それ以降は一度も……。だから、保険証がもらえたのは嬉しくて……」

 前田さんはずいぶん驚いたような顔をしていた。

「あの……こんな話、面白いですか? つまらないですよね。不幸自慢みたいで」
「そんなことないよ、全然。とても勉強になる」

 はあ~? 勉強になる?? やっぱりこのおっさん変だ。もしかして不幸話マニア? 若い女の苦労話聞いてコーフンする変態?
 わたしはまたちょっと身構えてしまった。

「それで、今の仕事というのは、どんな仕事なの?」

 あ、そっか。さっきの質問にちゃんと答えてなかったね。
 どうしようか。あ、でも、今の仕事の話は特に不幸話じゃないし、退屈なだけだろうから、正直に答えても飽きられるだけで、とりあえず時間稼ぎできるかな。
 そう思って、わたしは真面目に説明することにした。

「胚培養士です」
「はいばいようし?」
「……っていっても分からないですよね?」
「不妊治療で体外受精とかを手伝う……?」

 驚いた。胚培養士と聞いただけですぐに分かる人がいるなんて。

「知ってるんですか? もしかして前田さんって、お医者さんですか?」
「いやいや、全然。医学は素人ですよ。胚培養士のことは聞いたことはあるけれど、そんなに詳しくは知りません。ただ、胚培養士って、士ってつく職業なのに国家試験があるわけでもなく、国が認定する資格がいらないでしょ。無資格で人間の生命の操作に携わるっていいんだろうか、というような話が、以前、同僚との雑談の中で出たことがあってね。……でも、そのまま忘れてました」
「あの……前田さんって……」

 何者? って思ったけど、それ以上訊いてはいけないと思って口ごもった。すると、前田さんのほうから言ってくれた。

「公務員です。宮仕えだから、職場はいろいろ変わるんだけどね」

 そこで店に注文したものが届き始めて、会話のペースが少しだけゆっくりになった。
 前田さんはお腹が空いていたらしくて、注文したとろろ蕎麦をたちまち完食。わたしもずいぶんお腹空いていたんだけど、前田さんのペースには追いつけず、仕方なく、「ピザも食べますか?」と言った。前田さんは苦笑しながら「いやいや。ぼくはもういい。よかったら他にも頼んで」と言ってくれた。

「胚培養士って、実際には臨床検査技師とか獣医学部の卒業生がなったりするケースが多いんじゃないの? あなたも何かそういう経歴だったの?」

 なんかめんどくさい質問が来た。胚培養士でこんなに食いついてくるとは思わなかった。しかも、ついでという感じじゃなくて、本当に興味があるという顔だ。
 どうしようか……。正直ちょっと戸惑ったけど、こんな話をしているだけでいいなら、ホテルに誘われるよりはいいから、ある程度ちゃんと答えることにした。

「今は資格とかは何も持ってないです。獣医学部でもないです。大学は理学部でした。生物関係なので、胚培養士という仕事があるってことは知ってました。就職は、他にも製薬会社とか農協とかパン工場まであちこち受けたんですが全部落ちて、今いる病院での募集に最後ようやく引っかかって……」

 前田さんは頷きながら熱心にわたしの話を聞いていた。一言も聞き逃すまいとするような真剣な目つきになって、ちょっと怖くなった。なんか、警察で取り調べを受けているような気にもなったけど、合間にふっと見せる笑顔が自然で、わたしの気持ちも少しずつ楽になっていった。
 今までこんなこみ入った話を誰かに話したことはほとんどない。大学は私立で、学資ローンをフルに借りてなんとか通っていたから、学内で友達を作る余裕なんてなくて、授業以外の時間はびっちりバイト。睡魔と空腹と鬱だけの時間がただただ過ぎていった4年間だった。
 親ともたまにLINEで必要最小限の連絡をかわすだけで、近況報告みたいなこともしたことがない。
 こんな専門的な話をちゃんと聞いてくれる人が目の前にいるというだけで、なんだか開放感というか、ストレスが発散できるような感覚がわいてきた。うまく言えないけど、すごく不思議な感覚……。

「見習い扱いでもちゃんと就職できたことはすごくラッキーだと思ってます。でも、学資ローンの返済が500万以上あるんですよ。返済は秋からなんですけど、どう計算しても全部返し終えるのはずっと先だし、今の職場にずっとい続けるためには、やっぱり学会の資格取らないとだめだし、取るためにもこれからまたお金がかかるし……」
「学会の資格?」
「国家試験じゃないですけど、学会が2つあって、それぞれが認定する資格試験があるんです。それを取らないと仕事ができないということではないみたいなんですけど、やっぱり持っていないといつまでも見習いというか、部屋の掃除係や器具の点検みたいな仕事しか任せてもらえないみたいな……。だから、いずれはその資格を取りたいと思ってます。でも、正直、自信がないです」
「ああ、聞いたことがある。資格じゃなくて『認定』だね。その試験が難しい?」
「試験も難しいでしょうけど、やっぱりお金の面で。お金がないと勉強する余裕とか生まれないですよ。バイトづけだった学生時代よりはいいかもしれないけど、これからは返済していかなくちゃならないわけだし。それにつぶされて鬱になったりして動けなくなったら、解雇されちゃうだろうし。そういうプレッシャー、すごいですよ」
「ご家族は?」
「お父さんは失業中。お母さんはパートとかしてるけど、もちろんそんなんじゃどうにもならないし。妹がひとりいて、歳が離れていてまだ高校生なんですけど、やっぱりバイトづけでつぶれそう。わたしもそうだったけど、妹のほうが厳しいかも。おじいちゃんがボケちゃった分、きついと思う……」
「おじいさんの介護を妹さんが?」
「家族で手分けしてやってます。頭はそうとうやばくなってるけど身体はそこそこ動くんで、要介護2どまりで特養とかには入れなくて、今はおじいちゃんの年金の範囲内でデイサービスとかでやりくりしてるみたいだけど、介護保険料が上がってなんだかんだで年金の手取り額も少しずつ減っているみたいで、今まではおじいちゃんの年金の一部も家族の生活費に充てていたんですけど、これからは逆に、おじいちゃんの介護にかかるお金のほうが年金より多くなりそうだから、もう無理~、みたいな」
「それであなたも追い詰められて、あのお店に行って……?」

 前田さんはわりとあっさりと切り込んできた。

「え? いえ、そうじゃなくて……今日は特別でした。ちょっと気持ちが乱れていて……さっき、彼と……もう元彼ですけど……別れてきたんです。それもなんかもう、言うのもくだらない理由っていうか、しょーもない感じで別れて、自分が惨めで……」
「そう……。別れたほうがいいような相手だったの?」
「はい。今までズルズルきたのが許せない……自分が許せない、ってことですけど……そういう相手でした。多分、あいつはまだ別れた気になってなくて、ちょっと喧嘩したくらいに思っているんだろうけど、もう会わない。連絡来ても拒否るつもり」
「そう……。あなたがそう決めたらなら、きっとそれでいいんだと思いますよ。これから先、まだまだいろんな出会いがあるだろうし。なにより、あなたはちゃんと今、仕事を持っている。まずはお仕事をしっかりやることです。その毎日の中で開けてくる運もあるだろうし」

 なんだろこの人。学校の先生? きっとそうだ。公務員って言ってたし。職場が変わるとも言ってたから、公立学校なんだろう。もしかして校長先生くらい偉い人なのかも。
 だったら、やっぱり仕事のこととかあまり訊いてはいけないし、訊いても言うわけないな、と思った。
 その居酒屋にいたのは1時間半くらいだっただろうか。前田さんは突然腕時計を見ると、「じゃあ、今夜はこのへんで、ぼくはそろそろ帰らなくちゃ」と言った。
 え? ほんとに? これで終わり? なにこれ。人生相談?
 ポカンとしているわたしを置いて、前田さんはさっさと店の会計を済ませた。

「今日はありがとう。遅いから気をつけて帰ってね。これ、少ないけどタクシー代」

 店を出る直前、前田さんはそう言ってわたしに5000円札を1枚差し出した。

「よかったら、またお話聞かせてください」

 わたしはほとんどまともに返事もできないほど呆気にとられていた。でも、別れ際、LINEの交換だけはしてしまった。
 危ない人ではないと思ったから。
 
∇‡∇

 前田さんのことは強烈に印象に残ったけれど、その後は何もないままだった。
 LINEは交換したけれど、前田さんからもわたしからも、結局何も送らなかった。
 変な人だったな。でも、面白い経験だった。もう二度と会うこともないんだろうなと思うと、ちょっと残念な気もした。
 職場ではそれほどトラブルもなく、いいことも悪いこともなく時間が過ぎた。
 病院だから、男性医師や看護師、検査技師などもいたけれど、数からいえば女性のほうが多かった。地味な眼鏡女子のわたしは、男からも女からもあまり声をかけられることもなく、特に仲のいい友達ができるわけでもなかった。
 ひとり口の悪い男の研修医がいて、「きみって、いわゆる『チョイブ』……ちょうどいいブスだよね」なんて言われたりもした。首締めたろか~、田中光兵太(こうへいた)。おまえのあだ名、ヘーコイタにして病院内に浸透させてやろうか。今はわたしの頭の中だけでそう呼んでいるだけだけどな。
 秋になって、いよいよ学資ローンの返済が始まった。利率変動方式といって、返済開始時期にならないと正確な返済額が分からないので不安だったが、不安は見事的中して、予想よりも額が多かった。
 追い打ちをかけるように、千葉にいる家族の状況も悪化した。
 おじいちゃんは夏に脳溢血を起こして救急搬送。もともと認知症で、日々扱いがやっかいになっていたのが、一気に寝たきりになってしまった。
 口から食事が取れなくなり、わたしが知らないうちに、両親は胃ろう処置を決めてしまった。就職してから医療現場を少しは見てきているわたしには、意志表示できないような脳障害の患者に胃ろう措置がどれほど悲惨なことになるか分かっている。なぜ一言相談してくれなかったのだろう。
 しかも、これまた知らないうちに、おじいちゃんは愛知県にある介護施設に送り込まれてしまった。「胃ろうアパート」と異名を取る最悪の民間設備だ。胃ろう患者専門に受け入れている無届けサ高住。想像するのも恐ろしい。
 妹は公立高校に通うのも厳しくなり、中退してバイトだけの生活になった。大学まで行ったわたしに恨み言のひとつでも言うかと思ったら、全然そんなことはなく、明るく振る舞っている。
 でも、ひとつきつかったのは「おねえちゃんみたいに学資ローンの返済で息切れする20代よりは、さっさと仕事経験して、いろんな人に出逢って玉の輿にでも乗る可能性を残しておきたいから」という言葉だ。まったくその通りだもの。
 がんばれ妹。
 わたしはマジで応援している。玉の輿に乗ってくれ。そのほうがわたしの心も軽くなるから。
 わたしだってほんとは玉の輿とやらに……。
 ノンノンノン。今のわたしのように借金や金のない家族を抱えている女性と結婚しようという男性なんているはずがない。わたしがもう少し美人ならまだしも……ね。
 で、仕事はといえば……。
 バイト漬けの学生時代に比べれば、仕事の内容は特にきついというほどではなかったけれど、すればするほどわたしには「好きになれない仕事」だと思うようになった。
 お金のことでプレッシャーを受け続け、結婚はもちろん、子供を持つなんて到底考えられないわたしが、経済的に恵まれた夫婦の「不妊治療」のために働いている。
 余計なことを考えてはいけないと分かっていても、「そこまでして子供がほしい? 贅沢だね~。いいご身分だね~」と心の中で呟いてしまう……。
 きついな~。でも、つぶれるわけにはいかないよな~。高校中退してバイト漬けの妹のことを考えても、ほんとなら大学出ているわたしが稼いで援助しなければいけないのだから……。
 そんなこんなで、ぎりぎりで踏ん張っていたある日、仕事を終えて、培養室の掃除を一人で終わらせ、鍵を閉めて帰ろうとしてたとき、マナーモードを解除したスマホに変なLINEのトークメッセージが入った。

〔覚えてますか? その後、お仕事は順調ですか?〕

 汎用アイコンの下に「まえだっち」って出たので、一瞬誰のことだか分からなかった。わたしが自分でそういう名前に変更していたのに。
 少し迷ったけれど、返信した。

〔ご無沙汰してます。その節はごちそうさまでした。お礼も言えず失礼しました〕
〔いえいえ〕
〔わたしはなんとかやってます〕
〔それはよかった。いろいろあるでしょうが、きついときはふっと息を吐いて、淡々とこなしてください。真面目にやっていれば、いいこともありますよ、きっと〕
〔ありがとうございます〕
〔ではでは。がんばってネ〕

 え? それだけ?
 また会いませんか、とかではなくて?
 わたしからおねだりしたほうがいいのだろうか。またご飯ごちそうしてください、とか?
 でも、やっぱりそれは無理だ~。こっちからは言えないよ。
 でも、思いきっておねだりすれば、前田さんは会ってくれるだろう。そしてまた、わたしの話を真剣に、時折笑顔になって聞いてくれるだろう。
 その時間と空間をつい想像してしまった。心が少しずつ緩んでいくような感覚に浸れるかもしれない。
 でも、わたしからは言えないよ。なんでさっき誘ってくれなかったんだよ、前田さん。
 わたしがいけなかった? なんとかやってます、じゃなくて、きついんです、つぶれそうです、とでも言えばよかったの? そう言えば「じゃあ、また食事でも行きましょうか」って誘ってくれた?
 後悔の気持ちがどんどんじわじわ膨らんできて、スマホを持ったまま、わたしはしばらくドアのそばに立ち尽くしていた。

「わ! ビックリした~!」

 突然、目の前で声がした。

「幽霊かと思った~。勘弁してよ~。血圧上がっちゃうよ~」

 うざい!
 顔を見るまでもない。田中光兵太(こうへいた)だ。

「チョイブの次は幽霊に昇格ですか?」

 わたしはマジ頭にきてそう言った。

「チョイブ? なにそれ?」

 おいおい。忘れたのか? 自分が軽く口にした言葉が、人をどれだけ傷つけるか、おまえさんは気がつかないんだね。想像もできないんだね。
 わたしは確かに「ちょうどいいブス」かもしれない。口説くのに緊張するような美人じゃないし、そばにいるだけでゲロりそうなドブスでもない。中の下くらい? 下の下じゃないからいいだろってか? 「ちょうどいい」をつけるだけありがたく思えってか?

「チョイブって何?」

 ヘーコイタが繰り返した。

「はあ? 田中さんが言ったんでしょ」
「俺が?」
「ちょうどいいブス、チョブス……って……わたしに言わせるわけ?」

 わたしの語気がそうとう鋭かったのか、ヘーコイタはマジでびびったようだった。急に神妙な表情になって言った。

「俺が? そんなことを? ……だったら、ごめん……なさい……」

 え? わたし、今そんなに怖い顔してる? やだよ。せめて最後までジョークっぽくしてくれよ。

「いや、きっとそれは、いい意味で言ったんだよ。逆に、いい意味で。伝わりづらかったかな。ほんとごめん」
「いい意味とか、逆にとか、イミフな言い訳はいいです」
「いや、言い訳じゃなくて、……いや、言い訳だけど、ほんとにいい意味で言ったんだよ。まえだっちはなんていうか、安心感があるっていうか、安定しているっていうか……」
「まえだっち? わたしのことですか?」
「あ、ごめん。自分の中ではそう呼んでいたもんだから、つい。……前田さんは……」
「今ちょうど、わたしがまえだっちって名前をつけていた前田さんって人からLINEが入って読んでいたところなのよね。60くらいのおっさん。だから違う呼び方にしてもらえますか?」
「え? ……じゃあ、下の名前とか? 清花(さやか)さん?」

 おや、ヘーコイタはわたしの下の名前をちゃんと知っていたのか。それは感心。

「それでよし」
「じゃあ、清花さん。お詫びにどこかで夜食でもどうでしょう?」

 え?
 ビックリした。
 ビックリしすぎて、まじまじとヘーコイタの顔を見てしまった。
 いつものようなからかっている顔ではなかった。ちょっと頬が赤くなっていた。

「へー……」

 思わずヘーコイタと言いそうになる。やばいやばい。

「へー、って、なんか女王様っぽいっすね。そういうのも逆にヤバイな……あ、いい意味ですから。俺がMってわけでもなくて……純粋に……なんつうか……」

 ヘーコイタはまだちょっとあわあわしていた。
 へ~。そうきたか。
 わたしは一呼吸置いて、精一杯の優しい声で答えた。

「マクドナルド以外がいいな」
「了解っす、女王様!」

 ヘーコ……コーヘータは右足を少し引いて右手を軽く差し出し、いつものおどけた声にもどってそう言った。不思議と、もうウザイとは感じなかった。
 
 前田さん(まえだっち)。後でLINE入れますね。
 わたしはなんとかやっていけそうです。
(第一話 了)




タヌパックスタジオで生まれた音楽の1つ『アンガジェ』(↑Clickで再生)


数万円で高音質PCオーディオ環境を作る2017/02/02 19:34

こんなんでも「いい音」が聴ける時代に

高音質ミニマムPCオーディオ環境の作り方


最近、KORGのDS-DAC-100mという再生専用USBオーディオインターフェイスをつけたところ、PCからの音楽再生品質が劇的に上がったので、それを踏まえて、
  • PCに溜め込んだデジタル音楽ファイルを
  • できる限りコンパクトな環境で
  • できる限り安く
  • できる限り高音質で
楽しむ方法について簡単にまとめてみる。

 必要なものは4つ

  1. パソコン
  2. オーディオインターフェイス
  3. パワーアンプ
  4. スピーカー
1)のパソコンはメインに使っているものでももちろんいいのだが、古いノートパソコン(OSはXPでもなんでもいい)などが余っていたらそれをスタンドアローンで音楽再生専用にしてしまうのも一つの方法だ。
普段の仕事場環境(仕事机の上など)にコンパクトながら高音質の心地よいオーディオ再生環境を構築するのか、リビングなどに専用の環境を作るのかによる。

 キモは高品質DAC

2)のオーディオインターフェイスは重要。汎用性の高いUSB接続のものでよいが、再生専用で極力高音質なものが必要。
パソコンの代わりにiPadやiPod touch、iPhoneを使おうとすると、USB端子がないので、Thunderbolt端子につなげるオーディオインターフェイスが必要になる。しかし、再生専用のコスパの高いThunderbolt仕様オーディオインターフェイスというのは見あたらない。あるのはiOS端末で楽器演奏や歌を録音したりする目的で作られたものが多く、マイクプリなどを含む分、肝心のD/Aコンバータ (DAC =デジタル信号をアナログの音声信号に変換する部分)の品質に疑問がある。それなら古いノートパソコンなどにUSBの高品質オーディオインターフェイスをつけたほうがはるかに高音質が期待できる。
具体的には、以下のような機種。
     

M-Audio USBオーディオインターフェイス 3ポートハブ M-Track HubはUSBハブポートとしても使えるあたりがミソか。
出力端子がヘッドフォンを含めて標準フォーンジャックだったり、でかいボリュームつまみをアクセント的につけていたりするところも質実剛健なイメージ。

FX-AUDIOの DAC-X6J も評判がいい製品。このメーカーは部品の品質にこだわり、コスパの高いものを採用している真面目さを感じられる。

KORGの DS-DAC-100m は、僕が最近買って、今実際に使っているやつ。再生専用で定価が3万円台というのは、それだけD/A部分に金をかけているのだろう(と信じたい)。実際、音質はパソコンの内蔵DACなどよりずっとよい。
外部のオーディオインターフェイスをつけるからには、このクオリティ以上にしないと意味がない。

アンプは数千円で高音質が手に入る時代に

3)については中華デジタルミニパワーアンプを勧める。
Tripath社のTA2020、TA2024というデジタルアンプICを使ったシンプルなパワーアンプを選べばほぼ間違いはない。
Lepyが代表的だが、中国製は溶接ミスなどの初期不良などがある危険性は覚悟したほうがいい。僕は3つ買って1回もハズレはなかったが、たまにあるらしい。
少し高いが(といってもオーディオインターフェイスより安いのだからすごい時代だ)、FX-AUDIO- FX202Jはコイルやコンデンサに品質のよいものを使っているようで、安心感がある。DC12V/2A DCジャック5.5mm×2.1mm(センタープラス)が別途必要なので、似たスペックのAC電源アダプターがない場合は購入が必要。



最後は4)のスピーカーだが、これは完全なアナログ製品、いわば「楽器」であり、最も音が変わるし、値段もタイプも様々だ。単純に高い製品がいい音で鳴ってくれるとは限らないから難しい。
3)のデジタルアンプは音質はすばらしいが出力はあまりないので、あまり能率の悪いスピーカーは組み合わせたくない。
楽しむつもりで、いっそ自作バックロードホーンなどはどうか。バックロードホーンは密閉型スピーカーとはだいぶ違うリアリティある音場が体験できて、とにかく「楽しい」。エンクロージャの塗装などをやればDIYの楽しみも得られるし。

バックロードホーン型エンクロージャーキットBW-800 2本で送料込み6000円ちょっと。サイズは300H×210D×110W(mm)

 と……

FOSTEX FE83En 長い歴史を誇るFOSTEXのユニット 2本で約9000円

を組み合わせる。
スペースがあるなら10cmにサイズアップして、さらにトールボーイ型エンクロージャにしてみるのもよい↓

トールボーイ型バックロードホーンエンクロージャーキットTBW-1000(2本分で12000円+送料)サイズは662H×200D×140W(mm)


今は亡き長岡鉄男氏がFOSTEXのFEシリーズを使って作り出した「バックロードホーン自作ブーム」はおよそ50年前。僕も中学生の頃にやってみた。今でもアナログの世界はあの頃となにも変わっていないのだ。


ちなみに僕の場合は仕事机の上なので、昔購入した中国製TANNOYがのっている。悪くはないが、特に面白いスピーカーではない



上からKORGのDS-DAC-100m(USBオーディオインターフェイス)、MUSEのデジタルアンプ(TA2024採用)、その下は外付けDVDドライブ、その下がTANNOYのミニスピーカー。つながっているパソコンは仕事に使っているメインマシンのaba のファンレスパソコン(Core i7/Windows7 64bit)


以上、具体的にまとめてみた。
最終的にはスピーカー次第だが、低価格でかつて数十万円かかったクオリティのオーディオを楽しめる。
ポイントは、
  • デジタル部分は割り切る(値段を気にしない)
  • アナログ部分を重視する(音というのは結局はアナログなのだから)

ということ。
デジタル信号を処理している部分は現代のパーツを信じ、それをアナログ波に変換するD/Aコンバータ(DAC)部分や、最終的に音として空気中に再生するスピーカー部分にはしっかりこだわる。

昔に比べれば、数万円でいい音が手に入るし、レコードやCDのようなかさばる「もの」がいらないのだから、いい時代ではある。


タヌパックスタジオで生まれた音楽の1つ『アンガジェ』(↑Clickで再生)



ネットの基本も分からないままいきなりトンチンカンなPDFを送りつける弁護士2016/07/31 14:41

3つめは法曹界の劣化の話。
先日、東京の弁護士事務所から「侵害情報の通知書兼送信防止措置」という不思議なタイトルのメールが送られてきた。
ウイルスかspamかと思ったが、念のため添付PDFを見てみると、女性用トイレの盗撮写真をのせているサイトの管理者がうちだと決めつけて「法的処置をとる」などという文面だった。
あまりのトンチンカンぶりに唖然とした。
もちろんそんなサイトとは無関係だし、過去においてもまったく関与したことがない。
なにを根拠にこちらをそのサイトの「管理者」とみなしたのか、なんの説明もない。
ドメインレジストラは世界最大級の一次レジストラで、DNS(ネームサーバー)もその一次レジストラが所有・提供しているものを使っていた。この一次レジストラはうちでも使っていてドメインの再販をしているが、そのレジストラを卸元としてドメインを再販しているパートナー業者は世界中に数千は存在する(もしかすると万の単位かもしれない)。そのうちのどこかが管理しているドメインなのだろう。あるいは所有者が直接一次レジストラから購入して管理している可能性も高い。
使われているドメインのWhois情報はプライバシー保護代理会社のもので、真の所有者は閲覧できないが、これも世界中にこの手の会社があり、普通にやっていること。その会社は一次レジストラの提携先で、利用者は世界中にいる。
サイトに使われているドメインのIPを調べたらサーバーはスウェーデンの企業が提供しているようだ。
どこを見てもうちとはなんの関係もない。
想像するに、レジストラやWhois情報保護代理会社、DNS情報などを検索して、たまたまうちの名前(屋号)が出てきたので、うちがこのサイトの管理者だと勝手に思い込んだのだろう。
これは例えば、トヨタの○○という車を使った犯罪者がいて、その被害者から相談を受けた弁護士が、ネットで「トヨタ○○」と検索したらたまたまトヨタ車を代理販売している地方の小さな個人営業の自動車修理屋を見つけて「犯人を突き出さなければ告訴する」と息巻いているような話。
要するにこの弁護士(女性名で二人連名)は、インターネットの基礎知識(ドメインとは何か、レジストラとはどういうものか、DNSとは何か、Whois情報保護代理会社とはどういうもので何をしているのか……)を知らず、IPアドレスの割り出し方法すら知らず(そんなものはホスト名の名前検索をすればすぐに出てくる。素人でも1秒でできる)、簡単な下調べもしないままにまったくトンチンカンな迷惑メールを送りつけてきたわけだ。
これが、「こういう被害者からの相談を受けているのだが、このドメインはもしかしておたくが管理していませんか?」と訊いてくるならまだ許せる。
ああ、この人はネットの基本を知らないでネット犯罪被害者の担当になった新米弁護士なのかな。アホらしいけれどリサーチ方法の基本を少し教えてあげようかな、くらいにとらえていたかもしれない。
それがいきなり「質問」ではなく、「貴社にて適切な措置をお取りいただけない場合には貴社に対する法的措置も検討せざるを得ません」などという文面のPDFを送りつけてくるのである。
この人たちは本当に弁護士なのか? 頭は大丈夫なのか? と愕然とさせられた。
しかもである、このPDF文書には、依頼者の名前がフルネームで記されている。
「当職らは○○氏から委嘱を受けた代理人として……」と始まり、その○○氏(女性)がトイレで盗撮をされたかのような写真が云々、と、内容についても書いてある。これはもはや、不必要に個人のプライバシーを赤の他人にばらまいてしまっていることにほかならない。
こんなメールが来なければ、こちらはその○○さんがそういう被害にあっていることなど知るよしもないし、名前を見ることもないのだから。
これが本当に弁護士の仕事なのか?
このトンチンカンなメールをよこした弁護士には「もっと勉強してください。こういうトンチンカンなものを送りつけられ、こちらは大変迷惑です」と返信したが、未だに謝罪の言葉ひとつよこさない。不愉快極まりない。
まったく人違いの家に土足で踏み込んできてわけの分からない言いがかりをつけた後、間違いだと分かっても謝罪もせずに無言で立ち去る……これはもう「当て逃げ」犯罪と同じではないか。

建設業界や電力業界、政界、財界……だけでなく、法曹界の劣化もここまできているのかと、愕然としてしまった。

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