「チェルノブイリの○倍/○分の一」というトリック ― 2011/06/12 16:30
時事ドットコムに、モスクワ支局長がチェルノブイリの報道陣用見学ツアーに参加したときの報告記事が出ている。
それによれば、石棺に近づくと5.24μSv/h、原発職員ら約5万人が住んでいたプリピャチでは、「コンクリートやアスファルトの割れ目に盛り上がるコケに線量計をかざすと、毎時2マイクロシーベルトを超え、土壌の放射能汚染をうかがわせた」とある。
このプリチャチは、最近ではよくテレビでも映像が出るが、完全なゴーストタウンになっていて、事故後25年が経った今でも立ち入りは禁止されている。そこでコンクリートやアスファルトの割れ目に線量計をかざすと2μSv/h超、大元の現場である石棺のすぐそばで5μSv/h超だったというわけだ。
これを読んで、「なんだ、その程度なのか」という印象を持ってしまうようになっている自分が怖い。
今、福島第一原発周辺では、それよりずっと高い線量を示すホットポイントがたくさん存在する。福島市や郡山市内では、県や文科省が公式発表している空間線量においても1μSv/h超はあたりまえで、線量計を地表に近づければ5μSv/hくらい軽く超える場所はいくらでもある。我が家の周りにだってその程度のホットスポットはある。例えば、うちから獏原人村に行くルートの途中には、車で通過する際、車内でも5μSv/hを超える線量を示す場所がある。そこはいわき市のはずれだが、何の制限区域にもなっておらず、普通に人が暮らしている。
それよりも「低い」チェルノブイリ周辺が、今なお立ち入り禁止、居住禁止処置になっているという現実に、日本政府、福島県、周辺自治体はどう対処するつもりなのか。我々周辺住民はどう向き合えばいいのか。
メディアでは今でも「外部に放出された放射性物質はチェルノブイリの10分の1」とか「チェルノブイリの○倍の汚染!」などという文言がよく見うけられる。
一見矛盾するようだが、どちらもそう間違ってはいないだろう。放出された放射性物質の「総量」は福島のほうが少ないとしても、影響を受けたエリアでの汚染度合はチェルノブイリ並み、あるいはより深刻な場所がある、ということだ。
旧ソ連と日本では土地の広さがまったく違う。
チェルノブイリ事故では、汚染は北欧三国やオーストリアに及んで、長期間の農作物出荷制限を余儀なくされた。その範囲の広さを考えたら、日本列島などいくつも丸ごと呑み込まれてしまう。
原子力発電環境整備機構(NUMO)フェローで、前理事の河田東海夫氏が、2011年5月24日の第16回原子力委員会で「土壌汚染問題とその対応」というリポートを「資料」として発表している。
この河田氏は、核燃料サイクル開発機構の理事も務めたバリバリの原子力推進派だが、この人が上記の「資料」をもとに、以下のような指摘をした。
1)チェルノブイリ原発事故では、1平方メートル当たり148万ベクレル以上の土壌汚染地域約3100平方キロを居住禁止、同55万~148万ベクレルの汚染地域約7200平方キロを農業禁止区域とした。
2)福島県内で土壌中の放射性物質「セシウム137(半減期30年)」の蓄積量を算定したところ、上記に相当する1平方メートル当たり148万ベクレル以上の地域は、東京23区の面積に相当する約600平方キロ、同55万~148万ベクレルの地域は約700平方キロあり、それぞれ複数の自治体にまたがっている。
国策としての原子力、特に、狂気とも言える核燃料サイクル構想を本気で推進してきた人物が「チェルノブイリのときの規制を福島にあてはめると、東京23区と同面積が居住禁止に、それ以上の面積が耕作禁止になる」と認め、積極的に公表しているのだ。
↑チェルノブイリ周辺の汚染マップ(クリックで拡大)
↑汚染はヨーロッパ全土に及んだ。4万~18万5000ベクレル/平米の汚染を表すピンク色の部分が
北欧三国やオーストリアにも及んでいることに注目(クリックで拡大)
彼はそう指摘した後に、「避難者を地元に帰し、生活を取り戻させるためには、大規模な土壌修復計画が不可欠であり、それらと連動した避難解除計画、長期モニタリング、住民ケアを含む包括的な環境修復事業(ふるさと再生事業)に国は強い決意で臨む必要があり、そのためにしっかりした体制を構築することが望まれる」と提言している。
この発言の真意は、放射線量による規制で住民を強制退去させることによる負担のほうが、放射線による健康被害よりはるかに大きいだろうから、チェルノブイリのような厳しい規制を踏襲することは利口ではない、ということだろう。
この主張そのものはあながち批判されるべきものとは言えない。現実に、今、避難生活のストレスに耐えきれずに、多くの住民が避難や強制退去後に命を落としたり、入院したりしている。
しかし、その前に、日本が今、従来の基準をあてはめたら福島県丸ごとプラスαくらいの規模で国土を喪失している事態になっているということを、国やマスコミは率直に認め、こういう事態になった責任について語らなければならない。
河田氏が提言するように、チェルノブイリのときの基準をあてはめたら放射能汚染による健康被害とは比較にならないほどひどい実質的なダメージを国民に与えることになるから、柔軟迅速な対応をして、避難住民を早く元の場所に戻れるようにするべきなのか、それともあくまでも「基準」を厳守して福島には人が住めず、作物も作れないように国が強権発動すべきなのかの議論をするなら、その後にやっていただきたい。
福島県から遠くで暮らしている人たちが「福島県全体を立ち入り禁止区域にしないのは殺人行為だ」などと主張しても、当の殺される側の我々はそんな簡単な理屈で動けるわけはない。福島に暮らし続け、放射線の影響で将来死ぬ(かもしれない)人の数より、福島から追い出されることで今日明日にでも死ぬ人の数のほうが桁違いに多いことは明白だ。
30km圏内にある医療施設や福祉施設は、事故直後、浮遊している放射性物質が最も多いときに無理矢理移動させられ、その途中や避難先で何人も死んでしまった。3か月経った今、30km圏内にあった医療施設・福祉施設の中には、郡山市や福島市内より低い線量の場所のところがあるが、無人になっている。
一方、放射性物質が高濃度に降りそそいでしまった飯舘村では、村営の特養老人ホームは避難させずに残している。そのことの是非は議論の的になるだろうが、特養にいる老人たちにとっては被曝よりも無理に移動させることによって命を縮めるリスクのほうがはるかに高いことは誰にでも分かる。無論、その介護にあたる若いスタッフはどうなるのかという話になるわけだが、「汚されてしまった福島」でどう生きていくかという問題は、こういうレベルでの判断力、葛藤の問題になってくる。
今のままでは、あらゆることがいい加減にされたまま、住民は放置され、解決策を見いだせないまま疲弊していく。
1ミリシーベルトだの20ミリシーベルトだのという机上の議論を闘わせているよりも、まずは汚染された地域の全世帯に線量計を配布し、自分の生活環境がどの程度放射線に晒されているのかを知らせることだ。水や土壌の汚染状況を細かく測定して公表することだ。自治体単位で線引きをして命令を下していたのではあまりにも現実に合っていない。
飯舘村の人たちはいちばん危険なときに情報を隠されて高い線量を被曝させられた。さんざん被曝させられた挙げ句に、今度は強制的に退去である。村を出て行く人たちは、もう戻ってきて元の暮らしを再開することはできないと分かった上で出て行っている。
そのすぐ隣の南相馬市北部エリアは、今も相当な線量があるにも関わらず何の区域にも指定されていないため、東電の補償仮払金も支払われず、避難したくても場所や資金援助をしてもらえない。今も不安と絶望の中で被曝に耐えているのだ。
↑ガイガーカウンターメーカーのWEBサイトに出ている「異常な注文殺到のため最低でも4か月待ち」という表示
諸外国から寄附された大量の線量計は、被害地域に配られず、長い間、成田の倉庫に留め置かれていたという。我々は入手困難な線量計を求めて、法外な金を支払わされている。机上の議論より先に、こうした馬鹿げた状況を少しでも改善してほしいのだ。
数値論争をする前に、まずは住民が自分たちの生活している環境の汚染度を知る手立てを、国や東電は責任を持って用意せよ。
それによれば、石棺に近づくと5.24μSv/h、原発職員ら約5万人が住んでいたプリピャチでは、「コンクリートやアスファルトの割れ目に盛り上がるコケに線量計をかざすと、毎時2マイクロシーベルトを超え、土壌の放射能汚染をうかがわせた」とある。
このプリチャチは、最近ではよくテレビでも映像が出るが、完全なゴーストタウンになっていて、事故後25年が経った今でも立ち入りは禁止されている。そこでコンクリートやアスファルトの割れ目に線量計をかざすと2μSv/h超、大元の現場である石棺のすぐそばで5μSv/h超だったというわけだ。
これを読んで、「なんだ、その程度なのか」という印象を持ってしまうようになっている自分が怖い。
今、福島第一原発周辺では、それよりずっと高い線量を示すホットポイントがたくさん存在する。福島市や郡山市内では、県や文科省が公式発表している空間線量においても1μSv/h超はあたりまえで、線量計を地表に近づければ5μSv/hくらい軽く超える場所はいくらでもある。我が家の周りにだってその程度のホットスポットはある。例えば、うちから獏原人村に行くルートの途中には、車で通過する際、車内でも5μSv/hを超える線量を示す場所がある。そこはいわき市のはずれだが、何の制限区域にもなっておらず、普通に人が暮らしている。
それよりも「低い」チェルノブイリ周辺が、今なお立ち入り禁止、居住禁止処置になっているという現実に、日本政府、福島県、周辺自治体はどう対処するつもりなのか。我々周辺住民はどう向き合えばいいのか。
メディアでは今でも「外部に放出された放射性物質はチェルノブイリの10分の1」とか「チェルノブイリの○倍の汚染!」などという文言がよく見うけられる。
一見矛盾するようだが、どちらもそう間違ってはいないだろう。放出された放射性物質の「総量」は福島のほうが少ないとしても、影響を受けたエリアでの汚染度合はチェルノブイリ並み、あるいはより深刻な場所がある、ということだ。
旧ソ連と日本では土地の広さがまったく違う。
チェルノブイリ事故では、汚染は北欧三国やオーストリアに及んで、長期間の農作物出荷制限を余儀なくされた。その範囲の広さを考えたら、日本列島などいくつも丸ごと呑み込まれてしまう。
原子力発電環境整備機構(NUMO)フェローで、前理事の河田東海夫氏が、2011年5月24日の第16回原子力委員会で「土壌汚染問題とその対応」というリポートを「資料」として発表している。
この河田氏は、核燃料サイクル開発機構の理事も務めたバリバリの原子力推進派だが、この人が上記の「資料」をもとに、以下のような指摘をした。
1)チェルノブイリ原発事故では、1平方メートル当たり148万ベクレル以上の土壌汚染地域約3100平方キロを居住禁止、同55万~148万ベクレルの汚染地域約7200平方キロを農業禁止区域とした。
2)福島県内で土壌中の放射性物質「セシウム137(半減期30年)」の蓄積量を算定したところ、上記に相当する1平方メートル当たり148万ベクレル以上の地域は、東京23区の面積に相当する約600平方キロ、同55万~148万ベクレルの地域は約700平方キロあり、それぞれ複数の自治体にまたがっている。
国策としての原子力、特に、狂気とも言える核燃料サイクル構想を本気で推進してきた人物が「チェルノブイリのときの規制を福島にあてはめると、東京23区と同面積が居住禁止に、それ以上の面積が耕作禁止になる」と認め、積極的に公表しているのだ。
↑チェルノブイリ周辺の汚染マップ(クリックで拡大)
↑汚染はヨーロッパ全土に及んだ。4万~18万5000ベクレル/平米の汚染を表すピンク色の部分が
北欧三国やオーストリアにも及んでいることに注目(クリックで拡大)
彼はそう指摘した後に、「避難者を地元に帰し、生活を取り戻させるためには、大規模な土壌修復計画が不可欠であり、それらと連動した避難解除計画、長期モニタリング、住民ケアを含む包括的な環境修復事業(ふるさと再生事業)に国は強い決意で臨む必要があり、そのためにしっかりした体制を構築することが望まれる」と提言している。
この発言の真意は、放射線量による規制で住民を強制退去させることによる負担のほうが、放射線による健康被害よりはるかに大きいだろうから、チェルノブイリのような厳しい規制を踏襲することは利口ではない、ということだろう。
この主張そのものはあながち批判されるべきものとは言えない。現実に、今、避難生活のストレスに耐えきれずに、多くの住民が避難や強制退去後に命を落としたり、入院したりしている。
しかし、その前に、日本が今、従来の基準をあてはめたら福島県丸ごとプラスαくらいの規模で国土を喪失している事態になっているということを、国やマスコミは率直に認め、こういう事態になった責任について語らなければならない。
河田氏が提言するように、チェルノブイリのときの基準をあてはめたら放射能汚染による健康被害とは比較にならないほどひどい実質的なダメージを国民に与えることになるから、柔軟迅速な対応をして、避難住民を早く元の場所に戻れるようにするべきなのか、それともあくまでも「基準」を厳守して福島には人が住めず、作物も作れないように国が強権発動すべきなのかの議論をするなら、その後にやっていただきたい。
福島県から遠くで暮らしている人たちが「福島県全体を立ち入り禁止区域にしないのは殺人行為だ」などと主張しても、当の殺される側の我々はそんな簡単な理屈で動けるわけはない。福島に暮らし続け、放射線の影響で将来死ぬ(かもしれない)人の数より、福島から追い出されることで今日明日にでも死ぬ人の数のほうが桁違いに多いことは明白だ。
30km圏内にある医療施設や福祉施設は、事故直後、浮遊している放射性物質が最も多いときに無理矢理移動させられ、その途中や避難先で何人も死んでしまった。3か月経った今、30km圏内にあった医療施設・福祉施設の中には、郡山市や福島市内より低い線量の場所のところがあるが、無人になっている。
一方、放射性物質が高濃度に降りそそいでしまった飯舘村では、村営の特養老人ホームは避難させずに残している。そのことの是非は議論の的になるだろうが、特養にいる老人たちにとっては被曝よりも無理に移動させることによって命を縮めるリスクのほうがはるかに高いことは誰にでも分かる。無論、その介護にあたる若いスタッフはどうなるのかという話になるわけだが、「汚されてしまった福島」でどう生きていくかという問題は、こういうレベルでの判断力、葛藤の問題になってくる。
今のままでは、あらゆることがいい加減にされたまま、住民は放置され、解決策を見いだせないまま疲弊していく。
1ミリシーベルトだの20ミリシーベルトだのという机上の議論を闘わせているよりも、まずは汚染された地域の全世帯に線量計を配布し、自分の生活環境がどの程度放射線に晒されているのかを知らせることだ。水や土壌の汚染状況を細かく測定して公表することだ。自治体単位で線引きをして命令を下していたのではあまりにも現実に合っていない。
飯舘村の人たちはいちばん危険なときに情報を隠されて高い線量を被曝させられた。さんざん被曝させられた挙げ句に、今度は強制的に退去である。村を出て行く人たちは、もう戻ってきて元の暮らしを再開することはできないと分かった上で出て行っている。
そのすぐ隣の南相馬市北部エリアは、今も相当な線量があるにも関わらず何の区域にも指定されていないため、東電の補償仮払金も支払われず、避難したくても場所や資金援助をしてもらえない。今も不安と絶望の中で被曝に耐えているのだ。
↑ガイガーカウンターメーカーのWEBサイトに出ている「異常な注文殺到のため最低でも4か月待ち」という表示
諸外国から寄附された大量の線量計は、被害地域に配られず、長い間、成田の倉庫に留め置かれていたという。我々は入手困難な線量計を求めて、法外な金を支払わされている。机上の議論より先に、こうした馬鹿げた状況を少しでも改善してほしいのだ。
数値論争をする前に、まずは住民が自分たちの生活している環境の汚染度を知る手立てを、国や東電は責任を持って用意せよ。
自殺者が出た相馬市玉野地区の場合 ― 2011/06/14 14:36
昨日(6月13日)午後、某大手新聞社の記者さんがわざわざタクシーで川内村の我が家まで来て取材をしていた。
ちょうど飯舘村の話をしていたところに、上司からケータイに電話が入った。
「飯舘村で酪農をやっておられたかたが自殺したそうで、今から急遽取材に向かうことになりました。すみません、ここで」……と、我が家を後にした。
ネットで検索したが、まだニュースにはなっていないらしくて分からなかった。唯一見つけたのが⇒こちらのブログ
これのことだとすると、飯舘村ではなく「飯舘村に隣接した相馬市の玉野地区で酪農を営むKさん(55歳)」ということになる。
一夜明けて、各報道機関が記事を配信し始めていた。やはりこのことだったらしい。
このKさんが置かれていた状況については上記のブログに、報道記事よりずっと詳しく、正確に書かれているのでそちらを参照していただくとして※、ここでは、もっと基礎的な情報を補完しておきたい。
まず、この相馬市玉野地区の場所だ。
本ブログでも以前に紹介した「汚染マップ」で示すと、グレーの矢印のところだ(上の図。クリックで拡大)。
飯舘村に隣接、というより、「霊山の東側」と言ったほうが福島県民には分かりやすいだろう。
3月14日の2号機、3号機から出た大量の放射性物質が北西に流れたことにより大汚染があったわけだが、この高濃度被害エリア北端あたりになる。すぐ北には宮城県丸森町があり、そのへんまでかなりの濃度で放射性物質が降下した。
しかし、ここは第一原発30km圏のはるかに外だから、東電の補償仮払金(二人以上の世帯は100万円、単身世帯には75万円)の対象外。計画的避難区域にも指定されていないので、義援金も渡りにくい。
相馬市のサイトを見たところ、義援金の分配方法は、
国の義援金:死亡者、行方不明者ともに一人あたり35万円
:家屋の全壊・全焼:35万円、半壊・半焼:18万円
県の義援金:1世帯5万円
……とあった。おそらくKさん一家は、最後の県からの義援金5万円しか受け取っていないと思われる。
あまりにも高濃度の汚染をしているため、相馬市では玉野地区で避難を希望していた数世帯には、福島市内に避難先の住宅を用意したようだが、Kさんの場合、妻子はフィリピンに逃げてしまっていたし、一人だけこの地に残って、毎日搾った牛乳を捨てていたというのだから、そうした対応のレベルをはるかに超えた地獄を見ていた。疲弊しきってしまうのは当然だ。
僕がいちばん納得がいかないのは、こうした人たちに東電から一銭も払われていないことだ。
東電が補償金仮払いの基準を決めたのは4月下旬で、対象は第一原発から半径30km圏内の世帯。
単身世帯は75万円、それ以外は一律100万円。
これをめぐっては興味深い話がたくさん出ているが、ほとんどニュースになっていない。
例えば、親・子・孫の3世代10人家族が一世帯を形成していた場合も、子供のいない夫婦一世帯も、同額の100万円というのはどういうことか、という苦情が出る。当然だ。
さらには、10人家族でも、5人の子供が全員独立して別世帯を形成していた場合はその世帯別に100万円だから、10人家族全体に支払われる総額は600万円になる。一緒に住んでいると100万円で別々に暮らしていれば600万円とはどういうことか、という苦情が出る。これまた当然だ。
さらに興味深いのは「30km圏内」をめぐる攻防だ。
田村市の一部では、集落の一部、数世帯だけが30km圏内に入り、残りの世帯は30km圏外になった。被災状況において何が変わっているわけでもないご近所同士が、かたや100万円もらえてかたやもらえないことになるとは何事か、というクレームが出て、30km圏の外にはみ出したエリアが30km圏内の「緊急時避難準備区域」に組み込まれた。
一方、いわき市の一部は30km圏内に含まれているが、いわき市では風評被害対策からか、この30km圏の部分を外してくれと言って、緊急時避難準備区域から外させた。このエリアはそこそこ線量が高いのだが、現在は無指定地域だ。
その結果、現在、「○○区域」という区分けは下の図のようになっている。
(↑クリックで拡大)
赤い矢印部分は「30km圏内に入れてくれ」エリア(田村市の一部)、青い矢印部分は「30km圏から外してくれ」エリア(いわき市の一部)である。
赤い矢印の出っ張ったエリアも、青い矢印の引っ込んだ部分も、東電仮払金の対象になっているし、避難用住宅の用意などもしてもらえているという。
そもそも、福島県内の避難者用住宅、施設などは現在余っている。汚染が軽く、地震被害もなかった無傷の家に戻って生活しながら、ときどき避難用住宅(戸建てや民間アパート、あるいは温泉旅館など)に出向いては別荘代わりに気分転換を図ったり、無料の食事を楽しんだりしている「被災者」もいる。
自宅は「緊急時避難準備区域」にあって避難場所の市街部よりも低線量。家は無傷だから、いつでも帰れる。個別の避難者用住宅も空いている。それなのに、「ここにいれば食費や光熱費がかからないから」という理由で集団避難所から出て行こうとしない人たちもいる。
それに対して、南相馬市や相馬市の西側、汚染がかなりひどいエリアは、仮払金ももらえていないし、避難や引っ越しの援助もほとんどないまま、毎日、高濃度被曝に耐えながら、搾った牛乳を捨てたり、農作物を処分したりといった虚しい作業に追われているのだ。
今回の自殺者は、そうした「無視された高濃度汚染地域」で起きたということを知っておいてほしい。
このエリアが、飯舘村や葛尾村同様、今まで原発の恩恵を受けずに自力で頑張ってきた地域であるということもぜひ覚えておいてほしい。
※その後、この記事は削除されていた。おそらく、これ以上、地域がマスコミやネットに引っかき回されることにうんざりしたのだろう。無指定地区にとっては、何の援助もないことに加えて、現状以上の風評被害、メディア報道による興味本位な視線に晒されるストレスなど、二重三重に苦しめられる。ここにこう書いていることもとても心苦しいが、やはり、東電事故の実態を多くの人に知ってもらうことは必要なことだと思うので、悩みながらも書いている。
ちょうど飯舘村の話をしていたところに、上司からケータイに電話が入った。
「飯舘村で酪農をやっておられたかたが自殺したそうで、今から急遽取材に向かうことになりました。すみません、ここで」……と、我が家を後にした。
ネットで検索したが、まだニュースにはなっていないらしくて分からなかった。唯一見つけたのが⇒こちらのブログ
これのことだとすると、飯舘村ではなく「飯舘村に隣接した相馬市の玉野地区で酪農を営むKさん(55歳)」ということになる。
一夜明けて、各報道機関が記事を配信し始めていた。やはりこのことだったらしい。
このKさんが置かれていた状況については上記のブログに、報道記事よりずっと詳しく、正確に書かれているのでそちらを参照していただくとして※、ここでは、もっと基礎的な情報を補完しておきたい。
まず、この相馬市玉野地区の場所だ。
本ブログでも以前に紹介した「汚染マップ」で示すと、グレーの矢印のところだ(上の図。クリックで拡大)。
飯舘村に隣接、というより、「霊山の東側」と言ったほうが福島県民には分かりやすいだろう。
3月14日の2号機、3号機から出た大量の放射性物質が北西に流れたことにより大汚染があったわけだが、この高濃度被害エリア北端あたりになる。すぐ北には宮城県丸森町があり、そのへんまでかなりの濃度で放射性物質が降下した。
しかし、ここは第一原発30km圏のはるかに外だから、東電の補償仮払金(二人以上の世帯は100万円、単身世帯には75万円)の対象外。計画的避難区域にも指定されていないので、義援金も渡りにくい。
相馬市のサイトを見たところ、義援金の分配方法は、
国の義援金:死亡者、行方不明者ともに一人あたり35万円
:家屋の全壊・全焼:35万円、半壊・半焼:18万円
県の義援金:1世帯5万円
……とあった。おそらくKさん一家は、最後の県からの義援金5万円しか受け取っていないと思われる。
あまりにも高濃度の汚染をしているため、相馬市では玉野地区で避難を希望していた数世帯には、福島市内に避難先の住宅を用意したようだが、Kさんの場合、妻子はフィリピンに逃げてしまっていたし、一人だけこの地に残って、毎日搾った牛乳を捨てていたというのだから、そうした対応のレベルをはるかに超えた地獄を見ていた。疲弊しきってしまうのは当然だ。
僕がいちばん納得がいかないのは、こうした人たちに東電から一銭も払われていないことだ。
東電が補償金仮払いの基準を決めたのは4月下旬で、対象は第一原発から半径30km圏内の世帯。
単身世帯は75万円、それ以外は一律100万円。
これをめぐっては興味深い話がたくさん出ているが、ほとんどニュースになっていない。
例えば、親・子・孫の3世代10人家族が一世帯を形成していた場合も、子供のいない夫婦一世帯も、同額の100万円というのはどういうことか、という苦情が出る。当然だ。
さらには、10人家族でも、5人の子供が全員独立して別世帯を形成していた場合はその世帯別に100万円だから、10人家族全体に支払われる総額は600万円になる。一緒に住んでいると100万円で別々に暮らしていれば600万円とはどういうことか、という苦情が出る。これまた当然だ。
さらに興味深いのは「30km圏内」をめぐる攻防だ。
田村市の一部では、集落の一部、数世帯だけが30km圏内に入り、残りの世帯は30km圏外になった。被災状況において何が変わっているわけでもないご近所同士が、かたや100万円もらえてかたやもらえないことになるとは何事か、というクレームが出て、30km圏の外にはみ出したエリアが30km圏内の「緊急時避難準備区域」に組み込まれた。
一方、いわき市の一部は30km圏内に含まれているが、いわき市では風評被害対策からか、この30km圏の部分を外してくれと言って、緊急時避難準備区域から外させた。このエリアはそこそこ線量が高いのだが、現在は無指定地域だ。
その結果、現在、「○○区域」という区分けは下の図のようになっている。
赤い矢印部分は「30km圏内に入れてくれ」エリア(田村市の一部)、青い矢印部分は「30km圏から外してくれ」エリア(いわき市の一部)である。
赤い矢印の出っ張ったエリアも、青い矢印の引っ込んだ部分も、東電仮払金の対象になっているし、避難用住宅の用意などもしてもらえているという。
そもそも、福島県内の避難者用住宅、施設などは現在余っている。汚染が軽く、地震被害もなかった無傷の家に戻って生活しながら、ときどき避難用住宅(戸建てや民間アパート、あるいは温泉旅館など)に出向いては別荘代わりに気分転換を図ったり、無料の食事を楽しんだりしている「被災者」もいる。
自宅は「緊急時避難準備区域」にあって避難場所の市街部よりも低線量。家は無傷だから、いつでも帰れる。個別の避難者用住宅も空いている。それなのに、「ここにいれば食費や光熱費がかからないから」という理由で集団避難所から出て行こうとしない人たちもいる。
それに対して、南相馬市や相馬市の西側、汚染がかなりひどいエリアは、仮払金ももらえていないし、避難や引っ越しの援助もほとんどないまま、毎日、高濃度被曝に耐えながら、搾った牛乳を捨てたり、農作物を処分したりといった虚しい作業に追われているのだ。
今回の自殺者は、そうした「無視された高濃度汚染地域」で起きたということを知っておいてほしい。
このエリアが、飯舘村や葛尾村同様、今まで原発の恩恵を受けずに自力で頑張ってきた地域であるということもぜひ覚えておいてほしい。
※その後、この記事は削除されていた。おそらく、これ以上、地域がマスコミやネットに引っかき回されることにうんざりしたのだろう。無指定地区にとっては、何の援助もないことに加えて、現状以上の風評被害、メディア報道による興味本位な視線に晒されるストレスなど、二重三重に苦しめられる。ここにこう書いていることもとても心苦しいが、やはり、東電事故の実態を多くの人に知ってもらうことは必要なことだと思うので、悩みながらも書いている。
諸悪の根源は税金である ― 2011/06/15 16:31
東電原発事故から何も学んでいない議論が多すぎるので、いくつか基本の基本ともいうべきことをまとめておきたい。
そして今また、同じことが繰り返されている。
自然エネルギービジネスに税金を投入しろとか、原発をやめるためには電気料金の値上げが避けられないといった詐欺論議に、またもやのせられようとしている。
頑張ろう日本、ではない。変な方向に頑張ってもらっては、この国はどんどんひどいことになる。そうではなく、
もう騙されるな! 日本!
原子力発電にまつわる「嘘」を一度全部確認することから始める
- 事故が起きたから放射性物質ができたわけではない。環境中に出たらとんでもないことになる放射性物質というゴミを大量に作りながら熱を出すシステムが原発。事故が起きなくても、日本国内に存在する放射性物質の量は変わらない。
- そのゴミは他のものと違って、地球の循環システムにのせることができず、科学の力で処理することもできない。そういうものを、今生きている世代だけでなく、今の世代が死んだ後も、人間は果てしなく管理し続けなければならない。その負の遺産を次の世代に押しつけることで続けているのが原発。
- そのゴミの保管費用とリスクを発電コストに入れていないのだから、原発の発電コストが安いというのは嘘。
- そのような「高くつく」発電方法を日本がなぜ続けてこられたかといえば、莫大な税金を投入してきたから。その分も発電コストからは除外されている。しかも、最低限必要な安全対策さえも行わず、代わりに莫大な金をかけて「事故は起きない」という非科学的なメッセージを垂れ流し、国民を洗脳してきた。
- 従って、税金を投入せず、電力会社にすべての費用と義務を負わせれば、電力会社は原発という割に合わない発電方法を選択することはない。(デモや訴訟などしなくても、自然に消滅してくれる)
- 莫大な税金を投入するということは、そこに莫大な利権が生まれるということ。その利権をむさぼる者たちが、大規模な詐欺を「国策」という名のもとで進めてきた。(これは原子力発電に限らない)
- 素人である国民が発電方法を考える必要はない。必要なのは、国が金を出さないこと(税金を投入しないこと)。国がやるべきことは企業(電力会社)に公害発生をさせず、徹底的な安全対策をさせること。それが守られなかったときの罰則を厳格に与えること。いかに安全で、安く、環境負荷の小さな発電をするかは、電力会社が考えればいいこと。彼らは「本当のこと」を知っているのだから、安全・コスト・環境負荷のバランスにおいて、その時代・状況にいちばん合った発電方式が自然に定着する。
現時点で、化石燃料を代替するものはない
- 石油・石炭などの化石燃料は有限なのだから、使い続ければいずれはなくなる。(言うまでもない)
- あらゆる産業や技術の基盤が石油なのだから、石油が完全に涸渇したときには今の技術や産業も成立しない。ウラン燃料を作りだすにも石油が必要だし、風車や太陽光パネルを作るのも石油が必要。「○○発電」は発電する技術のことであり、エネルギーを生み出す資源のことではない。技術が装置を作るためのエネルギーや資源を生み出してくれるわけではない。
- なくなるのは化石燃料だけではなく、材料資源も同じ。一部レアメタルの採掘限界年数は石油より短い。もしかすると発電装置そのものを作るための材料が涸渇するほうが石油の涸渇より早いかもしれない。
- 今できることは、まず省エネであり、無駄な生産活動を減らすことだが、それをやると経済がマイナス成長になるといって恐れている人たちが、あらゆる詐欺を働いて税金投入によるビジネス拡大をしている。原子力ビジネスはその典型。
- CO2による地球温暖化説は、衰退していた原子力ビジネスを甦らせるための全地球規模の詐欺だったが、福島事故のためにそれも難しくなった今は、脱原発を理由にした新たな税金搾取詐欺ビジネスが生まれようとしている。
- 新たなエネルギービジネスを動かしているのは一部のパワーエリート。ナイーブで勉強不足の政治家や識者と呼ばれる人たちが、まんまとそれにのせられている。正しいエネルギー政策を進めるためには、エネルギー産業に税金を投入したり、環境負荷や安全性の面での優遇措置を与えてはいけない。健全な産業として育たないからだ。
今回の被害補償を誰がどのようにするのか
- 原発で深刻な事故が起きたときは、被害が大きすぎて一企業には到底損害を補償しきれない。だから一定額以上は免責にして、残りは国がなんとかしてくれ、という約束の下で日本の原発はスタートしている。これがそもそもの間違い。
- 今回の事故が与えた損害への補償(無論、金で償えない損失・ダメージのほうがはるかに大きいのだが、まずは金で償うとして)は、まずは東電が丸裸になるまで東電の資産売却によって行うべき。発電に不要な資産を売却するのは当然だが、そんなものでは到底足らない。発電・送電設備も売る。
- 発送電設備を買う側は、それによって儲けが出るという計算で買うのだから、発電、送電は設備を買い取った側が続けることになる。東電がつぶれても電気が作れなくなるわけではない。
- 東電の原発資産を買い取る企業は現れるはずがない。もちろん、他の設備も、コストパフォーマンスの低いものは買い取らない。これこそ健全なことだ。ただし、前提として、国が余計な口を出さず(税金を投入して全量買い取り義務だの、補助金だのといったことを一切せず)、発電の方法はすべて企業に委ねる。その代わりに、安全対策義務違反を厳しく罰し、毒物・処理困難物の発生にもしっかりと罰則や税金をかける。(企業は儲からないことはやらないので、手抜きや公害発生の代償としての罰則や税金がそれより大きければ、金をかけてしっかり運営する)
- 経営陣がゼロ給与状態になり、資産・設備をすべて売り尽くし、完全な丸裸になっても補償しきれない状態になったら国が補償の続きを行う。そのときには東電という企業は消滅しているが、これだけのことを起こしたのだからそんなことは当然のこと。原発が万一事故を起こせばこうなるのだということを他の企業にも肝に銘じてもらわないと困る。
そして今また、同じことが繰り返されている。
自然エネルギービジネスに税金を投入しろとか、原発をやめるためには電気料金の値上げが避けられないといった詐欺論議に、またもやのせられようとしている。
頑張ろう日本、ではない。変な方向に頑張ってもらっては、この国はどんどんひどいことになる。そうではなく、
もう騙されるな! 日本!
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