厚労省がケアマネを「アベノマスク無料配達員」にする恐怖 ― 2020/04/15 15:27
上が配られたアベノマスク。下が普通に売られている(かつて売られていた?)一般的なサージカルマスク。配られたものは小さすぎるし、布地の白が汚い
バカが配るマスク
先日の「バカにつけるマスク」は、書いていてあまりにも情けなくなり、もうこの手の話からは距離をおこうと心に決めていたのだが、その後もあまりにもひどい事態になっているので書く。今朝、スポーツ紙が、介護施設に届いた布製マスク(以下「アベノマスク」←すでに普通名詞化した?)の記事を大きく取り上げた。
職員の男性は「小さくて、(顎まで隠そうとすると)鼻が出てしまう。今使っているマスクがなくなったら、自分で作ろうと思います」と話す。
(アベノマスク届くも「小さく鼻出る」「意味ある?」 日刊スポーツ 2020/04/15)
介護関連のサイトや各SNSでは、すでに介護現場から困惑や怒りの声が寄せられている。
予防効果の低さを耐久性という言葉ですり替え、黄ばみ黒ずみが著しい明かに売れ残りと思われる長期在庫マスクを箱で送りつけ、ケアマネさんを利用して「配布徹底」をさせようとまでしています。ただでさえ不評なマスクなのに、この変色したマスクを誰が受け取ってくれるでしょうか。
事業所に届いたマスクをケアマネが配るとか市が言ってます。そうすれば、2ヶ所以上サービスを利用してても、一人に1枚になるとか。でも、ケアマネの負担とリスクは考えられてません。ケアマネが配れば高齢者も安心できると言ってます。この緊急事態宣言が出てる世の中で、1件1件訪問しろって、何を考えてるのかわかりません。
昨日、届きました。紐が伸びないタイプ。ちょっと、これはね。自分が持っているマスクを使います。
特養老人ホームです。ガーゼマスク届きました。サージカルマスクの在庫は僅かで、それは看護優先。介護スタッフは届いたガーゼマスク着用と決定されました。
(略)個人的に、介護にガーゼマスクはない、と思ってます。自身も無症状感染者かもしれないと考えると、感染させたら…重篤化しやすい方ばかりの中、やはり怖くて使えません。
事務所から連絡が来てマスク取りに行きました。(略)各事務所から頂いたのですが、個体差あり、大きすぎたり、小さかったり、トンガリ過ぎてたりです。丁度よいのを参考に型紙をおこして自分で作ろうと思っています。
これは「和牛一族」の眼帯では?
一人がネットに届いたマスクの画像を上げると、他の地域、施設、介護事業所のスタッフらから「うちに届いたのとは違う。うちに届いたのは~~だった」といったコメントがつく。
それで、届いたアベノマスクにはいくつものタイプがあるということも分かってきた。
- 布地に明らかな黄ばみ、黒ずみがあって、倉庫で長期在庫として眠っていたと思われる古いマスク
- 最初に首相が自らしていた小さなガーゼマスク(通称「給食係マスク」)
- 耳掛け部分がゴムではなく布地で、伸びないために顔に装着すらできないもの
- 一部のドラッグストアなどで市販もされていた少し大きめのガーゼマスク(いちばんマシなタイプ?)
最初に配ったのは不良在庫一掃処分段階で、それがはけると、次はあちこちの下請け工場やアジアの低賃金労働現場に低料金で発注して作らせているんじゃないかと疑いたくなる。
そんなアベノマスクは1枚260円、送料などを含めて配布の総経費は466億円だと報じられている。
某雑誌のアンケートでは76%が「届いても使わない」と答えたとか。
いくらなんでも「あれはやめます」となるかと思っていたら、本当に送りつけ始めていた。それだけでも気が滅入るのだが、さらに怖ろしいことが起きていた。
ケアマネを無料のマスク配達員にしていた
冒頭の写真は、ある居宅ケアマネ事務所に厚労省から送られてきたアベノマスクである。これを在宅介護サービス利用者の家に1枚ずつ配れ、と厚労省が言っているという。
いくらなんでも……と、にわかには信じられない話だったのでネットで裏を取ろうとしたら、すぐに出てきた。
事 務 連 絡 令和2年3月19日
各都道府県衛生主管部(局)
民生主管部(局) 御中
厚生労働省医政局経済課(マスク等物資対策班)
老 健 局 総 務 課 認 知 症 施 策 推 進 室
老健局 高齢者支援 課
老健局 振 興 課
老健局 老 人 保 健 課
(以下抜粋)
今般、高齢者施設・事業所における具体的な配布方法について下記のとおりお示ししますので、各都道府県におかれましては御了知いただくとともに、管内市町村や貴部局所管の関連団体、関連施設にご周知いただけるようよろしくお願いいたします。
2.利用者分の配布方法
○ 利用者分については、配布事務連絡の別紙に掲げる高齢者施設・事業所の利用者が配布対象になります。各施設・事業所の具体的な配布枚数は、介護報酬データにより得られた情報等に基づき設定しています。
○ 配布先については、
・施設・居住系サービス、高齢者向け住まい等については、各施設等に配布、
・訪問系サービス及び通所系サービスについては、居宅介護支援事業所に配布しておりますので、当該事業所より各利用者に配布をお願いいたします。
※ 小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、介護予防小規模多機能型居宅介護は各サービス事業所に配布しています。
※ 居宅療養管理指導については、当該サービスのみを利用する者分を、サービス事業所に配布していますので、該当する利用者へ配布をお願いいたします。
(原本PDFは⇒こちら)
この通達が厚労省から出されたのが3月19日なので、すでに各地のケアマネ事務所にはアベノマスクが届き始めている。
新型コロナウイルスの流行を踏まえた介護現場への布製マスクの配布について、厚生労働省は19日、具体的な方法をアナウンスする通知の続報を出した。 訪問系サービスと通所系サービスの利用者の分を、すべて居宅介護支援事業所に送ると説明。「各利用者への配布をお願いします」と協力を求めた。居宅のケアマネジャーらには相応の負担がかかることになる。
(《 介護保険最新情報Vol.789 》介護現場へのマスク配布、在宅利用者の分はケアマネ事業所に発送 厚労省)
「当地でも連日感染者が出ている状況なので、玄関先での訪問にしているのに。しかも、今月は早めにモニタリング訪問(居宅ケアマネは最低月1回の利用者宅の訪問観察が義務づけられている)を終えようと、すでにご利用者様の半分以上回ってしまった後なのに。各戸に2枚の分とは別なので、なぜうちは1枚なの?と訊いてくる人もいるし……」
こんなことが現実に起きていると知って、COVID-19そのものよりも深く底知れぬ恐怖を感じた。
お国が愛国婦人会に命じて各戸に竹槍を配らせるようなものではないか。
介護現場で働く人たちは、ただでさえ大変な苦労をしている。数々の理不尽に耐え、現場現場で最大限の創意工夫、自助努力をしながら命と接している。
私は父や義母の介護を通じて、そうした人たちの素晴らしい資質、人間性を知っている。本当に頭が下がるばかりだ。
そうしたケアマネや介護施設スタッフにとって、厚労省は大本営のようなものである。命令が下れば逆らうのは難しい。その上下関係の構図の中で、トップがいちばん愚かで、現場に混乱と理不尽な困難を押しつけてくる。この構図がどんどん戦前、戦中の社会に似てきているのが怖ろしい。
太平洋戦争では、実際に敵の弾に当たって死んだ兵士よりも、馬鹿な命令を受けて、餓死、病死した兵士のほうが多かった。一般市民はメディアの嘘情報を信じたまま空襲や原爆の犠牲になった。
ウイルスそのものよりも怖いものが、今、急速に蔓延しつつある。国民がそのことに気づき、一刻も早くその原因を取り除いていく努力をしないと、本当に手遅れになる。
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