そして私も石になった(13)信じるのではなく考えろ2022/02/14 19:44

「信じる」のではなく、考えろ


<では、改めて「戦争より効率的な方法」について話そう>
 Nが言った。
 私は黙って続きを待った。

<まず、Gの実体を思い出してほしい。
  •  Gは人間に似た生物である。
  •  Gの寿命は極めて長いが、肉体はクローン技術を重ねてきたためにひ弱になっていて、運動能力は人間に比べれば劣る。
  •  Gは非常に高度な科学技術を持って地球に来たが、地球上でそれを使うための材料や労働力を持っていなかった。
  •  Gは自分たちの望む世界を地球上に作るために、アダム型生物をつくったが、当初はうまくいかなかった。
  •  Gは人間を作り、時間をかけて科学技術を獲得させることで、G自身にとっての理想世界を作ろうとしている。

 ……と、ここまで分かったところで、では、Gが望む世界というのはどんなものだと思う?>

「高度な科学技術に裏打ちされた快適で安全な社会……かな」

<そうだね。それを実現するために人間をつくり、ここまで育ててきた。時には戦争や虐殺という手段を使って、人間に科学技術を獲得させた。人間の集団行動をコントロールすることも学んできた。
 で、そろそろ最終段階にきているわけだけれど、忘れてはいけないのは、Gの数は少ないということだ。
 何千万とか何億とかいるわけじゃない。だから、今の規模の文明社会は必要ない。もっとコンパクトな世界でいいし、そのほうが管理もしやすい。
 そうした世界を作るには、今の人間社会を縮小する必要がある。
 地球で高度な機械文明社会を維持するのに必要なのは地下資源だ。特に石油とレアメタル。
 今の文明は石油が支えている。石油文明といってもいい。
 石油がなくなればこの文明は終わってしまう。原子力だのソーラー発電だの水素エネルギーだのというものはすべて迂回エネルギーであって、石油がなければ設備が作れないし維持もできないから使えない。
 石油はまだ豊富にあるが、今のペースで使い続けたら数百年で完全枯渇する。数百年なんていうのは、Gにとっては一瞬のような時間だ。
 レアメタルの枯渇はもっと早い。ジェット燃料があってもジェットエンジンを作る合金がなければジェット機は飛ばせない。
 ここまで石油文明を発展させるために、ある程度の世界人口は必要だった。でも、残された地下資源の量を考えれば、これ以上、石油やレアメタルを使う人間が無駄に増えていくのは困る。
 選ばれた少数の人間が、残った資源ときれいな環境を使って快適な文明社会を維持する。それがGの望みだ。そのためには、増えすぎた余剰人口はバッサリと切り捨てる必要がある>

「地球人口を減らすために動いている頭のいい連中がいる、という話──いわゆる人口削減陰謀論か。その手の話はだいぶ前からあるな」

<おやおや、ここまで説明してきても、きみはまだ「陰謀論」なんていう使い古された言葉を使うのかい? がっかりだよ>
 Nが言った。

<陰謀論という言葉ですべてが胡散臭い作り話になってしまう。便利な仕掛けだけれど、あまりにも単純だね。
 ああいう言葉を使って相手を馬鹿にしたがる連中は「そんな話を信じるのか?」という言い方をする。そう言う連中こそ、「この手の話は『陰謀論』だから唾棄してよい」という刷り込みを信じている。この「信じる」という行為がそもそもダメなんだよ。
 どんなことも、簡単に信じてはいけない。私が今話していることも、きみは「信じる」必要はないし、信じてはいけない(ヽヽヽヽヽヽヽヽ)「信じる」のではなく「考える」んだ。
 これは事実だろうかと考える。考えるためには、情報と、情報を偏見なく分析する力が必要だ>

「まあ、それはそうだな」

<例えば、第二次大戦中の1942年6月。世界ユダヤ人会議という組織が、ナチス・ドイツがユダヤ人絶滅計画を実行していて、すでに100万人以上が殺害されていると訴えた。でも、多くの人は、100万人という数字を誇張しすぎていると思った。たとえそういうことがあったとしても、100万人というのはいくらなんでもありえないだろうと。
 これはまさに「正常化バイアス」だね。
 ところが、戦後に判明した死者数は100万人どころではなかった。それを知らされ、世界中が驚愕した。
 しかしこれもひとつの「情報」であって、誰も実際に正確な数字を確かめることはできない。だから、この情報も事実か、とまずは考える必要がある。
 きみは、ナチスドイツが数百万人規模でユダヤ人を殺戮したという情報を事実だと思うかい?>

「それは本当だろうね。殺された側だけでなく、ドイツの側からもそういう情報が出ているし、認めてもいるわけだから。正確な数字は分からないとしても、100万人では済まないことは間違いないだろう?」

<そうだね。これを「陰謀論」だ「でっちあげだ」という人は少ない。多くの人が歴史上の事実だと受け入れている。
 大量虐殺はナチスだけじゃない。世界中で繰り返し起きてきた。そういう歴史を繰り返してきているのに、人は、自分が安全な社会に組み込まれた途端、すぐに忘れてしまう。忘れるというよりも、考えないようにしてしまう。
 簡単に「信じる」のは愚かだ。簡単に信じるということは「考えない」ということと同じだ。だから、きみにも私の話を「信じる」のではなく、「考えて」ほしいんだ>

「分かった分かった。陰謀論云々は取り消すよ。続けてくれ」

 
           


ジャンル分け不能のニュータイプ小説。 精神療法士を副業とする翻訳家アラン・イシコフが、インターナショナルスクール時代の学友たちとの再会や、異端の学者、怪しげなUFO研究家などとの接触を重ねながら現代人類社会の真相に迫っていく……。 2010年に最初の電子版が出版されたものを、2013年に再編。さらには紙の本としても2019年に刊行。
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