放射性物質を含むゴミ焼却施設があちこちに建設されようとしている ― 2013/02/19 14:12
鮫川村の焼却施設問題
上の写真は2011年8月3日のもの。福島県の塙町というところ。遊歩道の看板が見えるが、ここは地元の人たちが協力して保全に努めている場所。このずっと奥、山の中には廃校跡地があるが、そこも若い人たちが中心となって、つぶすのではなく、地域文化を伝える拠点として生かそうという運動が始まっていた。
この塙町やいわき市に隣接する鮫川村の青生野という地区に、国(環境省)が「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」なるものを建設した。
迷惑施設というものは、自治体境界線ぎりぎりに建てるのが常道だ。反対運動を起きにくくさせるためだ。今回の場合も、影響を受けるかもしれない人たちの多くは鮫川村よりも、隣接する塙町やいわき市の住民だ。
広がる里山風景。水が本当にきれいな場所
塙町の農家。住んでいた老夫婦は「毎晩俺たちの話相手になって面倒みてくれるなら、この家も土地も俺たちが死んだ後にあんたらにただでやるよ」とおっしゃっていた
その農家の裏手に広がる畑と雑木林
このへんが「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」のちょうど下流側、風下側にあたる。
さて、この「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」とはなんなのか?
なぜ環境省がこういうものをあちこちに造ろうとしているのか?
分かっていることを少しまとめてみる。
もともと、原子力発電所をはじめとする原子力関連施設以外の場所から放射性物質を相当レベル含んだ廃棄物が出る可能性というものを日本国政府も官僚も考えていなかった。
原子力安全委員会は2009年に放射性廃棄物の放射能のクリアランスレベルを1Bq/g(1000Bq/kg)と決定した。これ以下なら一般の廃棄物として処理していいだろうという数値だ。
しかし、「フクシマ」により事情が一変した。
広域にわたって一般のゴミに相当な放射性物質が付着してしまい、そんなことを言っていたらゴミ処理ができなくなった。
そこで、この数値を8,000Bq/kgに引き上げた。8000Bq/kg以下なら従来通り処分してもかまわない。しかし、8000Bq/kgを超えるものは国が責任を持って処理する、という指針を打ち立てた。管轄は環境省。
それでも8000Bq/kg超のゴミが溜まりに溜まってしまい、各自治体のゴミ処理施設はお手上げ状態になった。
8000Bq以上のゴミは「国が責任を持って処理する」と言ってしまった手前、各市町村で焼却、最終処分処理をすることは認められないことになる。環境省主導で国が行わなければならないが、その施設も施設建設用地もない。
どこかに焼却施設を作らなければ⇒大規模なものは目立つからすぐに反対運動が起きる⇒過疎地に金をつけて押しつけるしかない⇒最初は「実証試験施設」という名目で小規模なものを造ろう⇒それを出発点として、後はなし崩し的に施設を広域に広げていこう……こういうことを考えたようだ。
そのスタート地点として目をつけたのが鮫川村だった、というわけだ。
福島県南部はひどい放射能汚染から奇跡的に免れ、汚染レベルは千葉県、茨城県、群馬県、栃木県のホットスポット密集エリアよりはるかに低い。そのエリアのひとつ、鮫川水系四時川の源流部(いわき市の水道水源の上流域)にあたる福島県鮫川村青生野地区が「放射性物質を含む農林業系副産物の焼却実証実験施設」の建設地として目をつけられ、建設されてしまった。
実施主体である環境省の当初の説明では、8000Bq/kg超の農林業系副産物(稲わら、牛ふん堆肥、牧草、きのこ原木、果樹剪定枝など)を焼却対象物として、小型焼却炉を設置して焼却による減容化の実証試験を行う、ということになっていた。
2013年1月中に実証実験を始め、2014年9月まで、計600トンの焼却を予定。
焼却灰の管理は焼却炉の設置場所または隣接地に「管理型最終処分場での処分」を想定し、保管する方針。
(以上、施設の概要についてはいわき市議会議員 佐藤かずよし氏のブログなどの内容をまとめた)
これに対して、東電の元社員で、福島原発での勤務歴も長い吉川彰浩氏は、いわき市でようやく開かれた説明会に参加し、問題点を指摘した上で、フェイスブックにてこのように言っている。
//本施設は、標高700mの放牧地の分水嶺の西側に建設中で、東側は四時川の源流域です。小型焼却炉ということで環境影響調査もなく、近隣自治体及び住民への説明もなく、工事は着工されましたが、「福島県生活環境保全条例13条1項」では「工事着工の60日前」に「ばい煙指定施設設置届出書」の提出が必要でした。環境省が福島県に届出書を提出したのは10月30日で、11月15日に着工したため、12日4日、福島県が環境省に工事の一時中断を要請しました。//
//環境省も、いわき市の住民にはなぜ1時間当たり199k未満のゴミ処理能力かの説明を行いませんでした。
1時間あたり200k未満の処理能力の焼却炉は廃棄物処理法、環境アセスメント等が除外され誰の許可もいらず建設できるんです。
つまり住民説明を法的にしなくてよいようにするために行ったのは明白なんです//
//普通放射能廃棄物を燃やす場合、放射能測定器の設置と常時監視が義務付けられているんですけど、特措法のせいで8000Bq未満は一般焼却物扱いなのをいいことに関係ないという始末。それどころか原子力発電所の焼却炉に必ずあるこの設備を、発電所のゴミは高レベルだからついているんでしょとまで環境省がいう始末。//
//震災瓦礫の問題は解決しなければなりません。
焼却炉そのものに私は反対しているのではないのです。
原発事故により放射能を含むことは周知の事実なのですから、それに見合った焼却炉を適切な場所に造ればいいだけなんです。
なんでノウハウのある原子力発電所の焼却炉レベルのものを作らないのでしょう。
同じ福島なら福島第二原子力発電所構内に大規模焼却炉を作ってあげれば済む問題です。
もともと焼却灰の管理についてもノウハウがあるのですから。
それをわざわざ放射能廃棄物を燃やすのに不適切な一般焼却炉を一般の方が住む場所に造る必要性が私には理解できません。
それゆえに反対しています。//
……吉川氏は実際に福島第二原発で放射性廃棄物の焼却炉を管理していた経験を持つ、言わばこの問題に関してはプロ中のプロ。
そういう人が説明会に参加して、住民に解説を始めたのだから、環境省も村もさぞ困ったことだろう。
吉川氏がまとめた鮫川村焼却施設の問題点が⇒ここにあるので、ぜひご覧いただきたい(吉川氏ご本人からの依頼でWEBに公開)。
指摘されている問題点を整理すると、環境省の目論見というか作戦が透けて見えてくる。
1)8000Bq/kg以上のゴミでも、他のゴミと混ぜてしまえば8000Bq/kg以下にできる。そのような「前処理」をして燃やせば、いろいろな規制から逃れられる。
2)焼却施設はチープなものでよい。200kg/時以上の焼却能力を持つ大型焼却炉の場合、様々な規制や義務が生じるので、ぎりぎり200kg未満にしたほうがやりやすい。
3)「実証実験施設」という名目で建設するが、実際には出てきた焼却灰はその土地に永久保存として、最終処分場に移行させる。そういうものをあちこちに分散して造っていけば、面倒な放射性ゴミの処分ができる。
迷惑施設を歓迎する住民はいない。だから、迷惑施設の建設は、補助金やらなんとか交付金やらをつけて貧乏な自治体に持っていく。
なるべく反対運動が起こらないよう、その自治体の境界線ぎりぎり、端っこの、人口密度の低い土地を狙う。自治体境界線を挟んで隣の自治体側にいくら住民が多く住んでいても、建設する場所は隣りの自治体なので、情報が伝わるのが遅れるし、反対運動もやりづらくなるからだ。場所としては、国有地や荒れ果てた放牧地などが狙い目だ。
しかし、そういう場所というのは概して自然がまだあまり破壊されずに残っている土地であり、水源地や保安林を有していたりする。
ここは水源地だから保水能力を保つために森を残し、水が汚染されないようになるべく人工物を造らずにおきましょう、と決めた場所。
こういう「人々の生活を見えないところで守っている自然」を乱開発や汚染から守っていくことこそが環境省の仕事ではないのか?
3.11直後、環境省は「放射能はうちの管轄ではない。文科省か経産省に訊いてくれ」と言って知らん顔していた。
あれから2年経とうとしている今、環境省の役割は国交省や経産省の先兵隊のように見える。
国交省や経産省が続けてきた「貧乏な土地に金をばらまいて迷惑施設を作る」「不必要な公共事業をやらせて地方自治体を補助金漬け体質にさせる」というやり口の先兵になり、国家権力と税金から出る潤沢な資金を持った最強の地上げ屋みたいになっている。
怒りを通り越して、ひたすら悲しい。
吉川氏の言葉をもう一度掲載する。
//震災瓦礫の問題は解決しなければなりません。
焼却炉そのものに私は反対しているのではないのです。
原発事故により放射能を含むことは周知の事実なのですから、それに見合った焼却炉を適切な場所に造ればいいだけなんです。
なんでノウハウのある原子力発電所の焼却炉レベルのものを作らないのでしょう。
同じ福島なら、福島第二原子力発電所構内に大規模焼却炉を作ってあげれば済む問題です。
もともと焼却灰の管理についてもノウハウがあるのですから。
それをわざわざ放射能廃棄物を燃やすのに不適切な一般焼却炉を一般の方が住む場所に造る必要性が私には理解できません。
それゆえに反対しています。//
……現場で長年経験を積んできたプロの言葉だ。環境省はこの問いに真摯な態度で答えてほしい。
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