年金破綻は確実 どうすればいい?2016/04/07 22:55

松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授がダイヤモンドオンラインに書いている文章のまとめ、ついに3回目に突入。未曽有の人口減少がもたらす 経済、年金、財政、インフラの「Xデー」は、マイナス成長時代に日本経済が破綻しないようにするためにはどう考え、どう行動すべきかという話と、確実になった年金制度の破綻を中心に、これからの社会保障制度はどうあるべきか、どのようなライフスタイルを探るべきかという話の2本柱になっているが、この2本目の柱のほうをまとめてみる。

松谷氏はまず、年金制度について、
  • 現在の年金制度は早晩破綻する。もともと年金制度は、急速かつ大幅に高齢化する日本には不向きな制度だった。
  • 他の先進国では、2030年代の中頃にはおおむね高齢化が止まるので、その時点の高齢者と現役世代の比率をメドとして、長期安定的な年金制度をつくることができるが、日本では急速な高齢化がいつまでも止まらない。
  • 米国、英国、フランスなどは、将来的に年金を負担する人が7割、もらう人が3割の水準で安定するのに対し、日本は負担する人が5割を切るので、年金制度そのものが不可能
  • 破綻は確実なのに政府は年金制度に固執し、それ以外の社会保障制度を考えようとしない。このままだと大量の「高齢者難民」が出現し、社会が一気に不安定化する。リスクの大元は、高齢化でも少子化でもなく、政府の政策姿勢

……と指摘する。
また、財政危機についても、

  • 財政赤字は拡大し続けるが、怖いのは財政赤字そのものではなく、それに対する政府の対応策の誤り。
  • 政府は財政赤字の対応策として「増税」を選択したが、増税に次ぐ増税となって国民が離反している。
  • 人口減少によって財政を取り巻く環境が一変したのに、依然として高度成長時代の政策手段である増税で対応しようとする政府の政策選択が真のリスク原因。
  • 人口増加時代には、労働人口の割合が増え、収入と支出の変化方向が同じなので、増税すれば財政収支は均衡するが、高齢化によって労働人口の割合が低下する今後はその手法は使えない。
  • 1人あたりの租税収入が横這いなのにトータルでの財政支出が増大の一途ということは、際限なく増税を続けざるを得ないことになり、そんなことは不可能。
  • 1人あたりの租税収入が横這いなら、1人当たりの財政支出も横這いにして、収入と支出の変化方向を一致させなければならない。つまり、人口の減少に合わせて財政支出総額を縮小しなければならないのは自明の理。


と断じている。
これは誰が考えてもあたりまえのことで、なんら疑問の余地はない。それなのに現政権の明らかに間違った経済政策に淡い期待を寄せている国民の無知・思考停止こそが最大のリスクといえる。

で、松谷氏の主張でいちばん興味深かったのがここからだ。
彼は、年金破綻と経済政策の失敗で都市部がスラム化する危険性を指摘する。

  • 経済が縮小するのだから、インフラの維持・更新に回せる金も減少する。急速な高齢化で貯蓄率も大幅に低下する。
  • インフラの整備や維持更新には年間収入であるGDPから消費を差し引いた残り、つまり「貯蓄」が必要なのだから、貯蓄率が低下すれば、インフラの維持更新に回せるお金は経済の縮小以上に小さくなる。
  • 結果、公共・民間の社会インフラを良好な状態に維持できなくなり、特に都市部でスラム化が進行する。
  • それを避けるためには、先々の維持補修に回せるお金に合わせて公共・民間の社会インフラの総量を規制することが必要。
  • しかし、現政府がやっていることは逆で、景気対策といって公共投資をどんどん増やし、オリンピック招致でさらに公共インフラを積み上げてしまっている。民間のビル建設ラッシュも止まらない。
  • このままでは都市部では多くのビルが老朽化したままメンテナンスされず、放置される恐れがある。そうなるとスラム化や治安の悪化が起き、快適な都市生活が崩壊していく。それを防ぐためになんらかの建設規制が必要。


これはバブル崩壊ですでに経験していることだ。
今、我が家がある分譲地もそうだ。バブル期に調子にのって雑木林を切り拓いてリゾート分譲地もどきを作ったままデベロッパーが倒産。貸し付けていた住宅金融会社も倒産。我が家は数千万円の抵当権がついたままオーナー(地元の個人不動産屋)が夜逃げして、裁判所で競売にかけられたという過去を持つ物件だ。
原発爆発後、移転先を探しているうちに、僻地の農家物件のようなものより、リゾート分譲地の放置物件などのほうがはるかに安く売りに出されていることに気がついた。
「負け組が老後に住めるのは苗場のスラム・マンションだけ」なんていう話もあるが、苗場だけではない。茨城の大洋村しかり、信州のリゾート分譲地しかり。
同じことが都市そのもので起きれば、問題の深刻さは計り知れない。
そのリスクを少しでも軽減するためにはどうすればいいのか?

  • インフラの崩壊を食い止めるには、欧米先進国のように、耐用年数が長い丈夫で汎用性のある躯体を作り、状況の変化に応じて間仕切りや内装を変えて行く「リノベーション」などが有効。
  • しかし、個々のビル単位の対応だけでは、都市のスラム化は避けられないので、インフラのストック管理を徹底することが必須。
  • 一定以上の規模のビルや公共構造物の台帳を作る。どこにどれだけのビルや構造物があるのか、向こう何年にどれだけが耐用年数を迎え、その建て替えあるいは取り壊しの費用はいくらかかるかという情報を集めた上で、新規建設を規制・平準化したり、早期の建て替えや取り壊しを指導する。

こうした指導や管理・規制こそが政治や行政の役割なのに、今の政府は前時代的な妄想で、税金を間違った方向にばらまいている。

松谷氏は「世代間の所得移転というフローでは高齢者を支え切れないことは明らかなので、社会的ストックによって高齢者の生活コストを下げようという新たな発想が必要」だと説く。
その具体策の一つとして、こんな提案もしている。
高齢者の生活コストで圧倒的に大きいのは、住居費です。そこで、比較的良質で低家賃の「公共賃貸住宅」(低所得者向けの公営住宅ではなく、入居に所得制限がない公共住宅)を大量につくるのです。ポイントは、家賃補助、利子補給などの財政負担なしに家賃を引き下げるスキームを考えること。
たとえば、200年使える公共住宅をつくり、建築費は200年かけて家賃で回収します。民間にはとてもできませんが、国や地方自治体なら200年の借金も可能だから、財政負担なくして家賃は相当下がります。
用地は、区役所をはじめとする公共施設の上や遊休公用地を活用します。土地代がゼロなので、最終的に月額の家賃を2~3万円程度に抑えることも可能でしょう。
(略)
そして、公共賃貸住宅に介護施設を併設し、若い人の入居も可能にすれば、財政の効率化やマンパワーの確保も図れます。


……これは正しい施策だと思う。

加えて、地方にも同じ発想で人を呼ぶことだ。
地方では、まだ使える公共の建物がどんどん壊されているが、それを堅牢かつ周囲の環境に美的に溶け込む形でリフォームして、住環境、文化環境を向上させる。
高齢者は車の運転ができなくなるので地方や山間地での生活が困難になるが、無駄な箱ものへの投資を抑えた分の金を、小規模で柔軟性のある公共交通システムへの援助にあてる。
例えば、住民が自家用車で高齢者の脚代わりを務められるような法整備をした上での乗合自動車システム。スクールバスの時間外活用(登下校時以外の時間、スクールバスを住民の買い物や外出に利用できるようにする)、などなど。
体力はないが、技術や経験を持っている高齢者と、経験や金はないが、意欲や向上心のある若い世代が補い合い、助け合いながら、互いの生活を成立させるコミュニティモデルをめざす地方自治体が現れてもよさそうなものだ。
働き口がないから若者が流出するといって、工場の誘致に奔走するような政策では、地方の過疎化はとても止まらないだろう。国の財政もどんどんじり貧になるのだから、地方交付税に頼り切る生き延び方も続かない。

松谷氏は、財政崩壊を回避するには「小さな財政」を目指すしかないと主張する。しかし、「小さな政府」は、行政の責任分野を縮小して国民の自己責任を拡大することにつながる。高度化した都市国民生活は、もはや高度な行政サービスなしには成り立たないので、実際にはとても困難な命題だ。
  • スウェーデンには、民間人が近所の高齢者のケアをすると、国から費用と報酬が支給されるという制度がある。国民の相互扶助を有償で活用することにより、行政サービスの水準を維持しながら、行政コストを縮小するうまい方法だ。
  • こうした発想を生かせば、国や自治体はケアのためのハコモノや、関係する行政組織を大幅に縮小することができるはずだ。
  • そのためにはさらに、民間取引価格より5割から倍も高い、業者優遇の政府調達価格、いわゆる「官庁価格」は即刻廃止すべき。
  • 目的とする「人」や「モノ」に予算が届くまでの経路迂回(政府機関、関係法人、関係団体を経由することによる「目減り」)も、根絶すべき。
  • 「天下り」も当然廃止。
  • 増税する前に、税の捕足率(いわゆるクロヨン)を正常化し、税の公平性を確保する。それだけで税収は増える。

そしてこう結んでいる。
確かに言えることは、日本人はこれから、人口減少を前提に考えて生きて行かなくてはならないということです。人口減少を阻止しようと考えるのではなく、人口が減っても子どもが減っても、引き続き安心して豊かに暮らせる社会をつくっていくほうに目を向けるべきなのです。


……まったくその通りだ。

さて、ここ何回か、学者たちの意見を参考にして、今の日本の惨状を分析し、今後、よりマシな方向に舵を切るための方法論を考えてきた。
日本の企業は優秀だ、技術大国だという幻想を捨て、現状を直視せよ。企業なんてものは今も昔も相当いい加減なことをしてきている、という認識から始まり、高齢化と人口減少による年金制度崩壊は確実であり、経済のマイナス成長時代に突入することも避けられない、ということを見てきた。
それを乗り切るには発想の転換が必要だが、企業のトップは惚け老人か、若いのに志も倫理観もない金の亡者みたいなのが目立つ。
政府は、惚けた経営者には麻薬を、金の亡者には覚醒剤を配るかのような施策を続けている。
それなのに内閣支持率が50%???
繰り返してしまうが、この国にとっていちばんのリスクは現政権を放っておく国民の無知と思考停止だ。
次の選挙でも同じことを繰り返すなら、いよいよ非常事態に突入したと覚悟して、サバイバル生活を始めるしかないだろう。
あ~あ、そんな元気も体力もないよ。
困った困った。

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