経済マイナス成長時代を生き抜くには2016/04/07 22:49

前回紹介した松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授がダイヤモンドオンラインに書いている文章の後半、未曽有の人口減少がもたらす 経済、年金、財政、インフラの「Xデー」のまとめその1。
この文章では、低成長、あるいはマイナス成長時代に日本経済が破綻しないようにするためにはどう考え、どう行動すべきかという話と、確実になった年金制度の破綻を中心に、これからの社会保障制度はどうあるべきか、どのようなライフスタイルを探るべきかという話の2本柱になっている。
話が同時進行しているので、これを「経済編(企業の戦い方)」「社会保障制度編(庶民の暮らしかたと行政のあり方)」に分けてまとめてみる。
まずは「経済編」から。

  • 経済成長率は、労働者数の増減率と労働生産性の上昇率で決まるが、労働生産性上昇率は先進国ならどこもほぼ同じだから、残る労働者数の増減が経済成長率の増減を決定する。
  • 日本は、どの先進国よりも労働者の減り方が大きい。結果、日本の経済成長率は世界で一番低くなる。これは変えようがない。
  • 具体的には、現在の実質1.0~1.5%の成長率が年々低下し、2020年過ぎにはマイナスに転じる。先進国でマイナス成長となるのは日本だけ。労働者の減り方があまりにも大きいため、技術の進歩をもってしてもカバーし切れない。
  • 労働人口が少ない国の経済規模が小さくなるのは当たり前のこと。マイナス成長そのものがリスクなのではない。日本よりGDPの小さい先進国はいくらでもある。
  • 恐れるべきは、経済の縮小が経済の「衰退」に発展すること。他の先進国と異なり、従来の日本経済は、製品の量産効果による価格の安さで勝負してきた。しかし、マイナス成長になって生産規模が縮小すれば、量産効果が逆に働き、価格競争に負ける。
  • 競争力が落ちる⇒国際収支が赤字に転落⇒需要抑制政策や円安・原料不足により生産はますます低迷⇒経済は衰退の一途……というのがいちばんのリスク。
  • このリスクを招いているのは日本のビジネスモデルが古いままであること。他の先進国が日本のような労働者の減少に見舞われて経済が縮小しても、衰退にまでは至らないだろう。なぜならマイナス成長、人口縮小に合ったビジネスモデルに切り替えられるから。

……ということを理解した上で、では日本経済にとっての真のリスクである「古いビジネスモデルから脱却できない」ことをさらに分析すると……。

  • 人口減少による労働力の減少を、女性・高齢者などの余剰労働力や外国人労働力などで補填すれば、経済成長が確保できて経済は衰退しない、というのが安部政権の考えだが、生産能力の維持だけでは健全な経済は保てない。作った製品が売れなければならないが、実際には日本製品は世界市場でどんどん売れなくなっている。その理由を考えなければ解決しない。
  • 日本製品が売れない原因は、新興国・途上国の台頭にある。彼らは、従来の日本と同じビジネスモデル(欧米先進国が開発した製品をロボットを使って大量に安くつくるというモデル)で世界市場に価格破壊をもたらした。賃金水準が10分の1程度の国を相手に同じビジネスモデルで勝負できるはずがない。
  • これに対して、欧米先進国のビジネスモデルは、自分たちで開発した製品を適量作って高く売るというモデル。新興国・途上国との価格競争が起きない。
  • 日本も先進国モデルに転換すべき。日本製品に付加価値をつけて今より高く売れれば、少なくなった労働力でも適正なGDPを確保することができる。
  • しかし、先進国モデルへの転換は、世界第一級の製品開発力があって初めて可能になること。残念ながらそれを日本人だけの努力で達成することは不可能。
  • 現在先進国間で進行中の製品開発競争とは「人材獲得競争」である。世界中から優秀な人材を集めることができた国や企業が勝ち組になる。そこにはもはや国境はない。
  • しかし、今の日本は「開発水準の低い国」と見られているので、優秀な外国人は日本に来ない
  • 残された道は、有力な外国企業を企業ごと大量に誘致すること。欧米先進国では3分の1から半数近くが外国企業。そこまで徹底して国際化しないと、先進国モデルのための製品開発力は得られない(シンガポールモデル?)。自分たちの「本体」には影響のないような「国際化の真似事」では、日本は世界から遅れるばかり。


……と言っている。
現状分析については概ねその通りだろう。ただ、解決策として、人材を個別に引き抜いてくるのは無理だから、企業ごと誘致してしまうしかないという論はどうなのか。
これに近いことを主張する経済学者は多い。シンガポールが経済政策の上では成功例としてみなされているからかもしれない。
シンガポールは東京23区とほぼ同じ面積(約716平方キロ)に約547万人(うちシンガポール人・永住者は387万人。2013年9月)が住む国だが、それを日本全体と一緒に比較するのは無理がありそうだ。東京だけをシンガポール化するというような話ならまだありえるのかな、とも思うのだが。
しかし、それができたとしても、では日本という国の実体はどこにいってしまうのか……といった疑問が当然わいてくる。
東京を世界の経済基地の一つとしてリファインしたとして、地方はどうなるのか。そんな国に魅力があるのか?

で、松谷氏は、この方法論とは別に、もうひとつの方向性も示している。「職人大国」として、高度な物作りの国というブランド価値を復活させるというものだ。
例えば、かつて白物家電の生産現場では、溶接工程や鍍金工程など様々な工程に職人技が効果的に使われ、それが製品の魅力や性能を高め、強い競争力を得ていたが、1990年代以降のコスト削減最優先の中でそれらをロボットによる大量生産に置き換えたために労働賃金の安い新興国・途上国の製品と大差がなくなり、競争力が急速に失われた、という。
今でも職人技が残って成功している数少ない例は、北陸三県の万能工作機産業。刃物や金属加工における職人技と、コンピュータを駆使した最新技術の融合による精密な製品づくりで、圧倒的に高い国際競争力を持っている。こうしたビジネスモデルをもっと追求すべきだという。
問題点としては、多くが部品生産の段階にとどまっていたり、完成品でもデザイン力に欠けることなど。これを改善できればさらに競争力が高められる。
まとめると、

  • 日本が誇る職人技と近代工業技術を融合し、ロボット生産ではできない「高級品」や「専用品」づくりを目指す。
  • 既存の製品分野であっても、日本にしかできない付加価値をつけた高級品を適量作って高く売る
  • 商品開発力やデザインセンスを向上させ、今まで以上の競争力をつける。

……といったところだ。
これはまったくその通りで、異論はない。
デザインがダサいというのは簡単には乗り越えられないかもしれないから、そういう部分にこそ海外からの人材を投入すべきかもしれない。
あるいは、才能のある人材が適材適所に配置されるよう、企業の経営者が意識改革することが必要だろう。
若い人たちは熟年世代の職人魂を馬鹿にせず、いかにその技術と精神力をデジタル技術と融合させて「新しい商品価値」を作り出せるかを考えてほしい。
ITを上っ面だけ使ってただ金が儲かればいいという気持ちでは、一時あぶく銭を手にすることができたとしても、永続性はない(ホリエモン的ビジネス価値観)。
また、企業のトップは、自分ができること、知っていること以外のことを、提灯持ちや詐欺師連中にアウトソーシングするのではなく、本当に「よりよいもの」を作ろうとしている若い人たちに委ねることだ。それができない経営者は、どんな巨大企業であろうが、衰退の一途をたどるだろう(東芝やソニーの例)。とことん壊れる前に死んじゃえば、後のことは知らん……というのでは、企業の経営者として根本的な責任を果たしていない。自信がないならさっさと席を譲りなさい、と言いたい。

もうひとつ。ここでは「物作り」にしか触れられていないが、職人技が価値を発揮するのは「物作り」──新しい製品を作ることだけではない。中古品を再生させたり、より価値の高いものに作りかえたりすることにも発揮される。
高級なものを高く売るのは結構だが、それを買えるのはごく一部の富裕層だけだ。庶民は、その商品の価値や魅力を十二分に知っていても、金がないから買えない。
しかし、金持ちが飽きて手放したり、死んで残した物が再流通するときには、修理やリファインの技術が大いに価値を発揮する。
新しいものを作るには資源とエネルギーが消費されるが、中古品の再生であればどちらもぐっと消費量を減らせる。ゴミも減らせるから環境悪化も減速させられる。
車や家屋のような大きなものは特にその効果が高い。
そうした分野での金のやりとりも立派に「経済」だし、流通の多様化によって貧困層が幸福感を得られる機会も増える。
人口減少社会では、新たな生産よりも中古品の再生、再利用といった経済モデルのほうが無理がない。
また、ゴミ処理技術、汚染物質を減らす技術、エネルギー効率を上げる省エネ技術といった分野も日本の得意とするところのはずだ。
アメリカ人が好みそうな車をトヨタが大量に作り続けることだけが「日本の産業」ではない。
原発や兵器を輸出したいとか考えるよりも、原発の廃炉技術に真剣に取り組んで、その技術を世界に輸出して儲けようと考えるほうがよほどまともで合理的だと思うのだが、この国は官も民も狂ったように合理性から逆行し、破滅の道を突き進んでいる。
いつまでもバブル惚けしている政治家や企業トップに早く退いてもらうことこそ、いちばんの経済救済策なんじゃないかな。

……というわけで、社会保障制度編については、また次回にしましょう。

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