「シ」で始まる曲を作った2019/10/28 22:14

今回の録音に使ったギター2台
いわゆる「ドレミファソラシド」のことを音階という。この並びでドから始まる音階を長音階(メジャースケール)、ラから始まる音階を短音階(マイナースケール)という。
個々のドとかレのことを「階名」というが、階名は絶対的な音の高さを表しているのではない。音階の中での音の位置(音階のはじめの音=主音からの相対的な位置)を表している。 これに対して、音の高さを表すのが「音名」で、英語ならABCDEFG、日本式だとイロハニホヘトで表す。
ちなみにイタリア式だとドレミファソラシで、世界で「階名」として最もよく使われているドレミ……は、イタリア式音名をそのまま階名にも使っているというわけだ。

現代の音楽は、IOS(International Organization for Standardization=国際標準化機構)で440Hz(ヘルツ=1秒間の振動数)の音をAとしましょう、と決められている。
このA=440Hz(1秒間で440回の振動の音。Aの音叉を鳴らしたとき、あのUの部分は1秒に440回振動している)の倍の振動数の音(倍音)までの間を12等分して、その各々の音に音名を振ったのが「平均律」という音律(音の並び方)で、一般的なピアノやギターなどはこれに合わせて調律している。

ドレミファソラシドの長音階は、ミとファの間、シとドの間が他の音の間の半分の間隔しかない。この間隔を「半音」という。他の部分、例えばドとレの間にはもう1つ音があって、ド♯とかレ♭などと呼ぶこともあるが、♯や♭は音名につけるべきだという考え方からすれば変な呼び方になる。
ド♯やレ♭にも独立した階名を与えるべきだという考え方から、英語圏の国々では、ドレミのイタリア式音名を基にして、♯は母音をi、♭は母音をeに変えて発音する(Reの場合は元々母音がeなので♭はaにする)という方法も採用されている。ただ、これだとレの半音下は「ラ」、ラの半音下は「レ」となって、RとLの区別がつかない日本人には同じに聞こえてしまって大混乱になる。(本来、レはRe、ラはLaで、子音がRとLで違う)

この「半音部分」はとりあえず置いておいて、ドレミファソラシドの長音階、ラシドレミファソラの短音階だけに話を絞ると、世の中の多くの曲は、この長音階、短音階のいずれかの音階を基にしたメロディである。
童謡『チューリップ』は、ドレミ ドレミ ソミレドレミレ……と始まる長音階(長調)の曲であり、『荒城の月』はミミラシドシラ ファファミレミ……と始まる短調の曲である。

ドレミファのうち、長調ならドが音階の主音、短調ならラが主音で、メロディの中でいちばん安定した音に聞こえる。つまり、長調ならドで、短調ならラで終わると落ち着く。実際、『チューリップ』の最後(どの花見ても、きれいだな)は、ソソミソララソ ミミレレドー、と、ドで終わっているし、『荒城の月』の最後(昔の光 今いずこ)はミミラシドシラ ファレミミラ、と、ラで終わっている。
主音の次に安定して聞こえるのは3度(主音から3番目)と5度(主音から5番目)の音で、長調ならミとソ、短調ならドとミである。
主音でも3度、5度でもないレ(長調なら2度、短調なら4度)、ファ(長調なら4度、短調なら6度)、シ(長調なら長7度、短調なら2度)という音は、メロディの最初や最後に来ることは滅多にない。
滅多にない例を探してみると、『君が代』はレで始まりレで終わるという珍しい曲であり、トワエモアが歌ってヒットした『空よ』はファで始まっている(終わりはドなので普通)。
さて、シで始まったりシで終わっている曲というのはあるだろうか? 有名な曲ではなかなか思い浮かばない。
シは長調では主音のドの半音下で、なんとかドにたどり着きたいよ~という不安定な音に聞こえる。これを「導音」という。(ちなみに短音階の場合、主音のラの下のソは半音ではなく全音離れているので不安定さはなく、「導音」とは呼ばない)

というわけで、「シ」は、長音階では導音という不安定な音、短音階では2度という、主役にはなりづらい音なのだ。だからシで始まったりシで終わったりする曲は簡単には見つからない。

Beginning with ‘Si'

では、シで始まり、シで終わる曲が作れないだろうか?

と、ふと思いついたのがひと月以上前のことだった。
これは、2音だけで曲が作れないかという発想で作った『Two Note Waltz』にも似た発想で、苦し紛れというか悪あがきの作戦。いいメロディがなかなか思い浮かばないので、ヒントというか、わざと条件を厳しく与えることによって、個性的でいいメロディが生まれないか……という思惑。

頭の中で「シー……」と思い描きながらいくつかのメロディを組み立ててみる。寝ているときもずっと考えていたので、朝、変な夢を見て起きた直後にも頭の中には「シ」が鳴っている。
この「シ」はあくまでも音階の中の「シ」であって、Bの音ではない。つまり頭の中で鳴っている「シ」は、そこからつながるメロディに導くシである。

シーーーー シドレミレドミ シーラシーーーーー
……というメロディは当初からずっと頭の中で鳴っていた。でも、そこから展開するメロディがつまらなかったりして、何度も捨てては拾い、の繰り返しになった。
ある程度の小節数浮かんだときは、MuseScoreという記譜ソフトでメモしておく。翌日は疲れて確認するのも嫌で、数日後にその譜面を見ると、そのときに思い浮かべていたメロディとは全然違っていて、あれ? じゃあ、やっぱりこのメロディでは不自然なのかな、駄作にしかならないのかな、と、見捨てることになる。
そんなことを何度か繰り返していたが、その間はずっと例の「紙の本」作りに一日の大半を費やしていたので、実際にはほとんど「シで始まる曲作り」には向き合っていなかった。

国会図書館に送る本の第一陣が準備できたので、久々に「シから始まる」に向き合ってみた。
歌にしたかったので、歌詞がつかないといけない。どうせなら歌詞も「し」で始まり、「し」で終わらせてみたい。
これは『ドミソの歌』のときにも苦労した制約。ドやレはいいのだが、ファで始まる単語がない。あるとしても外来語だからね。ファイトとかファンファーレとか、そのへんはもう使われていたし……。

で、「白い」で始めると、「しろ」は弱起(小節の前にはみ出した部分)になるだろうな、弱起で2音入れるなら、シラシーーーとしたかったのだが、それだと「白い」のイントネーションには合わないよなあ。「白い」で始めたいなら、シラシーーではなく、シドシーーーだよなあ……などなど、またいろいろ制約が出てくる。
そういう制約を楽しみながら作ったのだが、結局、イントロがマイナーナインスコード、サビ部分は「いいメロディに聞こえる魔法のコード進行」を使ってしまうというクリシェ(使い古された手法)三昧。
……情けない。シで始まるというユニークさを追求したのに、出来上がりは自分にとってのクリシェだらけかい。

でもまあ、最後はそれでいい、ってことにした。
コードや作風はタクキ節なんだけど、シで始まりシで終わるというルールは達成できたし、サビだってファで始まっている。
十分健闘したということにしておこう。

……以上はメロディにおける話だったけど、この曲には他にもいくつかの暗喩を込めている。「シで始まる曲を作ってみようかな」とフェイスブックで呟いたとき、すでにその暗喩を見抜いている人もいたので、歌詞がついた今は、誰にでも分かることだと思うけれど。

長い前置きはここまで。

出来上がった曲はこんな感じ↓ まともなスピーカーで聴いてほしいけれど、スマホの人は、せめてちゃんとしたイアフォンで聴いてね!

シから始まる from TANUPACK

ちなみに、最初はEmで演奏してみたのだが、Em9で始める曲があまりにも自分にとって定番なのと、もう少し高いほうがきれいに歌えそうだったので、Fmで演奏してみた。Fm(ヘ短調)だから、この演奏における「シ」はGの音である。


ついでに「2つの音だけでメロディを作る」という発想から生まれた『Two Note Waltz』も復習?としてどうぞ↓

Two Note Waltz  TANUPACK on Vimeo.

ちなみにこのイントロ(ベース音が半音ずつ下がっていく)の演奏方法を音楽の世界では特に「クリシェ」といっているが、クリシェはもともとは「使い古された陳腐な方法」というような意味のフランス語である。







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