北関東のダサい地域こそ移住の狙い目2021/01/14 16:10

地方移住のススメ(2)

地方へ移住すれば住居費が軽減できて、ゆとりのある生活ができる?
そうであったとしても、具体的にどのへんの「地方」がいいのか──それが問題ですね。
好き嫌いや様々な事情があって一概にはいえないでしょうから、ここではザックリと基本的な「考え方」をまとめてみます。

どうしても年に数回は行かなければならない場所からの距離

 私が最初に購入した田舎暮らし物件は、新潟県の中越地方、川口町(当時は北魚沼郡。現在は長岡市に併合)にある280万円の古民家でした。
 今から30年ほど前、36歳のときで、当時はまだブロードバンドもなく、東京から完全に離れて生活するのは無理だったので、別荘として購入しました。
 夏の間はほとんどそこにいたのですが、このときに分かったのは、他に生活拠点がある「二地域居住」や、仕事などでどうしても頻繁に移動しなければならない場合の移動距離の上限はせいぜい200kmだということです。
 越後の家は、民家が20軒ほどしかない山奥の限界集落の外れにありましたが、関越自動車道越後川口ICから車で10分ほどの場所で、車で移動する分には便利な場所でした。
 土地は500坪弱くらいだったでしょうか。裏手は土手状の斜面で、その下に川が流れているという地形でしたが、売り主さんは「このへんは地盤がしっかりしていて、新潟地震のときも、新潟市内は滅茶苦茶になったが、このへんでは被害はゼロだった」と言っていました。
 それが、2004年の中越地震で完全に潰れました。なんと、震度7の震源の真上でしたから、ひとたまりもありません。人生、何が起きるか分からないものです。

 この家を購入した最大の決め手は価格でした。280万円ならローンを組むなどしなくても支払えましたから、田舎暮らしの「お試し」としては、失敗してもそれほど後悔しないだろう、せいぜい楽しんでやろう、というような気持ちでした。まだ30代でしたから、気力も体力もあったのですね。
 それでも「移動距離は200kmが限度」というのは実感しました。それ以上になると、頻繁に行き来するのは難しくなり、購入しても放置する羽目になります。
 いざというときのために、自動車(自家用車)以外の交通手段が無理なく使えるかどうかも大切です。
280万円で購入した越後の家(2000年4月撮影)

豪雪地帯や寒い地方はお勧めしない

 越後の家は、約12年かけて、自分で壁を杉板張りにしたり、浴槽を交換したり、和室を洋室に改造したりといったリフォームを繰り返し、ようやくこれ以上はやることがない、となったときに2004年の中越地震でつぶれてしまいました。
自分の手で家の中の壁をほぼすべて杉板張りに替えたりもした。(1998年5月撮影)
 購入自体は280万円でしたが、屋根を全部葺き替えたりもしたので、12年の間になんだかんだで1000万円近く投入したと思います。
 新潟県内の不動産価格、特に山間部の物件は相当安いのですが、これは豪雪地帯だからです。冬は一晩で1m積もるなどということも普通で、屋根に積もった雪をそのままにしておくと家が潰れます。
 越後の家を維持している12年間は、冬は行けないので、冬季の雪下ろし依頼だけで毎年10万円かかっていました。(ちなみにこの地方の人たちは「雪下ろし」ではなく「雪掘り」と言います。家全体が雪の下に埋まるので、屋根の雪も「下ろす」というよりは「掘り下げる」わけです)
 地震でつぶれるまでは、終の棲家に、と思っていましたが、今にして思えば、老後にあの環境で暮らすのは到底無理でした。
 今ははっきり言えます。豪雪地帯はやめましょう。寒すぎる地域もやめましょう。歳を取ると共に、自然を満喫するとか悠々自適どころではなくなります。下手すると落雪事故や寒さによる心臓発作で死にます。
 夏場に現地を見て「なんて美しい自然環境だ」と感激し、衝動買いするようなことのないようにしてください。
ゴールデンウィークでもこれ
中越地震後の写真。4月になってもまだこれだけ雪が残り、潰れた家はこの雪の下。左に少し見えているのは、中越地震の直前にようやく建てた耐雪仕様のかまぼこ形車庫の屋根部分。皮肉なことに、この車庫だけは完全無傷で残った。(2005年4月5日)

 雪はそれほどでなくても、冬に極度に気温が下がる地域も、歳をとるにつれ辛くなります。
 夏場だけ利用する別荘代わりならいいのでは、と思う人もいるかもしれませんが、寒冷地で冬場に人がいない状態で締めきっていると、凍結により、水回りなどが傷みます。次に行ったときに破れた水道管から水が噴き出して室内が水浸しになっていたり、井戸の汲み上げポンプが壊れて水が出なくなっていたりという事態が続くと、その家を維持するのが嫌になり、結局は放棄してしまうということになりかねません。

 では、暖かい地方がいいのかというと、そう簡単な話ではなく、南は台風被害が多いという問題があります。
「地域ブランド」に惑わされるな
 大まかな地域選びをする上で確実にいえることは、地域の「ブランド」「人気度」にはなんの意味もないということです。
 ブランド総合研究所が毎年行っている「地域ブランド調査」による「都道府県魅力度ランキング」などは愚の骨頂で、アホなメディアが面白がって取り上げていますが、あれはそもそも「住みやすさ」のランキングではありません。
第15回「地域ブランド調査2020」(ブランド総合研究所)より
 ブランド総合研究所によれば、この調査は「全国約3万人の消費者からの回答を集める調査」であり、「各都道府県と市区町村の魅力度やイメージ、観光・居住・産品購入の意欲など」を調査した結果だそうです。
 本来は地域や地名が持つ「ブランド力」の調査であり、住みやすさとは直接の関係はありません。それにしても、2020年度最下位となった栃木県は確かにブランド発信力が弱いかもしれませんが、それでも47都道府県の中で最下位というのは理解不能です。
 上位の北海道、京都、沖縄というのは、旅行に行くなら考えてみたいくらいの地域であって、決して「そこで暮らしたい」と思える地域とはいえないでしょう。
 例えば東京に住んでいる人が移住先として考えた場合、北海道⇒「寒い、遠い、見渡す限り何もない、冬は雪で真っ白」、京都⇒「人が本音を言わずに面倒くさそう。因習がものすごそう。観光客でごった返しそう。ただの湯豆腐が何千円とか食べ物屋でぼったくられそう」、沖縄⇒「台風被害必至、米軍基地で騒音がひどい、生活のリズムが違いすぎて戸惑いそう」……というマイナスイメージのほうが先行しそうな気がします。

 いわゆる地域名ブランドというのも、住むのには何の関係もありません。
 例えば、高級別荘地として有名だった軽井沢は今でも「ブランド力」が強いかもしれませんが、あそこに通年住むとしたら、寒さや交通の不便さという面で、日本中にある「ただの田舎町」と何ら変わりがありません。
 その軽井沢を有する長野県も、信州ブランドとしていいイメージを抱かれがち(上記の「都道府県魅力度ランキング」でも長野県は全国8位)ですが、長野と比べて茨城(同・42位)や群馬(同・40位)や栃木(同・47位)は住みにくいのかといえば、まったくそんなことはないわけです。
 ちなみに「北軽井沢」は群馬県ですね。群馬県吾妻郡長野原町の大字(おおあざ)で、人口は約1500人。私が6年ちょっと住んでいた福島県の川内村(人口約3000人)の半分くらいの山村です。
「不人気」地域こそが狙い目だ
 私は2011年に1F(いちえふ=東京電力福島第一原発)が爆発して大量の放射性物質を世界中にばらまいた後、移住先を捜して関東周辺のかなり広いエリアで物件探しをしましたが、長野県、福島県、山梨県、埼玉県などの不動産価格が理不尽に高いのではないかと思ったものです。
 最終的に、今の日光市に総費用1000万円以下で(私たちにとっては想定外に立派な)家を見つけて移り住むことができたわけですが、その価格では福島県(県南エリア)、長野県、山梨県(大月周辺)や秩父エリアの山村など、東京からの交通の便が極端に悪い場所にさえ、住みたいと思える物件を見つけることはできませんでした。
 なぜ日光市の不動産価格はこんなに安いのか? 今でも不思議でなりません。
 我が家は日光宇都宮道路のICから車で約10分。鉄道はJR日光線(駅まで2.8km)と東武日光線(駅まで3.2km)の2箇所が使えて、東京に出るのも苦労しません。住んでみて、その交通の便のよさに驚いたほどです。
 これも「ブランド力」のマジックなのでしょう。どんなに不便で住みにくい場所でも、長野や福島というだけで妙な人気があるのです(原発爆発前まで、福島は移住先としてはかなり人気のある県でした)。

 言い換えれば「ブランド力の弱い地域こそ狙い目である」ということです。

 私は今でも「お住まいはどちらですか」と訊かれたら、「栃木県です」とは答えず、「日光です」と答えます。日光は世界的なブランドだと思っているからです。横浜市民が「神奈川です」ではなく「横浜です」と答えるのと同じ感覚ですね。
 私が住んでいる場所は日光市でも南端に近いところで、かつては「今市市」でした。「イマイチ」という音からしてブランド力は弱そう(笑)ですが、面白いことに、地元の人たちにとっては「今市」は「街」であり、「日光」は「田舎」なのです。今市市が日光市になったときも、抵抗する人たちが結構いたと聞きます。
 車のナンバーは「宇都宮」ナンバーですが、私は当初、これに相当抵抗がありました。「日光」ならカッコいいのに……と思うわけです。ところが、地元の人たちにそれを言うと「とんでもない! 宇都宮だからいいんだ。日光ナンバーなんかになったら、田舎者だと思われてしまう」と言います。

 私が住んでいる地区は、宇都宮市と鹿沼市に隣接していますが、宇都宮市に入った途端、風景は変わらないのに地価がグンと上がります。ほんとに理解不能なほどの違いなのです。つまり、栃木県人にとっては「日光」よりも「宇都宮」のほうがブランド力が高いので、「宇都宮市」というだけで地価が上がるのです。

 栃木県人になった私が栃木県が最下位にランクされているのでムキになっていると思われると心外なのですが、正直なところ、北関東でダサいと思われている地域は移住先として最大の狙い目ではないかと思っています。


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