NATOはなぜまだ拡大し続けようとするのか?2022/04/05 11:40

幽大: 余輩の認識が正しければ、NATOというのは旧ソ連とその傘下にある東欧諸国の軍事力に対抗するために結成された軍事同盟だったんじゃないのか? ロシアは国連内で旧ソ連の権利をそのまま引き継いだ形にはなっているが、かつてのソ連とは明らかに違う国だろう?
 そもそも、1991年に今のロシア共和国と当時は白ロシアと呼ばれていたベラルーシ、ウクライナの3者が秘密会談を開いて、俺たちが率先してソ連から抜けよう、そしてEC(欧州共同体)のような連合を作ろうと決めたことが、ソ連崩壊の最終的な引き金になったんじゃなかったのか?

イシ: そうですね。「ベロヴェーシ合意」というやつですね。

幽大: そうそう、それそれ。確か1991年の12月8日ではなかったかな。その後、12月21日にはロシアを含めた12の共和国がソビエト連邦に代わる新しい共同体として「独立国家共同体(CIS)」というの作って、ソ連はもう終了ですよ~と宣言した。その4日後の12月25日には、当時のソ連大統領・ゴルバチョフが「今日をもって私は大統領をやめま~す」と言って本当に辞めてしまった。あれよあれよという間にソ連という軍事大国が消えたということで、世界中がポカ~ンとしたのを覚えておるよ。おいおい、本当かいと、余輩も最初は耳を疑ったもんだ。
 つまりは、ロシアこそ、ソ連を消滅させたいちばんの立役者ではないのか?

吾狼: 幽大さん、すごい記憶力ですね。

幽大: 一応「歴史研究家」の端くれを自負しておるんでな。

吾狼: 予言者であり、歴史家であり、霊能者であり、宮司でもあると。

幽大: おちょくっておるだろ?

イシ: まあまあ。話を戻しましょうよ。
 東西冷戦時代にNATOに対抗して作られたワルシャワ条約機構もソ連崩壊とともに消滅させていますよね。その時点でNATOの役割は終わったはずなのにNATOは解散しないどころか、引き続きロシアを仮想敵国として組織を強化・拡大していったわけです。
 1999年に、チェコ、ハンガリー、ポーランドのNATO加盟が承認された。その翌年の2000年5月にプーチンがロシア大統領に就任したわけだけど、この時点ではプーチンはNATOの拡大をまだ事実上容認していた。それどころか、ロシアもNATOに加わることで事実上の東西軍事対立を中和させようとしたという説もありますね。
 2002年にローマ近郊で開かれたNATO首脳会議にはプーチンも参加しています。そこでNATO・ロシア理事会というものが設立された。ここまではまだよかった。
 しかし、NATOはポーランドやチェコにミサイル基地建設計画を進めてロシアを刺激した。これでプーチンもぶち切れるわけですよ。
 2007年にミュンヘンで開かれた国際安全保障会議の場でプーチンは、ロシアを敵対視し、ロシア国境に軍事施設を配備しようとするアメリカの当局者たちに直接強い口調で抗議しています。
「NATOの拡大がヨーロッパの安全保障とは無関係であることは明白だ。NATO拡大はいったい何を標的にしたものなのか? アメリカは国連の枠組みの外でも平気で軍事行動を展開している。世界はアメリカが支配しているのか」と。
 翌年の2008年4月にルーマニアのブカレストで開催されたNATO首脳会議の際にも、NATO・ロシア評議会に大統領として出席したプーチンは、報道陣に向けて同じことを訴えていました。
 その後、プーチンに代わってメドベージェフがロシア大統領になりました。で、アメリカはここぞとばかりにプーチン潰しを図るわけだけど、メドベージェフへの交代は単にロシアの憲法上の決まりを表面的に守るためで、メドベージェフが大統領に就任した後も実質のロシア最高権力者はプーチンだった。そんなことはロシア国民はみんな分かっていたのに、アメリカはメドベージェフを取り込んでプーチンを潰せるとでも思ったのかな」

吾狼: だとしたらアメリカもずいぶん甘いですよね。

イシ: プーチンはその間、アメリカがどのように自分を潰そうとしてくるのかしっかり観察していただろうね。

幽大: プーチンの苛立ちというのは、15年くらいずっと続いていたわけだな。それがついにぶち切れた、と。
 プーチンはロシアを守れるのは自分しかいないと思っているだろう。屈強な身体を持つあの御仁も、歳には勝てない。これ以上耐えているわけにはいかん、今がギリギリだと思い詰めたのかな。

イシ: そういうことはあるんじゃないですかね。彼は、ロシアの経済を建て直したという自負がある。周辺の東欧諸国がソ連崩壊後にグチャグチャになっていったのも目の当たりにしている。アメリカに対抗できる指導者は自分しかいないと思っているでしょう。
 旧ソ連というのは、もともと西側諸国との貿易をほとんどしなかったわけですよ。天然資源や穀物生産がほとんど領土内でまかなえたから、不足する物資のやりとりも東欧諸国との間でそこそこ融通し合えた。
 でも、それは西側諸国の論理──資本主義経済の尺度からすれば、非力で閉鎖的な経済圏ということになる。国際競争力がない後進国だと。
 さらにはソ連時代からの軍事費の膨張が産業の革新を阻害し、汚職や腐敗もはびこっていた。それをゴルバチョフはなんとか変えようとしたけれど、あまりにも問題が大きすぎて無理だった。
 プーチンは力でなんとかしようと、旧ソ連的な専制政治手法を復活させながら経済崩壊を防ぎ、ロシアを再び大国へと導こうとした。
 アメリカはそれが気に入らない。あいつがいなければ今頃世界はすんなりとアメリカ主導の下にまとめられたのに、という思いがある。だから、ロシアがこれ以上力をつける前に、なんとかプーチンを潰したい。

吾狼: ウクライナを戦場にしたプーチンとアメリカの最終戦争ですか? 巻き込まれるほうはたまりませんね。

幽大: まったくだな。

吾狼: 幽大さんの予言では、これからどうなるんですか?

幽大: 余輩にうっすらと見えている未来というのは、一言で言えばアメリカの一国支配が終わり、中国とロシアの下に世界がじわじわと再編されていくような未来だな。概ねヨーロッパはロシアの下に、アジアは中国の下に絡め取られていく……

吾狼: ええ~! それは嫌だなあ。絶対に嫌だ。

幽大: 嫌じゃない者などおらんだろ。わしらはその前に死ぬだろうが、吾狼くんたちの世代はこれから大変だな。

吾狼: そんなぁ~。なんとかならないんですか?

幽大: 余輩は神ではないのでな。なんともならんな。

           




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