現在の放射能汚染状況が「1960年代と同水準」は明らかな間違い ― 2011/05/30 13:06
今日こそは普通に仕事をしようと思っていたのだが、朝から気になるメールが舞い込んだ。
産経新聞あたりが、「1960年代の方が、現在よりも放射性降下物は多かった」という主張を展開しているが、騙されないでほしい……という内容だった。
産経新聞の記事というのは読んでいないので、どれのことだろう、と探してみたところ、どうもこれらしい。
「1960年代と同水準、米ソ中が核実験「健康被害なし」 東京の放射性物質降下量」
……というタイトルの記事で、4月28日に配信されている。
リード部分をそのまま抜き出すと、
//東京電力福島第1原発の事故で現在、東京の地表から検出される放射性物質(放射能)の量は事故前の数万倍に上る。しかし1960年代初頭にも、海外の核実験の影響で、日本でも同レベルの放射性物質が検出されていた。それでも健康被害が生じたことを示すデータはなく、専門家は「過度な心配は不要だ」との見方を示している//
という内容だ。
根拠となっているのは、私もブログなどで以前に紹介した気象研究所地球化学研究部による「環境における人工放射能50年:90Sr、137Cs及びプルトニウム降下物」というWEBページ。
1950年代末から現在までの大気中の放射性物質量の推移
そこには上に示したグラフが掲載され、1960年代、米ソなど諸外国による核実験が行われていたときの東京の汚染状態は、チェルノブイリ以上だったという事実が示されている。
このグラフの縦軸は「対数目盛」で、1、10、100、1000、10000……というように、1目盛が対数で増えているので、5目盛り目は1目盛り目の5倍ではなく1万倍を意味する。
普通目盛りで縦軸を書くととんでもなく縦長になってしまうためにこういうグラフになっているわけだが、確かに2000年以降よりも1000倍とか1万倍というレベルの放射性物質が降ってきていたことが分かる。
しかし、それが「FUKUSHIMA」以降と同じレベルなのかというと、そんなことはない。
例えば、文科省は、3月22日に、3月21日の雨の影響で、20日朝から24時間の間に放射性物質の降下量が増えたと発表している。
3月21日9時から22日9時までの24時間で、東京(新宿区)でのセシウム137の降下量は5300メガベクレル/平方キロ。メガベクレルは100万ベクレルだから、530億ベクレル/平方キロ。分かりやすく単位を直すと、5300ベクレル/平米だ。
一方、気象研究所地球化学研究部による「環境における人工放射能50年:90Sr、137Cs及びプルトニウム降下物」によれば、
//人工放射性核種は主として大気圏内核実験により全球に放出されたため、部分核実験停止条約の発効前に行われた米ソの大規模実験の影響を受けて1963年の6月に最大の降下量となり(90Sr 約170Bq/m2、137Cs 約550 Bq/m2)、その後徐々に低下した。//
……とある。
セシウム137が1か月間で約550ベクレル/平米降ったのが過去の最高値だといっているが、3月21日9時からの24時間で東京都新宿区に降ったセシウム137は5300ベクレル/平米だから、1日で過去最高時の1か月の約10倍ということになる。
過去最高だった1963年6月期の月間約550ベクレル/平米を30日で割れば18.3ベクレル/平米。2011年3月21日の5300ベクレル/平米はその289倍だ。これだけを見ても「1960年代と同水準」という産経新聞の記事は単純な誤りだと分かる。
セシウム137の半減期は30年だから、今も、この「1日で」東京に降った5300ベクレル/平米分のセシウム137はほとんど減らずに環境中に残っているはずだ。セシウム137が降ったということは、当然、データをとっていないセシウム134なども降ってきているわけだし、他の日にも増減はあるものの放射性物質は確実に降り注いでいる。
ましてや福島周辺ではどうなのか。
5月6日に発表されている「文部科学省及び米国エネルギー省航空機による航空機モニタリングの測定結果」によると、原発から北西に延びるホットポイントにおける4月6日~29日までの24日間のセシウム137蓄積量は、300万~1470万ベクレル/平米という区分け(いちばん上の図でオレンジ色に塗られたエリア。図はクリックで拡大)。過去最高だったという1963年6月(高円寺)の約550ベクレル/平米とは4桁以上(1万倍以上)違う。
以上のことを「○○の××倍」という言い方で表せば、
●福島原発事故以前、放射性物質降下量が最大だったのは1960年代で、2000年以降福島原発事故までの降下量の1万倍くらいあった。
●福島原発事故で大量に放出された放射性物質により事態は一転し、原発周辺地域の高濃度汚染地帯では過去最高だった1960年代の軽く1万倍から10万倍というレベルの降下量を記録している。
●これを2000年代、福島原発事故前の数値と比べれば、1万倍のさらに1万倍以上だから、「平常時」の軽く10億倍以上の降下量になった。
……ということになる。
あまりにとんでもない数字なので、間違いではないかと何度も確認したのだが、何度見直してもこういうことになりそうなのだ。
(もし、間違いがあったら指摘してください)
要するに、「○○の××倍」という表現に問題があるのだろうと思う。
「チェルノブイリの○倍」といった表現をメディアが好んで使うが、誤解の元だからやめたほうがいいのではないか。
セシウムもプルトニウムも人為的に生成された核種であり、人間が核エネルギーに手を出さなければ地球上には存在しなかった。本来、ゼロであるものに対して「○倍」と言っていることがおかしなことで、1万倍とか10億倍といっても、それが具体的にどれだけ生物に影響を与えるのかという話がなされなければ意味がない。「○倍」の数字の大きさだけを騒ぎ立ててもどうしようもない。
現在が「極めて異常な状態」であるということを正確に認識した上で、では、どうなるのか、どうすればいいのかという話をしていかないとどうしようもない。
この議論は、次の項に続けたい。
産経新聞あたりが、「1960年代の方が、現在よりも放射性降下物は多かった」という主張を展開しているが、騙されないでほしい……という内容だった。
産経新聞の記事というのは読んでいないので、どれのことだろう、と探してみたところ、どうもこれらしい。
「1960年代と同水準、米ソ中が核実験「健康被害なし」 東京の放射性物質降下量」
……というタイトルの記事で、4月28日に配信されている。
リード部分をそのまま抜き出すと、
//東京電力福島第1原発の事故で現在、東京の地表から検出される放射性物質(放射能)の量は事故前の数万倍に上る。しかし1960年代初頭にも、海外の核実験の影響で、日本でも同レベルの放射性物質が検出されていた。それでも健康被害が生じたことを示すデータはなく、専門家は「過度な心配は不要だ」との見方を示している//
という内容だ。
根拠となっているのは、私もブログなどで以前に紹介した気象研究所地球化学研究部による「環境における人工放射能50年:90Sr、137Cs及びプルトニウム降下物」というWEBページ。
1950年代末から現在までの大気中の放射性物質量の推移
そこには上に示したグラフが掲載され、1960年代、米ソなど諸外国による核実験が行われていたときの東京の汚染状態は、チェルノブイリ以上だったという事実が示されている。
このグラフの縦軸は「対数目盛」で、1、10、100、1000、10000……というように、1目盛が対数で増えているので、5目盛り目は1目盛り目の5倍ではなく1万倍を意味する。
普通目盛りで縦軸を書くととんでもなく縦長になってしまうためにこういうグラフになっているわけだが、確かに2000年以降よりも1000倍とか1万倍というレベルの放射性物質が降ってきていたことが分かる。
しかし、それが「FUKUSHIMA」以降と同じレベルなのかというと、そんなことはない。
例えば、文科省は、3月22日に、3月21日の雨の影響で、20日朝から24時間の間に放射性物質の降下量が増えたと発表している。
3月21日9時から22日9時までの24時間で、東京(新宿区)でのセシウム137の降下量は5300メガベクレル/平方キロ。メガベクレルは100万ベクレルだから、530億ベクレル/平方キロ。分かりやすく単位を直すと、5300ベクレル/平米だ。
一方、気象研究所地球化学研究部による「環境における人工放射能50年:90Sr、137Cs及びプルトニウム降下物」によれば、
//人工放射性核種は主として大気圏内核実験により全球に放出されたため、部分核実験停止条約の発効前に行われた米ソの大規模実験の影響を受けて1963年の6月に最大の降下量となり(90Sr 約170Bq/m2、137Cs 約550 Bq/m2)、その後徐々に低下した。//
……とある。
セシウム137が1か月間で約550ベクレル/平米降ったのが過去の最高値だといっているが、3月21日9時からの24時間で東京都新宿区に降ったセシウム137は5300ベクレル/平米だから、1日で過去最高時の1か月の約10倍ということになる。
過去最高だった1963年6月期の月間約550ベクレル/平米を30日で割れば18.3ベクレル/平米。2011年3月21日の5300ベクレル/平米はその289倍だ。これだけを見ても「1960年代と同水準」という産経新聞の記事は単純な誤りだと分かる。
セシウム137の半減期は30年だから、今も、この「1日で」東京に降った5300ベクレル/平米分のセシウム137はほとんど減らずに環境中に残っているはずだ。セシウム137が降ったということは、当然、データをとっていないセシウム134なども降ってきているわけだし、他の日にも増減はあるものの放射性物質は確実に降り注いでいる。
ましてや福島周辺ではどうなのか。
5月6日に発表されている「文部科学省及び米国エネルギー省航空機による航空機モニタリングの測定結果」によると、原発から北西に延びるホットポイントにおける4月6日~29日までの24日間のセシウム137蓄積量は、300万~1470万ベクレル/平米という区分け(いちばん上の図でオレンジ色に塗られたエリア。図はクリックで拡大)。過去最高だったという1963年6月(高円寺)の約550ベクレル/平米とは4桁以上(1万倍以上)違う。
以上のことを「○○の××倍」という言い方で表せば、
●福島原発事故以前、放射性物質降下量が最大だったのは1960年代で、2000年以降福島原発事故までの降下量の1万倍くらいあった。
●福島原発事故で大量に放出された放射性物質により事態は一転し、原発周辺地域の高濃度汚染地帯では過去最高だった1960年代の軽く1万倍から10万倍というレベルの降下量を記録している。
●これを2000年代、福島原発事故前の数値と比べれば、1万倍のさらに1万倍以上だから、「平常時」の軽く10億倍以上の降下量になった。
……ということになる。
あまりにとんでもない数字なので、間違いではないかと何度も確認したのだが、何度見直してもこういうことになりそうなのだ。
(もし、間違いがあったら指摘してください)
要するに、「○○の××倍」という表現に問題があるのだろうと思う。
「チェルノブイリの○倍」といった表現をメディアが好んで使うが、誤解の元だからやめたほうがいいのではないか。
セシウムもプルトニウムも人為的に生成された核種であり、人間が核エネルギーに手を出さなければ地球上には存在しなかった。本来、ゼロであるものに対して「○倍」と言っていることがおかしなことで、1万倍とか10億倍といっても、それが具体的にどれだけ生物に影響を与えるのかという話がなされなければ意味がない。「○倍」の数字の大きさだけを騒ぎ立ててもどうしようもない。
現在が「極めて異常な状態」であるということを正確に認識した上で、では、どうなるのか、どうすればいいのかという話をしていかないとどうしようもない。
この議論は、次の項に続けたい。
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://gabasaku.asablo.jp/blog/2011/05/30/5889912/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
◆小説、狛犬本、ドキュメンタリー……「タヌパックブックス」は⇒こちらから
◆「タヌパックブックス」は⇒でも買えます
◆コロナで巣ごもりの今こそ、大人も子供も「森水学園」で楽しもう
『介護施設は「人」で選べ』
親を安心して預けられる施設とは? ご案内ページは⇒こちら『3.11後を生きるきみたちへ 福島からのメッセージ』
(2012/04/20発売 岩波ジュニア新書)…… 3.11後1年を経て、経験したこと、新たに分かったこと、そして至った結論■今すぐご注文できます
で買う
立ち読み版は⇒こちら
「狛犬本」の決定版!