ホリエモン、籠池夫妻、貴乃花の共通点と相違点2018/02/06 14:30

12年前の戌年の今頃、メディアはホリエモン逮捕のニュースで埋め尽くされていた。ワイドショーは連日そのことを大きく取り上げて、人びとは嫌でも彼の顔を見せられた。
そのときAIC(朝日新聞デジタル版のコラム)に書いたものが⇒ここに残っていたので読んでみた。
一部抜粋してみる。
今回の逮捕につながった直接の違法行為は、主に「粉飾決算」と「風説の流布」ということらしい。
粉飾決算というのは、まずいことになっている実態をごまかして、大丈夫ですよ、心配いりませんよと思い込ませるために嘘をつくことである。
例えば、国民年金を破綻させた社会保険庁がさんざんやってきたこともこの類のことであろう。
風説の流布というのは、自分の都合のいいように嘘の情報を流して世の中の流れをミスリードすること。アメリカ政府がやった「イラクには大量破壊兵器が……」という嘘情報などはまさにそれだろう。
「気持ち悪さの正体」 2006年1月31日にAICに掲載)
どう考えてもおかしいよな、と分かっていても、相手が大きすぎると、自分の日々の生活には関係のない話のように感じて、いちいちムキになって反応しない……これは仕方のないことかもしれない。
で、このコラムではこう続く。
昔から「ひとり殺せば殺人犯だが、千人殺せば英雄」という言葉がある。
ホリエモン逮捕のニュースと、それを報道する姿勢に対して我々が抱く気持ちの悪さの正体は、そこにあるような気がする。
つまり、「小物がスケープゴートにされた」ことをみんな内心では感じているのだが、日頃の鬱憤を晴らすために、ついつい「そらみたことか」「真面目に生きなきゃダメだよ」と反応してしまう。今のホリエモンは、ガス抜きの「安全弁」なのだ。

もっともっと巨大数のインチキ、大規模で悪質な嘘を操る力には所詮逆らえない
嘘のうまい大統領や総理大臣は、そのことで罪を問われることはない。
国民から強制的に集めた金を滅茶苦茶に運用し、とんでもない損失を出した役人のトップもまた、そのことで罪に問われることはなく、死ぬまで使い切れないような巨額の退職金をもらって老後を暮らしている。
この国には、そこにズバッと切り込むメディアも存在しない。これから先も、期待できない。
だから、せいぜいホリエモン逮捕で憂さを晴らしておく。そんな自分の矮小さを、みんな心のどこかでは分かっている。
「やっぱりね」「遅すぎたよね」「こんなことが許されていいはずがないよね」などと言いながらも、いまひとつカタルシスを得られない理由はそこにある。

二宮清純氏がこう言っていた。
「ホリエモンは、すべての人の心の中に存在している負の姿。彼を見ていると、見たくない自分自身の嫌な部分を見せつけられているようで、気持ちが悪くなる」
まさにその通りだろう。
ざまあ見ろ、と言えば言うほど、じゃあ自分はどうなの、という心の声が聞こえてくる。

あれから時が一回り。12年後の今はどうだろう。
テレビをつければ相撲協会の不祥事と貴乃花の理事選落選なんて話に異常な時間を使って垂れ流している。ホリエモンと貴乃花ではまったく性格は違うが、人びとに一種のガス抜きショーを与えるスケープゴートにされている点では似ている。
その意味では籠池夫妻も同じ役割をしていた。
常人とは違う特異なキャラクターの持ち主が、倫理観をなくした権威集団、利権集団に刃向かった末につぶされる図を見て面白がる。
でも、そのドラマは鞍馬天狗や水戸黄門や仮面ライダーみたいなシンプルな構造ではない。
下世話な興味で見てしまうが、どう展開したところでカタルシスは得られない。

「これだけテレビが食らいついてアンチキャンペーンを張るということは、相撲協会には強力な安倍友がいないということだ」という卓見を聞いた。
なるほど。
ホリエモンにも政権内に友達はいなかった。籠池夫妻は途中から切り捨てられ、今は危険な邪魔者として留置所に異常な長期間拘留されている。ちなみに貴乃花親方が
「国家安泰を目指す角界でなくてはならず“角道の精華”陛下のお言葉をこの胸に国体を担う団体として組織の役割を明確にして参ります」(AERA dot.「貴乃花親方が池口恵観氏にあてたメール全文」より)
などと書いた手紙を送った相手である池口恵観氏は、安倍晋三はじめ多くの政治家と親交があることから「永田町の怪僧」と呼ばれているそうだ。
貴乃花と安倍官邸は直接のつながりはないかもしれないが、共通のお友達(師匠?)はいるということなのだろうか。
さらには、貴乃花親方が理事選で二票しかとれずに落選した直後、笑顔で節分の豆まきをする姿がテレビに映し出されていたが、あの豆まきをしていた場所は宇治市の龍神総宮社という宗教法人だ。
「龍神総宮社は、天のご使命を持って御誕生された辻本源冶郎祭主先生により、作られた宗教法人です。平成6年3月に祭主先生が天上界に御帰魂された後も、その御尊志は御長子である辻本公俊 祭主先生に継承され、祭事が執り行われております。」(同社WEBサイトでの紹介文)

その少し前は、弟子の貴公俊が十両昇進を決め、一足早く十両になっている貴源治とともに「史上初の双子関取」が誕生したことも報じられたが、この二人の四股名は、先の龍神総宮社の紹介文にも書かれているように、同社の創始者と現祭主の名前からとっている。
貴乃花は昔から霊能者だの占い師だの教祖だのといった人たちへの傾倒が激しく、右傾化、カルト化しやすいことでいろいろ話題を提供してきたが、その危うさは今も変わらない。
その点で、単純なお金信奉者のホリエモンの時よりも全体の関係図が少し複雑になって、モヤモヤ感が増してはいる。
ともあれ、「安倍友パワー」がないらしい相撲協会でさえ、結局は守旧派温存、誰も責任を取らないで済んでしまうということが分かって、ドラマを見させられていた国民はますます白けてしまった。

思えば、ロッキード事件とかハチの一刺しの頃は、政界ドラマも派手だった。
今は、籠池夫妻のような格好のテレビ向きトリックスターが出てきても、存分に活躍?させることなく、ちょろちょろと水をかけて消火してしまう。
どれだけまずい証拠が出てきても政権は安泰。逮捕状が出ている容疑者を逮捕寸前に上からの命令でもみ消す。
誰の目にも「悪」「不正」「不条理」であると映ることが、大した知恵も実行力もない権力機構に取り込まれ、かき混ぜられ、薄められ、なんとなくうやむやのままになっていく。そんな国であることを、国民が選んでいる。
その貧乏くささや張りのなさが、今の弱った日本の姿そのものなのだなあと思うと、どうしても気が滅入るのだよなあ。



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