「敗北主義」と「諦観主義」 ― 2015/09/06 22:29
今年も登場したキャラクター案山子
日光仮面もいる。これ、ご当地キャラとしては「ゆるさ」の方向性が他とちょっと違うので、嫌いじゃない
敗北主義と諦観主義
デモで法案は止められないが、負け方が重要……という敗北主義
スポーツ関連のイベントプロデュースやWEB制作を手がける会社の社長をしている清義明氏が、自身のブログで「国会議事堂前の『敗北主義』 -最後に笑うものが最もよく笑う・・戦後左翼史のなかの市民ナショナリズム」という長い文章を公開している。55年体制、日本共産党史、左翼と新左翼の違いなどなど、戦後日本の政治や社会運動史について事細かに説明していて勉強になるが、冒頭部分と最後の部分で非常に重要なことを示唆していると思うので、一部、抜き出してみたい。(太字はこちらで処理したもの)
安保法制を巡って、その反対派が国会議事堂前でデモを行いました。過去最大規模だそうです。(略)
このデモの結論は明らかです。
この法案は可決されます。間違いありません。
そして、このことは国会議事堂前に集まったすべての人は皆知っているはずです。
この類のデモというのは基本的に議会制民主主義の中では最初から敗北しています。法案を提出した自民党が議席の絶対多数をもっているのですから当たり前です。そしてそれでもやるというのは「敗北主義」です。
ここでいう敗北主義とは、負けるとわかっていてもやらねばならないという態度のことです。なぜならばそれが次につながるからです。そうすると、この敗北主義というのは負け方が重要なことになります。いかにうまく負けるか、それが焦点です。
ここで負けても実は最後には勝っている・・・それを目指すのが敗北主義の目的です。議会制民主主義を肯定するならばそれは当たり前の態度です。ここで安保法案が成立しても、次の選挙で勝てばいいだけですから。よって負け方が次につながらないと如何様にもならない。
……安保関連法案が必ず可決することを「国会議事堂前に集まったすべての人は皆知っているはず」だったとは僕は思わないけれど(そう思う人が多かったらあの数にはなっていないはず)、前回の選挙の結果が出たときから、安倍政権がこういうことをやってくる、そしてそれを阻止できないだろうということは僕自身確信していた。
「頑張れば勝てるはずだ」「世の中は変えられる」と信じている人たちのことを、清義明氏はこう説明する。
ところが往々にして敗北主義なのに本気で戦って敗北してしまう人がいるのは政治の世界ではよくあることです。勝てるはずもない戦いに勝とうとすれば、それだけ傷も深くなる。もちろん動員のために、タテマエとして勝利を目標にするのはあるでしょう。だが、それをタテマエだとわからなくなってしまう人がいるのもよくあるパターンです。
ホリエモンという人が、デモに参加する学生は自分だったら採用しない、思想が理由ではなく仕事できなそうだから・・・みたいなことを言ったと聞きます。これはこの事を指します。敗北主義を本気になってやって、それ自体が何事かを成すと思いこんでいるのは、バンザイ突撃を繰り返して死屍累々の無惨を晒した日本軍と同じだと私も思います。
(略)
国会前に集まり抗議するのは、首相官邸前で抗議するのに動員をかけた3.11以降の反原発運動からの流れです。この首相官邸前抗議が、これまでの市民運動のスタイルから歴史的に隔絶されたものというのは気づいている人は多いと思います。それは思想もさることながら、動員のスタイルや人的リソースにまで及びます。
……ここから長い戦後の思想対立・闘争史の解説があって、その後、こう指摘している。
国会前のみなさんのなかには、現政権を指して「ファシズム」という人がいる。自分は必ずしもそうは思いませんが、実際にそうだったとしましょう。
そうすると、まだマルクス・レーニン主義の革命フェティシズムに染まっている人は、権力を倒せという。国家は一部の人に支配されていると思いこんでいるからです。
しかしファシズムというのは一部の人が大多数を支配するようなものではないのです。議会制民主主義の果てにファシズムがあります。リベラリズムの結論が18世紀にはナショナリズムで、それをさらに突き詰めたのがファシズムです。
ファシズムの正体とはそこいらにいるオッサンオバサン有権者のことです。
スーパーで野菜が高くて困るとか、ダンナの給料の上がり下がりに一喜一憂したり、ランチの値段を比較しながら美味い店を探して昼休みにオフィス街をうろついたり、ヤフーニュースを読んで単純な義侠心から韓国けしからん!と思っていたり、中国の株式市場の動向を不安そうに見つめていたり、ニッポンは外国でこんなに評価されているというテレビを見てちょっと嬉しくなったり、3.11の後に自民党じゃなきゃやっぱりダメだと民主党から鞍替えしたりする人です。国会前でまた左翼が騒いでいると思っている人もそうです。
議会制民主主義を肯定していくならば、このオッサンオバサンたちを味方に引き入れるしかない。それに国会前の敗北主義がプラスになるかならないか。問題はそこの部分なのです。
(略)
60-70年代の新左翼の前衛主義(少数派でも正しいことを言っている自分たちが正しく、わからない人たちを先導していくという考え方)は大失敗しました。だが、陣地戦に入り、自分の生活範囲内で地道に活動してきた無党派は確実にリベラルとして存在し、勢力として今でも強いです。
ここで負けても実は最後には勝っている・・・それを目指すのが敗北主義です。議会制民主主義を肯定するならばそれは当たり前の態度です。よって負け方が次につながらないといかようにもならないのです。
僕自身、今は毎日のように「スーパーで野菜が高くて困る」と思い、「ランチの値段を比較しながら美味い店を探して」いる人間なので、僕自身もファシズムに利用される要員なのだろう。
僕はそういう庶民層の生活を自ら選んだわけではない。若いときは、社会的に成功して、金や人脈(一緒に創作活動をしてくれる、そしてそれをビジネスとして成功させてくれるスタッフや仲間)には不自由せず、一生、よりよい、より高みを目指す創作活動をしていきたいと思っていた。
これはある意味、清氏が言う「前衛主義」かもしれない。
今でも、自分の中には「分からない人たちを相手にしてもしょうがない」という思いがある。悪貨は良貨を駆逐する。よいもの、価値あるものが常に多数派によって選ばれるわけではない。
だから、五輪ロゴ問題にしても、選ばれた人たちが密室の中で決めていくこと自体には、僕は反対ではない。「多くの人たちが支持する」ことよりも、アートとして、デザインとしてすぐれたものを作りだし、使ってほしいからだ。
今回の事件で「次はネットで投票して決めろ」なんていう意見が出ているが、そんなのはアートの自殺だ。
問題は閉ざされた場で決められたことではなく、決める人たちがアーティストとしても人間としても、基本的な能力を失っていることだ。
弱ったゴブリンに群がり袋だたきにするスライムたち
佐野氏はせいぜいゴブリン程度の存在であり、倒すべきラスボスは、構造の欠陥、そこに安住する利権者たちの精神腐敗だ。それを許してしまうスライム級の大多数庶民が、ゴブリンの恥部を見つけてワーワー罵倒して憂さ晴らししているのが今の状況ではないのかな。スライムたちは、ラスボスの正体は見たこともないし、見たいとも思わない。そういう自分たちの精神がラスボスの栄養素になっていることに気づかない。
こうした構造的な問題は、これから先も変わることはないだろう。
僕自身は「基本的構造の欠陥は今後も変わらない」という前提で、では、そういう世界に生まれた以上、残りの人生をどう生きるか、というテーマに集中せざるをえない。
清氏の文章では、「自分の生活範囲内で地道に活動してきた無党派は確実にリベラルとして存在し、勢力として今でも強い」という部分に、いちばん近いものを感じる。
社会は変えられない。しかし、一人一人は自分の生活範囲内で地道に努力し、悩み、行動様式を改善し、自分なりの規範や価値観を持って生き抜くことができる。
そういう人が増えていけば、結果としての社会が少しずつ変わることは不可能ではないかもしれない。
スライムって、たいていは可愛らしく描かれている。弱いから数で勝負。組織の最下層で捨て駒にされながらも、ちゃんと仕事はしようとする。
スライムひとりひとりは「いい人」であることが多い。ちょっぴり階級を上げてもらって威張り散らすゴブリン級、あるいはそれをまとめるローカルボスキャラの人たちよりは愛すべき存在かもしれない。
僕はスライム層の中で一生を終える自分の人生に対して、今ではできる限り肯定的に考えるようにしている。ちょっと毛色の変わったスライム。毛色が変わっていても生きていける世の中であってほしい。もはや、そういう生き方しかないなあ……と思って毎日を過ごしている。
清氏が「いい負け方」に多少の期待を込めて「敗北主義」と言っているのだとすれば、今の僕の生き方は「諦観主義」とでも呼べるかもしれない。
安倍晋三の言い回しなら「積極的諦観主義」? まあ、定義や名称はなんでもいいか。
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